レブラミドを処方していた患者さん、もうBMSの薬に変わっていることに気づいていますか?

2019年1月3日、製薬業界に衝撃が走りました。米ブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)が米バイオ製薬大手のセルジーンを約740億ドル(当時の為替で約8兆円)で買収すると電撃発表したのです。これは製薬業界でも最大級の規模の取引であり、発表直後から世界中の医療・製薬関係者の注目を集めました。
BMSがこれほどの金額を投じた理由は、大きく二つあります。一つ目は「パテントクリフ(特許の崖)」への備えです。BMSは当時、主力の抗がん剤オプジーボ(ニボルマブ)や抗血小板薬エリキュースが好調だった一方で、将来的な特許切れリスクを抱えていました。二つ目は、セルジーンが持つ圧倒的なパイプライン(開発品)の獲得です。セルジーンは血液がん領域での実績が非常に高く、多発性骨髄腫や骨髄異形成症候群などの治療薬で業界をリードしてきた企業です。
つまり「買収による未来への投資」が原則です。
セルジーン側も単独での成長に限界を感じていた面があり、両社の思惑が一致した形でした。買収合意発表時点でのセルジーン株は、直前の終値より約50%プレミアムがついた価格で評価され、セルジーン株主にはBMS株1株と現金50ドルが1株あたりに割り当てられました。
この取引が成立した背景には、2010年代後半に世界規模で加速した製薬企業の再編の波があります。隣接する競合他社が次々と大型買収・合併を繰り返す中、BMS単独では将来の競争力に不安があったことは否定できません。その判断が、現在のBMSの製品ポートフォリオの骨格を形成しています。
参考:BMS公式発表(セルジーン買収完了リリース、2019年11月)
ブリストル・マイヤーズ スクイブ社、セルジーン社の買収を完了(BMS公式)
今回の買収でBMSが最も重視したのが、セルジーンの看板製品「レブラミド(一般名:レナリドミド)」です。レブラミドは多発性骨髄腫や骨髄異形成症候群(MDS)の治療薬として世界中で処方されており、セルジーンの売上の柱を担ってきた免疫調節薬(IMiD)です。
買収合算後の数字がこれを裏付けています。2018年ベースで、BMS単独の売上が225.6億ドル、セルジーンが152.8億ドルで、合算すると378億ドルに達します。これにより世界製薬企業ランキングで第8位に躍り出た形です。
レブラミドだけで単体の売上が年間100億ドルを超える時期もあったほどの巨大製品です。
同じくIMiD系薬剤の「ポマリスト(一般名:ポマリドミド)」も、多発性骨髄腫の再発・難治例に対する治療薬として処方数を伸ばしていました。レブラミドとポマリストの2製品だけで、セルジーン売上の大部分を占めていたと言っても過言ではありません。
ただし、医療現場で重要なのはここからです。2022年以降、レナリドミドの特許切れに伴い後発品(ジェネリック)が順次参入し始め、レブラミドの売上は急激に落ち込みました。BMSの2023年通年決算では、レブラミドの世界売上高が前年比36%減の約15億ドルまで落ち込んでいます。これは「予想以上の急激な減少」と同社がアナウンスするほどのインパクトでした。
レブラミドからジェネリックへの移行が急速に進んでいるということですね。処方を続けている医師にとっては、薬価や制度上の扱いの変化を把握しておくことが重要になります。日本においても2023年12月に後発品が収載されており、処方の現場での選択肢が増えています。
参考:薬事日報・後発品収載関連記事
レブラミドなどに初の後発品が薬価収載(2023年12月)
買収において見落とされがちな重要な事実があります。BMSはセルジーンを約8兆円で買収しましたが、その買収を成立させるために、さらに約1兆4000億円相当の主力製品を手放さなければならなかったのです。
独占禁止法(反トラスト法)による当局の審査を通過するために、BMSは経口乾癬治療薬「オテズラ(一般名:アプレミラスト)」の全世界の権利を米アムジェンに134億ドル(約1兆4200億円)で売却することを条件として課されました。これは2019年11月の買収完了に合わせて実施されました。
これは痛いですね。
当初、BMSはセルジーンとの合併によって免疫・炎症領域でシナジーを期待していました。具体的には、BMS自身が持つオレンシア(アバタセプト)とオテズラを組み合わせた市場展開を描いていたのです。しかし、合併によって免疫炎症領域の市場シェアが過大になると判断した当局の指摘を受け、この計画は実現しませんでした。
