シリンジとオートインジェクター、同じ50mgなのに薬価は約7,764円も違います。

シンポニー皮下注(一般名:ゴリムマブ〔遺伝子組換え〕)は、ヤンセンファーマが製造販売するヒト型抗TNFαモノクローナル抗体製剤です。現在、「50mgシリンジ」と「50mgオートインジェクター」の2剤形が存在し、それぞれ薬価が異なります。
令和8年度(2026年度)薬価改定により、2026年4月1日以降の薬価は以下のとおりに変更されています。
| 販売名 | 規格 | 旧薬価(〜2026年3月31日) | 新薬価(2026年4月1日〜) |
|--------|------|--------------------------|--------------------------|
| シンポニー皮下注50mgシリンジ | 50mg0.5mL1筒 | 110,649円 | 108,577円 |
| シンポニー皮下注50mgオートインジェクター | 50mg0.5mL1キット | 103,628円 | 100,813円 |
今回の改定では、薬剤費ベースで▲4.02%という全体の引き下げ幅のなかで、シンポニーも約2%程度の下落となっています。
意外ですね。これは「剤形の違いが薬価に影響している」という事実です。同じゴリムマブ50mgでも、シリンジとオートインジェクターでは約7,764円(旧薬価では約7,021円)もの差があります。
用量別に見ると、関節リウマチ(RA)でMTX(メトトレキサート)を併用しない場合や、50mgで効果が不十分な場合には1回100mg(シリンジ2本分)を使用します。この場合、4週ごとの薬剤費はシリンジ換算で約217,154円に達します。これは一般的な生物学的製剤のなかでも高水準です。
薬価サーチ:シンポニー皮下注50mgシリンジの同効薬・薬価一覧(令和8年4月1日新薬価掲載)
シンポニー皮下注の保険適用は、①関節リウマチ(RA)と②中等症〜重症の潰瘍性大腸炎(UC)の2疾患です。それぞれで用量が異なるため、薬剤費の計算も変わります。この点を正確に把握しておくことが基本です。
関節リウマチの場合(4週に1回皮下注射)
- MTX(メトトレキサート)を併用する場合:原則50mg、状態により100mg
- MTXを併用しない場合:原則100mg(単独投与の有効性はMTX併用時より低いとされます)
MTXを非併用で100mg(シリンジ2本)を使用すると、4週ごとの薬剤費は約217,154円となります。3割負担の患者の自己負担は約65,100円/4週ですが、高額療養費制度の適用で実際の負担は所得区分に応じて大幅に下がります。一般所得区分の場合、月の自己負担上限は57,600円が目安です。
潰瘍性大腸炎の場合(導入期と維持期で異なる)
- 初回投与:200mg(シリンジ2本分)
- 初回投与2週後:100mg
- 初回投与6週目以降:100mgを4週に1回
つまりUCでは導入期の2週間で300mg(シリンジ換算で3本分、約325,731円相当)の薬剤費が発生します。これは知っておかないと病院の薬剤費試算で大きな誤差につながります。
KEGG医薬品情報:シンポニー皮下注の添付文書情報(用法・用量の詳細)
生物学的製剤のなかで、シンポニーはどういった位置づけになるのでしょうか?
2024年度薬価(リウマチ治療センター資料)をもとにした4週間あたりの薬剤費比較を見ると、以下のような傾向があります。
| 薬剤名 | 投与法 | 4週間あたり薬剤費(目安) | 3割負担(目安) |
|--------|--------|--------------------------|----------------|
| シンポニー50mg(シリンジ) | 4週に1回 | 約110,649円 | 約33,200円 |
| シンポニー100mg(シリンジ2本) | 4週に1回 | 約221,298円 | 約66,400円 |
| ヒュミラ40mg | 2週に1回 | 約103,106円 | 約31,000円 |
| エンブレル25mg×8本 | 週2回 | 約79,720円 | 約24,000円 |
| アクテムラ皮下注 | 2週に1回 | 約65,216円 | 約19,600円 |
この点が重要です。50mgで使用する限り、シンポニーは他のTNF阻害薬と同等水準の費用ですが、100mg使用時は一気に高額になる構造です。
シンポニーの最大の特徴は「4週に1回の投与で済む」という点で、通院頻度や注射回数が少なくなります。週2回のエンブレル(エタネルセプト)と比べると、年間の投与回数は13回対104回と大きく異なります。これは患者QOLや看護師の業務負担の面でも重要なポイントです。これは使えそうです。
また、シリンジとオートインジェクターの使い分けについても確認しておく価値があります。オートインジェクターは自己注射がしやすい設計で、在宅自己注射を選択する患者に向いています。一方で薬価はシリンジより低いため、施設での管理という観点からも剤形の選択を検討する余地があります。
