サイジングを丁寧にやるより、焼結精度を上げるほうが最終寸法は安定すると思っていませんか?実は、焼結だけで狙い寸法に収めようとすると、材料ロスが3倍以上になるケースがあります。

焼結という工程は、金属粉末を高温で焼き固めてネット形状に近い部品を作れる優れた製法ですが、製品が炉から出た段階では必ずといっていいほど寸法のばらつきや歪みが残ります。これが、サイジング工程の存在意義です。
焼結体には一般的に10〜20%の気孔が内在しており、焼結温度や雰囲気ガス、粉末の粒度分布によって収縮率が微妙に変化します。そのため、同じ設計の成形体を同じ炉で焼いても、一つひとつの部品に数十μm単位の寸法ばらつきが生じることは珍しくありません。これは避けられない現象です。
サイジングとは、こうした焼結後の焼結体を専用の金型に入れ直し、上下パンチで圧力をかけることで、全長・外径・内径を規格通りの寸法に矯正する工程です。圧力をかけた際に焼結体はダイス・上パンチ・下パンチの3面に押し付けられ、寸法精度が確定します。
| 工程 | 寸法精度の目安 | 備考 |
|------|--------------|------|
| 焼結後(サイジングなし) | IT8〜IT12 | 材料・炉条件で大きく変動 |
| サイジング後(通常) | IT5〜IT7 | 径方向は特に精度向上 |
| 自己潤滑軸受(サイジング後) | IT5〜IT7 | 高精度仕上げが可能 |
IT7とIT5の差は、径50mmの部品で公差幅が約25μm対約11μmです。工具の直径1mm以下の差を問題とする精密部品では、この精度レベルが製品の合否を決定します。サイジング工程が必須なのはそういうことです。
再圧縮の圧縮率はサイジングで0.1〜0.2%程度と非常に小さく、一見すると「こんなわずかな圧縮で意味があるのか」と思うかもしれません。しかし焼結体が持つ気孔の存在がこの微小圧縮を可能にしており、気孔周辺の材料が流動することで狙い寸法へと整えられます。つまり気孔がバッファーの役割を果たすということです。
参考:焼結部品の寸法精度とIT等級について(AMES Group)
焼結部品の典型的な寸法公差(AMES Group)
サイジングには「ポジティブサイジング」と「ネガティブサイジング」の2種類があり、それぞれ加工のアプローチがまったく異なります。この使い分けを誤ると、製品の気孔率・密度特性に大きな影響を与えます。
ポジティブサイジングは、焼結体を最終製品寸法よりも外径を大きく(穴は小さく)作っておき、それを径の少し小さい金型に強制的に押し込む方法です。このとき焼結体の側壁部の気孔が潰れ、表面緻密化が起こります。外径精度や表面粗さが重要な部位に有効で、密度を高めたい場合にも選択されます。
ネガティブサイジングは、焼結体を最終製品寸法より外径を小さく(穴は大きく)作っておき、金型の中で高さ方向に圧縮しながら型壁に押し付けて精度を出す方法です。この方式では側壁の気孔が拡がる傾向があるため、含油軸受のように気孔内に潤滑油を保持させたい部品にはネガティブ側の条件を意識したコントロールが求められます。
🔍 選定の目安をまとめると次のようになります。
- ポジティブサイジング向き:外径精度が厳しい構造部品、ギア、カム類、高密度化が必要な機械部品
- ネガティブサイジング向き:内径精度が求められる軸受、気孔率を維持したい含油軸受
この2方式は部品形状や要求仕様によって使い分けられますが、実際の生産では金型設計段階でどちらを採用するかをあらかじめ決定しておく必要があります。後から方式を変えようとすると金型作り直しになります。これは現場での大きなコスト要因です。
サイジングと似た工程に「コイニング」があります。コイニングもサイジングと同じく再圧縮工程ですが、主目的が「密度の向上」にあります。コイニングの圧縮率は数%以上と大きく、鉄系焼結体で最大7.6g/cm³程度まで密度を高めることが可能です。通常の焼結では密度が7.2g/cm³程度が実用上の上限とされているため、コイニングを兼ねたサイジングは強度向上の有力な手段となります。
参考:サイジング工程の方式の詳細(広島シンター株式会社)
サイジング工程の基本(広島シンター株式会社)
現場でよく見られる誤解があります。サイジングの圧縮率は0.1〜0.2%程度と小さいため、「プレス油はなんでもいい」「機械油や防錆油で代用できる」という認識です。この考え方が、金型への焼付きや異音の発生につながる場合があります。
出光興産が実施した研究によれば、近年の高密度材や硬質材(Cr系、Mo系など)を含む焼結体では、気孔が少なくなった分だけ加工荷重が増大し、金型への凝着が生じやすくなっています。特に金型から焼結体を抜き出す工程で異音が発生したり、焼付きが起きる事例が増えているのです。これは放置すると金型の損傷に直結します。
焼結体の気孔率が10〜20%あった従来品では、低粘度の油剤でも気孔が潤滑を補助してくれていました。しかし気孔率が9.7%を下回るような高密度材では、塗布したプレス油が気孔に吸い込まれてしまい、肝心の金型表面に油膜が残りにくくなります。
