ピアノ線材JISのSWRS種類と化学成分・選定ポイント完全解説

ピアノ線材のJIS規格(JIS G 3502)はSWRS62AからSWRS92Bまで18種類を規定しています。種類記号の見方、化学成分、脱炭層やきず深さの品質基準、SWP-A・B・Vとの関係まで、金属加工の現場で役立つ選定ポイントをまとめました。あなたの現場では正しく使い分けられていますか?

ピアノ線材のJIS規格と種類・化学成分・選定の完全ガイド

SWP-Bを選んでいても、線材段階の規格を見ていないと引張強さが10%以上ズレる可能性があります。


この記事の3つのポイント
📋
JIS G 3502の規格内容

ピアノ線材の規格はSWRS62AからSWRS92Bまで18種類。化学成分・脱炭層・きず深さの基準が細かく定められています。

🔢
種類記号の読み方と使い分け

「A種・B種」の違いはマンガン量の違い。用途によって引張強さが変わるため、線材段階での種類選定が仕上がりに直結します。

⚠️
現場で見落としやすい品質基準

脱炭層深さ0.07mm以下、きず深さ0.10mm以下という数値基準はそのまま製品の破断リスクに影響します。


ピアノ線材のJIS G 3502とは:規格の全体像と位置づけ


ピアノ線材(JIS G 3502)は、ピアノ線・オイルテンパー線・PC鋼線・PC鋼より線・ワイヤーロープなどの製造に使われる素材(一次材料)を規定した日本産業規格です。つまり、工場でよく手にする「SWP-B」のようなピアノ線(JIS G 3522)は、この線材規格をもとに製造された二次加工品ということになります。


「線材」と「線(ピアノ線)」が別の規格であることは、現場ではあまり意識されていないことが多いです。しかし、最終製品の引張強さや疲労特性は、線材段階での化学成分と品質管理に大きく依存しています。素材の選定が後工程の品質を決めると言っても過言ではありません。


JIS G 3502は2019年に改正され、さらに2024年にも改正されました。2024年改正の主なポイントは、①寸法・許容差の表し方をJIS G 3195を引用する形式に変更、②インラインパテンチング処理時の引張強さ許容差規定の明確化、③表面きず検出試験の試験方法・測定方法の明確化、④注文者が注文時に少なくとも「種類の記号」と「径」を提示しなければならないという情報提示箇条の追加、の4点です。


つまり、最新規格です。


この規格はISO 16120-1:2017およびISO 16120-4:2017を基に作成されており、国際規格との整合化が継続的に進められている点も注目すべきです。国内調達に限っていても、規格の背景に国際基準があることを理解しておくと、海外材料との比較や品質保証書の解釈がスムーズになります。


JIS G 3502:2019 ピアノ線材の全文(kikakurui.com)
JIS G 3502の規格全文が参照できます。化学成分表・脱炭層基準・きず深さ基準など主要規定の確認に活用できます。


ピアノ線材JIS規格の種類記号SWRS:18種類の読み方と化学成分

JIS G 3502では、SWRS62AからSWRS92Bまでの18種類が規定されています。記号の読み方を理解すると、材料選定が格段にやりやすくなります。


「SWRS」はSteel Wire Rod Specialの略で、高級用途向けの線材であることを意味します。その後の数字は炭素含有量の中央値を100倍した近似値で、たとえば「82」なら炭素が約0.82%前後の範囲であることを示しています。最後の「A」または「B」はマンガン(Mn)含有量の違いで、A種が0.30〜0.60%、B種が0.60〜0.90%と規定されています。これが基本です。


