先発品が3種類あるのに、切断できるものとできないものがある。

ニトログリセリン貼付剤は、狭心症に対する経皮吸収型の硝酸薬として長く使われてきた薬剤です。有効成分は同じニトログリセリンでも、現在流通している先発品は複数存在し、製剤設計や薬価・含量が微妙に異なります。
現在、ニトログリセリン貼付剤の先発品として流通しているのは以下の3製品です。
| 製品名 | 販売元 | 含量 | 貼付面積 | 薬価(1枚) |
|---|---|---|---|---|
| ニトロダームTTS25mg | サンファーマ | 25mg | 10cm² | 42.2円 |
| バソレーターテープ27mg | 三和化学研究所 | 27mg | 14cm² | 40.8円 |
| ミニトロテープ27mg | キョーリンリメディオ | 27mg | 14cm² | 49.5円 |
かつてはミリステープ5mg(日本化薬)も先発品として存在しましたが、販売中止となっています。また、後発品(ジェネリック)として「ニトログリセリンテープ27mg「トーワ」」(東和薬品、薬価52.7円)が存在しますが、こちらはバソレーターテープ・ミニトロテープと同等の製剤です。
含量に注目すると、ニトロダームTTSだけが25mgで、他の先発品は27mgです。この差がそのまま吸収量の差になるわけではなく、重要なのは「24時間で放出される実量」のほうです。ニトロダームTTSの添付文書によれば、1枚25mg含有のうち24時間で放出されるのは約5mgに設計されています。つまり含量が多いほど効果が強いわけではありません。これが基本です。
薬価はミニトロテープ27mgが最も高く49.5円、バソレーターテープ27mgが40.8円と最も安い先発品です。ニトロダームTTSは10cm²とひとまわり小さいサイズ(バソレーター・ミニトロの14cm²と比較するとポストカード半分未満)でありながら、薬価は中程度の42.2円に設定されています。
バソレーターテープとミニトロテープは同じ不織布系の粘着剤制御型製剤として設計されており、識別コードも共通している部分があります。製剤本体の組成は非常によく似ているものの、添付文書の「高齢者への投与」に関する記載に差異があります。この点は後述するH3セクションで詳しく解説します。
ニトログリセリン貼付剤の薬一覧・薬価比較(日経メディカル処方薬事典)
先発品3製品の中で、製剤構造が根本的に異なるのがニトロダームTTS25mgです。バソレーターテープやミニトロテープが「粘着剤制御型」であるのに対し、ニトロダームTTSは「膜制御型(TTS:Transdermal Therapeutic System)」という独自の設計を採用しています。
ニトロダームTTSの構造は5層から成り立っています。外側から①支持体(アルミニウム箔積層フィルム)、②薬物貯蔵層(乳糖にニトログリセリンをしみ込ませシリコン油に懸濁した泥状物質)、③放出制御膜(高分子フィルム)、④粘着剤(シリコン系)、⑤ライナーという構成です。薬物貯蔵層には25mgものニトログリセリンが含まれていますが、その放出を制御膜がコントロールするため、24時間で放出されるのは約5mgにとどまります。
これはちょうど1枚の郵便切手ほどの面積(10cm²)の中に、緻密な放出コントロールの仕組みが組み込まれているイメージです。意外ですね。
一方、バソレーターテープやミニトロテープは粘着剤の中にニトログリセリンが分散されており、皮膚との接触面から直接吸収される設計です。貼付面積は14cm²で、ハガキの縦横のおよそ5分の1くらいのサイズ感です。
この製剤設計の違いが、実際の臨床場面で重要な違いを生む点があります。膜制御型のニトロダームTTSでは「半分に切断して使用する」ことは設計上できません。薬物貯蔵層が膜で包まれているため、切断すると泥状物質が露出し、放出制御が崩れてしまうからです。対して、粘着剤制御型のミニトロテープは添付文書に「テープを半分に切断して半量とする」ことが明記されています。つまり製剤の構造理解が処方・指導に直結します。