結果として、オテズラを処方していた皮膚科や内科の医師にとっては、製品の管轄企業がセルジーン→BMS→アムジェンと実質的に変わるという複雑な状況が生じました。オテズラ自体の製品特性や処方条件に変更はありませんでしたが、MRの担当が変わるなど実務上の影響は少なくありませんでした。
製品は変わらなくても、担当企業が変わる、というのは医療現場にとって無視できないことです。このような大型買収に伴う「取扱企業の変更」が患者への情報提供にも影響しうることは、医療従事者として理解しておく価値があります。
参考:日本経済新聞・独禁法関連記事
セルジーン買収が持つ最大の意義は、実は「今の製品」ではなく「次世代の治療法」にあります。その象徴がCAR-T細胞療法です。
CAR-Tとは「キメラ抗原受容体T細胞療法」の略称で、患者自身のT細胞を体外で遺伝子操作して特定のがん細胞を攻撃するよう設計し、再び体内に戻す革新的な治療法です。セルジーンが開発を進めていた「ide-cel(アベクマ、一般名:イデカブタゲン ビクルユーセル)」は、多発性骨髄腫を標的とした世界初のCAR-T療法の一つとして注目されていました。
買収完了後、BMSはこの開発を継続し、日本国内では2022年1月にアベクマが製造販売承認を取得、2023年12月には早期治療ラインでの使用に対する追加承認を取得しています。
つまり、セルジーン買収がなければ日本でのアベクマ承認は大幅に遅れていた可能性があります。
医療現場の視点で見ると、CAR-T療法は従来の化学療法やIMiD系薬剤とは全く異なる管理体制が必要です。専門施設での細胞採取・培養・投与という工程が必要なため、実施できる医療機関は限られており、患者の紹介ルートを理解しておくことが重要になります。もし多発性骨髄腫の再発・難治例を担当する場面があれば、アベクマの適応(BCMAを標的とするCAR-T療法歴なし、IMiD・PI・抗CD38抗体を含む2種類以上の治療歴あり)を確認しておくのが実践的な準備になります。
参考:BMS公式・アベクマ早期治療ライン承認
アベクマ、日本初・多発性骨髄腫の早期治療ラインで承認取得(BMS公式)
セルジーン買収を語る上で、血液がん領域ばかりが注目されがちですが、意外に見落とされているのがオザニモド(商品名:ゼポジア)の存在です。
オザニモドはもともとセルジーンが開発していたスフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体調節薬で、BMSはこれを買収によって引き継ぎ、国際的な開発を加速させました。米国では再発型多発性硬化症(RMS)および中等症から重症の潰瘍性大腸炎に対して承認されており、日本でも2024年12月に潰瘍性大腸炎治療薬として製造販売承認を取得、2025年3月19日に発売されています。
1日1回の経口投与という点が使いやすいですね。
医療従事者にとって注目すべきは、このオザニモドが「神経内科領域」と「消化器・炎症性腸疾患領域」の両方にまたがる製品であるという点です。セルジーンはもともと血液腫瘍と免疫領域に特化した企業でしたが、BMSによる買収後のオザニモドの展開は、BMSがこれまで強かった腫瘍免疫領域を超えて、消化器・神経内科の処方市場に本格参入することを意味しています。
実際に潰瘍性大腸炎の患者を担当する医師や消化器専門医にとって、オザニモドは既存の生物学的製剤や経口治療薬に加わる新たな選択肢として、使い分けの基準を理解しておく必要があります。既存治療に不十分な効果しか見られない中等症から重症の潰瘍性大腸炎が適応となっており、投与開始前の心電図確認や、スターターパックを用いた漸増法なども、実務上押さえておくポイントです。
セルジーン買収が「がん」だけでなく「炎症性腸疾患」の治療選択肢まで変えた、というのはあまり語られないことです。製薬企業のM&Aは医療従事者の処方環境を静かに、しかし大きく動かします。
参考:BMS公式・オザニモド発売プレスリリース
潰瘍性大腸炎の1日1回経口薬オザニモド(ゼポジア)を発売(BMS公式)
参考:ケアネット・オザニモド発売記事
潰瘍性大腸炎に対する1日1回の経口薬オザニモドを発売/BMS(ケアネット)

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