以下は主要な種類の化学成分をまとめた表です。


種類記号 C(炭素)% Si(ケイ素)% Mn(マンガン)% P % S % Cu %
SWRS62A 0.60〜0.65 0.12〜0.32 0.30〜0.60 0.025以下 0.025以下 0.20以下
SWRS62B 0.60〜0.65 0.12〜0.32 0.60〜0.90 0.025以下 0.025以下 0.20以下
SWRS72A 0.70〜0.75 0.12〜0.32 0.30〜0.60 0.025以下 0.025以下 0.20以下
SWRS82A 0.80〜0.85 0.12〜0.32 0.30〜0.60 0.025以下 0.025以下 0.20以下
SWRS82B 0.80〜0.85 0.12〜0.32 0.60〜0.90 0.025以下 0.025以下 0.20以下
SWRS87A 0.85〜0.90 0.12〜0.32 0.30〜0.60 0.025以下 0.025以下 0.20以下
SWRS87B 0.85〜0.90 0.12〜0.32 0.60〜0.90 0.025以下 0.025以下 0.20以下
SWRS92A 0.90〜0.95 0.12〜0.32 0.30〜0.60 0.025以下 0.025以下 0.20以下
SWRS92B 0.90〜0.95 0.12〜0.32 0.60〜0.90 0.025以下 0.025以下 0.20以下


注目すべきは、P(リン)とS(硫黄)がいずれも0.025%以下に厳格に制限されている点です。硬鋼線材(JIS G 3506)と比べると、ピアノ線材ではこれらの不純物がより厳しく管理されています。これは、ピアノ線に求められる高い疲労特性と、均質な伸線加工性を確保するためです。製造段階で非金属介在物や偏析が多いと、伸線時に断線が起きたり、ばねの繰り返し荷重試験で早期破断を招いたりするリスクが高まります。


最も広く使われているのはSWRS82Aです。炭素量が高めで、ばね用途に求められる高強度と加工性のバランスに優れているため、ピアノ線B種(SWP-B)の主要な素材として広く採用されています。


ピアノ線材の種類と化学成分一覧(フセハツ工業)
18種類すべての化学成分が一覧で確認できます。ピアノ線材と硬鋼線材の成分比較リンクもあり、違いを把握するのに役立ちます。


ピアノ線材の品質基準:脱炭層・きず深さ・寸法許容差を正しく理解する

化学成分だけを確認していれば品質は十分だと思っていませんか。実は、JIS G 3502では化学成分以外にも重要な品質基準が定められており、これを見落とすと現場でのトラブルにつながります。


まず、脱炭層深さについてです。規格では全脱炭層深さが0.07mm以下でなければならないと定められています。これはどのくらいの厚みかというと、ヒトの髪の毛1本が約0.07〜0.08mm程度ですから、髪の毛1本分の厚みよりも薄い層に相当します。脱炭とは鋼の表面近くの炭素が抜け、硬さが低下した状態のことです。脱炭層が深いと、伸線加工の際に表面硬さが不足して加工傷が生じやすくなり、ばね製品の疲労寿命を大幅に短縮させる原因になります。


次に、きず深さの基準です。線材表面のきず深さは0.10mm以上あってはならないとされています。コイル状で供給される線材は、製造後の全長にわたってきずを完全に検出・除去することが難しいため、規格上も「コイル内に欠点を含む場合がある」と明記されています。そのため受け入れ検査時に磁粉探傷法や酸洗い法でのきず深さ確認を実施することが、品質トラブルの予防として有効です。


寸法精度も重要です。標準径は5.5mm・6mm・6.4mm・7mm・8mm・9mm・9.5mm・10mm・11mm・12mm・13mm・14mmの12サイズが定められており、これ以外の径は受渡当事者間の協定による特注対応となります。径の許容差はJIS G 3195による規定に準じており、特に偏径差(最大径と最小径の差)の管理が伸線の安定性に直結します。


これらの基準を一度整理しておくと安心です。


  • ✅ 全脱炭層深さ:0.07mm以下(顕微鏡による測定、JIS G 0558準拠)
  • ✅ きず深さ:0.10mm未満(磁粉探傷法または酸洗仕上げ目視検査)
  • ✅ 標準径:5.5〜14mmの12サイズ(14mm超は協定による)
  • ✅ 外観:使用上有害な欠点がないこと(ただしコイル全長の完全保証は困難)


