抜け毛を訴える患者のうち、プレガバリンを服薬中の人が他の疾患と誤診されているケースが報告されています。

プレガバリン(商品名:リリカ)は、神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛治療剤として広く使用されています。電位依存性カルシウムチャネルのα2δサブユニットに結合し、グルタミン酸などの興奮性神経伝達物質の遊離を抑制することで鎮痛効果を発揮します。
「脱毛」は添付文書の「11.2 その他の副作用」に記載されています。具体的には「皮膚及び皮下組織障害」の0.3%未満に分類されており、決して「起こりやすい」副作用ではありません。ただし、これはあくまでも臨床試験時のデータです。
頻度が低いからこそ、現場では「まさかこの薬で抜け毛が?」と見落とされやすい。これが問題の核心です。
プレガバリンは国内で広く処方されており、神経障害性疼痛患者への長期投与も珍しくありません。たとえ0.3%未満であっても、母数が多ければ一定数の患者に発症します。服薬指導においてこの副作用を把握せずにいると、患者が不安を抱えたまま自己判断で服薬を中断するリスクも生じます。
なお、同様に神経系に作用する抗てんかん薬の一部でも脱毛が副作用として知られており、プレガバリンが海外では抗てんかん薬として承認されている背景からも、この副作用の存在は理論的に整合性のあるものです。
添付文書で参照できる副作用の頻度分類について、以下の通り整理しておくことが重要です。
| 頻度区分 | プレガバリンの脱毛 | 参考 |
|---|---|---|
| 1%以上 | 該当しない | 発疹が該当 |
| 0.3%以上1%未満 | 該当しない | そう痒症、湿疹が該当 |
| 0.3%未満 | ✓ 脱毛 | 多汗症、蕁麻疹も同区分 |
| 頻度不明 | 該当しない | 丘疹が該当 |
つまり脱毛の発現率は低いながら、添付文書に正式に記載されている副作用です。服薬指導においては、発現頻度が低い副作用であることを患者に正確に伝えながらも、「発現した場合は報告してほしい」と明示することが重要です。
参照:プレガバリン添付文書(KEGG MEDICUS より皮膚副作用の頻度分類について確認可能)
医療用医薬品 プレガバリン(KEGG MEDICUS)|11.2 その他の副作用 皮膚及び皮下組織障害の頻度データ
プレガバリンによる抜け毛は、抗がん剤で起こるような「成長期脱毛」ではありません。ほとんどの場合、「休止期脱毛(テロゲン脱毛)」として分類されます。この違いを理解することが、患者への適切な説明の第一歩です。
人の毛髪は「成長期(アナゲン)→退行期(カタゲン)→休止期(テロゲン)」というヘアサイクルを繰り返しています。通常、全体の毛髪のうち約85〜90%が成長期にあり、10〜15%前後が休止期にあります。
薬剤が何らかの形でこのサイクルに干渉すると、成長期にある毛が早期に休止期へと移行してしまいます。休止期に入った毛は2〜4ヶ月後に抜け落ちるため、服薬開始から脱毛を自覚するまでにタイムラグが生じます。これが休止期脱毛の最大の特徴です。
タイムラグがあるということですね。
このタイムラグが、診察・服薬指導における「抜け毛の原因の特定を難しくする」大きな理由となります。患者自身も「プレガバリンを飲み始めた頃は問題なかったのに、3〜4ヶ月して急に抜け毛が増えた」と感じるため、薬との因果関係を結びつけにくいのです。
プレガバリンが休止期脱毛を引き起こす具体的なメカニズムはまだ完全には解明されていません。ただし、神経系への薬理作用が間接的にホルモン環境やストレス反応に影響し、ヘアサイクルを乱す可能性が指摘されています。
成長期脱毛(抗がん剤など)と休止期脱毛(プレガバリンなど)の違いをまとめると以下の通りです。
| 比較項目 | 成長期脱毛 | 休止期脱毛 |
|---|---|---|
| 主な原因薬 | 抗がん剤、免疫抑制剤 | プレガバリン、抗凝固薬など |
| 脱毛開始 | 服薬後数日〜2週間 | 服薬後2〜4ヶ月 |
| 脱毛の程度 | 高度(全頭脱毛も) | 軽度〜中等度(びまん性) |
| 回復の見通し | 中止後に回復することが多い | 中止・減量後に回復が期待できる |
薬剤性脱毛の成因についての詳細は、こちらの解説が参考になります。
薬剤性脱毛症とは|こばとも皮膚科|脱毛のタイプ(成長期・休止期)と原因薬剤の解説
「0.3%未満の副作用だから説明しなくていい」という考え方は危険です。服薬指導において、医療従事者が抜け毛について適切に情報提供できていないと、患者が自己判断で服薬を中止してしまうリスクがあります。
これは問題です。
プレガバリンの急激な中止は、添付文書でも明確に注意が促されています。不眠、悪心、頭痛、下痢、不安、多汗症などの離脱症状があらわれる可能性があるため、中止する際は「少なくとも1週間以上かけて徐々に減量する」ことが必要です。つまり、患者が抜け毛を不安に思って突然服薬を止めると、離脱症状という新たなリスクを生むことになります。
💬 服薬指導に組み込むべき「脱毛に関する説明」の例は以下の通りです。
- 🗣️ 発現頻度の伝え方:「この薬では非常にまれ(0.3%未満)ですが、抜け毛が増えることがあります」
