血糖値が正常範囲内でもケトアシドーシスで患者が昏睡に陥ることがあります。

ルセフィ錠(一般名:ルセオグリフロジン水和物)は、大正製薬が日本で創薬・開発したSGLT2阻害薬で、2014年に2型糖尿病治療薬として承認されました。腎臓の近位尿細管に存在するSGLT2(ナトリウム-グルコース共輸送体2)を選択的に阻害することで、余剰グルコースを尿中に排泄させ、インスリン非依存性に血糖値を低下させます。
国内臨床試験では1,262例中236例(18.7%)に副作用が認められています。これは決して低い数字ではなく、日常処方において副作用への備えが欠かせません。
頻度別に整理すると、以下の通りです。
| 副作用 | 発現頻度 |
|---|---|
| 頻尿 | 2.8%(35/1262例) |
| 低血糖症 | 2.4%(30/1262例) |
| 尿中β2ミクログロブリン増加 | 2.1%(26/1262例) |
| 便秘 | 3.0% |
| 口渇 | 1.7% |
| 膀胱炎 | 1〜3%未満 |
| 性器カンジダ症 | 1〜3%未満 |
重大な副作用としては、低血糖(1.0%)、腎盂腎炎(0.1%)、脱水(0.1%)、ケトアシドーシス・外陰部壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)・敗血症(いずれも頻度不明)が挙げられています。「頻度不明」という表記は「稀だから安全」を意味しません。市販後に報告が蓄積されている副作用であり、発現した場合の重篤性が高いことを意味します。これが原則です。
また、単独投与時の低血糖頻度は約1.0%と比較的低いものの、SU薬やインスリンとの併用では低血糖の発現頻度が顕著に上昇します。グリメピリドとの長期併用(52週)試験では、低血糖の副作用発現割合が29.6%(47/159例)に達した報告もあり、見過ごせない数字です。
参考情報(添付文書詳細・薬物動態データ)。
今日の臨床サポート|ルセフィ錠2.5mg 添付文書全文(禁忌・相互作用・薬物動態を網羅)
SGLT2阻害薬の副作用の中で、医療従事者が最も認識しておくべきものの一つが「正常血糖性ケトアシドーシス(euDKA)」です。意外ですね。通常、ケトアシドーシスといえば著明な高血糖を伴うものとして認識されていますが、ルセフィをはじめとするSGLT2阻害薬ではこの常識が当てはまりません。
発生機序を整理します。ルセフィの作用である尿中グルコース排泄促進によって体内のエネルギー源であるグルコースが不足します。すると、代償的に脂肪酸代謝が亢進し、副産物としてケトン体が急増します(ケトーシス)。その結果、血液が酸性に傾くケトアシドーシスへと至ります。このプロセスは、血糖値が正常〜軽度上昇の範囲であっても進行することがあります。
血糖値が高くなくてもケトアシドーシスが起こりうるということですね。
特にリスクが高まる状況は次の通りです。
- インスリン分泌能が低下している患者(特に1型糖尿病)
- インスリン製剤の自己中断・急減量
- シックデイ(発熱・下痢・嘔吐・食事摂取困難)
- 過度な糖質摂取制限・低炭水化物ダイエット中
- 脱水状態・激しい運動後
- 飲酒時
2024年12月の厚生労働省医薬局通知改訂では、重要な基本的注意として「投与中止後も血漿中半減期から予想されるより長く尿中グルコース排泄およびケトアシドーシスが持続した症例が報告されている」との文言が追加されています。つまり、ルセフィを中止した後も油断してはならない、ということです。
初期症状として、悪心・嘔吐、食欲減退、腹痛、過度な口渇、倦怠感、呼吸困難、意識障害がみられた場合は、血糖値が正常範囲であっても血中・尿中ケトン体の測定を迷わず行うことが原則です。異常確認後は即刻投与を中止し、適切な処置を行います。
参考情報(SGLT2阻害薬によるケトアシドーシスの機序と服薬指導ポイント)。
グッドサイクルシステム|第69回 SGLT2阻害薬のケトアシドーシスはなぜ起こるの?(機序と副次的薬理作用の詳細解説)
ルセフィをはじめとするSGLT2阻害薬に特徴的な副作用が、尿路感染症および性器感染症です。その機序はシンプルで、尿中へのグルコース排泄増加によって尿路・外陰部が糖を多く含む環境になり、細菌・真菌が繁殖しやすくなります。つまり「糖を撒いた培地」のような状態が意図せず形成されるわけです。
主な症状と気をつけるべき進展経路は以下の通りです。
- 膀胱炎・尿路感染症 → 腎盂腎炎(0.1%)→ 敗血症(頻度不明)
- 性器カンジダ症・性器感染症 → 外陰部および会陰部の壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)→ 敗血症
特にフルニエ壊疽は頻度こそ不明(まれ)ですが、急速に進行し、壊死組織の外科的デブリードマンが必要となる極めて重篤な疾患です。外性器・会陰・肛門周囲に突然現れる強い疼痛・腫脹・発赤・発熱が初期サインとなります。見つけたら即座に対応が必要です。
