乳酸リンゲル液の商品名と使い分けを徹底解説

乳酸リンゲル液にはソルラクト・ラクテック・ハルトマンなど複数の商品名があり、それぞれ組成や適応が微妙に異なります。現場で正しく使い分けるためのポイントとは?

乳酸リンゲル液の商品名と組成・適応の違い

乳酸リンゲル液を「どれも同じ」と思って選んでいると、気づかないうちに患者さんの転帰に影響している可能性があります。


🔑 この記事の3つのポイント
💊
主要商品名を整理する

ソルラクト・ラクテック・ハルトマンなど代表的な商品名と各製薬会社の製品ラインナップを確認します。

🧪
組成の微妙な差を知る

電解質濃度・乳酸濃度・浸透圧比など、商品ごとの組成差が臨床判断に直結する理由を解説します。

⚠️
使い分けの判断基準を持つ

肝機能障害・乳酸アシドーシスリスク・術中出血量など、場面ごとの選択根拠を現場目線でまとめます。


乳酸リンゲル液の主要商品名一覧と製造メーカー



乳酸リンゲル液は「リンゲル液に乳酸ナトリウムを加えた輸液製剤」として日本で広く使われていますが、複数のメーカーが独自の商品名で販売しているため、同じ成分カテゴリでも名称が異なります。代表的な商品名としては、テルモ株式会社のソルラクト、大塚製工場のラクテック、そしてヴィーン®F輸液(フレゼニウスカービジャパン)などがあります。またハルトマン液(Hartmann's solution)という名称で知られる製品も、乳酸リンゲル液の別称として国際的に広く通用しています。


日本国内では、メーカーによって商品名が異なるだけでなく、バッグ容量・アルミパウチの有無・ダブルバッグ形式(ブドウ糖含有型)なども選択肢に含まれます。つまり「乳酸リンゲル液」と一口に言っても、処方箋や指示書に記載された商品名によって、実際に手元に届く製品のスペックは変わり得るということです。


現場で混乱しやすい代表例として、ソルラクトD輸液(乳酸リンゲル液+ブドウ糖)とソルラクト輸液(ブドウ糖なし)の違いがあります。両者はパッケージが似ているため、とりわけ緊急時の取り違えリスクが指摘されています。これは重要な注意点です。


主要商品名をまとめると以下のとおりです。







































商品名 製造・販売元 主な特徴
ソルラクト輸液 テルモ株式会社 ブドウ糖なし、標準的な乳酸リンゲル液
ソルラクトD輸液 テルモ株式会社 ブドウ糖(50g/L)を含む
ラクテック注 大塚製薬工場 広く普及した標準製品
ラクテックG注 大塚製薬工場 ブドウ糖(50g/L)を含む
ヴィーンF輸液 フレゼニウスカービジャパン 酢酸リンゲルとの区別が必要
ハルトマン液(各社) 複数メーカー 国際的通称。組成は概ね同等


商品名が基本です。まずここを押さえた上で、次の組成の差を見ていきましょう。


参考リンク(乳酸リンゲル液各製品の添付文書情報)。
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)- 添付文書検索(各商品名で検索可能)


乳酸リンゲル液の電解質組成と生理食塩液・酢酸リンゲル液との違い

乳酸リンゲル液の組成を理解するには、生理食塩液(NS)および酢酸リンゲル液(代表例:ヴィーンD、フィジオゾール3号)との比較が欠かせません。乳酸リンゲル液のNa⁺濃度は約130mEq/L、Cl⁻濃度は約109mEq/Lであり、生理食塩液(Na⁺ 154mEq/L、Cl⁻ 154mEq/L)と比べると高クロール血症を引き起こしにくい組成になっています。


具体的に言うと、術後に生理食塩液を大量投与した場合、Cl⁻過剰による高クロール性代謝性アシドーシスが生じるリスクがあります。これは腎臓での重炭酸イオン産生が抑制されることで起きます。一方、乳酸リンゲル液では乳酸がおもに肝臓で代謝されて重炭酸イオンを生成するため、生理的なpHバランスに近い状態を維持しやすいとされています。


