カルシウム輸液との同時投与で新生児が死亡した報告があります。

ロセフィン注の一般名はセフトリアキソンナトリウム水和物(Ceftriaxone Sodium Hydrate)で、第三世代セファロスポリン系抗生物質に分類されます。製造販売元は太陽ファルマ株式会社で、現行の電子添文は2022年1月改訂(第1版)が最新です。
剤形は「ロセフィン静注用0.5g」「ロセフィン静注用1g」「ロセフィン点滴静注用1gバッグ」の3種類があります。薬価はバイアル品(静注用1g)が422円/瓶、バッグ品(点滴静注用1gバッグ)が1,064円/キットです。バッグ品はやや高価ですね。
本剤の大きな特徴は、半減期が約8時間と長く、1日1回投与で十分な抗菌効果が得られる点です。成人に1g静注した場合、投与24時間後でも胆管胆汁中131μg/mL、腹腔内浸出液中11.8μg/mLという有効濃度が維持されます。つまり「1日1回投与」が成立する薬剤です。
2010年ごろに改訂されたカルシウム含有輸液との配合禁忌に関する注意事項は、今日の添付文書でも特に重要なポイントとして8.3に記載されています。現場での誤投与防止のために、この経緯を理解しておくことが重要です。
適応菌種はセフトリアキソンに感性のブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、淋菌、大腸菌、クレブシエラ属、エンテロバクター属など多岐にわたります。適応症は敗血症、肺炎、腎盂腎炎、化膿性髄膜炎、骨盤内炎症性疾患など幅広い感染症です。
ただし、咽頭・喉頭炎、扁桃炎、急性気管支炎、中耳炎、副鼻腔炎については添付文書5に「抗微生物薬適正使用の手引きを参照し、投与の必要性を判断すること」と明記されています。抗菌薬の適正使用が前提です。
以下のページでは最新の電子添文を確認できます。
電子添文・インタビューフォームの最新版を確認できます(PMDA)。
添付文書2項「禁忌」には、たった2項目しか記載されていません。「本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者(2.1)」と「高ビリルビン血症の低出生体重児・新生児(2.2)」です。シンプルな構成です。
しかし2.2は非常に重要な禁忌です。セフトリアキソンは血清アルブミンと結合しているビリルビンを遊離させることがin vitroで報告されています。低出生体重児・新生児は血液脳関門が未熟なため、遊離ビリルビンが脳内に移行し、核黄疸(ビリルビン脳症)を引き起こすおそれがあります。
核黄疸は不可逆的な脳障害です。難聴、知的障害、アテトーゼ型脳性麻痺などの重篤な後遺症を残す可能性があります。これは見逃せません。
一方、高ビリルビン血症を伴わない低出生体重児・新生児については、禁忌には該当しませんが、用法用量6項の「低出生体重児・新生児」欄に別途規定があります。生後0~3日齢は1回20mg/kg・1日1回、生後4日齢以降は1回20mg/kg・1日2回と定められています。
さらに、生後2週間以内の未熟児・新生児では難治性・重症感染症でも1日50mg/kgを上限とする制限があります。通常の小児(120mg/kgまで)より大幅に少ない量が条件です。
セフェム系またはペニシリン系抗生物質に過敏症の既往歴のある患者は「禁忌」ではなく「慎重投与(9.1.1)」に分類されています。ただし本剤自体に過敏症の既往がある患者には投与禁止です。この区別が原則です。
太陽ファルマ ロセフィン静注用1g 製品FAQ(禁忌・小児等への注意事項の詳細)
添付文書8.3「重要な基本的注意」には、カルシウムを含有する注射剤または輸液との同時投与禁止が明記されています。これが最も見落とされやすい注意事項のひとつです。
国外において、新生児にロセフィンとカルシウム含有注射剤・輸液を同一経路から同時投与した結果、肺・腎臓等にセフトリアキソンを成分とする結晶が生じ、死亡に至った症例が報告されています。重大なリスクです。
問題になるのはラクテック®、ソルラクト®、ビーフリード®、イントラリポス®など、カルシウムを含む多くの一般的な輸液製剤です。臨床現場でよく使われる製剤が対象になっています。
「側管から投与すれば問題ない」と思っていませんか? 側管からの同時投与もルート内での配合となるため、禁止対象です。同一ルートを使う場合は、生理食塩液などで前後フラッシングしてから投与することが求められます。
また14.1.2(配合変化)では、トブラマイシン・ベカナマイシン硫酸塩・ジベカシン硫酸塩との配合も混濁等の変化が認められるとして禁忌扱いになっています。アミノグリコシド系との混合は避けるのが原則です。
成人患者では死亡例の報告は新生児のものですが、配合変化(混濁・析出)の問題は成人でも起こりえます。添付文書14.1.2には「カルシウム含有注射剤または輸液との配合により混濁等の変化が認められたとの報告があるので配合しないこと」と年齢を問わず記載されています。
以下は配合変化の詳細データが参照できるPMDAの情報です。
PMDA セフトリアキソンナトリウム水和物「使用上の注意」改訂について(配合禁忌の経緯を含む)
添付文書11.1には、重大な副作用として10項目が列挙されています。ショック・アナフィラキシー、汎血球減少・溶血性貧血、劇症肝炎、急性腎障害、偽膜性大腸炎、重症皮膚障害(TEN・SJS・多形紅斑・AGEP)、間質性肺炎、胆石・胆嚢内沈殿物、腎・尿路結石、精神神経症状です。項目数が多いですね。