2019年にはSGLT2阻害薬9製品の使用上の注意が改訂され、フルニエ壊疽との因果関係を否定できないことが正式に注意喚起されています。
患者への指導として医療従事者が行うべきことは次の点です。
- 陰部を清潔に保つよう指導する(毎日の洗浄・通気性の良い下着)
- 尿意を我慢しないよう指導する
- 排尿痛・陰部のかゆみ・違和感・発熱が出た場合は速やかに受診させる
- 男性患者にもフルニエ壊疽のリスクがあることを必ず説明する
一般的に性器感染症はルセフィを中止せずとも治療が可能ですが、フルニエ壊疽が疑われる場合は即時休薬と緊急処置が必要となります。休薬のタイミングの見極めが条件です。
ルセフィは利尿作用を持ちます。尿中にグルコースを排泄する際に水分も一緒に体外へ出るため、多尿・頻尿が生じ、体液量が減少します。これが軽度であれば日常的な副作用の範囲ですが、脱水が進行すると重大なリスクへつながります。
脱水が危険な理由は血液粘度の上昇にあります。体内水分が不足すると血液がいわゆる「ドロドロ」状態になり、血栓が形成されやすくなります。脳の細い血管に詰まれば脳梗塞、下肢深部では深部静脈血栓症を引き起こすリスクが高まります。添付文書でも「脳梗塞を含む血栓・塞栓症等の発現に注意すること」と明記されています。
特に注意が必要な患者群は以下の通りです。
- 高齢者:生理的な口渇感が鈍化しており、脱水の自覚症状が遅れやすい。eGFRの低下も相まって薬物排泄が遅延することもある。
- フロセミド・ヒドロクロロチアジドなどの利尿薬併用患者:薬物動態データでもフロセミドとの併用でルセフィのAUCが約13%上昇しており、利尿作用が相加的に増強される。
- 血糖コントロールが極めて不良な患者:浸透圧利尿も加わり脱水が加速しやすい。
夏場や運動後は特にリスクが上昇します。これが原則です。水分補給の指導は「こまめに水や麦茶を飲む」という具体的な行動レベルにまで落とし込むことが重要です。スポーツドリンクや清涼飲料水は糖分を含むため血糖コントロールを悪化させる可能性があり、推奨できません。
また、脱水から高浸透圧高血糖症候群(HHS)へ進展するリスクも忘れてはなりません。HHSは糖尿病性ケトアシドーシスとは異なり、著明な高血糖と高浸透圧を特徴とし、意識障害・血栓塞栓症の合併が多い重篤な病態です。高齢2型糖尿病患者でのルセフィ投与には、発症初期からの体液量モニタリングが求められます。
参考情報(SGLT2阻害薬の脱水・脳梗塞リスク関連の薬剤情報)。
ルセフィの副作用リスクが集中するタイミングがあります。それが「シックデイ」「周術期」「妊娠判明時」です。これらの場面では、投与継続が患者に深刻な危害を与えることがあるため、医療従事者が明確な休薬基準を持っておく必要があります。
シックデイ(発熱・下痢・嘔吐・食事摂取困難時)
シックデイはケトアシドーシスの最大のトリガーの一つです。発熱・下痢・嘔吐が重なると脱水とインスリン分泌抑制が同時に起こり、ケトン体産生が急加速します。患者が「食欲がない」「水分が取れない」と訴えたタイミングで、ルセフィを含むSGLT2阻害薬は速やかに休薬させることが基本です。日本糖尿病学会のガイドラインでも「シックデイのときには服用を中止するよう指導する」と明記されています。
周術期(手術前後)
添付文書の禁忌に「重症感染症、手術前後、重篤な外傷のある患者」が明記されています。術前の絶飲食状態でルセフィを継続すると、ケトアシドーシス(特に正常血糖性DKA:euDKA)が発生しやすくなります。各施設の周術期中止薬一覧でもルセフィは術前2〜3日前の中止が標準的とされており、術前に少なくとも3日間休薬することでeuDKAの予防効果が高いことが示されています。
手術が決まった時点で処方元・麻酔科・病棟薬剤師が連携して休薬確認を行う体制が理想的です。
妊娠判明時・妊婦
妊婦または妊娠している可能性のある女性へはルセフィを投与しないことが添付文書で明確に規定されています。動物実験(ラット)では、胎児への移行と骨格変異・骨化遅延・心室中隔膜部欠損が報告されています。妊娠が判明した時点で直ちに投与を中止し、インスリン製剤等に切り替える必要があります。
また、授乳中の患者への投与も動物実験での乳汁中移行が確認されていることから、投与中は授乳を中止することが望ましいとされています。
なお、中止後のケトアシドーシス持続リスクについては前述の通りです。投与中止後も尿糖測定などで一定期間の観察を行うことが2024年12月の添付文書改訂で追加された注意事項として求められています。これだけ覚えておけばOKです。
参考情報(SGLT2阻害薬の周術期管理・シックデイ休薬の根拠)。
日本腎臓病薬物療法学会|SGLT2阻害薬の服薬指導BQ・CQ(シックデイ・手術・感染症時の対応指針を収録)