ペンタサ出荷調整の理由と医療現場での対応策

ペンタサ顆粒・錠剤の出荷調整はなぜ起きているのか?製造工程の問題から世界的なIBD患者増加まで、医療従事者が知るべき背景と代替薬の選択肢を詳しく解説。クローン病患者への影響は?

ペンタサ出荷調整の理由と医療現場での適切な対応策

クローン病患者にはペンタサの代替が保険適応上ありません。


この記事の3ポイント要約
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出荷調整の根本原因は「海外製造所の造粒工程」

ペンタサ顆粒94%の限定出荷は、製造販売元フェリング・ファーマの海外製造所における造粒工程の増産体制が整っていないことが直接原因。世界的なIBD患者数の増加が需要を押し上げている。

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潰瘍性大腸炎とクローン病で対応が異なる

潰瘍性大腸炎患者はアサコール錠400mgまたはリアルダ錠1,200mgへの切り替えが可能。しかしクローン病患者には保険適応のある代替薬がなく、ペンタサ錠への移行が最有力の選択肢となる。

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供給再開時期は「現時点では未定」

2025年12月時点でフェリング・ファーマは造粒工程の増設を進めているが、通常供給の再開時期は未定。既存患者への継続供給優先のため、新規採用・増量への対応は困難な状況が続いている。


ペンタサ出荷調整の直接的な理由:海外製造所の造粒工程問題



2025年12月に発出されたフェリング・ファーマ株式会社の公式案内によると、ペンタサ顆粒94%およびペンタサ錠(全包装)の限定出荷が開始されました。その直接的な理由として明記されているのが、「製造販売(輸入)元の海外製造所における造粒工程において十分な数量を確保するための増産体制が未だ整っていない」という点です。


造粒工程とは、粉末状の原薬や添加剤を適切な大きさの顆粒にする製造プロセスのことです。ペンタサ顆粒は徐放性を持たせるためにエチルセルロースでコーティングされており、この造粒・コーティング工程は高度な技術と専用設備を要します。設備の増設や生産ライン拡張には相当な時間と投資が必要なため、需要の急増に製造が追いつかない状況に陥っています。


さらに踏み込んで理解しておくべきは、この問題が「日本だけの話ではない」という点です。フェリング・ファーマの公式文書には「日本を含む全市場で出荷量を減らさざるを得ず、一部の市場では出荷停止せざるを得ない状況」と記載されています。つまり出荷調整は日本固有の流通問題ではなく、グローバルな製造キャパシティの問題です。


医療現場では「メーカーが利益優先で絞っているのでは」と誤解されることもありますが、実態は異なります。製造ラインの物理的な上限が原因であり、フェリング・ファーマは「造粒工程の増設を通じて増産体制を確立し、安定供給の早期実現に向けて鋭意努力を続けてまいります」と表明しています。増設には結果が出るまでの時間が必要ということですね。



製造販売元・フェリング・ファーマ株式会社による出荷制限の公式案内(日本IBD学会掲載):

限定出荷製品に関するご連絡 <フェリング・ファーマ株式会社より>(日本IBD学会)


ペンタサ出荷調整を加速させた世界的なIBD患者数の急増

出荷調整の背景として見逃せないのが、世界規模でのIBD(炎症性腸疾患)患者数の急増です。フェリング・ファーマが「世界的な需要が急速に高まっている」と表現しているこの現象には、明確なデータが存在します。


東邦大学が2025年に発表した全国疫学調査によると、日本における潰瘍性大腸炎の有病者数は2023年時点で約31万6,900人、クローン病は約9万5,700人と推計されています。これは2015年調査と比較して8年間で約1.4倍に増加した数字です。さらに遡ると1991年から2015年の24年間では約10倍という衝撃的な増加も記録されています。


