
ロラゼパム錠0.5mg「サワイ」は、沢井製薬が製造販売するロラゼパムのジェネリック医薬品(後発医薬品)です。先発品である「ワイパックス錠0.5」(田辺三菱製薬)の成分・用法用量・効能効果はすべて同一であり、薬価は先発品の1錠6.10円に対して後発品はより低価格で提供されています。
製剤の特徴として、本剤は白色の素錠(直径5.0mm・厚さ2.4mm・重量約50mg)で、識別コードは「SW 396」です。大きさは直径5mmと非常に小さく、おおよそ鉛筆の断面程度のサイズ感です。添加剤はステアリン酸Mg・デンプングリコール酸Na・乳糖の3成分のみとシンプルな構成になっています。
貯法は室温保存ですが、有効成分のロラゼパムは光によって徐々に着色する性質があるため、開封後は必ず遮光して保存する必要があります。これは見落とされがちな点です。有効期間は3年。包装形態はPTP(乾燥剤入り)100錠・1000錠、バラ(乾燥剤入り)1000錠の3種類が用意されています。
薬効分類はマイナートランキライザー(ベンゾジアゼピン系睡眠・抗不安・抗痙攣薬)に分類されます。日本標準商品分類番号は871124です。また、向精神薬(第三種)に指定されており、処方箋医薬品であるため、医師等の処方箋なしに使用することはできません。
参考:添付文書の詳細は以下の公式PDFで確認できます。用法用量・禁忌・重篤副作用の原文を確認するのに有用です。
ロラゼパムは、脳内に広く存在するγ-アミノ酪酸(GABA)/ベンゾジアゼピン受容体複合体と相互作用することで抗不安作用を発揮します。具体的には、GABA受容体に対するGABAの親和性を亢進し、その抑制性神経伝達作用を増強します。つまり、興奮した神経活動を"ブレーキ"する方向に働くということですね。
薬物動態の面では、健常成人にロラゼパム1.0mgを経口投与した際、血中濃度は約2時間で最高値(Tmax)に達し、半減期は約12時間です。これは「中間型」のベンゾジアゼピン系薬剤に分類されます。短時間型(デパスなど:半減期約6時間)と長時間型(セルシンなど:半減期20〜100時間)のちょうど中間に位置しており、効果が比較的安定して持続する特性があります。
最大の薬学的特徴は代謝経路です。ロラゼパムの主代謝経路は、肝臓中のUGT2B7およびUGT2B15によるグルクロン酸抱合です。多くのベンゾジアゼピン系薬剤がCYP3A4などのシトクロムP450酵素を介して代謝されるのに対し、ロラゼパムはCYP酵素をほとんど使用しません。これが条件です。
この特徴から生まれる実臨床上のメリットは大きく、CYP阻害薬や誘導薬(例:アゾール系抗真菌薬、リファンピシンなど)を同時に使用している患者でも、薬物相互作用の懸念が比較的少ない点が挙げられます。多剤処方を受けている患者や、肝疾患を抱える患者への処方選択時に考慮される根拠のひとつがこれです。ただし、プロベネシドやバルプロ酸はグルクロン酸抱合を阻害することでロラゼパムの消失半減期を延長させる可能性があるため、注意が必要です。
血漿蛋白結合率は約87%(外国人データ)。代謝産物(グルクロン酸抱合体)の大部分は尿中に排泄されますが、一部は胆汁中に排泄され腸肝循環を受けることも報告されています。腎機能障害・肝機能障害患者ではいずれも排泄が遅延するおそれがあり、特に注意が求められます。
参考:ロラゼパムの作用機序・薬物動態の詳細(cocoromi-mental.jp)
ワイパックス(ロラゼパム)の効果と副作用 – こころみ医学
本剤の効能または効果は以下の2つに限定されています。
用法用量は、通常成人1日ロラゼパムとして1〜3mgを2〜3回に分けて経口投与し、年齢・症状により適宜増減します。0.5mg錠換算では1日2〜6錠(2〜3回分服)が目安となります。添付文書には「年令・症状により適宜増減する」と明記されており、一律に最大用量で開始することは推奨されません。
⚠️ 処方上で注意すべき重要事項が2点あります。
まず、本剤は向精神薬(第三種)として厚生労働省告示第97号(平成20年3月19日付)により、1回の投薬量が30日分を上限として定められています。これを超えた処方は保険診療上の問題となります。1回30日分が上限です。
