慢性疼痛の患者にオキシコドン徐放錠を処方する前に、eラーニングを受講していない医師は処方できません。

オキシコドン塩酸塩水和物徐放錠は、オピオイド鎮痛薬の代表格として広くがん疼痛管理に用いられている強オピオイドです。中枢神経系のμオピオイド受容体に結合することで強力な鎮痛効果を発揮します。添付文書に記載された効能・効果は、「中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛」が基本となっています。
現在日本で流通している主な製剤は2系統に分かれています。先発品の「オキシコンチン®TR錠」(塩野義製薬)と、後発品の「オキシコドン徐放錠NX『第一三共』」です。どちらも一般名はオキシコドン塩酸塩水和物ですが、乱用防止の仕組みに違いがあります。これは後述します。
重要なのが、適応症の違いです。オキシコンチン®TR錠には2020年10月から「非オピオイド鎮痛薬又は他のオピオイド鎮痛薬で治療困難な中等度から高度の慢性疼痛における鎮痛」という適応が追加されています。一方、オキシコドン徐放錠NX「第一三共」には癌性疼痛の適応のみが認められており、慢性疼痛には適用外です。医療現場では一般名処方が増えていますが、慢性疼痛の患者に一般名処方をした場合、NX製剤が調剤されると適応外使用になるリスクがあります。
添付文書では薬価も明記されており、オキシコドン徐放錠NX「第一三共」の場合、5mg錠が1錠121.4円、10mg錠が233.6円、20mg錠が433.7円、40mg錠が799.1円(2025年4月改訂時点)となっています。用量が上がるにつれて薬価も大きく変わるため、処方コストの観点からも適切な用量設定が求められます。
以下は主な製剤の比較です。
| 比較項目 | オキシコンチン®TR錠 | オキシコドン徐放錠NX |
|---|---|---|
| 区分 | 先発品 | 後発品 |
| 乱用防止方法 | 物理的・化学的抵抗性(ゲル化) | 麻薬拮抗薬ナロキソン配合 |
| 癌性疼痛適応 | ✅ あり | ✅ あり |
| 慢性疼痛適応 | ✅ あり(要eラーニング) | ❌ なし |
つまり両剤とも同じ一般名でも、適応症が異なります。
【KEGG】オキシコドン徐放錠NX第一三共 添付文書情報(2025年4月改訂版)
添付文書の用法・用量の項目は、癌性疼痛と慢性疼痛で明確に記載が異なります。ここを混同すると、臨床上の重大なリスクにつながります。
〈癌性疼痛〉では、通常成人にオキシコドン塩酸塩(無水物)として1日10〜80mgを2回に分割経口投与し、症状に応じて適宜増減します。オピオイド未使用の患者には、1日10〜20mgを開始量とすることが望ましいとされています。
〈慢性疼痛〉では、1日10〜60mgが上限です。癌性疼痛と比べて20mgも上限が低く設定されています。オピオイド未使用の患者への開始量は1日10mgと定められており、1日60mgを超える用量への増量を検討する場合は「特に慎重に検討すること」と添付文書に明記されています。重要な点として、慢性疼痛では突発性の疼痛に対してオピオイド鎮痛薬の追加投与(レスキュー薬)を行わないことと規定されています。癌性疼痛ではレスキューが推奨されているのとは正反対の対応が求められます。
増量の目安については、5mgから10mgへの増量を除き、使用量の25〜50%増とするよう定められています。たとえば1日20mgを投与中であれば、次の増量は1日25〜30mgが目安となります。倍量増量のような急激な用量変更は避けるべきです。
また、モルヒネ製剤から本剤への変更にあたってはモルヒネ1日投与量の2/3量が目安とされています。一方、フェンタニル貼付剤からの切り替えには注意が必要です。フェンタニル貼付剤を剥離した後、血中フェンタニル濃度が50%に減少するまでに17時間以上かかるとされており、剥離直後にオキシコドン徐放錠を開始すると二重投与状態になるリスクがあります。十分な時間をあけてから低用量で開始することが求められます。
