Vfを高くすれば強度が上がると信じていると、製品が脆くなって損失が出ます。

繊維体積含有率(Vf:Fiber Volume content)とは、金属基複合材料(MMC)やFRPなどの複合材料において、材料全体の体積に対して強化繊維が占める体積の割合を百分率(vol%)で表した指標です。英語では「Fiber Volume Fraction」とも呼ばれ、複合材料の力学特性を左右する最重要パラメーターの一つとされています。
Vfは次の基本式で定義されます。
| 記号 | 意味 | 単位 |
|---|---|---|
| Vf | 繊維体積含有率 | vol% |
| Vf + Vm + Vv = 100 | 繊維体積率+マトリックス体積率+空孔率=100% | % |
| ρf | 強化繊維の密度 | g/cm³ |
| ρm | マトリックスの密度 | g/cm³ |
| ρc | 複合材料(試験片)の密度 | g/cm³ |
重量含有率(Wf)からVfを求める変換式は以下の通りです。材料メーカーから提供されるデータシートにはWfで記載されている場合が多く、設計に使うVfへの変換が必要になる場面は現場でも頻繁に起きます。
ここで見落とされがちな点があります。WfとVfは「繊維の多さ」を示す指標ですが、単位が異なるため数値が同じでも意味がまったく違います。たとえばエポキシ系マトリックス(密度≒1.2 g/cm³)に対し、炭素繊維(密度≒1.76 g/cm³)を用いた場合、Wf=60%をVfに換算すると約50%前後になります。つまり重量ベースで見ると繊維が多く見えても、体積ベースでは想定より少ないという現象が起きます。Wf=Vfだと勘違いすると設計強度の計算がずれることになります。これは基本です。
金属基複合材料の場合はマトリックスが金属(アルミニウムなど密度約2.7 g/cm³)となるため、この差はさらに大きくなります。SiC繊維強化アルミニウム基複合材料(SiC/Al-MMC)では、Wfが30%であってもVfは20%程度にとどまることも珍しくありません。
参考リンク:JIS H7401の全文(金属基複合材料の繊維体積含有率試験方法の規格原文。精密法・簡便法の計算式と操作手順を確認できます)
JISH7401:1993 金属基複合材料の繊維体積含有率試験方法 – kikakurui.com
金属基複合材料(MMC)における繊維体積含有率の公的な試験方法は、JIS H7401(1993年制定、2019年に名称を日本産業規格へ変更)に規定されています。この規格は主にマトリックスを酸またはアルカリで溶解できる金属基複合材料に適用されます。操作には「精密法」と「簡便法」の2種類があります。
精密法の手順(概要)
精密法のVf計算式はJIS H7401の式(4)に定義されており、強化繊維の密度ρf、試験片密度ρc、繊維回収率Cf、マトリックス残さ比Cm、溶解残さ質量比Raを組み合わせて求めます。測定結果は小数点第1位(例:52.3%)まで報告します。精密法が原則です。
簡便法の手順(概要)
簡便法は、マトリックスや強化繊維と同じ物が入手できない場合、または溶解残さや繊維の減量・回収漏れが無視できる場合に限り使用します。式(7)によりVf = (Ra × ρc / ρf) × 100 で算出します。簡便法では空孔率は求めません。
注意すべき点として、るつぼ形ガラスろ過器の選択に気を付ける必要があります。繊維径が5μm未満(炭素繊維の多くは直径約7μm前後)の場合はG-4を使用し、5μm以上20μm未満の場合はG-3またはG-4を使用します。この選択を誤ると繊維の一部が抜け落ち、Vf値が実際より低く出てしまいます。試験片は3個以上、質量は約1gが原則です。
現場での実感として、溶解時間の管理が測定精度に直結します。試験片から発泡が終了してさらに30分以上放置する工程は省略できません。この待機時間を短縮した結果、マトリックスの溶解が不十分となり、繊維重量を過少評価するミスが実際の製造現場でも報告されています。
酸分解法がJIS規格に基づく基本手法である一方、現場では材質によって別の測定方法が選ばれることも多くあります。代表的な手法が「燃焼法(焼き飛ばし法)」と「X線CT法」です。
🔥 燃焼法(焼き飛ばし法)
燃焼法は、試験片をブロック状に細断してマトリックス樹脂のみを燃焼・蒸発させ、燃焼前の重量と残渣(炭素繊維)の重量の比から繊維重量含有率(Wf)を算出し、密度を考慮してVfを求める手法です。CFRP(炭素繊維強化プラスチック)など樹脂系複合材料に対して広く使われます。操作がシンプルで専用装置が不要な点がメリットです。
ただし、金属マトリックスの複合材料(MMC)には燃焼法は適しません。アルミニウムのような金属は燃焼では除去できないためです。これは要注意です。また、燃焼後に繊維も一部酸化・重量変化する場合があり、繊維回収率の補正が必要になることもあります。
🩻 X線CT法(非破壊測定)
近年、マイクロフォーカスX線CTシステムを使ったVfの非破壊評価が注目されています。島津製作所の研究では、X線CT撮影により取得したボクセルのグレースケール値から検量線を作成し、燃焼法による実測値と高精度で一致するVf分布の可視化に成功しています(誤差が小さく、広視野評価が可能)。
