費用対効果が「不十分」と判定されても、薬価が下がるのはわずか数十円です。

レットヴィモカプセル(一般名:セルペルカチニブ)は、日本イーライリリー株式会社が製造販売する選択的RETキナーゼ阻害薬です。2021年11月25日に薬価収載され、現行の薬価は以下のとおりです。
| 販売名 | 規格 | 薬価 |
|---|---|---|
| レットヴィモカプセル 40mg | 40mg 1カプセル | 4,066.2円 |
| レットヴィモカプセル 80mg | 80mg 1カプセル | 7,717.4円 |
| レットヴィモ錠 40mg | 40mg 1錠 | 4,066.2円 |
| レットヴィモ錠 80mg | 80mg 1錠 | 7,717.4円 |
成人の標準用量は「1回160mgを1日2回経口投与」であるため、80mgカプセルを1回2カプセル、1日4カプセル服用することになります。
1日の薬剤費は「7,717.4円 × 4カプセル = 30,869.6円」となります。これはおよそ1日3万円です。1か月(30日)に換算すると約92万円という計算になり、がん患者の薬剤費負担の大きさが具体的に見えてきます。
つまり薬価を「1カプセルいくら」だけで見ていると、実際の医療費の規模を見誤りやすいということです。
高額な薬剤費については、日本では高額療養費制度の適用があります。一般的な所得区分(標準報酬月額28万〜50万円)の場合、月の自己負担限度額は約8〜9万円に設定されており、それを超えた費用は保険から支給されます。患者への費用説明の際には、この制度の活用を必ず案内することが重要です。
短文:制度の活用が前提です。
医療機関としては、処方設計の段階でコンパニオン診断による適応確認と同時に、医療ソーシャルワーカーや患者支援担当者と連携して患者の経済的支援体制を整えておくことが、現場での標準的な対応となっています。
参考:レットヴィモ 薬価・用法用量・添付文書情報(KEGG MEDICUS)
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00070108
レットヴィモカプセルの収載時の薬価算定には、「類似薬効比較方式(Ⅰ)」が採用されました。これは、同様の効能・効果や薬理作用を持つ既収載医薬品の1日薬価に合わせて新薬の薬価を決める方式です。
レットヴィモの場合、比較薬として選ばれたのはザーコリ(クリゾチニブ)です。ザーコリはALK・ROS1陽性の非小細胞肺がんに用いるキナーゼ阻害薬であり、「肺がんドライバー遺伝子に対する分子標的治療薬」という観点から最類似薬と判断されました。
加算前の80mg1カプセルの薬価は6,073.5円でしたが、以下の2種類の加算が適用されて1.15倍となりました。
新規作用機序が認められた点は重要です。セルペルカチニブは日本初・世界初のRETキナーゼ選択的阻害薬として承認されており、その独自性が加算に直結しています。
収載時の1日薬価は約27,938円(80mg×4カプセル)で、比較薬ザーコリの1日薬価24,293.8円を若干上回る水準となっています。これは加算15%の効果が反映されたものです。
なお、ピーク時の予測販売金額は156億円とされており、比較的小規模な市場を想定した希少疾病薬として位置づけられています。RET融合遺伝子変異が非小細胞肺がん全体の1〜2%にしか認められない希少変異であるため、患者数が限られているからです。
短文:希少疾病薬として市場規模は小さめです。
参考:2021年11月17日 中医協総会(第497回)新医薬品薬価算定の概要
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212500_00120.html
レットヴィモカプセルは薬価収載時から「費用対効果評価対象品目(H1)」に指定されていました。H1とはピーク時の予測市場規模が100億円以上の品目に適用される区分であり、公的な費用対効果評価の対象となることが最初から決まっていたわけです。
令和5年(2023年)8月23日、中央社会保険医療協議会(中医協)において費用対効果評価の結果が承認され、令和6年(2024年)2月1日から価格調整が実施されました。
調整の内容は以下のとおりです。
| 対象集団 | 比較対照技術 | 価格調整係数(β) | 患者割合 |
|---|---|---|---|
| RET融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌 | シスプラチン+ペメトレキセド+ペムブロリズマブ | 1.0(変更なし) | 87.7% |
| RET融合遺伝子陽性の根治切除不能な甲状腺癌 | レンバチニブ | 0.7(引き下げ) | 12.3% |
これらを患者割合で加重平均した結果、改定薬価は以下となりました。