| 焼結体の状況 | 求められるプレス油の特性 |
|------------|----------------------|
| 気孔率10〜20%(標準材) | 低〜中粘度、気孔への浸透性を抑制 |
| 気孔率10%以下(高密度材) | 中〜高粘度、油性向上剤・焼付き防止剤を配合 |
| Cr系・Mo系硬質材 | 焼付き防止剤必須、金型側への吹付け塗布も検討 |
低粘度油剤は焼結体内部に浸透しやすく金型面への油膜形成が難しい一方、高粘度油剤は気孔をプレス油が塞ぐことで材料流動を妨げるリスクがあります。このジレンマが、サイジング用プレス油の選定を難しくしています。
高密度材や硬質材を扱う現場では、金型側から吹付け塗布を行いつつ、焼付き防止剤を配合したプレス油を採用することが推奨されます。油剤メーカーに現在使用している焼結体の密度・材質・圧縮率データを提供して最適品種を選定してもらうのが最も確実な方法です。
参考:プレス油が焼結サイジング加工に与える影響の詳細研究
鉄系焼結材料のサイジング加工に与えるプレス油の効果(出光興産・潤滑技術)
従来のサイジング工程では、「寸法精度を出す(サイジング)」と「硬度・強度を高める(焼入れ)」は別工程で行われていました。焼入れ後は熱処理歪みが発生するため、最終的に機械加工でその歪みを取り除く必要があり、コストと工程数が増大するという課題がありました。これが現場の常識でした。
住友電工の温間サイジング(金型拘束焼入れ技術)はこの常識を覆す工法です。焼結体を誘導加熱でオーステナイト領域まで加熱した後、マルテンサイト変態開始温度(Ms点)の直上で素早く金型に投入し、サイジングと焼入れを1工程で完了させます。
工程の流れを整理すると次のようになります。
1. 加熱工程:誘導加熱によりオーステナイト領域まで昇温
2. 油中冷却工程:油中に浸漬して急速冷却し、Ms点直上で引き上げ
3. 金型高速焼入工程:金型に投入→サイジング→金型内でMs点通過→マルテンサイト変態完了
金型に拘束した状態でマルテンサイト変態が完了するため、熱処理歪みが金型によって矯正されます。これにより、通常の焼入れ後に必要だった機械加工コストを大幅に削減できます。
想定される主な適用部品はロータ、カムリング、各種ギアです。これらは高精度と高強度を同時に要求される部品であり、温間サイジングの恩恵が最も大きい部位です。
機械加工コスト削減は現場にとって直接的なメリットです。工程数が減れば加工リードタイムも短縮され、仕掛り在庫の削減にも貢献します。温間サイジングの採用を検討する際は、住友電工のような量産実績のあるメーカーへの技術相談が最初のステップになります。
参考:温間サイジング技術の詳細(住友電工)
温間サイジング(金型拘束焼入れ技術)の詳細(住友電工)
サイジングを行った焼結体も、用途によってはさらに後工程が加わります。一方で、場合によってはサイジング自体を省略することもできます。この判断を正確に行うことが、製造コスト最適化のカギになります。
サイジング後に追加される主な後工程は以下のとおりです。
- 機械加工(切削・旋削・研磨):サイジングでは対応できない複雑な形状、ネジ、溝、底付き穴などは切削加工で仕上げます
- 含油(オイル含浸):含油軸受では気孔に潤滑油を充填します。自己潤滑機能を持たせるための必須工程です
- スチーム処理:水蒸気雰囲気で熱処理し、表面にマグネタイト(Fe₃O₄)皮膜を形成します。圧縮強さを高め、気孔を封孔し耐食性を改善する効果があります
- 熱処理(浸炭焼入れ・浸炭窒化・高周波焼入れ):硬度・強度を高める目的で行われます
サイジングを省略できる条件については、部品の寸法精度要求がIT8〜IT12程度で十分な場合、あるいは後工程の切削加工で最終寸法を確保できる場合が挙げられます。ただし、切削加工は焼結の強みである材料歩留まりの良さを損なうため、コスト面での試算が必要です。
また、MIM(金属射出成形)では焼結後の収縮率が一般公差±0.5%を超える場合にサイジング(コイニング・矯正)が追加されますが、設計段階で収縮を見越した金型設計を行い、サイジングを不要にするアプローチも取られます。これはプレス粉末冶金でも同様の考え方が適用できます。
| 後工程 | 目的 | サイジングとの関係 |
|-------|------|----------------|
| 機械加工 | 複雑形状・ネジ加工 | サイジング後に追加 |
| 含油処理 | 自己潤滑機能付与 | サイジング後が一般的 |
| スチーム処理 | 耐食性・封孔・強度向上 | サイジング後に実施 |
| 熱処理 | 硬度・強度向上 | 温間サイジングで同時化可能 |
後加工の追加は品質向上につながる一方で、工程数の増加=コスト増となります。設計段階でどこまでをサイジングで担保し、何を後加工に任せるかを決めておくことが、製造全体のコスト最適化につながります。これが設計と製造をつなぐ重要な視点です。
参考:焼結後工程の全体像(AMES Group)
焼結部品の二次工程・後工程一覧(AMES Group)