COPDを合併したRA患者にオレンシア皮下注を使うと、副作用の発現率がプラセボ群の約10倍になります。

オレンシア皮下注(有効成分:アバタセプト)は、関節リウマチ(RA)において既存治療が効果不十分な患者に用いられる生物学的製剤です。T細胞の活性化に必要な共刺激シグナルを選択的に阻害するという独自の作用機序を持ちますが、そのぶん免疫機能全般を抑制するリスクも伴います。
最も頻度が高く、かつ生命予後に直結する副作用が「重篤な感染症」です。添付文書に記載されている発現頻度をまとめると、肺炎(ニューモシスチス肺炎を含む)が0.9%、蜂巣炎が0.4%、尿路感染が0.3%、敗血症が0.1%となっています。気管支炎に至っては1.2%に認められており、呼吸器への影響は特に注意が必要です。これらは重大な副作用として明記されています。
国内市販後の使用成績調査(全例調査、3,967例)では、副作用全体の発現率は14.8%でした。主な内訳は上気道の炎症1.1%、帯状疱疹0.9%、口内炎0.9%、気管支炎0.9%などです。国内臨床試験(二重盲検期6ヵ月)では投与群59例中31例(52.5%)に副作用が認められており、上気道感染16.9%、口内炎8.5%が目立ちました。つまり過半数の患者で何らかの副作用が起きうるということですね。
感染症の早期発見のために、医療従事者は患者への定期的な問診と適切な検査を欠かさない必要があります。発熱・咳・倦怠感・息苦しさは要注意のサインです。患者本人にも「いつもと違う体調変化は即連絡」と事前に徹底しておくことが、感染症の重篤化を防ぐ第一歩です。
敗血症の初期症状(震え・高熱・錯乱)や蜂巣炎の症状(皮膚の発赤・熱感・圧痛)、肺炎の症状(痰を伴う咳・息切れ・胸痛)を患者に丁寧に説明しておくことが基本です。
参考情報:日本リウマチ学会 関節リウマチ(RA)に対するアバタセプト使用の手引き(2024年7月改訂版)
https://www.ryumachi-jp.com/pdf/tebiki_abt_240710.pdf
重大な副作用の中でも、特に発見が遅れやすいのが「間質性肺炎」です。オレンシア皮下注における間質性肺炎の発現頻度は0.4%と報告されています。0.4%という数字は100人に1人にも満たないように見えますが、一般的な薬剤と比較すると決して低い数値とは言えません。厳密に言えば、250人中1人に起こりうるリスクということです。
間質性肺炎の特徴的な症状は、階段を上ると息切れがする、空咳が続く、微熱が持続する、の3つです。ポイントは症状の「始まり方」で、急に出ることもあれば、じわじわと悪化することもあります。既往に間質性肺炎がある患者では増悪・再発のリスクが明確に高まるため、投与前に既往歴の確認が必須です。
アナフィラキシーについては、発現頻度は0.1%未満と低頻度ではあるものの、発症した場合は生命に直結します。低血圧・蕁麻疹・呼吸困難がセットで現れる点が診断の手がかりです。オレンシア皮下注は外来や在宅での自己注射が可能ですが、緊急対応の準備が整っていることを確認する体制が施設側には求められます。患者の初回投与は、緊急処置が可能な医療施設で行うことが大原則です。
投与後に気分不良や息苦しさが出た場合、患者がすぐに担当医または看護師へ連絡できる体制を確保しておくことが不可欠です。これは原則です。また、間質性肺炎の疑いが出た際のフローとして、胸部X線・CT撮影を速やかに実施し、呼吸器専門医への相談につなぐ体制を整備しておくと安心です。
参考情報:オレンシア皮下注125mgシリンジ 添付文書(重大な副作用の詳細)
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00066199
医療従事者が見落としやすい重要な副作用リスクが2つあります。1つ目は「COPD合併患者での増悪リスク」、2つ目は「結核の再活性化リスク」です。どちらも投与前の評価がすべてを決めると言っても過言ではありません。
まずCOPDについてです。海外の点滴静注用製剤の試験では、COPDを合併しているRA患者にオレンシアを投与した場合、副作用の発現率がオレンシア群で高頻度に認められました。具体的には、COPDが悪化した症例はアバタセプト群で10.8%(4例/37例中)、プラセボ群で1例(2.7%)であり、明らかな差があります。COPD患者への投与は禁忌ではありませんが、慢性閉塞性肺疾患の悪化や気管支炎を含む重篤な副作用が増加すると添付文書にも記載されています。呼吸器状態を定期的に評価しながら慎重に投与することが必要です。
次に結核リスクです。アバタセプトはT細胞の免疫応答を抑制するため、潜在性結核を活動化させる可能性が否定できません。適正使用ガイドでは、投与前スクリーニングとして「問診・インターフェロンγ遊離試験(クオンティフェロン、T-SPOT)・胸部X線撮影」を必須としています。陳旧性肺結核に合致する陰影がある患者、結核治療歴のある患者、IGRA陽性患者では、原則として本剤開始3週間前よりイソニアジド(INH)内服(300mg/日)を6〜9ヵ月行ったうえで投与を開始することが推奨されています。これが原則です。
