うつ病既往のある患者へルミセフを使うと、自殺企図が起こった報告が0.6%あります。

ルミセフ皮下注210mgペン(一般名:ブロダルマブ〔遺伝子組換え〕)は、協和キリン株式会社が製造販売するヒト型抗ヒトIL-17受容体Aモノクローナル抗体製剤です。2016年7月に日本で世界に先駆けて承認された生物学的製剤で、YJコードは3999441G2025、薬価は1キット74,972円です。
ブロダルマブが他のIL-17阻害薬と異なる最大の特徴は、IL-17サイトカインそのものではなく、IL-17受容体A(IL-17RA)に結合する点にあります。IL-17RAはIL-17Aだけでなく、IL-17C・IL-17F・IL-17A/F・IL-17Eなど複数のサイトカインのシグナルを受け取る共通受容体です。つまり、IL-17受容体Aを直接ブロックすることで、これら複数のIL-17ファミリーシグナルをまとめて遮断できる仕組みになっています。これは使えそうですね。
乾癬の病態においてIL-17は皮膚の炎症・角化細胞の過増殖・サイトカインカスケードを引き起こす中心的分子です。ブロダルマブはそのシグナル伝達を受容体レベルで遮断することにより、尋常性乾癬をはじめとする複数の炎症性疾患の症状を改善します。IL-17Aを標的にするコセンティクス(セクキヌマブ)やIL-17RAをサブユニットとして持つビンゼレックス(ビメキズマブ)とは作用点が異なります。つまり受容体をまとめてブロックする点がブロダルマブの特徴です。
現在の適応疾患は、既存治療で効果不十分な「尋常性乾癬・乾癬性関節炎・膿疱性乾癬・乾癬性紅皮症・強直性脊椎炎・X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎・掌蹠膿疱症」の7疾患です。掌蹠膿疱症については2023年8月の適応追加により、比較的新しく適応が加わっています。小児への有効性・安全性は確立されておらず、現在のところ成人のみが対象となっています。
KEGG MedicusのルミセフMedicusページ(添付文書全文・薬物動態データ含む)
用法用量の基本は「1回210mgを初回・1週後・2週後に皮下投与し、以降は2週間隔で皮下投与」するというシンプルな設定です。ローディングドーズとして最初の3回を週1回ペースで投与し、血中濃度を早期に定常状態に近づける設計になっています。ペン製剤は1シリンジ1.5mL(210mg含有)の1回使用製剤です。
注意が必要なのは、適応疾患によって治療反応の評価期間が異なる点です。これは見落としがちなポイントです。
| 対象疾患 | 治療反応の評価期間 |
|---|---|
| 尋常性乾癬・乾癬性関節炎・膿疱性乾癬・乾癬性紅皮症 | 投与開始から12週以内 |
| 強直性脊椎炎・X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎 | 投与開始から16週以内 |
| 掌蹠膿疱症 | 投与開始から24週以内 |
掌蹠膿疱症では24週という長い評価期間が設定されている点は特に重要です。乾癬の12週と同じ感覚で「12週で効かなかったから中止」と判断すると、本来有効だった患者さんを損失させてしまうリスクがあります。乾癬と掌蹠膿疱症を同じ評価軸で見ないことが原則です。
また、添付文書7.1に「他の生物製剤との併用について安全性および有効性は確立していないので併用を避けること」と明記されています。免疫抑制剤や光線療法との併用については、尋常性乾癬・乾癬性関節炎・膿疱性乾癬・乾癬性紅皮症・掌蹠膿疱症においても「安全性・有効性は確立していない」として、使用上の注意(15.1.2)で注意喚起されています。つまり、他の生物製剤との重ね使いは禁止が条件です。
日本皮膚科学会「乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス(2022年版)」(承認施設要件・スクリーニング方針を詳細に規定)
禁忌は3項目に絞られていますが、これが実務上の最低限のチェックリストとなります。具体的には「①重篤な感染症の患者」「②活動性結核の患者」「③本剤成分に対して過敏症の既往歴のある患者」です。投与前に必ずこの3点をクリアしていることを確認する必要があります。