「費用対効果評価で引き下げられた」と聞くと大幅な減額を想定しがちですが、実際には80mgで11.2円という小幅な調整でした。これが冒頭の「一文」に示した驚きの実態です。
費用対効果評価が低い判定になったとしても、加重平均や算定構造の関係で引き下げ幅が極めて小さくなるケースがあります。これは原則を理解するだけでは見えてこない部分です。
その後、通常の薬価改定や市場実勢価格の反映を経て、現行の薬価(2025年4月1日以降)はカプセル40mgで4,066.2円、80mgで7,717.4円となっています。この数字は費用対効果評価後の「改定薬価」より高い水準に見えますが、これは中間年改定などの別ルートでの薬価改定サイクルが複合的に影響しているためです。
薬価の変遷を追う際は、「費用対効果評価による価格調整」と「通常の薬価改定(市場実勢価格)」を区別して整理することが条件です。
参考:レットヴィモの費用対効果評価結果に基づく価格調整について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001167637.pdf
薬価の妥当性を医療現場で評価するには、その薬がどれほどの有効性を示しているかというエビデンスと照合することが不可欠です。
レットヴィモの承認根拠となったのは、国際共同第Ⅰ/Ⅱ相試験「LIBRETTO-001試験」です。この試験にはRET融合遺伝子陽性の非小細胞肺がん患者316人が登録され、日本からも13施設64例が参加しました。
主要な有効性データは以下のとおりです。
従来の化学療法の奏効率は約30%、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)単剤では約15%程度とされていることと比較すると、セルペルカチニブの奏効率は非常に高い水準です。
これは使えそうです。
さらに注目すべき点は、CNS転移への効果です。脳転移のある非小細胞肺がん患者は予後が特に厳しいとされますが、頭蓋内奏効率85%という成績は他の分子標的薬と比較しても高い水準です。この点が薬価算定における「有用性加算」の根拠の一つにもなっています。
安全性については、高血圧(36.6%、Grade3以上は19.2%)、ALT増加(32.6%)、AST増加(32.6%)が高頻度でした。ただし、これらはモニタリングと適切な対応で管理可能とされており、投与中止に至ったケースは少数でした。
高血圧が原則です。投与前の血圧管理確認、定期的な心電図・血清電解質検査(投与開始後6ヶ月は毎月1回)など、モニタリング体制を整えた上で使用することが添付文書でも求められています。
参考:LIBRETTO-001試験 更新データ(Journal of Clinical Oncology, 2022)
https://oncolo.jp/news/221005y01
レットヴィモは長らくカプセル剤のみで提供されてきましたが、2025年9月17日に錠剤(レットヴィモ錠40mg・80mg)の承認を取得し、同年11月12日に薬価収載、12月5日に正式発売されました。
この新剤形追加は、医療現場の声に直接応える形で開発されたものです。カプセル剤の長径は21.7mm(短径7.6mm)と大きく、嚥下困難な高齢患者や体力が低下した進行がん患者では服薬負担が課題でした。一方、新しい錠剤の直径はカプセル剤の長径と比べて約3分の1程度と小型で、服用しやすくなっています。
薬価は以下のとおりで、カプセル剤と同一水準で設定されています。
剤形追加であるため新規算定ではなく、カプセル剤と同じ薬価水準が維持されています。つまり、処方する剤形(カプセルか錠剤か)によって薬剤費が変わることはありません。これなら問題ありません。
医療従事者にとって重要なのは、カプセル剤と錠剤の切り替えの際の注意点です。両剤形は生物学的に同等とされますが、処方箋や調剤記録上でカプセルか錠剤かを明記することは適切な在庫・調剤管理のために欠かせません。患者が嚥下困難を訴えた場合や、小児(12歳以上)で体表面積1.6m²以上に相当しない症例では、80mg錠より40mg錠の組み合わせが選択されるケースも増えると考えられます。
短文:剤形選択の幅が広がりました。
なお、希少疾病用医薬品として「RET融合遺伝子陽性の進行・再発の固形腫瘍(非小細胞肺癌・甲状腺癌を除く)」の適応も追加されており(2023年9月に希少疾病用医薬品指定)、今後の適応拡大に伴うさらなる対象患者の拡大も注目されています。
参考:レットヴィモ錠 発売のご案内(日本イーライリリー)
https://mediaroom.lilly.com/PDFFiles/2025/25-69_com.jp.pdf
参考:新製品「レットヴィモ」に錠剤(薬事日報)
https://www.yakuji.co.jp/entry127198.html