品質保証書(ミルシート)の内容確認と、受け入れ段階での表面きず検査を組み合わせることで、製造ロット間の品質バラつきを効果的に管理できます。


ピアノ線材JISとピアノ線JIS(G 3522)の関係:SWP-A・B・Vとの対応を整理する

「ピアノ線材」と「ピアノ線」は異なる規格であることを、正しく理解しておく必要があります。JIS G 3502がピアノ線材(一次材料)の規格であるのに対し、JIS G 3522はそれを伸線加工して仕上げたピアノ線(製品)の規格です。現場で「SWP-B」と呼んでいるのは後者(ピアノ線)の記号であり、それがどの線材から作られているかという情報がJIS G 3502です。


ピアノ線(JIS G 3522)の種類は以下の3種類です。


  • 🔵 SWP-A(A種):一般ばね用。繰り返し荷重への耐性が高く、成形加工しやすい。線径0.08〜10.0mmに対応。
  • 🔴 SWP-B(B種):SWP-Aより引張強さが約10%高い。耐ヘタリ性が優れる一方、成形時の割れリスクが増す。線径0.08〜8.00mmに対応。
  • 🟡 SWP-V(V種):弁ばね用。船舶・自動車エンジンの弁スプリングなど高疲労強度が求められる部位に使用。線径1.00〜6.00mmに対応。


引張強さの例として、SWRS82Aを素材としたSWP-A(線径1.0mm)は2060〜2260 N/mm²、SWP-B(同線径)は2260〜2450 N/mm²です。同じ線径でもA種とB種では引張強さの下限で約200 N/mm²の差があります。これは鋼鉄の強度レベルとしては大きな差であり、用途によっては製品寿命に直接影響します。


意外ですね。


線材の種類記号(SWRS82AなどのSWRS系)と製品の記号(SWP系)の対応関係は1対1ではなく、複数の線材種類から各SWP種が製造されます。たとえばSWP-Bの場合、SWRS72B・SWRS77B・SWRS82B・SWRS87Bなど炭素量の異なる複数の線材が使用対象になっています。最終的にどの線材を使うかは、求める引張強さ・加工後の特性・コスト等を考慮して製造業者が選択します。


つまり、SWP-Bと一口に指定しても、使用される素材線材の種類が変わることで、微妙な特性の違いが出てくる可能性があるということです。重要保安部品や高疲労用途向けの製品を発注する場合は、線材の種類記号まで指定することが品質安定につながります。


ピアノ線の線径と引張強さ一覧表(フセハツ工業)
SWP-A・SWP-B・SWP-Vの全線径における引張強さの範囲が一覧で確認できます。現場での材料選定や規格確認に直接使える内容です。


ピアノ線材JIS規格:現場で見落とされがちなインラインパテンチング処理と特別品質規定

多くの技術者がJIS G 3502の本体規定だけを確認して、附属書JAの特別品質規定(インラインパテンチング処理材)を見落としているケースがあります。これは損失になる可能性があります。


インラインパテンチング処理とは、熱間圧延後の冷却工程でそのまま行うパテンチング処理のことです。通常の線材は製鋼後に2次加工メーカーでパテンチング処理が行われますが、インラインパテンチング処理材はその工程を省略できるため、コスト削減やリードタイム短縮に有効です。この処理の条件が品質に大きく影響するため、JIS G 3502では附属書JAとして専用の規定が設けられています。


附属書JAの規定では、通常の化学成分に加えて、Cr(クロム)を0.30%以下、V(バナジウム)を0.10%以下まで添加することが許容されています。クロムやバナジウムの添加は焼入れ性の向上や結晶粒の微細化に寄与し、最終製品の疲労強度や強度を高める効果があります。これが条件です。


さらに、インラインパテンチング処理材には引張強さの指定値と許容変動値の規定があります。SWRS62A〜SWRS67Bでは±100 N/mm²、SWRS72A〜SWRS92Bでは±120 N/mm²という許容変動範囲が定められています。±120 N/mm²というのは、たとえば基準値1800 N/mm²に対して1680〜1920 N/mm²の範囲ということになります。普段何気なく受け取っている線材でも、このような強度変動の許容幅があることを知っておくと、製品設計のマージン設定に役立ちます。