リウマチ治療センター:薬剤費と自己負担額一覧(2024年度薬価版・生物学的製剤・JAK阻害薬を網羅)
2025年9月19日、富士製薬工業が「ゴリムマブBS皮下注50mgシリンジ"F"」の製造承認を取得しました。これはシンポニーで初めてのバイオシミラー(BS)です。厚生労働省の資料によれば、2026年5月に薬価収載・発売が予定されています。
バイオシミラーの薬価は、原則として先行バイオ医薬品の70%に設定されます。シンポニー50mgシリンジの新薬価(108,577円)の70%で試算すると、約76,000円程度になる計算です。これが実際に収載された場合、4週あたりの薬剤費差は約32,000円以上になります。
バイオシミラーが条件です。つまり先行品と同等の有効性・安全性が確認されているため、臨床的な懸念なく切り替えの検討が可能です。
実際に医療現場でバイオシミラーの普及が進んでいる背景には、2023年頃からの政府の後押しがあります。厚生労働省は2023年度から「バイオシミラーへの切り替え促進」を明確に政策に組み込み、後発医薬品と同様に病院や薬局の指標としても活用されています。ゴリムマブBSが収載される2026年5月以降、シンポニーを使用中の患者へのバイオシミラー提案は、医療機関の経営指標にも関わってくる重要な対応事項になります。
なお、富士製薬工業はヤンセンファーマ(先行品メーカー)と契約を締結しており、先発品メーカーの協力のもとでBSを発売する構図になっています。これはバイオシミラー業界では珍しい形態ではなく、先行品メーカーが自社製品のBS市場に関与することで市場全体のコントロールを図る動きとして知られています。
日本バイオシミラー協議会:日本で承認されているバイオシミラー一覧(2026年1月28日更新)
医療従事者として押さえておきたいのが、患者への費用説明の正確さです。シンポニーは1本で10万円を超える高額薬であることから、高額療養費制度の活用が前提となります。
高額療養費制度では、1か月の医療費の自己負担が一定額を超えた場合に、超えた分が払い戻されます。69歳以下の標準的な所得区分の上限額は月額57,600円(多数回該当後は44,400円)です。
シンポニー50mg(シリンジ)を3割負担で使用した場合、薬剤費だけで約33,200円/4週となります。これに再診料・検査料・処置料などが加わると、月の医療費合計は容易に高額療養費の上限を超えます。
実際には、以下のような患者説明フローを整えておくと混乱が少ないです。
特に見落としがちなのが「月またぎ投与」の問題です。4週間ごとの投与で、1か月に2回の投与が発生する月があると、その月だけ薬剤費が2本分(約217,154円)となり、高額療養費の上限を大きく超えることがあります。これが原則です。患者が「先月より多く請求された」と驚かないよう、事前説明が欠かせません。
川北病院:関節リウマチに対するシンポニー使用についての説明文(高額療養費制度についての記載あり)
これは独自の視点ですが、シンポニーの薬価と保険運用において「現場で見落とされやすいポイント」が3つあります。
① 在宅自己注射指導管理料の算定とオートインジェクター選択の関係
2018年4月よりシンポニーの在宅自己注射が保険適用になりました。2019年5月にはオートインジェクターが発売され、「C101 在宅自己注射指導管理料」の算定が可能になっています。在宅自己注射に移行した場合、薬価の安いオートインジェクターの使用が患者・施設双方にとって合理的な選択になりますが、シリンジを継続している施設も少なくありません。オートインジェクターへの切り替えで1本あたり約7,764円(新薬価差額)の差があることを把握していれば、施設の薬剤費節減にもつながります。これが条件です。
② MTX非併用の100mg処方は高額療養費の計算に注意
MTXが使えない患者(禁忌や副作用歴など)にはゴリムマブ単剤100mgを使用しますが、このケースでは1回の薬剤費が約217,154円となります。厳しいところですね。患者のほぼ全員が高額療養費の限度額認定を取得しているはずですが、未取得の患者がいた場合、1回で3割負担約65,100円の自己負担が生じます。処方前の確認が現場での必須事項となっています。
③ 薬価改定サイクルと臨床判断のタイミング
令和8年度の薬価改定では、シンポニーは2026年4月1日から新薬価が適用されています。同時に、同年5月にはゴリムマブBSの収載・発売が予定されており、その後はBSの薬価も設定されます。RA治療のガイドラインでは生物学的製剤の切り替えは慎重に行うことが推奨されていますが、病状が安定している患者へのBS変更の提案タイミングとして、2026年秋以降が現実的な検討期になるでしょう。
日本リウマチ学会:生物学的製剤の種類と各製剤の特徴(医療者向けまとめ)
厚生労働省:令和8年度薬価基準改定の概要(2026年4月1日施行)