投与前スクリーニングとして特に重要なのが結核の評価です。添付文書8.2では、「インターフェロンγ遊離試験(IGRA)またはツベルクリン反応検査」に加え、「胸部X線検査」「必要に応じて胸部CT検査」を実施するよう規定されています。陳旧性結核の陰影がある患者、結核治療歴のある患者、IGRA陽性者、結核患者との濃厚接触歴がある患者には原則として抗結核薬の予防投与が必要です。血液検査と胸部X線だけでなく、IGRAの実施が必須となっている点を忘れないようにしましょう。
一方、多くの医療従事者が見落としがちなのが精神科的リスクです。ルミセフは添付文書9.1.3において「うつ病・うつ状態またはその既往歴を有する患者、自殺念慮または自殺企図の既往歴を有する患者」に対して、自殺念慮・自殺企図があらわれることがある旨を明記しています。国内乾癬臨床試験177例中1例(0.6%)に自殺企図が、海外試験4,625例中16例(0.3%)に自殺念慮・自殺企図等が報告され、そのうち3例(0.06%)が自殺に至っています。痛いですね。
ただし注目すべき点として、ブロダルマブの7年間の米国薬剤安全性監視報告(2025年発表)では、自殺リスク評価・軽減戦略(REMS)のもとで流通しているにもかかわらず、報告期間中に自殺例は確認されなかったという報告もあります。とはいえ日本の添付文書では慎重投与対象として明示されているため、投与前に精神科的既往歴を聴取し、必要であれば精神科医との連携のもとで投与可否を判断することが現場での適切な対応となります。
🔍 投与前チェックの3本柱。
生ワクチン接種についても投与中は禁止されています。BCG・麻疹・風疹(MR)・水痘・おたふくかぜ・黄熱などが対象です。不活化ワクチン(インフルエンザ・肺炎球菌など)は接種可能です。生ワクチン禁止が条件です。
日本皮膚科学会「掌蹠膿疱症におけるブロダルマブ使用上の注意」(2025年8月改訂版・精神科的管理の記載含む)
副作用プロファイルにおいて最も頻度が高いのは感染症系です。5%以上の発現頻度で「上気道感染」が報告されており、1〜5%未満では鼻咽頭炎・カンジダ症・咽頭炎・副鼻腔炎・インフルエンザ・気管支炎・ヘルペス感染・尿路感染などが含まれます。IL-17シグナルの遮断が皮膚・粘膜のカンジダ感染抑制を弱めることが、カンジダ症が比較的多い理由とされています。カンジダ症の発現には注意が必要です。
重大な副作用として添付文書に明記されているのは以下の3点で、発現頻度はそれぞれ数字で把握しておくことが大切です。
好中球数減少(0.7%)は数字だけ見ると小さいようですが、これは1,000人投与すれば約7人に発現しうる頻度です。東京の中規模病院なら年間に数例経験する可能性があります。定期的な血液検査で好中球数を確認することが基本です。
また、悪性腫瘍については海外試験(乾癬4,461例・5,574人年)において0.4/100人年(23/4,461例)の発現が報告されています。内容は前立腺癌・膵腺癌ほかで、一般集団との発現頻度に有意差はないとされています(標準化発生比SIR:0.91〔95%CI:0.58,1.37〕)。有意差はないとはいえ、長期投与中は悪性腫瘍の徴候にも目を向けておく姿勢が求められます。
クローン病の活動期患者においては、クローン病の悪化に関連する事象が海外試験で報告されており、禁忌ではないものの慎重投与となっています(9.1.4)。クローン病を既往に持つ患者には必ず投与前に消化器科への確認が必要な点を、現場でのチェックリストに加えておきましょう。
PMDA 医療関係者向け ルミセフ皮下注210mgペン電子添文(副作用データの正式な最新版)
自己注射指導は一般に「ペンの使い方」「注射部位の選択」に集中しがちです。しかし現場での問題は、注射後のケアに関する誤解から生じるケースが意外に多く見られます。指導のゴールは正確な注射操作だけではありません。
ペン使用時の基本操作を整理すると、「①冷蔵庫から出して15〜30分室温に戻す→②薬液・外観の確認→③注射部位を消毒→④ペンを90°で皮膚に当てカチッと1回目の音が鳴るまで押す→⑤2回目のカチッの音の後5秒保持→⑥90°のまま離す→⑦アルコール綿で10秒程度押さえる」という流れです。2回目のカチッ音の後5秒待つという操作が特に脱落しやすく、薬液が全量注入されずに終わるリスクポイントとなっています。5秒待つことが必須です。