2024年改正ではこのインラインパテンチング処理に関する規定がより明確化されました。注記として「引張強さの指定値を受渡当事者間で協定して、引張強さの許容差を規定する場合がある」という記述が追加されており、購入時の協定内容が品質に影響することが明示されています。これは使えそうです。


自動車部品や精密機械の重要部位に使う線材を調達する際には、インラインパテンチング処理の有無と、引張強さの指定値を発注書に明記することを検討してみてください。受渡当事者間の協定として書面化しておくことで、万が一品質クレームが発生した際のトレーサビリティが確保されます。


JIS G 3502:2024(最新版)の書誌情報(日本規格協会)
2024年改正版の正式な書誌情報が確認できます。購入前の規格番号・版の確認や最新改正点の概要把握に活用できます。


【現場目線】ピアノ線材JIS規格を正しく使いこなすための選定・発注・受け入れの実践ポイント

JIS規格の内容を理解することと、それを現場の調達・品質管理に活かすことは別の話です。ここでは規格の知識を現場レベルに落とし込むための実践的な視点を整理します。


材料選定の基準を線材の種類記号まで落とす


「SWP-Bで」という指定だけで発注を進めていると、製造ロットによって使用されている線材の炭素含有量が微妙に異なる可能性があります。繰り返し荷重がかかるばねや、高い寸法精度が求められる精密部品を製造する場合は、素材線材の種類記号(例:SWRS82A使用のこと)まで仕様書に明記することで、品質の安定化につながります。


ミルシートと規格の照合を習慣化する


受け入れ検査では、化学成分証明書(ミルシート)に記載された値が、JIS G 3502の規格値と一致しているかを確認することが基本です。特にP(リン)とS(硫黄)の値は0.025%以下という上限を確認してください。また、脱炭層深さやきず深さの試験が実施されているかも照合ポイントになります。


表面きず管理は受け入れ検査でも実施する


JIS G 3502の規格では、コイル全長にわたってきずを検出・除去することが困難であることが明示されています。そのため、受け入れ後のサンプリングによる磁粉探傷または酸洗い検査を実施することが、製品不良のリスク低減に有効です。特に高疲労用途のばね素材については、このひと手間がクレーム1件の防止につながります。


めっき処理材を選ぶときは低温焼鈍温度に注意


防錆対策としてピアノ線に亜鉛めっきや錫めっきを施しためっき線を使用するケースがあります。この場合、コイリング後の低温焼鈍(ブルーイング)温度がめっき材によって異なるため、注意が必要です。目安としては亜鉛めっきが280℃以下、錫めっきが220℃以下、ニッケルめっきが260℃以下となっています。この温度を超えると、めっき層の変質や脆化が起こり、製品性能を損なうリスクがあります。


JIS G 3502の2024年改正で追加された「注文者による情報提示義務」を活用する


2024年改正では新たに「注文者によって提示される情報」の箇条が追加されました。注文者(購入者側)は、注文時に少なくとも「種類の記号」と「径」を製造業者・加工業者または中間業者に提示しなければならないと明確に定められています。これは責任の所在を明確にする意味でも重要なポイントです。発注書への記載内容を一度見直すよいタイミングかもしれません。


  • 📝 発注書に記載すべき最低限の情報:種類記号(例:SWRS82A)と径(mm)
  • 🔍 受け入れ検査で確認すべき項目:化学成分(ミルシート)、脱炭層深さ、きず深さ
  • 🌡️ めっき線の低温焼鈍上限温度:亜鉛280℃、錫220℃、ニッケル260℃
  • 📌 高疲労用途では線材種類記号の指定(SWRS系)まで仕様書に明記する


品質トラブルのほとんどは、規格を「知らなかった」よりも「確認しなかった」ことから起きます。JIS G 3502の規定を日常の発注・受け入れルーティンの中に取り込むことで、現場レベルでの品質安定に確実につながります。知ってると得する情報だけ覚えておけばOKです。


第2回 ピアノ線と硬鋼線(日本ばね学会)PDF
ピアノ線材と硬鋼線材の化学成分の比較、製造方法の違い、めっき処理後の低温焼鈍温度の一覧など、現場で使える技術情報が凝縮されています。






商品名