初回投与で重篤なインフュージョンリアクションが起きた患者の約50%は、投与開始後30分以内に症状が出現しています。

リツキサン(一般名:リツキシマブ)は、CD20陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫や慢性リンパ性白血病、さらに関節リウマチ、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)および顕微鏡的多発血管炎(MPA)に対して承認されている抗CD20モノクローナル抗体製剤です。添付文書の「効能・効果」欄には、これら複数の適応が列挙されており、適応ごとに用量・投与スケジュールが異なる点が重要です。
リツキシマブはB細胞表面のCD20抗原に特異的に結合し、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)、およびアポトーシス誘導の3つのメカニズムを通じてB細胞を破壊します。これが基本です。
製剤として「リツキサン点滴静注10mg/mL」として供給されており、100mg(10mL)バイアルと500mg(50mL)バイアルの2規格が存在します。投与前には必ず生理食塩液または5%ブドウ糖注射液で希釈し、最終濃度を1~4mg/mLに調製することが添付文書で義務付けられています。原液のまま静脈内投与してはならない、という点は特に注意が必要です。
承認年は1998年(米国)、日本では2001年に承認されており、20年以上の使用実績をもつ薬剤ですが、だからこそ「慣れ」による手順の省略が起きやすい薬剤でもあります。最新の添付文書(改訂版)を常に参照することが求められます。
参考:中外製薬が公開している最新の添付文書・インタビューフォームは以下から入手できます。
投与速度の管理は、リツキサン使用における最重要ポイントのひとつです。添付文書では、初回投与は50mg/時(時速50mg)から開始し、忍容性が確認されれば30分ごとに50mg/時ずつ段階的に増量、最大400mg/時まで引き上げることが可能とされています。2回目以降の投与では、前回投与で重篤な副作用がなければ100mg/時から開始し、30分ごとに100mg/時ずつ増量できます。
つまり、初回と2回目以降では開始速度が異なるということです。
この速度管理を厳守する理由は、インフュージョンリアクション(輸注反応)の発生リスクを最小限に抑えるためです。インフュージョンリアクションは投与開始後30〜120分以内に最も多く発生するとされており、発熱・悪寒・低血圧・気管支痙攣などが代表的な症状です。重篤例では致死的な経過をたどることもあります。
投与速度の管理には輸液ポンプの使用が推奨されており、フリーフローでの自然滴下は避けるべきです。速度管理が条件です。投与中は少なくとも30分ごとにバイタルサインを測定し、症状の変化を早期にキャッチできる体制を整えておくことが必要です。
重要な調製上の注意点として、リツキサン希釈液の振盪は禁止されています。泡立てると蛋白変性が起きる可能性があるため、混合時はバッグを穏やかに転倒混和するにとどめてください。また、他の薬剤との混合投与は添付文書上禁止されており、専用ラインまたはフラッシュ後のラインを使用することが原則です。
前投薬の実施は、添付文書において強く推奨されています。具体的には、各投与の30〜60分前にアセトアミノフェン(解熱鎮痛薬)および抗ヒスタミン薬の投与を行い、副腎皮質ステロイドが含まれないレジメンの場合にはステロイドの追加投与も検討することが記載されています。この前投薬セットを省略してはいけません。
副作用モニタリングで最も優先度が高いのは、投与中から投与後24時間以内に発症しうるインフュージョンリアクションです。臨床試験データでは、全患者の77%以上に何らかの投与関連反応が認められており、グレード3〜4の重篤な反応は約10%に発生したと報告されています。これは意外ですね。
副作用として注意が必要なものを整理すると、以下のカテゴリに分けられます。
副作用発現時の対応として、添付文書ではグレードに応じた投与中断・投与速度減速・中止基準が明記されています。グレード1〜2のインフュージョンリアクションでは投与速度を50%減速し、グレード3〜4では直ちに投与を中止してアドレナリン・ステロイド・気管支拡張薬などの緊急対応に移行することが求められます。対応フローを事前に確認しておくことが必要です。
添付文書の「重要な基本的注意」の項には、投与前のB型肝炎ウイルス(HBV)スクリーニングが義務として明記されています。具体的には、HBs抗原・HBc抗体・HBs抗体の3項目をすべて確認することが求められており、いずれかひとつだけの検査では不十分です。
B型肝炎スクリーニングが重要な理由は、リツキシマブがB細胞を長期間枯渇させることで免疫監視機能が低下し、それまで不活性だったHBVが再活性化する可能性があるからです。再活性化が起きると劇症肝炎に至ることがあり、死亡例も国内外で報告されています。HBs抗原陰性でも既往感染(HBc抗体陽性またはHBs抗体陽性)の患者では再活性化リスクがあるため、肝臓専門医または感染症専門医と連携して対応方針を決定することが推奨されています。
| 検査項目 | 結果パターン | 対応方針 |
|---|---|---|
| HBs抗原陽性 | 活動性感染 | 抗ウイルス薬(核酸アナログ)投与を開始してから使用を検討 |
| HBs抗原陰性・HBc抗体陽性 | 既往感染(再活性化リスクあり) | 肝臓専門医と連携し、予防投与または厳重モニタリング |
| HBs抗原陰性・HBc抗体陰性 | 未感染または自然免疫獲得 | 定期的なHBV-DNA・ALTモニタリングを継続 |
投与中から投与終了後少なくとも12ヶ月間はHBV-DNAのモニタリングを継続することが必要です。これは必須です。また、PML(進行性多巣性白質脳症)への注意として、投与中に神経症状(認知機能低下・構音障害・歩行障害など)が出現した場合は速やかに投与を中断し、MRI検査・JCウイルスDNA測定を実施することが添付文書に明記されています。
参考:HBV再活性化対策の詳細ガイドラインは日本肝臓学会から公開されています。
日本肝臓学会:免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン
添付文書の記載範囲は投与中・投与直後の管理に重点が置かれていますが、実臨床では投与終了後の長期フォローアップが同等以上に重要です。この点は添付文書だけを読んでいると見落としがちです。
リツキシマブはB細胞を枯渇させるため、投与後6〜12ヶ月間にわたってB細胞数が低値を維持することが多く、その間に低γグロブリン血症(IgG・IgM・IgAの低下)が進行します。低γグロブリン血症は感染症に対する抵抗力を著しく低下させ、肺炎球菌性肺炎・ニューモシスチス肺炎(PCP)・CMV感染症などの日和見感染症のリスクを高めます。
実際、リツキシマブ投与後にIgGが400mg/dL未満に低下した患者では、感染症入院率が非低下群と比較して約3倍に上昇するというデータが報告されています。数字として覚えておくべき情報です。
投与終了後の長期フォローとして実践すべき点を整理すると、次のとおりです。
再投与を検討する際には、前回投与からの期間・B細胞数の回復状況・感染症リスクを総合的に評価する必要があります。これが条件です。特にリツキシマブを繰り返し使用するリウマチ・血管炎患者では、累積投与回数が増えるにつれて低γグロブリン血症の頻度と重症度が高まるため、免疫グロブリン補充療法(IVIG)の適応を早めに検討することが実臨床では求められています。
添付文書はあくまでも「投与可能な最低限の安全基準」を示したものです。実臨床における質の高い患者管理のためには、添付文書の内容を正確に把握したうえで、学会ガイドラインや最新のエビデンスを組み合わせた包括的なアプローチが不可欠といえます。
参考:リツキシマブを含む生物学的製剤の感染症リスク管理に関する詳細は以下を参照してください。