高血圧のない患者でも、レンビマ投与後にGrade3高血圧を起こす割合が日本人では87.5%にのぼります。

レンビマカプセル(一般名:レンバチニブメシル酸塩)は、マルチキナーゼ阻害薬に分類される経口抗がん剤です。VEGFR1/2/3・FGFR1/2/3/4・PDGFRα・KIT・RETといった複数のキナーゼを同時に阻害することで、腫瘍の血管新生と直接的な増殖シグナルを遮断します。標的が広い分、副作用も多岐にわたる点が特徴です。
エーザイのFAQ情報によれば、安全性解析対象例406例中395例(97.3%)に何らかの副作用が認められています。主な副作用の発現率は以下のとおりです(甲状腺癌対象のSELECT試験より)。
| 副作用 | 発現率(全体) |
|---|---|
| 高血圧 | 61.3%(Grade3以上:41.4%) |
| 甲状腺機能低下症 | 54.7% |
| 下痢 | 54.5% |
| 食欲減退 | 51.7% |
| 体重減少 | 47.1% |
| 悪心 | 41.0% |
| 疲労 | 39.8% |
| 口内炎 | 36.8% |
| 手足症候群(PPES) | 32.1% |
| 蛋白尿 | 29.7% |
肝細胞癌対象のREFLECT試験では、高血圧39.7%・下痢30.0%・手足症候群26.5%・食欲減退25.6%という数字が示されています。適応疾患によって発現プロファイルに差があるため、対象患者の疾患背景を踏まえたモニタリング設計が求められます。
副作用はほぼすべての患者に出ると考えてよいです。医療従事者として重要なのは、どの副作用が「いつ」「どの程度で」出現するかを予測し、先手を打った患者指導と対処ができるかどうかという点です。
参考)エーザイ Medical Q&A「レンビマ 発現率の高い主な副作用」
https://faq-medical.eisai.jp/faq/show/3258?category_id=203&site_domain=faq
高血圧はレンビマカプセル使用中に最も頻繁に遭遇する副作用です。これが重要なのは、単に数値が上がるというだけでなく、脳出血・動脈解離・可逆性後白質脳症症候群(PRES)といった生命に関わる事象の引き金になり得るからです。
SELECT試験の結果から見えてくるのは、日本人集団で高血圧が特に起こりやすいという事実です。
日本人では投与開始後わずか8日で高血圧が出始めるということですね。全体の16日と比べると倍のスピードです。この差は人種的な体格差や遺伝的背景が影響していると考えられていますが、臨床的には「投与開始後1週間を過ぎたら毎日の血圧確認が欠かせない」という対応が求められます。
さらに見落としてはならないのが、高血圧の既往がない患者でもGrade3以上が高頻度で起こる点です。日本人集団では、高血圧合併なしの患者でもGrade3以上の発現率が87.5%に達しています。「今まで血圧に問題がなかったから安心」という先入観は禁物です。
管理の基本は血圧測定の習慣化です。収縮期血圧≧160mmHgまたは拡張期血圧≧100mmHgが持続する場合は休薬の上、降圧剤による治療が必要となります。日本人集団での降圧剤使用状況を見ると、カルシウム拮抗剤が80.0%と突出しており、アンジオテンシンII受容体拮抗剤(ARB)が56.7%で続きます。降圧剤の追加・変更を速やかに行える体制を、投与前から整えておくことが重要です。
参考)PMDA 適正使用ガイド(甲状腺癌)、9頁「高血圧」
https://www.pmda.go.jp/RMP/www/170033/3744027a-2e69-402b-b16a-72dd0c97c865/170033_4291039M1020_01_003RMPm.pdf
手足症候群(PPES:手掌・足底発赤知覚不全症候群)は、患者のQOLに直結する副作用のひとつです。肝細胞癌患者対象のREFLECT試験では発現率51.9%(Grade3以上7.4%)と、実に半数超に認められています。