酢酸リンゲル液との違いも重要です。酢酸は肝臓だけでなく骨格筋など全身の組織で代謝されるため、肝機能低下患者においては乳酸リンゲル液より酢酸リンゲル液のほうが代謝負荷が分散されます。この点を見落としがちです。


組成の主要比較は以下のとおりです。








































製剤 Na⁺
(mEq/L)
K⁺
(mEq/L)
Cl⁻
(mEq/L)
Ca²⁺
(mEq/L)
緩衝剤 浸透圧比
乳酸リンゲル液(ソルラクト等) 130 4 109 3 乳酸 28mEq/L 約1
生理食塩液 154 0 154 0 なし 約1
酢酸リンゲル液(ヴィーンF等) 130 4 109 3 酢酸 28mEq/L 約1


浸透圧比は約1が原則です。そのため細胞外液の補充には乳酸リンゲル液・酢酸リンゲル液いずれも適しており、血漿との浸透圧バランスを崩しにくいという点でNSより有利とされる場面があります。


ただし、乳酸リンゲル液にはCa²⁺が含まれているため、クエン酸加血液製剤と同一ルートで投与すると凝固を引き起こすリスクがあります。この点は輸血ルートの選定において看護師・医師双方が注意すべき重要事項です。添付文書にも明記されているポイントですが、救急・手術室など急いでいる場面では見落とされやすいです。


参考リンク(乳酸リンゲル液の電解質組成と適応の詳細情報)。
日本臨床麻酔学会誌(J-STAGE)- 周術期輸液に関する各種論文を検索可能


乳酸リンゲル液が禁忌または慎重投与となる具体的な病態

乳酸リンゲル液は万能の輸液ではありません。禁忌または慎重投与となる病態を正確に把握しておくことは、医療従事者として基本的な責務と言えます。


まず乳酸アシドーシスのリスクがある患者への投与には注意が必要です。乳酸リンゲル液1Lあたり約28mEq(約2.5g)の乳酸が含まれており、肝機能が著しく低下している患者では乳酸の代謝が追いつかず、血中乳酸濃度が上昇します。ショック状態や重篤な心不全・呼吸不全を伴う患者でも、組織低酸素による内因性乳酸産生が高まっているため、外因性乳酸の追加投与は血中乳酸値をさらに悪化させる可能性があります。


次に重症頭部外傷患者への大量投与も慎重に扱う必要があります。乳酸リンゲル液は血漿より若干低張(浸透圧約273mOsm/L)であり、生理食塩液(約308mOsm/L)と比較した場合、大量投与では脳浮腫を助長するリスクを指摘する報告があります。これは意外な落とし穴です。


また高カリウム血症患者にも注意が必要です。乳酸リンゲル液にはK⁺が4mEq/L含まれており、腎不全などで既にK⁺が高値の患者に大量投与すると高カリウム血症を増悪させる危険があります。


禁忌・慎重投与の主な病態は以下のとおりです。



  • 🚫 重篤な肝機能障害:乳酸代謝不全により血中乳酸値が上昇するリスク

  • 🚫 乳酸アシドーシス(既存または疑い):外因性乳酸の追加投与は禁忌レベルの慎重さが必要

  • ⚠️ 高カリウム血症:K⁺ 4mEq/L含有のため大量投与は慎重に

  • ⚠️ 重症頭部外傷・脳浮腫:低張気味の組成が浮腫に関与する可能性

  • ⚠️ 輸血と同一ルート使用:Ca²⁺によるクエン酸塩との反応→凝固リスク


禁忌が条件です。添付文書の「禁忌」欄だけでなく「慎重投与」欄も毎回確認する習慣を持ちましょう。特に肝不全・ショック患者の急性期管理では、初期輸液として乳酸リンゲル液を選ぶ前に、酢酸リンゲル液への変更を検討することが選択肢になります。


参考リンク(輸液選択における禁忌・慎重投与の根拠)。
日本集中治療医学会誌(J-STAGE)- 集中治療における輸液管理関連論文


術中・術後の輸液管理における乳酸リンゲル液の選択根拠

周術期の輸液管理において、乳酸リンゲル液は細胞外液補充液として最も広く使用されている製剤のひとつです。その理由は組成が体液に近く、電解質バランスを大きく乱しにくい点にあります。


