プラスチック磁石なのに、金属加工現場で使うセンサーの精度を左右すると知って損失を出した現場は少なくありません。
「プラスチックなのに磁石になる」という話を初めて聞いたとき、違和感を覚えた方もいるでしょう。しかし仕組みを理解すると、その構造は非常に合理的です。
プラスチック磁石(ボンド磁石・プラマグ)とは、フェライトやネオジムといった磁性粉末をナイロン系の樹脂に混合し、射出成形で形を作った磁石です。つまり磁石の本体は「磁性粉末」であり、プラスチック樹脂はその粉末をつなぎとめる「バインダー(結合材)」として機能します。
磁力の源は樹脂ではなく、内部の磁性粉末です。
成形直後の段階では磁気を帯びておらず、「着磁」という工程で外部から強い磁界を与えることで初めて磁石としての性質を発揮します。この着磁工程の設計次第で、多極配置や径方向への着磁など、通常の焼結磁石では難しい複雑なパターンも実現できる点が、金属加工・精密機器の分野で重宝されている理由のひとつです。
なお、磁性粉末の結晶方向が一定方向に揃っている「異方性ボンド磁石」は、バラバラに揃っている「等方性ボンド磁石」と比較して最大エネルギー積が約2〜4倍高い磁力を発揮します。磁力の強さが重要な用途では、この等方性・異方性の違いを最初に確認するのが基本です。
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現場で最も多い疑問がここです。「この材料にはくっつくのか?」を正しく把握しないまま作業を進めると、センサーが誤動作したり、固定が外れるトラブルにつながります。
プラスチック磁石に限らず、磁石が「くっつく」かどうかは相手の材料が磁性体かどうかで決まります。くっつく代表例と、くっつかない代表例を整理します。
✅ くっつく(強磁性体)
| 材料 | 備考 |
|------|------|
| 鉄(SS400・S45Cなど) | 最もよくくっつく |
| SUS430(フェライト系ステンレス) | ニッケルを含まないため磁性あり |
| SUS410・SUS440C(マルテンサイト系) | 磁性あり |
| ニッケル | 磁性体 |
| コバルト | 磁性体 |
❌ くっつかない(非磁性体)
| 材料 | 備考 |
|------|------|
| アルミ(A5052・A6061など) | 非磁性 |
| 銅・真鍮 | 非磁性 |
| SUS304・SUS316(オーステナイト系) | ニッケルを含むため非磁性が原則 |
| チタン | 非磁性 |
ここで金属加工の現場が特に注意すべき点があります。SUS304は「磁石につかない」とされながらも、曲げ・切断・絞り加工などの冷間加工を加えると、加工部分だけ部分的に磁石がわずかにくっつく場合があります。これはオーステナイト相の一部がマルテンサイト相に変化する「加工誘起マルテンサイト変態」という現象です。
SUS304加工後に「なぜかここだけくっつく」という状況が起きたら、この変態が原因です。
株式会社下西製作所|磁石につく金属とつかない金属は?(SUS304・SUS430など材料別の解説)
このように「ステンレスだから全部つかない」という思い込みは、現場では通用しません。材料の系統(オーステナイト系・フェライト系・マルテンサイト系)と、加工状態の両面から判断することが条件です。
プラスチック磁石には大きく「フェライトボンド磁石」と「ネオジムボンド磁石」の2種類があり、それぞれ特性が大きく異なります。選定を間違えると、センサー精度の低下や部品の変形といった損失につながります。
🔷 フェライトボンド磁石(フェライト系プラマグ)
酸化鉄と樹脂を混合した最もベーシックなプラスチック磁石です。原材料コストが低く、量産性に優れます。磁力はネオジム系より弱い分、センサーや軽い固定用途に向いています。割れ・欠けのリスクがある点は注意が必要です。
🔷 ネオジムボンド磁石(ネオジム系プラマグ)
ネオジム(Nd)・鉄(Fe)・ホウ素(B)を主成分とした磁性粉末を樹脂で固めたものです。フェライトボンド磁石より大幅に高い磁力を持ちながら、通常の焼結ネオジム磁石よりは磁力が低くなります。最大エネルギー積(BH)maxを比較すると、焼結ネオジム磁石が50MGOe以上に達するのに対し、ネオジムボンド磁石は通常10MGOe未満です。