手足症候群の特徴は「物理的刺激が加わる部位」に起こりやすいことです。手のひらや足の裏など、日常動作で繰り返し圧力がかかる場所に、しびれ・知覚過敏・ヒリヒリ感・紅斑・水疱が生じます。保湿ケアはGrade1以下の軽症段階から積極的に実施することが推奨されており、投与開始前からの保湿クリーム使用が予防効果をもたらします。
Grade2以上で忍容できない場合は休薬し、Grade1以下に回復後に1段階減量して再開します。これが原則です。
下痢についても対処の基本は薬剤性下痢として整腸剤・止瀉薬で管理することです。ただし利尿剤を併用している場合、下痢による脱水が電解質異常を招くリスクがあります。特に高齢者では脱水の進行が速く、治療中断につながりやすいため、水分・食事摂取の状況を外来・薬局双方でモニタリングすることが重要です。
肝細胞癌の患者に多い高齢者では、食欲減退がQOL低下のみならず治療継続断念の直接原因になります。「食べれるものを食べれるだけ食べること」「食べられなくても水分だけは確保すること」という患者指導の徹底が、長期投与を支えます。
参考)香川大学医学部附属病院 薬剤部「Lenvatinibの副作用管理と薬薬連携」
http://www.med.kagawa-u.ac.jp/~yakuzaib/medical/document/yakuyaku_190806_lenvima.pdf
電子添文に記載された重大な副作用を把握しておくことは、医療従事者として絶対に欠かせません。頻度が低くても重篤化リスクが高い副作用を見落とすと、患者の生命に関わる事態を招きます。
主な重大副作用は以下の通りです。
| 重大副作用 | 発現率(目安) | 特記事項 |
|---|---|---|
| 高血圧 | 67.8%(日本人86.7%) | 脳出血・動脈解離の誘因 |
| 出血(脳出血・消化管出血・喀血など) | 鼻出血など含む | 脳転移例は特に注意 |
| 動脈血栓塞栓症 | 不明 | 年齢65歳以上は高リスク |
| 肝障害 | 重篤例あり | 定期的なALT/AST確認が必須 |
| 急性胆嚢炎 | 無石胆嚢炎を含む | 胆嚢穿孔例も報告あり |
| 可逆性後白質脳症症候群(PRES) | 0.3% | 痙攣・視覚障害・錯乱が初期症状 |
| 間質性肺疾患 | 1.8% | 死亡例あり(因果関係否定できない例4例) |
| 甲状腺機能低下症 | 54.7%(甲状腺癌) | 37.5%(肝細胞癌・重大副作用として記載) |
| 消化管穿孔・瘻孔形成 | 頻度不明 | 気胸も同カテゴリ |
| 腎障害・蛋白尿 | 29.7% | 休薬基準は尿蛋白3.5g/日 |
特に意識しておきたいのが可逆性後白質脳症症候群(PRES)です。発現率は0.3%と低いものの、痙攣・頭痛・錯乱・視覚障害という症状は見逃されやすく、MRI等の画像検査まで確定が難しいことがあります。高血圧のコントロールが不十分な状態が続くとリスクが高まるため、血圧管理とPRESの前駆症状への注意を一体的に行うことが原則です。
間質性肺疾患については、2019年の安全性情報で重大副作用として追記された経緯があります。国内での副作用症例として11例が報告され、そのうち4例で死亡例との因果関係が否定されていません。発熱・咳嗽・呼吸困難が出た場合は速やかに胸部X線・CTで評価することが求められます。
甲状腺機能低下症は頻度が高い副作用のひとつです。甲状腺癌の治療でレンビマを使用している患者にとっては特に注意が必要で、倦怠感・むくみ・体重増加・便秘・冷えなどの症状が既存の副作用と混同されやすい点が問題です。TSH・FT4の定期的なモニタリングを怠ると、症状が進行するまで見落とされる可能性があります。
参考)m3.com「レンビマに重大副作用を追記(間質性肺疾患)」
https://www.m3.com/clinical/news/675498