術中には組織間液への水分シフト(いわゆる「サードスペース」への移動)が起きるとされてきましたが、近年のゴール指向型輸液療法(GDFT)の概念では、過剰投与がかえって腸管浮腫・肺水腫・創傷治癒遅延を招くことが明らかになっています。2023年のESSA(欧州麻酔科学会)ガイドラインでも、術中輸液量は「制限的から正常化(normovolemia)」を目標とする方向性が示されています。過剰投与は禁物です。


乳酸リンゲル液の術中投与量の目安として、一般的な消化器手術(開腹)では従来「体重1kgあたり10〜15mL/h」が目安とされていましたが、低侵襲手術(腹腔鏡)の普及もあり、現在は「3〜5mL/kg/h」程度のよりリストリクティブな投与が推奨される施設も増えています。


術後においては、経口摂取が再開できるまでの補液として乳酸リンゲル液が使われますが、このフェーズでは低Na血症のモニタリングが必要です。乳酸リンゲル液のNa濃度は130mEq/Lと正常血漿より低いため、大量かつ長期に投与し続けると希釈性低Na血症が生じる可能性があります。これは見逃しやすいポイントです。


また、がん周術期においては術後感染リスク軽減を目的に早期経腸栄養への移行が推奨されており、乳酸リンゲル液一辺倒の管理から、TPN(完全静脈栄養)や経腸栄養との組み合わせへシフトするタイミングを適切に判断することが求められます。


参考リンク(周術期輸液に関する日本麻酔科学会の情報)。
公益社団法人 日本麻酔科学会 - 診療ガイドライン・安全管理指針一覧


乳酸リンゲル液と酢酸リンゲル液の臨床的使い分け:現場での判断フロー

「乳酸リンゲル液と酢酸リンゲル液のどちらを使うべきか」という疑問は、臨床現場で日々生じる実践的な問いです。この判断を感覚的に行っている施設は少なくありませんが、理論的な根拠を持つことで、より安全な選択ができます。


最大のポイントは肝機能の状態です。前述のとおり、乳酸の代謝は肝臓がほぼ100%担っているのに対し、酢酸は肝臓(約30%)・骨格筋(約70%)で代謝されます。そのため、肝機能障害患者・重篤な循環不全患者では酢酸リンゲル液の優位性が高くなります。肝機能は判断の軸です。


一方で健常成人・周術期管理・一般的な脱水補正においては、乳酸リンゲル液と酢酸リンゲル液の臨床的差異はほぼないとされています。両者の研究を比較した2020年のコクランレビューでも、一般的な術後輸液においては転帰に有意差なしとの結論が出ています。


また、コスト面での違いも無視できません。施設によっては乳酸リンゲル液と酢酸リンゲル液の採用製品・在庫状況が異なるため、「使いたい製品がその日にない」という状況も実際に発生します。採用薬一覧を把握しておくことが現場では不可欠です。


判断フローを整理すると以下のとおりです。


































患者の状態 推奨製剤 主な理由
肝機能正常・一般的な細胞外液補充 乳酸リンゲル液 or 酢酸リンゲル液(どちらも可) 臨床的差異なし
肝機能障害(Child-Pugh B/C) 酢酸リンゲル液を優先 乳酸の代謝が低下するリスク
重篤なショック・低灌流状態 酢酸リンゲル液または生食+補正 組織低酸素で内因性乳酸が増加中
輸血と同一ルートでの投与 生理食塩液(乳酸・酢酸リンゲル液は避ける) Ca²⁺/Mg²⁺による凝固・沈殿のリスク
高カリウム血症(K⁺ 6.0mEq/L以上) K⁺を含まない輸液を選択 K⁺ 4mEq/L含有で増悪リスク


この判断フローが基本です。施設の採用薬リストをあらかじめ確認し、緊急時に「どの商品名で発注するか」まで把握しておくと、現場でのロスタイムが減ります。電子カルテの採用薬マスタや薬剤部への確認を1アクションで完結できる体制を整えることが、医療安全の観点からも大切です。


参考リンク(乳酸リンゲル液と酢酸リンゲル液の比較エビデンス)。
Cochrane Library - 乳酸vs酢酸リンゲル液の比較レビューを"lactated Ringer's acetate"で検索可能(英語)






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