その差はおよそ5倍以上。これが「プラスチック磁石は焼結磁石より弱い」と言われる理由です。
ただし形状の自由度は格段に高く、複雑な曲面・薄肉・インサート成形(金属部品との一体成型)にも対応できます。金属部品と磁石を別々に組み付ける工数が省けるため、生産ラインのコスト削減に直結する場合があります。これは使えそうです。
| 項目 | フェライトボンド | ネオジムボンド |
|------|----------------|----------------|
| 磁力の強さ | 弱い | 中程度(焼結より弱い) |
| コスト | 低い | やや高い |
| 耐熱温度の目安 | ~150℃(樹脂次第) | ~80℃ |
| 形状自由度 | 高い | 高い |
| 主な用途 | センサー・シール | モーター・エンコーダー |
MagMetal|ボンド磁石(ネオジムボンド/フェライトボンド)の特徴と用途
プラスチック磁石(ボンド磁石)が、金属加工・製造現場の部品に採用される背景には明確な理由があります。単に「磁石として機能する」だけでなく、焼結磁石にはないメリットが複数あります。
まず挙げられるのが、形状設計の自由度です。射出成形で製造するため、金型さえ用意すれば複雑な形状・薄肉・多極配置を一度の工程で実現できます。自動車のステアリングセンサー、スマートフォン内部のモーター、空調コンプレッサーのFGセンサーなど、複雑な形状が求められる部品に採用されている実績があります。
次に、インサート成形との親和性です。金属部品を金型にセットし、そこに磁石コンパウンドを射出成形することで、金属と磁石が一体化した部品を作れます。接着剤による後付けや、別途ビス締めによる固定作業が不要になるため、組み立て工数の削減につながります。
焼結磁石は固くて脆く、欠けや割れが発生しやすいのがデメリットです。プラスチック磁石は樹脂成分が緩衝材の役割を果たすため、取り扱い中に割れにくいという実用上のメリットもあります。
また、焼結ネオジム磁石は渦電流によるエネルギー損失と発熱が問題になることがあります。電気抵抗率の高いボンド磁石(プラスチック磁石)は、この問題を抑制する効果も持っています。
イプロスものづくり|八洲電装 プラスチックマグネット 車載センサー用の仕様・用途解説
つまり「磁力が焼結磁石より弱い」という弱点を補って余りあるほどの、加工・組み立て・耐久性の面でのメリットがあるということですね。
金属加工の現場でプラスチック磁石を使う際、最も見落とされがちな注意点が「耐熱温度」です。切削・溶接・焼き入れ周辺では局所的に高温になる環境が多く、「プラスチック製だから熱に弱い」という感覚は持ちにくいかもしれません。しかし実際には、磁力の低下と樹脂部分の変形の両方が、80℃を超えると顕在化してきます。
ネオジムボンド磁石の場合、80℃以上の環境での使用は推奨されていません。樹脂バインダーが変形し始め、磁石としての形状精度が失われるリスクがあるためです。磁力自体も高温になるほど低下します。
フェライトボンド磁石は、使用する樹脂の種類(PA12・PA6など)によって耐熱温度が異なりますが、一般的なグレードでは150℃前後が上限と考えてください。高温環境対応が必要な場合は、専用の高耐熱グレードのプラスチック磁石(耐熱温度220℃対応品など)を選ぶ必要があります。
高温環境が想定される現場では、まず使用環境の最高到達温度を確認する、という一手間が欠かせません。
磁力低下だけであれば部品交換で対処できますが、樹脂が変形した状態でセンサーに組み込まれていると、位置精度のズレが検出誤差につながります。厳しいところですね。
対策として、高温周辺での使用にはサマリウムコバルト(SmCo)系の焼結磁石への切り替えも選択肢になります。SmCo磁石は最大300℃程度まで使用でき、耐熱性という点でプラスチック磁石の弱点をカバーします。ただしコストはプラスチック磁石より大幅に高くなるため、用途・環境・コストのバランスで判断することが原則です。
WZ Magnetics|熱は磁石にどのような影響を与えるか(磁石種類別の耐熱温度一覧)
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