箱に同梱の紙の添付文書は、すでに改訂済みで最新情報ではない場合があります。
医療機器の添付文書(電子添文)とは、その医療機器を安全かつ適正に使用するために必要な情報を記載した、法的根拠のある公式文書です。製造販売業者が作成し、PMDAのホームページ上に掲載される形で公表されます。
2021年8月1日に改正薬機法(医薬品医療機器等法)が施行され、それまで製品に物理的に同梱されていた紙の添付文書は原則廃止となりました。代わりに、製品外箱のGS1バーコード等の符号を読み取ることで、PMDAサイト上の最新情報にアクセスする「電子添文」制度が本格導入されています。なお、2023年7月31日をもって経過措置期間も終了しており、現在は電子添文への移行が完了した状態です。
電子添文は単なる紙の代替ではありません。改訂が必要になった場合、即時に最新版へと更新されます。つまり、以前のように「箱の中の紙を見れば最新情報がわかる」という前提は、もはや通用しないということです。
📌 参考:PMDAが公開している「添付文書の電子化について」の公式ページ
https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/0003.html
一方、一般消費者が直接購入する製品(市販の血圧計など)については、例外として引き続き紙の添付文書が同梱されます。医療機関で使用する医家向け医療機器については、電子添文の確認が標準です。これが基本です。
電子添文は法的に「注意事項等情報」として位置づけられており、旧来の紙添付文書と同等の法的重要性を持ちます。製造販売業者がPMDAに届け出・掲載することが義務付けられており、医療従事者はこの情報をもとに安全な機器使用の判断を行います。
医療現場での混乱を防ぐためにも、電子添文への正確なアクセス方法を押さえておきましょう。PMDAが提供する検索ルートは、主に2つあります。
① PMDAウェブサイトから検索する方法
PMDAの「医療機器 添付文書等情報検索」ページ(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiSearch/)にアクセスし、販売名・製造販売業者名・一般的名称・JMDNコードなどのキーワードを入力して検索します。検索結果は一覧表形式で表示され、該当品目の電子添文・審査報告書・改訂指示反映履歴などを閲覧できます。
閲覧できる関連文書には、電子添文のほかに「改訂指示反映履歴」「審査報告書・再審査報告書等」「緊急安全性情報(イエローレター)」「リスク管理計画(RMP)」なども含まれます。これは使えそうです。
② 「添文ナビ」アプリからバーコードを読み取る方法
「添文ナビ」はPMDAが推奨する無料の公式アプリ(App Store・Google Play両対応)で、製品の外箱に記載されているGS1バーコードをスマートフォンやタブレットで読み取るだけで、即座に最新の電子添文にアクセスできます。バーコードとPMDA上の添付文書番号が紐付けられており、常に最新版が表示されます。
インターネット環境が整っていれば、臨床現場での即時確認にも対応できます。機器のベッドサイドで使用前に確認するという運用も、現実的な選択肢です。
📌 参考:PMDAの医療機器 添付文書等情報検索ページ(販売名等から検索可能)
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiSearch/
なお、一ヶ月以内に更新された添付文書については、PMDAの医療機器情報ページから「最近更新された品目」として一覧表示を確認することもできます。改訂頻度が高い機器を扱う診療科では、定期的なチェックの仕組みを作っておくと実務上有利です。
電子添文には記載順序を含めた17の必須項目があります。記載項目を知っておくだけで、読むべき箇所を素早く見つけられます。
17項目は次の構成となっています。①作成又は改訂年月、②承認番号等、③類別及び一般的名称等、④販売名、⑤警告、⑥禁忌・禁止、⑦形状・構造及び原理等、⑧使用目的又は効果、⑨使用方法等、⑩使用上の注意、⑪臨床成績、⑫保管方法及び有効期間等、⑬取扱い上の注意、⑭保守・点検に係る事項、⑮承認条件、⑯主要文献及び文献請求先、⑰製造販売業者及び製造業者の氏名又は名称等です。
特に⑤「警告」と⑥「禁忌・禁止」は、電子添文の冒頭部に配置される最重要項目です。「警告」欄には使用範囲内で特に危険を伴う注意事項が記載され、「禁忌・禁止」欄には設計限界を超えた不適切な使用方法や適用してはならない患者・部位等が明記されます。
これらを読み飛ばすと、重大な有害事象の見逃しに直結します。
「使用上の注意」(⑩)は、禁忌・禁止に該当しない軽度〜中等度の注意事項と、相互作用を生じる医薬品・医療機器の情報が記載されます。臨床的にはこの項目も実務への影響が大きく、他の機器や医薬品との組み合わせによるリスクが記載されることがあります。