測定手法の選択は材質と精度要求に応じて行うことが条件です。たとえばSiC繊維強化アルミニウム基複合材料(SiC/Al-MMC)では燃焼法ではなくJIS H7401の酸分解法が規格として定められています。熱可塑性CFRPの量産品管理ではX線CT法による非破壊・広視野評価が有効です。この使い分けを誤ると測定結果そのものが信頼できなくなります。
参考リンク:X線CTシステムを用いた長繊維熱可塑性CFRPの繊維体積含有率の評価に関するアプリケーションノート(燃焼法との比較データあり)
X線CTシステムを用いた繊維体積含有率評価(島津製作所)
Vfを求めるだけでなく、それを材料設計に活用することが金属加工・複合材加工の現場では重要です。Vfが決まれば、複合則(加成則:Rule of Mixture)によって複合材料の弾性率や引張強度を推定できます。この知識が強度計算の精度を大きく左右します。
弾性率の複合則(繊維方向)
繊維方向(1軸方向)の弾性率 Ec は次の式で求められます。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| Ec = Ef × Vf + Em × (1 − Vf) | 繊維方向の弾性率(加成則) |
| Ef | 強化繊維の弾性率(例:炭素繊維PAN系=230〜588 GPa) |
| Em | マトリックスの弾性率(例:エポキシ=3〜5 GPa、Al=70 GPa) |
| Vf | 繊維体積含有率 |
例として炭素繊維(Ef=230 GPa)とエポキシ樹脂(Em=4 GPa)でVf=60%の場合、Ec = 230×0.6 + 4×0.4 = 138 + 1.6 = 約140 GPaとなります。これはアルミニウム(約70 GPa)の2倍の弾性率に相当します。実感としては、名刺サイズ(約89mm×55mm)の板材でも、鉄の約1/5という軽さで同等以上の剛性が得られます。
アルミニウム基複合材料(Al-MMC)のSiC繊維強化材においても同様に複合則が適用されます。J-Stageの研究データによると、繊維体積率10%で引張強度345 MPa、30%で935 MPaとなり、Vfを10%増やすごとに強度が約200 MPa向上するという計算結果が示されています。
重要な点は、繊維方向と直交方向(2軸方向)では複合則の式が異なることです。繊維方向に垂直な方向の弾性率は加成則ではなくHalpin-Tsai式など別の手法が必要で、一般に繊維方向の1/5〜1/10程度にとどまります。一方向材(UD材)を用いる際にこの異方性を設計に反映しないと、予期しない方向からの破損につながります。異方性は必須知識です。
参考リンク:複合則(Rule of Mixture)の定義と計算に使う材料定数について(日本機械学会のメカニカルエンジニアリング辞書)
複合則 – 日本機械学会 JSME Mechanical Engineering Dictionary
参考リンク:CFRPのUD材における複合則計算ツール(Vf・繊維弾性率・樹脂弾性率を入力してE11、E22、G12、ν12を算出できる)
CFRP複合則計算ツール – 株式会社アドテックエンジニアリング
Vfの管理において、多くの現場で見落とされがちなのが「空孔率(ボイド率:Vv)」との関係です。これは品質に直結します。
JIS H7401では精密法による計算において、繊維体積含有率Vfとマトリックス体積含有率Vmに加え、空孔率Vvを次の式で求めることが規定されています。
| 計算式 | 内容 |
|---|---|
| Vv = 100 − (Vf + Vm) | 空孔率(%)。0に近いほど緻密な材料 |
空孔率Vvは材料の健全性を示すバロメーターです。東京大学の研究によると、連続繊維系複合材料ではボイド率が1%を超えると圧縮強度の低下に起因して極端に曲げ強度が低下することが示されています。不連続繊維系でもボイド率が増すにつれ静的な曲げ強度だけでなく衝撃強度も徐々に低下します。1%という数字は、コーヒーカップ1杯(約150ml)の材料の中に指先の爪ほどの空洞が含まれているイメージです。痛いですね。
また、Vfを「高くすれば高くするほど良い」という誤解も現場では根強く残っています。Vfが高いということは樹脂量が少ないということですので、含浸性が悪化し、外観不良や靭性低下を招きます。航空宇宙・一次構造材では55%以上が目安とされますが、一般的な二次構造材では40〜55%が適正範囲とされます。一方、繊維チップを用いた複合材料ではVfは30%前後、不織布系では40%程度が上限の目安です。織物(ファブリック)状にすることで60〜70%まで繊維を詰め込むことが可能ですが、それでも含浸工程の難易度は跳ね上がります。Vfの上限には注意が必要です。
さらに見落とされやすいのが、Vfは「成形結果として決まる数値」という側面です。FRPコンサルタントが指摘するように、Vfはユーザーが設計図で指定しても、実際の成形時に樹脂がどれだけ流れ、最終的な厚みがどうなるかによって変動します。材料メーカー任せにせず、実際に平板を成形してVfを実測・確認することが、品質管理上の正しいアプローチです。
Vfの数値と空孔率の両方を管理することが品質確保の条件です。実際の金属加工現場でMMCを扱う際は、JIS H7401に準拠した試験を定期的に実施し、材料ロットごとのVfばらつきも記録・管理しておくことが製品の信頼性確保につながります。
参考リンク:FRP材料仕様の基本(目付・Vf・RCの関係と設計的観点の解説)
はじめてのFRP:材料仕様を示す目付・Vf・RC – FRPコンサルタント