- 🗣️ 発症時期の目安:「もし起こる場合は、飲み始めて2〜4ヶ月後に気づくことが多いです」
- 🗣️ 対処の案内:「抜け毛が気になったら、自己判断でやめずに必ず相談してください」
- 🗣️ 回復の見通し:「薬を減量または中止すれば、回復が期待できる場合が多いです」
これだけ覚えておけばOKです。
特に長期処方になるケース、つまり帯状疱疹後神経痛や線維筋痛症での使用では、脱毛の発現リスクが相対的に高まります。高用量(1日300mg以上)での使用が続く患者には、定期的に「皮膚や毛髪の変化はないか」と確認する視点を持つことが推奨されます。
薬剤師や看護師が最初の相談窓口になるケースも多いため、処方医・薬剤師・皮膚科が連携できる体制を整えておくことも重要です。
プレガバリン投与中の患者対応について、実際のヒヤリハット事例も参考になります。
患者が自己判断でリリカOD錠の服用を中止|リクナビ薬剤師|急激な中止による離脱症状の実例と指導のポイント
患者から「最近抜け毛が多い気がする」と相談を受けた場合、医療従事者はどのように対応すべきでしょうか。原因を見極め、適切な対処につなげるための流れを整理します。
まず最初にすべきことは「服薬開始時期と脱毛開始時期の確認」です。プレガバリンを飲み始めて2〜4ヶ月後から抜け毛が増えたという場合、薬剤性休止期脱毛の可能性を念頭に置く必要があります。
次に、鑑別を行います。プレガバリン以外の原因も考慮が必要です。具体的には甲状腺機能異常、鉄欠乏性貧血、強いストレスやダイエット、円形脱毛症、女性ホルモンの変動などが挙げられます。これらを除外するために、血液検査(甲状腺ホルモン値、フェリチン、自己抗体など)の実施を処方医と相談することが大切です。
鑑別が済んだら、次のステップです。
プレガバリンによる薬剤性脱毛が疑われる場合、対応の原則は「減量または代替薬への変更を処方医と検討する」ことです。自己中断は危険であることを改めて患者に説明しながら、処方医への報告・相談を促します。
脱毛が発現した場合の対応フローをまとめると以下の通りです。
1. 問診:服薬開始日と脱毛開始日を確認 → 2〜4ヶ月のタイムラグがあるか確認
2. 鑑別:他の原因疾患を除外(甲状腺、貧血、ストレスなど)
3. 因果判定:プレガバリンとの関連を処方医と検討
4. 対処:減量・代替薬変更・中止(段階的に1週間以上かけて)
5. 経過観察:中止後数ヶ月で回復が期待できることを説明
また、脱毛の症状緩和を目的として、皮膚科でミノキシジル外用薬が処方されるケースもあります。薬剤性脱毛の原因薬への対応が優先されることは言うまでもありませんが、QOL(生活の質)の観点から育毛治療を並行して検討する選択肢もあることを患者に伝えることも、患者支援の一環です。
参照:薬剤性脱毛の発見〜対応の流れについて詳細を確認したい場合は以下も参考になります。
第21回 プレガバリンによるめまい・傾眠はなぜ起こるの?|副作用の機序を理解するための解説
プレガバリンの副作用は「抜け毛」だけではありません。医療従事者として副作用の全体像を把握し、患者が「何に気をつければよいか」をわかりやすく整理して伝えることが、服薬継続率の向上と安全な治療につながります。
プレガバリンで特に注意が必要な副作用は、大きく「高頻度副作用」と「重大な副作用」と「低頻度だが見落とされやすい副作用」の3つに分けて考えると整理しやすいです。
以下に代表的な副作用をまとめます。
| 分類 | 主な副作用 | 発現頻度 |
|---|---|---|
| ⚠️ 高頻度・注意が必要 | 浮動性めまい、傾眠(眠気) | 20%以上 |
| ⚠️ 高頻度・注意が必要 | 体重増加、便秘、悪心 | 1%以上 |
| 🔴 重大な副作用 | 心不全、横紋筋融解症、低血糖 | 0.1〜0.3%未満 |
| 🔴 重大な副作用 | 間質性肺炎、血管浮腫、肝機能障害 | 頻度不明 |
| 💡 見落とされやすい | 脱毛(抜け毛) | 0.3%未満 |
| 💡 見落とされやすい | 勃起不全、月経困難症 | 0.3%未満〜頻度不明 |
めまい・傾眠が20%以上という数字は見逃せません。
特に「めまい・傾眠」については、転倒・骨折のリスクと直結するため、高齢患者への処方では特に強調して説明する必要があります。自動車や危険機械の操作についての注意は、添付文書でも明記されています。
体重増加については、65週間の長期投与試験で平均3.43kgの増加が報告されています(国内試験データ)。3.43kgというのは、500mlのペットボトル約7本分の重さに相当します。この数字を患者に具体的に伝えることで、日常的な体重管理の動機づけになります。
脱毛を含む「見落とされやすい副作用」については、処方開始から数ヶ月後のフォローアップ時に意識的に患者へ確認することが実践的な予防策となります。たとえばひと月に一度の来院時に「気になる変化はありませんか?」という問いかけを定型化することも有効です。
包括的な副作用説明の観点については、こちらの情報も参考になります。
疼痛治療薬「リリカ(プレガバリン)」|巣鴨千石皮ふ科|副作用一覧と患者説明のポイントを皮膚科医が解説

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