保管管理で現場が見落としやすいのは「冷蔵庫への出し入れ繰り返し」の問題です。協和キリンの公式Q&Aによれば、「冷蔵庫に入れたり出したりを繰り返した場合の安定性は検討していない」と明記されています。一度室温に戻したらその日のうちに使用することが前提であり、戻しては冷蔵しを繰り返す管理は推奨されていません。正しい保管温度は2〜8℃(チルド室を除く)で、凍結した場合は使用不可となります。凍結は即廃棄が原則です。
注射部位の輪番管理も指導上の重要ポイントです。腹部・上腕外側・大腿部の3か所が推奨部位ですが、前回注射した部位から3〜5cm以上離すこと、乾癬病変部・傷・硬結・紅斑のある部位には注射しないことを患者が理解している必要があります。繰り返し同じ部位に注射すると、硬結や皮下脂肪萎縮を引き起こし、薬液の吸収効率が落ちる可能性があります。ローテーションの記録が重要です。
自己注射導入時の指導フローとして参考になるのが、日本赤十字社京都第二病院が公開している「ルミセフ薬局用自己注射チェックシート」です。保険薬局側でも操作手技の評価を記載して医療機関と情報共有する取り組みが進んでいます。導入後のフォローを薬局と連携して行う体制を整えると、患者の自己注射の継続率と安全性が向上します。これは使えそうです。
廃棄方法についても患者指導の盲点になりがちです。使用済みペンは廃棄袋に入れ家庭ごみとは分けて管理し、主治医の指示に従って廃棄します。保護キャップは家庭ごみとして廃棄可能ですが、ペン本体は廃棄袋に入れて針刺し事故防止を徹底する必要があります。
ルミセフ公式自己注射ガイドブック(第9版・2025年6月作成)ペン操作の手順・廃棄方法を詳細図説
ルミセフの乾癬に対する臨床成績は、他のIL-17系製剤と比較しても高水準です。中等度〜重度の尋常性乾癬・乾癬性関節炎を対象とした国内臨床試験では、投与12週後のPASI75達成率が94.6%、PASI90達成率が91.9%、PASI100(完全消失)達成率が59.5%と報告されています。PASI75が9割以上というのは非常に高い有効率であり、臨床的に意義のある結果といえます。結論はPASI成績が高水準です。
強直性脊椎炎に対しては、国際共同臨床試験において16週間の投与でASAS40改善基準を達成した割合が43.8%でした。この効果は長期投与でも持続することが確認されており、体軸性脊椎関節炎領域における選択肢としての位置づけが確立しつつあります。
他の生物製剤との使い分けについては、日本皮膚科学会の「乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス(2022年版)」が参考になります。ガイダンスでは、自殺念慮・自殺企図が疑われる患者・またはその既往のある患者については、IL-17阻害薬全般(ブロダルマブを含む)において注意喚起がなされており、特にブロダルマブは海外でRESS(リスク評価軽減戦略)のもとで使用されていることから、精神科的リスクの高い患者では他剤への切り替えも選択肢となります。
抗体産生(免疫原性)については、国内乾癬試験177例中3例(1.7%)、海外4,461例中122例(2.7%)に抗ブロダルマブ結合抗体が認められたものの、中和抗体の産生は乾癬患者では報告されていません。これはリバウンドや急激な効果減弱リスクが相対的に低いことを示すデータとして、長期投与計画を立てる際の一助となります。免疫原性リスクは低い部類です。
薬価については、ペン製剤が1キット74,972円、シリンジ製剤が74,513円です。3割負担の患者が1本処方された場合、約22,400〜22,500円の自己負担となります。月2回投与(2週間隔)が基本となるため、月の薬剤費は約45,000円(3割負担)となります。高額療養費制度の適用で自己負担上限が設定される患者も多く、制度活用の案内も患者指導の一部として組み込むことが実務上は重要です。高額療養費制度の説明が条件です。
巣鴨千石皮ふ科「ルミセフ(ブロダルマブ)生物学的製剤」ページ(患者負担額・日常生活の注意点をわかりやすく解説)