次に、2018年の診療報酬改定以降、ベンゾジアゼピン受容体作動薬(本剤を含む)を不安または不眠の症状に対して12ヶ月以上・同一成分・同一用量で継続処方している場合、処方料は通常より低い29点、処方箋料は40点に減算されます。長年同じ用量で継続処方してきた場合、知らないうちに減算対象になっている可能性があります。これは痛いですね。減算を避けるためには、定期的な病状評価と用量見直しの記録が重要です。
また、「重要な基本的注意」として添付文書8.1項には、眠気・注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるため、服用中は自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないよう患者に指導することが明記されています。服薬指導の際は必ずこの点を伝えることが基本です。
参考:診療報酬上の向精神薬長期処方の減算ルールについて(岐阜県病院薬剤師会)
ベンゾジアゼピン受容体作動薬の長期処方による処方料・処方箋料の減算について(PDF)
禁忌(絶対に投与してはならない患者)は以下の2つです。
この2つは絶対に覚えておけばOKです。
副作用については、頻度3%以上で眠気が報告されており、0.1〜3%未満の頻度でふらつき・めまい・立ちくらみ・頭重・頭痛・動悸・悪心・下痢・便秘・食欲不振などが挙げられています。重大な副作用としては①依存性、②刺激興奮・錯乱、③呼吸抑制(頻度不明)の3つが明記されています。
特定背景を有する患者への注意が必要なケースも多数あります。心障害、脳器質的障害、衰弱患者、中等度または重篤な呼吸不全患者では、いずれも「作用が強くあらわれるおそれがある」と記載されています。
高齢者への投与は特に慎重を要します。添付文書9.8項では「少量から投与を開始するなど慎重に投与すること。運動失調等の副作用が発現しやすい」と明記されています。高齢者は加齢による代謝・排泄の低下から薬効が増強されやすく、ふらつきによる転倒・骨折リスクが顕著に高まります。実際に、抗不安薬を5つ以上の薬と併用している高齢者の4割以上にふらつき・転倒が起きているというデータも報告されています。高齢者への処方では、0.5mg錠の少量から開始することが原則です。
妊婦への投与にも厳しい制限があります。疫学調査でベンゾジアゼピン系化合物が口唇裂・口蓋裂の増加と関連する報告があるほか、分娩前の連用により新生児に離脱症状が現れた報告もあります。投与は「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合のみ」とされており、原則として妊娠中は慎重に判断が必要です。授乳中も乳汁中への移行が報告されているため、授乳を避けることが推奨されています。
参考:高齢者への安全な薬物療法ガイドライン(日本老年医学会)
高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(PDF)- 日本老年医学会
ロラゼパムを含むベンゾジアゼピン系薬剤で最も重要な臨床課題のひとつが、依存性と離脱症状の管理です。連用により薬物依存が生じることがあるため、添付文書では「漫然とした継続投与による長期使用を避けること」が明記されています。依存が形成されると厄介です。
離脱症状として最も注意すべきは、連用中に投与量を急激に減量または中止した際に起こる痙攣発作・せん妄・振戦・不眠・不安・幻覚・妄想などです。ロラゼパムの半減期は約12時間と中間型であるため、短時間型(デパスなど半減期約6時間)のように急激な離脱症状は起こりにくいものの、油断は禁物です。離脱症状は、薬を中止・減量してから多くの場合1〜2週間以内に出現するとされています。
減薬・中止の際は以下の原則を守ることが不可欠です。
また、過量投与が疑われる場合の処置として、ベンゾジアゼピン受容体拮抗剤のフルマゼニル投与が選択肢になります。ただし、フルマゼニル投与後に本剤を新たに投与する場合、鎮静・抗痙攣作用が変化・遅延するおそれがある点も忘れてはなりません。
なお、相互作用として、プロベネシドおよびバルプロ酸はグルクロン酸抱合を阻害することでロラゼパムの消失半減期を延長させます。一方、リファンピシンや経口避妊ステロイドはロラゼパムの血中濃度を低下させる方向に作用します。これらの薬剤を併用している患者では、ロラゼパムの用量調整が必要になる場面があります。
参考:ベンゾジアゼピン受容体作動薬の依存性・離脱症状に関するPMDA情報
ベンゾジアゼピン受容体作動薬の依存性について(PMDA・PDF)