レンビマカプセルによる腎障害・蛋白尿は、見た目の症状が乏しいために対応が後手に回りやすい副作用です。肝細胞癌患者のREFLECT試験では蛋白尿の発現率が45.7%(Grade3以上8.6%)と高く、尿検査の定期的な実施が不可欠です。
レンビマにおける蛋白尿の休薬基準は「尿蛋白3.5g/日以上」と設定されています。これは他の分子標的薬と比べてやや高い閾値である点に注意が必要です。なぜなら、逐次治療として他のレジメンに切り替えた場合、休薬基準が「2.0g/日」に変わるケースがあるからです。
蛋白尿3.5g/日以上というのは「ネフローゼ域の蛋白尿」に相当します。これはおよそコップ1杯分の尿に泡立ちが目立つレベルに相当し、患者自身が気づけることもありますが、症状として感じにくい場合も多くあります。定期的な尿試験紙検査で2+以上が確認されたら、24時間蓄尿による定量検査に進むことが推奨されています。
腎機能の基礎が低下している患者(慢性腎臓病の合併例など)では、レンビマの腎障害が急速に重篤化することがあります。CKDの既往がある場合は通常より早い段階からの介入が必要です。
また、蛋白尿は長期投与に伴い慢性腎臓病(CKD)として固定化するリスクもあります。Asia Pacific Journal of Clinical Oncology誌(2025年6月)に発表された縦断的観察研究では、1年以上レンバチニブを投与された患者において、高血圧・下痢・手足皮膚反応・血小板減少・蛋白尿・食欲不振・慢性腎臓病(CKD)が特定の時間的順序で発現することが確認されています。
参考)HOKUTO 「Lenvatinib(レンビマ)レジメン・適正使用ガイド」
https://hokuto.app/regimen/IL09H4ELTvp49ktZyXZS
レンビマカプセルの最大の特徴のひとつは、5段階の用量調節が可能な点です。甲状腺癌では開始用量24mgから始まり、段階的に20mg→14mg→10mg→8mg→4mgまで柔軟に調整できます。肝細胞癌でも体重別の開始用量(60kg以上12mg・60kg未満8mg)から段階的な減量が設定されています。
この細かな用量調節の幅は、副作用が出たからといってすぐに中止するのではなく、「副作用をコントロールしながら長期投与を継続する」という治療哲学を反映しています。つまり休薬・減量が適切に機能すれば、それは治療の失敗ではなく成功への道筋です。
副作用対応の基本フローを整理します。
実臨床で問題になるのは、患者が「せっかく治療を始められたから少しくらいなら我慢する」と副作用を過小申告してしまうケースです。香川大学医学部附属病院の報告では、患者から「このくらいの副作用なら大丈夫だと思った」「どのタイミングで連絡するのか分からなかった」という声が上がっており、外来と外来の間のフォローアップ体制が治療継続の鍵を握ることが示されています。
同院では退院後に薬局薬剤師が週1回の電話フォローアップを実施し、情報共有シートを病院薬剤師へFAXで報告、主治医が必要に応じて対処する体制を構築しています。このような薬薬連携の仕組みは、副作用の早期発見と適切な介入を可能にします。
医療従事者が副作用管理で取りうる具体的なアクションとしては以下が挙げられます。
長期投与を実現することが患者の予後に直結します。副作用管理は「治療の障壁」ではなく「治療継続のための積極的介入」と位置づけることが重要です。
また、4mgと10mgの2規格が組み合わさることで飲み間違いのリスクがある点も見逃せません。減量後に組み合わせが変わるたびに、服薬指導を丁寧に行い直すことが求められます。
参考)PMDA 適正使用ガイド(甲状腺癌)「減量、休薬及び中止基準」
https://www.pmda.go.jp/RMP/www/170033/3744027a-2e69-402b-b16a-72dd0c97c865/170033_4291039M1020_01_003RMPm.pdf