日本国内だけでなく、世界的にも同様の傾向が確認されています。これまで欧米中心だったIBDの発症が、アジア諸国でも急増しており、食生活の欧米化や環境要因の変化が主な要因と考えられています。世界のIBD治療市場は2031年に340億米ドル規模に達するとの予測も出ており、需要の増大が製造能力を大幅に上回っている構図が見えてきます。


意外ですね。つまりペンタサの出荷調整は、特定の製薬会社の問題というより、IBD疾患そのものの世界的な増加が引き金となっています。ペンタサ(メサラジン)はIBD治療における最も基盤となる薬剤であり、患者数が増えれば使用量も比例して増えるという構造的な問題です。


医療現場でこの背景を理解しておくことは、患者への説明においても重要です。患者から「なぜ薬が入りにくいのか」と問われた際、「世界中でIBDが増えていて、製造が追いつかない状況が続いています」と具体的に答えられるかどうかで、患者の不安の緩和度が変わります。これは使えそうです。



日本のIBD有病者数が8年間で1.4倍に増加した全国調査の詳細(IBDプラス):

日本のIBD有病者数が8年間で「1.4倍」に増加、大規模調査で明らかに(IBDプラス)


ペンタサ出荷調整の製品別状況:顆粒・錠剤・坐剤でそれぞれ異なる

「ペンタサの出荷調整」とひと口に言っても、製品の剤形によって状況が異なります。医療従事者として正確に把握しておく必要があります。


まず、最も影響が大きいのがペンタサ顆粒94%です。1g分包・2g分包は「出荷量減少」区分の限定出荷となっており、250mg・500mg分包は「出荷量通常」ながらも限定出荷の状態です。顆粒剤にはジェネリック(後発品)がかつて存在しましたが、すでに販売中止となっており、事実上の代替不可能な状況が生じています。


次にペンタサ錠250mg・500mgですが、こちらは顆粒の代替需要が増加することを見越して、予防的に限定出荷へと移行しました。錠剤にはメサラジン錠のジェネリックが一部存在するものの、顆粒と同様の製剤設計(小腸から大腸にかけて徐々に放出)を持つ製品に限られます。


ペンタサ坐剤1gは別の経緯をたどっています。2025年8月に100個包装が品質試験での問題確認を理由に出荷停止となり、同年10月3日から特約店への出荷が再開されましたが、現在も限定出荷が継続しています。2026年2月17日時点で限定出荷A区分(出荷量通常)という状態です。坐剤の場合は顆粒・錠剤とは異なり、製造品質上の問題が主因でした。


これが原則です。製品ごとに出荷調整の理由と程度が異なるため、在庫管理の際には剤形・包装別に状況を確認する必要があります。一律に「ペンタサは入らない」と判断してしまうと、入手可能な剤形があるのに患者への提供が遅れるリスクがあります。


最新の出荷状況を確認する際は、杏林製薬の医療関係者向けWebサイトや、医薬品供給状況データベース(DSJP)をリアルタイムで参照することをお勧めします。CloseDiなどのサービスも変更情報のプッシュ通知に対応しており、変化の多いこの時期には特に有用です。



ペンタサ製品の供給情報まとめ(杏林製薬 医療関係者向け):

ペンタサに関するお知らせ一覧(杏林製薬 医療関係者向け情報)


ペンタサ出荷調整における代替薬の選択:適応・薬価・薬物動態を正確に理解する

出荷調整への対応において最も重要なのが、代替薬の正確な知識です。ここを誤ると患者への不利益につながりかねません。


まず大前提として明確に押さえてほしいのが、代替薬(アサコール錠・リアルダ錠)の適応が「潰瘍性大腸炎(重症を除く)」のみであるという点です。クローン病には保険適応がありません。この点はフェリング・ファーマの公式案内にも明記されており、「本剤の効能又は効果の一つであるクローン病につきまして、代替薬は適応を有しておりません」と述べられています。







































