代替薬に切り替えても、血小板凝集抑制効果は約30%低下するケースがあります。
ペルサンチン錠(一般名:ジピリダモール)は、長年にわたり抗血小板薬・冠動脈拡張薬として日本の臨床現場で使用されてきた薬剤です。製造販売元であるバイエル薬品株式会社が販売中止を発表したのは2022年のことで、実際の出荷停止・販売終了は2023年3月末に完了しました。
販売中止の主な理由として公表されたのは、「製造・販売の継続が困難になった」という事業上の判断です。具体的には、後発品(ジェネリック医薬品)の普及による市場縮小と、それに伴う採算性の悪化が背景にあります。採算が合わないということですね。
日本国内では、ジピリダモール錠の後発品が複数メーカーから供給されていたため、先発品であるペルサンチン錠の市場シェアはすでに大幅に低下していました。医薬品の後発品普及率が年々上昇する中、先発品メーカーが採算の取れない製品を整理するというのは、近年の製薬業界では珍しくない動向です。
ただし、有効成分であるジピリダモール自体が消えるわけではありません。ジピリダモール注射剤(心筋シンチグラフィーの負荷試験用)は引き続き供給されており、経口剤についてはジェネリック品が代替として機能しています。これが原則です。
なお、販売中止は「安全性上の問題」や「重大な副作用の新発覚」によるものではないため、既存の処方を急激に変更する必要はなく、適切な移行期間を設けることが可能です。この点は患者説明においても重要なポイントになります。
ペルサンチン錠の有効成分であるジピリダモールは、1960年代から研究が進められてきた古典的な薬剤です。主な薬理作用は大きく2つに分類されます。
1つ目は抗血小板作用です。ジピリダモールはホスホジエステラーゼ(PDE)を阻害することでcAMPの分解を抑制し、血小板内cAMP濃度を上昇させます。その結果、血小板の凝集が抑制されます。つまり血栓形成を防ぐ薬です。
2つ目は冠動脈拡張作用です。アデノシンの取り込みを阻害することで、冠動脈を拡張する作用があります。この特性は、現在でも心筋シンチグラフィーにおける薬物負荷試験(ジピリダモール負荷試験)として活用されており、注射剤の需要が維持されている理由の一つです。
ペルサンチン錠の主な適応症は、①狭心症、②心筋梗塞の再発予防(アスピリンとの併用)、③血栓・塞栓の治療および予防(人工弁置換術後などの抗凝固療法との併用)でした。特に人工弁置換術後の患者では、ワルファリンとの併用でジピリダモールが長期間処方されていたケースが多く、切り替え時には慎重な検討が求められます。
| 薬理作用 | 機序 | 臨床応用 |
|---|---|---|
| 抗血小板作用 | PDE阻害→cAMP↑→血小板凝集抑制 | 血栓予防、人工弁術後管理 |
| 冠動脈拡張作用 | アデノシン再取り込み阻害 | 狭心症治療、心筋シンチ負荷試験 |
これは使えそうです。現場でジピリダモールの作用を患者に説明する際にも、この2軸で整理すると伝わりやすくなります。
参考情報として、ジピリダモールの薬理プロファイルはアスピリンとは異なる経路で作用するため、単純な「アスピリンで代替できる」という前提は必ずしも正確ではありません。後述する代替薬の選択でも、この薬理の違いが重要になってきます。
販売中止後の代替薬選択は、患者の基礎疾患・既往歴・現在の併用薬を総合的に考慮する必要があります。一律に「この薬に変えればよい」という正解はありません。厳しいところですね。
まず最も現実的な対応は、ジピリダモール後発品への切り替えです。有効成分が同一であるため、薬効の変化を最小限に抑えられます。ただし、製品によって添加物が異なる場合があり、特に消化器系の副作用歴がある患者では、服用後の経過観察が推奨されます。
次に検討されるのが、他の抗血小板薬への変更です。主な選択肢は以下の通りです。
人工弁置換術後でワルファリンと併用していた患者の場合、ジピリダモール後発品へのスムーズな切り替えが第一選択となることが多いです。これが条件です。抗凝固療法の変更を伴う場合はさらに慎重な検討が必要で、循環器専門医との連携が望ましい場面もあります。