さらに、食事の影響も見逃せません。添付文書の薬物動態データによると、高脂肪食摂取後に投与したとき、空腹時に比べてCmaxが73%、AUCが38%増加したと報告されています。副作用発現に十分注意したうえで、食後または空腹時のいずれか一定の条件下で投与することが原則です。
増量ルールと条件は複数あります。
- 5mgから10mgへの増量:増量目安なし(例外)
- それ以外の増量:使用量の25〜50%増が目安
- 慢性疼痛の60mg超:特に慎重に検討が必要
- 投与中止時:急激な減量はせず徐々に減量すること(退薬症候の防止)
急激な減量が退薬症候(あくび・発汗・振戦・不眠・不安・痙攣など)を引き起こすことは、添付文書の重大な副作用の項にも明記されています。退薬症候の発現を防ぐためには段階的な減量が原則です。
【JAPIC】オキシコンチンTR錠 添付文書PDF(2026年3月改訂第4版)
禁忌の項目は投与前に必ず確認すべき事項です。添付文書には以下の9項目が禁忌として明示されています。
| 禁忌対象 | 理由 |
|---|---|
| 重篤な呼吸抑制のある患者・重篤なCOPD患者 | 呼吸抑制を増強する |
| 気管支喘息発作中の患者 | 呼吸抑制・気道分泌阻害 |
| 慢性肺疾患に続発する心不全患者 | 呼吸抑制・循環不全の増強 |
| 痙攣状態(てんかん重積症・破傷風・ストリキニーネ中毒)患者 | 脊髄刺激効果が出る |
| 麻痺性イレウス患者 | 消化管運動抑制 |
| 急性アルコール中毒患者 | 呼吸抑制増強 |
| アヘンアルカロイドへの過敏症患者 | 過敏反応のリスク |
| 出血性大腸炎患者 | 症状悪化・治療期間延長 |
| ナルメフェン投与中または投与中止後1週間以内の患者 | 拮抗作用による鎮痛減弱・退薬症候 |
出血性大腸炎(O157等の腸管出血性大腸菌による疾患)が禁忌に含まれていることは、あまり意識されていない場合があります。消化管症状を持つ患者への処方時には特に注意が必要です。
慎重投与が求められる患者背景も多岐にわたります。心機能障害・低血圧のある患者、呼吸機能障害患者、脳に器質的障害のある患者、ショック状態の患者、代謝性アシドーシス患者、甲状腺機能低下症患者、副腎皮質機能低下症患者、薬物・アルコール依存の既往患者、衰弱者、前立腺肥大による排尿障害患者、消化管手術後患者、胆嚢障害・膵炎患者、炎症性腸疾患患者などが該当します。
腎機能障害患者では排泄が遅延して副作用が出るおそれがあります。肝機能障害患者では代謝が遅延します。高齢者については「呼吸抑制の感受性が高い」と明記されており、患者の状態を観察しながら慎重に投与することが求められています。ただし、薬物動態においては高齢者と非高齢者成人で有意な差はなかったとされている点は意外です。
慎重投与が必要なケースは多いということです。
妊婦への投与は、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ可能です。分娩前に投与した場合は新生児に退薬症候(多動・神経過敏・不眠・振戦等)が出ることがあり、分娩時投与では新生児の呼吸抑制のリスクもあります。授乳中は母乳への移行が報告されているため、投与中は授乳を中止させます。小児への臨床試験は実施されていないため、小児への使用は原則として適応外となります。
【厚生労働省】オキシコドン塩酸塩水和物徐放製剤の使用に当たっての留意事項
副作用への対応は投与前の準備から始まります。添付文書の8.5項(重要な基本的注意)には、便秘に対する緩下剤、嘔気・嘔吐に対する制吐剤の併用を考慮するよう明記されています。これは副作用が起きてから対処するのではなく、投与開始時から予防的に対策を講じることを求めている点が重要です。
臨床試験で報告された発現率が高い副作用のデータを見ると、その頻度の高さに驚かされます。
| 副作用 | 発現率 |
|---|---|
| 便秘 | 42.4% |
| 嘔気 | 39.5% |
| 嘔吐 | 16.5% |
| 眠気 | 22.8% |
| 傾眠 | 18.7% |