このなかで特に臨床現場で見落とされやすいのが「胆石・胆嚢内沈殿物(11.1.8)」です。セフトリアキソン投与中または投与後に、セフトリアキソンそのものを成分とする胆石・胆嚢内沈殿物(偽胆石)が形成されることがあります。
研究では、セフトリアキソン投与後に18.2%の患者が偽胆石を発症したというデータもあります(CareNet Academiaより)。多くの場合は投与中止後に自然消失しますが、一部では腹痛・嘔気・嘔吐などの症状が出ます。胆嚢炎・胆管炎・膵炎に進展するケースも報告されています。
これは意外ですね。偽胆石は「胆石になりやすい患者」ではなく、健常な患者でも起こりえます。
添付文書には「多くの症例は小児の重症感染症への大量投与例でみられている」と記載されており、リスク因子としては高Ca血症、空腹・脱水による胆汁流量の減少、腎不全なども挙げられています。
腹痛等の症状があらわれた場合には投与を中止し、速やかに腹部超音波検査等を行うことが求められています。腹部超音波が確認の第一選択です。
また11.2(その他の副作用)には、ビタミンK欠乏症状(低プロトロンビン血症・出血傾向)が記載されています。経口摂取不良の患者や非経口栄養の患者、高齢者では特に注意が必要です。9.8.2にも「高齢者ではビタミンK欠乏による出血傾向があらわれることがある」と明記されています。
12.1には「ベネジクト試薬・フェーリング試薬による尿糖検査で偽陽性を呈することがある」、12.3には「変異型GDH酵素法による血糖測定で偽低値を呈することがある」という検査値への影響も記載されています。血糖管理中の患者への投与時は要注意です。
日本化学療法学会誌 Ceftriaxone投与後に発生した偽胆石症の2例(臨床報告・PDFリンク)
添付文書6「用法及び用量」では、成人の通常用量は1日1〜2g(力価)を1回または2回に分けて静脈内注射または点滴静注と定められています。難治性・重症感染症では最大1日4gまで増量可能で、2回分割投与とします。これが基本です。
淋菌感染症(咽頭・喉頭炎、尿道炎、子宮頸管炎、直腸炎)については、通常1g(力価)の単回静脈内注射または単回点滴静注という特別な用法が設けられています。一般感染症と用法が異なります。
投与速度については14.2に明確な規定があります。静脈内大量急速投与ではまれに血管痛・血栓性静脈炎・ほてり感・嘔気・嘔吐が生じるため、「注射速度はできるだけ遅くすること(14.2.1)」とあります。
さらに14.2.2には「点滴静注は30分以上かけて静脈内に注射すること」と明記されています。30分未満は禁止です。これを短縮している現場があれば、添付文書違反になります。
バイアル品(静注用)を点滴静注として用いる場合、14.1.3に「溶液が等張にならないため、注射用水を用いないこと」とあります。点滴静注では生理食塩液・ブドウ糖注射液などで溶解することが条件です。
高度腎機能障害患者(Ccr16〜20mL/分程度)では血中半減期が正常者の約13.5時間から21.3時間に延長するため、添付文書7により「血中濃度を頻回に測定できない場合には投与量は1g/日を超えないようにすること」と規定されています。腎機能障害なら1g/日が上限です。
また透析についても重要な情報があります。13.1「過量投与・処置」に「腹膜透析や血液透析では除去されない」と明記されています。過量投与の場合に透析で除去することはできません。
今日の臨床サポート ロセフィン静注用0.5g 添付文書全文(用法・用量・副作用の詳細)
2022年1月改訂(第1版)から、ロセフィン注は「電子添付文書(電子添文)」が正式な添付文書になっています。紙の添付文書は原則として廃止されました。これは大きな変化です。
電子添文はPMDAのウェブサイトや各種医薬品情報データベースからリアルタイムに更新版を確認できます。最新版を参照するためには、製品パッケージのQRコードから随時アクセスするか、HOKUTOやMedPeerなどの薬剤情報アプリを活用する方法があります。
現場でよく起きるのが「古い添付文書情報を参照したまま業務を継続してしまう」というケースです。例えば、カルシウム含有輸液との配合禁忌情報が追記されたのが比較的近年であり、古いプロトコールでは反映されていないことがあります。院内のプロトコールが最新情報にアップデートされているかの定期確認が原則です。
電子添文の大きなメリットは、改訂履歴が明示されていることです。PMDA版の電子添文では改訂号と改訂年月が記載されており、以前の版との差分を確認することができます。改訂のたびに確認するのがベストです。
また、インタビューフォーム(IF)も電子化されており、より詳細な薬物動態・臨床成績・配合変化データが掲載されています。添付文書だけでは読み取れない情報を補完するために参照する習慣をつけると、安全な投与管理に役立ちます。添付文書とIFの2段活用がおすすめです。
ロセフィン注で言えば、蛋白結合率が血中濃度依存的に83.3〜96.3%という高い値を示すこと(16.3.2)、胆汁中への移行が非常に高く1g静注24時間後でも131μg/mL(16.3.1)に達することなど、IFには臨床上有用なデータが多数含まれています。
薬剤情報の一元管理アプリとして「HOKUTO」や「Medinews」などを活用することで、最新の電子添文・IFへのアクセスとプッシュ通知による改訂アラートを受け取ることができます。確認の手間を大幅に省けます。
JAPIC ロセフィン静注用インタビューフォーム(薬物動態・配合変化データの詳細・PDF)