海外臨床試験では、長期継続投与期間(平均34.7ヵ月)において0.2%(6/3,256例)で結核の副作用報告がありました。国内の全例調査(3,967例)では観察期間中に副作用としての結核は0例でしたが、観察期間終了後に2例(0.05%)報告されています。スクリーニングが徹底されているからこそ低く抑えられているとも言えます。
| 投与前スクリーニング項目 | 内容 |
|---|---|
| 問診 | 結核の既往歴・家族歴・接触歴 |
| インターフェロンγ遊離試験 | クオンティフェロン / T-SPOT |
| 胸部X線撮影 | 陳旧性結核所見の確認 |
| 必要に応じて | 胸部CT撮影 |
副作用対策のなかで、現場での確認漏れが起きやすいポイントが2つあります。それが「生ワクチン接種の禁忌期間」と「周術期の休薬管理」です。知っているだけで患者へのリスクを大幅に下げられる情報です。
生ワクチンについてはシンプルなルールがあります。オレンシア皮下注の投与中および投与中止後3ヵ月間は生ワクチン接種が禁忌です。生ワクチンの代表例として、帯状疱疹(水痘)・麻疹・風疹・おたふくかぜ・BCGがあげられます。免疫抑制状態では、弱毒化されたウイルスであっても感染が成立するリスクがあるためです。不活化ワクチン(インフルエンザ、肺炎球菌、不活化帯状疱疹ワクチンであるシングリックス®など)は投与中も使用可能ですが、免疫応答が低下している可能性を考慮する必要があります。厳しいところですね。
なお、インフルエンザワクチンと新型コロナウイルスワクチンは、呼吸器感染症予防のため「可能な限り接種すべき」と日本リウマチ学会の手引きに明記されています。65歳以上の高齢患者では肺炎球菌ワクチン接種も積極的に考慮すべきです。
周術期管理については、整形外科手術など予定手術の周術期には生物学的製剤(bDMARD)の休薬が推奨されています(推奨の強さ:弱い)。理由は手術部位感染(SSI)や創傷治癒遅延のリスクを高める可能性があるためです。アバタセプトの半減期は約10日であるため、少なくとも1投与間隔(週1回投与なら1週間)以上の休薬が目安となります。米国リウマチ学会・米国股膝関節学会の共同ガイドラインでは「それぞれのbDMARDの予定投与日以降を休薬期間」とすることを推奨しています。
手術後の再投与タイミングは「創がほぼ完全に治癒し、感染の合併がないことを確認できた後」が目安です。RA再燃のリスクもあるため、休薬期間中の疾患活動性モニタリングも欠かせません。患者本人に「手術が決まったら担当医に必ず連絡する」よう事前に伝えておくことが重要です。
参考情報:BMS Healthcare オレンシア皮下注適正使用ガイド(周術期管理・ワクチン接種に関する詳細あり)
https://www.bmshealthcare.jp/assets/buildeasy/apac-commercial/bms-healthcare-jp/ja/documents/products/orencia/ORENCIASC_guide.pdf
オレンシア皮下注は週1回の皮下投与が可能で、自己注射(シリンジ型またはオートインジェクター型)への移行が認められています。この利便性の高さが処方選択の大きな理由の一つです。一方で、自己注射移行後に現れやすい副作用や、指導ミスによるリスクも医療従事者は理解しておく必要があります。
注射部位反応はオレンシア皮下注に特異的なリスクです。海外第Ⅲ相試験では、皮下注製剤投与群736例中19例(2.6%)に注射部位反応が認められました。主な症状はそう痒感・紅斑・疼痛・丘疹・発疹などです。2.6%という数字は「100人に約2〜3人」に相当します。重篤ではないケースがほとんどですが、繰り返す場合や広範囲に広がる場合は医師への報告が必要です。
注射部位反応を最小化するための患者指導ポイントは以下の通りです。
自己注射移行にあたっては、患者の自己注射に対する適性を見極めることが前提条件です。高齢や視力低下、手指の可動域制限がある患者では、オートインジェクター型の方が操作しやすい場合があります。適切なデバイス選択と、実際に模擬操作を行いながら行う指導が安全な自己注射につながります。これは必須です。
また、B型肝炎ウイルス(HBV)キャリアまたは既往感染者(HBs抗原陰性かつHBc抗体またはHBs抗体陽性)への投与では、HBV再活性化のリスクがあります。投与前のウイルス肝炎スクリーニングを必ず実施し、陽性例では肝機能・HBV-DNAのモニタリングを継続することが求められます。日本肝臓学会「B型肝炎治療ガイドライン」に沿った対処が推奨されています。
患者が自己注射を開始したあとも、定期的な来院時に副作用の有無・注射手技の確認・疾患活動性の評価を怠らないことが安全管理の要です。つまり、自己注射は「任せっぱなし」にならないことが条件です。
参考情報:オレンシアの副作用(患者向け情報)- リウマチTea room
https://www.riumachitearoom.jp/ra/orencia/sideeffect