⑭「保守・点検に係る事項」も重要です。臨床工学技士や医療機器管理担当者にとっては、点検スケジュールや点検方法の根拠となる記載がある箇所で、適切な機器管理の基盤となります。
📌 参考:電子添文の記載要領の詳細(厚生労働省通知)
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000805983.pdf
PMDAに登録されている医療機器は、不具合が生じた場合のリスクの程度によってクラスⅠ〜クラスⅣの4段階に分類されます。このクラス分類は、添付文書の記載内容の厚さや規制の厳しさに直接影響します。
| クラス | 分類名 | リスク水準 | 承認方法の例 |
|---|---|---|---|
| クラスⅠ | 一般医療機器 | 極めて低い | 届出のみ(例:メス、ピンセット) |
| クラスⅡ | 管理医療機器 | 比較的低い | 登録認証機関の認証(例:血圧計、コンタクトレンズ) |
| クラスⅢ | 高度管理医療機器 | 中程度〜高い | PMDAの承認(例:人工透析器、心電計) |
| クラスⅣ | 高度管理医療機器(最高度) | 生命直結のリスク | PMDA承認(例:ペースメーカー、人工心臓弁) |
クラスが高くなるほど、電子添文の記載も詳細です。特にクラスⅢ・Ⅳの高度管理医療機器では、PMDAへの届出による添付文書の公表が義務付けられており、審査報告書や再審査報告書なども電子添文と合わせて閲覧できます。
添付文書の電子化対象外となる品目については、令和3年厚生労働省告示第44号および薬機法施行規則(別表第4の2)で指定されています。これだけは例外です。対象外品目の場合は、製造販売業者への問い合わせや紙媒体による情報収集が引き続き必要になります。
クラス分類の確認は、PMDAの「医療機器基準データベースシステム」(https://www.std.pmda.go.jp)から一般的名称やJMDNコードを入力して調べることができます。電子添文の信頼性を確認する際に、この分類情報を照合する習慣をつけておくと安心です。
📌 参考:PMDAによる医療機器のクラス分類の解説ページ
https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/about-reviews/devices/0028.html
電子添文の最大のメリットは「即時更新」です。しかし裏を返せば、確認していないあいだに情報が変わっているリスクも常に存在します。改訂情報を見落とさないための具体的な運用を把握しておくことが重要です。
PMDAは「使用上の注意の改訂指示通知(医療機器)」をページ上で随時公開しています。厚生労働省が「使用上の注意の改訂指示」を発出した際、製造販売業者はこれに基づいて電子添文を更新します。改訂指示を発端とした電子添文の更新は、安全上の緊急性が高い場合もあります。改訂を見落とすことは、法的リスクにも直結します。
📌 参考:使用上の注意の改訂指示通知(医療機器)の一覧
https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/devices/0035.html
PMDAの「PMDAメディナビ」への登録も有用です。安全性情報が発出された際にメールで通知を受けることができる無料サービスで、緊急安全性情報(イエローレター)や安全性速報(ブルーレター)の第一報をいち早く受け取ることができます。改訂情報を能動的に受け取る仕組みとして、病院・クリニックの安全管理担当者に特に推奨されます。
| 改訂情報の入手経路 | 特徴 | コスト |
|---|---|---|
| PMDAウェブサイトで定期確認 | 任意のタイミングで能動的に確認 | 無料 |
| 添文ナビアプリ(バーコード読取) | 使用時に即時・最新版が表示 | 無料 |
| PMDAメディナビ(メール通知) | 改訂・安全性情報が自動通知 | 無料 |
| 製造販売業者からのお知らせ | MR・担当者経由で個別連絡 | 無料 |
また、見落とされがちな点として「添付文書の作成又は改訂年月・版数」の確認があります。電子添文の冒頭(第1項目)に記載されているこの情報が、以前に確認したものと異なる場合、その間に何らかの改訂が行われています。確認する機器が多い環境では、PMDAウェブサイトの「一ヶ月以内に更新された添付文書情報」ページを定期的にチェックする運用が効率的です。
https://www.info.pmda.go.jp/ysearch/tenpulist.jsp(一ヶ月以内に更新された添付文書情報)
⚠️ なお、医療機器の添付文書には「個別の医療機器によらず医療従事者として医療を実施するにあたり既に注意されていると考えられる事項」は原則として記載しないというルールがあります(PMDA記載要領)。つまり、添付文書に書かれていない基本的な注意事項も、医療従事者には当然求められています。添付文書だけを根拠に安全性を判断するのではなく、臨床的知識と合わせて総合的に評価することが原則です。