切り替え時に見落としがちなのが「患者の服薬アドヒアランス」への影響です。長年ペルサンチン錠を服用していた患者の中には、錠剤のサイズや形状・色に慣れており、見た目が変わることで「別の薬を飲んでいる」という不安感を訴えるケースがあります。事前の丁寧な説明が1件のクレームや服薬中断を防ぐことにつながります。
医療従事者として最も実務的な課題となるのが、「どのタイミングで・どのように患者に伝えるか」という点です。適切な説明なしに処方が変わることは、患者の不安・不信感・服薬中断リスクを高めます。
説明のポイントは3つです。
説明の際には、「薬の名前が変わっても、体に入る成分は同じです」というシンプルな言葉が効果的です。難しい説明は不要です。医療リテラシーが高くない患者ほど、こうした直感的な言葉が安心感につながります。
現場での対応手順としては、まず処方データベースや電子カルテでペルサンチン錠の処方患者リストを抽出し、次回受診時に切り替えを行う対象を整理することが第一歩です。処方箋の発行段階でジェネリックへの変更指示を明記するか、医師と薬剤師が連携して患者ごとに対応方針を決定する体制を整えることが重要です。
なお、長期処方(90日分など)で在庫が残っている患者については、切り替え時期が患者ごとに異なるため、薬局との情報共有も欠かせません。これも忘れずに確認しておきたいポイントです。
PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)- ペルサンチン錠25mg添付文書(公式)
上記リンクは、ペルサンチン錠の公式添付文書を参照する際に活用できます。患者への説明資料作成時や後発品との比較確認の際にも役立ちます。
ペルサンチン錠が販売中止となった一方で、ジピリダモール注射剤(注射用ペルサンチン)は引き続き供給が維持されています。この点は意外に見落とされがちです。意外ですね。
ジピリダモール注射剤は、主に心筋シンチグラフィーにおける薬物負荷試験(ジピリダモール負荷心筋シンチグラフィー)で使用されます。運動負荷が困難な患者(高齢者・重篤な整形外科疾患を持つ患者など)において、冠動脈疾患の評価手段として今も重要な位置を占めています。検査の代替がない場面では必須です。
2023年の国内調査データによれば、薬物負荷心筋シンチグラフィーの実施件数は年間で約数万件規模とされており、そのうちジピリダモール負荷が占める割合は施設によって異なりますが、アデノシン製剤( アデノスキャンなど)が普及してきたことで、近年はジピリダモール単独負荷の比率は低下傾向にあります。ただし施設によってはジピリダモールが引き続き主力であるケースもあります。
経口錠の販売中止が注射剤の供給に直接影響するわけではありませんが、今後の製薬業界の動向次第では注射剤の供給体制にも変化が生じる可能性があります。核医学科や循環器内科では、サプライチェーンの変化に対するアンテナを常に張っておくことが現場リスク管理の観点から重要です。
また、日本国外ではジピリダモールとアスピリンを合わせた配合剤(商品名:アグレノックスなど)が脳卒中二次予防に使用されており、日本では未承認です。この配合剤の有効性を示す国際的なエビデンスは存在しますが、日本での使用は現時点では適応外となります。この点は研究目的での参照にとどめてください。
日本核医学会誌(J-STAGE)- 薬物負荷心筋シンチグラフィーに関する関連論文の参照先
上記リンクは、ジピリダモール負荷試験の臨床的位置づけや最新動向を調べる際の出発点として活用できます。核医学科や循環器内科での勉強会資料作成にも利用可能です。
今後の展望としては、抗血小板療法の選択肢が多様化する中で、ジピリダモール経口錠のポジションは縮小しているのが現実です。しかし、特定の患者群(人工弁術後・特定の薬剤アレルギーを持つ患者など)では、後発品ジピリダモールが依然として有効な選択肢であり続けます。販売中止の報告を機に、自施設の処方方針を見直す契機にしていただくことが重要です。それが条件を整えることにつながります。
バイエル薬品株式会社 公式サイト - ペルサンチン錠の販売中止に関する情報掲載元メーカー
上記はペルサンチン錠の製造販売元であるバイエル薬品の公式サイトです。販売中止の公式アナウンスや医療従事者向け情報の一次情報源として確認に利用できます。