便秘は実に患者の約4割に発現します。緩下剤の予防的処方はルーティンとして組み込む必要があります。
重大な副作用としては以下が添付文書に明記されています。ショック・アナフィラキシー(頻度不明)、依存性(頻度不明)、呼吸抑制(頻度不明)、錯乱・譫妄(頻度不明)、無気肺・気管支痙攣・喉頭浮腫(頻度不明)、麻痺性イレウス(0.1〜1%未満)、中毒性巨大結腸(頻度不明)、肝機能障害(頻度不明)が挙げられます。
相互作用の確認も欠かせません。本剤は主としてCYP3A4、一部CYP2D6で代謝されます。この代謝経路を共有する薬剤との組み合わせには特に注意が必要です。
CYP3A4阻害薬(併用注意): ボリコナゾール、イトラコナゾール、フルコナゾール、リトナビル、クラリスロマイシン等との併用では、オキシコドンの血中濃度が著明に上昇し、副作用が増強するおそれがあります。たとえば感染症治療でクラリスロマイシンを使用している患者が対象の場合は、本剤の用量設定に慎重さが必要です。
CYP3A4誘導薬(併用注意): リファンピシン、カルバマゼピン、フェニトイン等との併用では、オキシコドンの血中濃度が低下して鎮痛効果が減弱する可能性があります。さらに注意すべきは、「これらの薬剤の中止後に本剤の血中濃度が上昇して副作用が出るおそれがある」と添付文書に記されている点です。中止のタイミングも含めたモニタリングが必要です。
ワルファリンとの相互作用: 機序は不明ながら、クマリン系抗凝血剤の作用が増強されることがあります。PT-INRのモニタリングを通常より注意深く行う必要があります。
ナルメフェン(セリンクロ)は唯一の併用禁忌です。 ナルメフェンはアルコール依存症の治療薬であり、μオピオイド受容体拮抗作用により本剤の鎮痛作用を競合的に阻害します。投与中だけでなく、投与中止後1週間以内も禁忌とされています。
これら相互作用の確認は省けません。
過量投与時には呼吸抑制・意識不明・痙攣・縮瞳・低血圧・嗜眠などの症状が現れます。処置として麻薬拮抗剤(ナロキソン・レバロルファン等)を投与しますが、麻薬拮抗剤の作用持続時間はオキシコドンより短いため、患者のモニタリングを継続するか持続静注を考慮する必要があります。強い眠気が通常と異なる場合は過量投与の可能性を念頭に置き、速やかに対応することが求められます。
オキシコドン塩酸塩水和物徐放錠は麻薬及び向精神薬取締法上の「麻薬」に分類されます。つまり通常の処方薬とは異なる厳格な法的管理が求められます。添付文書の「重要な基本的注意」にも「医療目的外使用を防止するため、適切な処方を行い、保管に留意するとともに、患者等に対して適切な指導を行うこと」と明記されています。
現行製剤の大きな特徴が「乱用防止機能」です。
オキシコンチン®TR錠(先発品)の場合:
錠剤の強度が高く、容易に砕けない硬さになっています。また、ポリエチレンオキシド(PEO)を添加しているため、水を含むとゲル状になります。舐めたり濡らしたりすることで徐放性が失われ、血中濃度が急上昇するリスクがあるため、口に入れたら速やかに十分な水で飲み込むよう指導することが添付文書で求められています。
オキシコドン徐放錠NX(後発品)の場合:
乱用防止のためナロキソン(麻薬拮抗薬)が配合されています。NXとはNaloxoneの略称です。経口で適切に服用した場合、ナロキソンは肝初回通過効果により速やかに代謝されるため、鎮痛効果には影響しません。しかし、錠剤を溶解して注射しようとするとナロキソンが代謝されず、オキシコドンの薬理作用を打ち消します。乱用目的での静脈注射を構造的に無効化する仕組みです。
粉砕禁止は絶対原則です。
いずれの製剤も、添付文書8.1項に「服用に際して割ったり、砕いたり、あるいはかみ砕かないよう患者に指導すること」と明記されています。徐放性製剤を粉砕すると一度に大量の薬剤が吸収され、急激な血中濃度の上昇による重篤な副作用(呼吸抑制・死亡など)を招く危険があります。胃瘻患者などで投与経路の変更が必要な場合は、本剤以外の剤形への変更を検討することが原則です。