製品名 有効成分量/回 放出部位 適応 薬価(目安)
ペンタサ顆粒94%(1g) メサラジン940mg 小腸〜大腸(広範囲) UC・CD 100.10円/g
ペンタサ錠500mg メサラジン500mg 小腸〜大腸(広範囲) UC・CD ジェネリックあり
アサコール錠400mg メサラジン400mg pH7.0以上(回腸末端〜大腸) UCのみ 32.10円/錠
リアルダ錠1,200mg メサラジン1,200mg 小腸下部〜大腸(MMX技術) UCのみ 154.50円/錠




薬物動態の観点からも整理しておきましょう。ペンタサは小腸から大腸にかけて広範囲でメサラジンを徐々に放出します。これがクローン病にも対応できる根拠で、小腸病変にも有効成分が届きます。一方、アサコールはpH7.0以上の環境でコーティングが溶け、回腸末端から大腸にしか放出されません。リアルダもMMX技術を用いて大腸で持続放出するため、実質的に大腸病変のみに効果を示します。


クローン病患者への対応は難しいところですね。現実的な選択肢としては、大腸に限定した病変を持つクローン病患者であれば、臨床判断のうえでペンタサ錠への切り替えが検討されます。ただしペンタサ錠も限定出荷中であるため、在庫状況を踏まえた上での判断が必要です。Twitterなどのソーシャルメディアでも現場の薬剤師から「CD患者さんのために、ペンタサ錠の在庫を温存する意識が必要」との声が上がっており、在庫の適正管理が医療機関全体として求められています。



ペンタサ・アサコール・リアルダの違いと服薬指導ポイント(ファルマシスタ):

潰瘍性大腸炎治療薬「ペンタサ・アサコール・リアルダ」の違いと服薬指導(ファルマシスタ)


ペンタサ出荷調整を踏まえた医療現場での優先度管理と独自の在庫戦略

限定出荷の状況下では、誰もが「とりあえず確保できるだけ確保しよう」と動きがちです。しかしこの発想が供給不足をさらに悪化させるという逆説があります。


フェリング・ファーマが限定出荷を実施している目的は「既存の医療機関様への供給を優先するため」と明記されています。つまり出荷調整の仕組みは、特定の医療機関や薬局が大量に確保することを制限し、現在処方を受けている患者全員に公平に届けるための措置です。新規採用・増量は辞退されているのもそのためです。


実際の医療現場では、以下のような優先度に基づいた対応が合理的です。



  • 🔴 最優先:クローン病患者のペンタサ錠継続確保——代替薬が保険適応上ない唯一のグループであり、在庫が逼迫した場合に最も深刻な影響を受ける。

  • 🟡 次優先:潰瘍性大腸炎患者のペンタサ顆粒継続——代替が可能でも、錠剤への嚥下困難や小腸病変への対応が必要なケースはペンタサ顆粒を優先。

  • 🟢 切替検討可:大腸のみの潰瘍性大腸炎患者——アサコールまたはリアルダへの切り替えを積極的に検討することで、ペンタサの在庫を温存できる。


処方医と薬剤師が情報を共有し、患者ごとに「ペンタサでなければならない理由」を整理しておくことが在庫の適切な配分につながります。在庫管理の観点からは、発注時に「これまでの購入量を大きく超えた注文」を一律に断られるリスクを理解した上で、計画的な発注が重要です。


独自の視点として注目したいのが、「服薬継続率」と出荷調整の関係です。患者が薬の入手困難を機に自己中断に至るケースが想定されますが、IBDにおけるメサラジン製剤の中断は再燃リスクを高めます。医療従事者として、患者が「薬がないから飲むのをやめた」という状況に至る前に積極的に情報提供を行うことが重要です。特に自己判断で休薬してしまった場合、再燃後の再治療には追加のコスト(検査・入院・生物学的製剤への切替など)が発生する可能性があります。出荷調整の情報は患者本人にも適切な形で伝えるべきです。



日本大腸肛門病学会によるペンタサ出荷制限に関する案内:

ペンタサ錠およびペンタサ顆粒の出荷制限実施に関するご案内(日本大腸肛門病学会)






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