麻薬としての法的義務についても確認が必要です。廃棄においては、麻薬管理者(または麻薬施用者)が他の職員1名以上の立会いのもと、回収が困難な方法で廃棄し、廃棄後30日以内に「調剤済麻薬廃棄届」を提出することが麻薬及び向精神薬取締法で定められています。入院患者が死亡した場合などに残薬が生じた際は、ご遺族からの引取りも含め正確な手順が求められます。
慢性疼痛へオキシコンチン®TR錠を処方する場合、処方医が塩野義製薬のeラーニングを受講し、確認書を取得することが必須条件とされています(癌性疼痛には不要)。薬局側も調剤前に当該医師・医療機関を確認したうえで調剤を行うよう、警告の項に明記されています。
ポイントをまとめると以下のとおりです。
- 🔒 乱用防止:TR錠はゲル化(物理・化学的)、NXはナロキソン配合(薬理的)
- ❌ 粉砕・噛み砕き・舐めることは絶対禁止
- 📁 廃棄後30日以内に廃棄届の提出が法的義務
- 📝 慢性疼痛処方には処方医のeラーニング受講が必須(TR錠のみ)
- 💊 麻薬帳簿への記載・施錠保管は処方の都度確認が必要
患者が不要になった麻薬を持ち帰っている場合も、返納先は病院または薬局であることを患者へ適切に指導することが添付文書(14.2.3項)に求められています。返納された麻薬の廃棄も届出義務の対象となります。
添付文書を一通り読んでいても、実際の臨床現場で特に見落とされやすいポイントがあります。ここでは、医療安全の観点から特に重要な3つを取り上げます。
①「通常とは異なる強い眠気」は過量投与のサインである
添付文書8.5項には「鎮痛効果が得られている患者で通常とは異なる強い眠気がある場合には、過量投与の可能性を念頭において本剤の減量を考慮すること」と記されています。疼痛コントロールが良好な患者の眠気を「よく効いている」と見なして放置すると、過量状態を見逃すリスクがあります。眼気の変化は患者ごとのベースラインとの比較が重要であり、看護師も含めたチームでの観察共有体制の構築が求められます。眠気が増強したら要注意です。
②CYP3A4誘導薬の「中止後」にこそ血中濃度上昇が起きる
リファンピシン・カルバマゼピン・フェニトインなどのCYP3A4誘導薬を内服中の患者は、オキシコドンの代謝が促進されるため鎮痛効果が弱まります。臨床的に問題になりやすいのは「これらの薬剤を中止したとき」です。CYP3A4の誘導が解除されてオキシコドンの代謝が急に低下し、血中濃度が上昇して副作用が出ることがあります。添付文書にも「これらの薬剤の中止後に、本剤の血中濃度が上昇し副作用が発現するおそれがある」と注記されています。入院中に他科の薬が変更になった際に、オキシコドンのモニタリング強化を忘れるケースが生じやすいです。
③慢性疼痛患者にはレスキュー投与をしてはならない
これは添付文書7.2.2項に「突発性の疼痛に対してオピオイド鎮痛薬の追加投与(レスキュー薬の投与)は行わないこと」と明記されているにもかかわらず、癌性疼痛と同様の感覚でレスキューを組んでしまう場面が存在します。慢性疼痛における依存形成リスクを考慮した規定であり、痛みが増強した場合は定期薬の用量見直しや疼痛の原因精査が優先されます。癌性疼痛と慢性疼痛では、痛みの管理方針そのものが異なることを改めて意識する必要があります。
さらに、患者への指導内容としては以下が添付文書で求められています。
- 車の運転・危険を伴う機械の操作をしないよう指示する(眠気・眩暈のリスク)
- 食後または空腹時のどちらかに統一して服用させる(食事の影響を均一化する)
- 不要になった場合は病院または薬局へ返納させる(自宅廃棄は厳禁)
- PTPシートから取り出して服用させる(誤飲による食道穿孔の防止)
患者指導は安全な薬物療法の根幹です。
慢性疼痛の患者では、投与開始後4週間を経過してもなお期待する効果が得られない場合には「他の適切な治療への変更を検討すること」と添付文書に記されています。また「漫然と投与を継続しないこと」という明示もあります。定期的な評価と投与継続の必要性の検討が、添付文書上の義務として位置づけられています。エビデンスに基づく定期評価の実施が、医療従事者に求められています。