また、ニトロダームTTSはその支持体にアルミニウム箔を使用しているため、MRI検査・電気的除細動(DCショック)・ジアテルミー(高周波療法)の際には必ず事前に除去しなければなりません。この点は他の先発品と決定的に異なるポイントです。バソレーターテープやミニトロテープはMRI検査時に除去不要なリストに分類されています。
MRI検査時に除去が必要な経皮吸収製剤リスト(岐阜薬科大学附属薬局)
ニトログリセリンは主に肝臓で代謝されます。高齢者では一般的に肝機能が低下していることが多く、血中濃度が高い状態が持続しやすいため、頭痛・頭重・血圧低下といった副作用が出やすくなります。これは先発品3製品すべての添付文書に共通して記載されている注意事項です。
ただし、「高齢者への投与」セクションの具体的な指示には、製品間で見落としがちな違いがあります。
バソレーターテープ(および同等製剤のメディトランステープ)の添付文書には「高い血中濃度が持続し、頭痛、頭重、血圧低下等が発現する恐れがあるので注意する」と書かれており、具体的な投与量調整の方法は記載されていません。一方、ミニトロテープ27mgは同じ内容に加えて「少量(例えばテープを半分に切断して半量とする)から投与を開始するか、投与間隔を延長するなど、患者の状態を観察しながら慎重に投与する」という具体的な方法が記されています。
この差は実はかなり大きいです。
ミニトロテープを選ぶ意義の一つがここにあります。高齢の狭心症患者に対し、低用量から開始したい場合に添付文書の裏付けが得られるのはミニトロテープだけです。病棟での使用においても、「半量で開始する」という判断を文書上でサポートできるのは処方医・薬剤師にとってメリットがあります。薬剤選択の際の一つの判断材料として覚えておいて損はありません。
なお、ニトロダームTTSに関しては「半量での使用」が構造上できないため、高齢者で過度の副作用が出た場合の対応が限られます。これは処方前に把握しておくべきポイントです。
ニトログリセリン製剤には「耐薬性(ニトレート耐性)」という問題があります。これは硝酸薬を継続的に投与し続けると、血管平滑筋細胞内のSH基が消耗され、薬の効果が徐々に弱くなるという現象です。これが原則です。
先発品3製品すべての添付文書に「本剤使用中に本剤又は他の硝酸・亜硝酸エステル系薬剤に対し、耐薬性を生じ、作用が減弱することがある」という記載があります。ハリソン内科学では「有効反応を回復するために毎日最低8時間は休薬すべきである」とされており、耐薬性の管理は長期使用において無視できません。
ただし、先発品の中でニトロダームTTSだけは特別な耐性発現試験データを持っています。動物実験では14日間連続貼付後に血行動態変化の一部に減弱傾向が見られましたが、心虚血抑制作用(ST上昇抑制)の減弱は認められなかったとされています。耐性そのものの有無ではなく、「何に対しての耐性か」によって臨床的意義が変わってくるということです。
実際の処方現場では、夜間に貼付剤を外す運用(1日16時間貼付+8時間休薬)を採用しているケースもあります。ただし、休薬中の狭心症発作リスクが高まる可能性もあるため、個々の患者の状態に合わせた対応が必要です。急に自己中断しないよう患者指導を徹底することが求められます。添付文書にも「患者に医師の指示なしに使用を中止しないよう注意すること」と明記されています。
耐薬性への対応として、処方医と連携しながら貼付時間のルールを明確化する、あるいは長時間作用型の硝酸薬(例:硝酸イソソルビド製剤など)との使い分けを検討することが、薬剤師からの介入として有効な場面があります。
ニトログリセリン貼付剤に関するヒヤリハット事例として最も多いのが「重複貼付」です。複数の貼付部位に古いテープが残ったまま新しいものを貼ってしまうケース、あるいは施設入所中の患者で異なるスタッフが重複して貼付してしまうケースが報告されています。日本医師会の事例集では、狭心症のニトロダームTTSを腰痛目的と誤解した患者が全身に複数枚貼付し、急激な血圧低下で失神・緊急入院に至ったケースも紹介されています。これは痛いですね。
重複貼付が起きやすい理由の一つとして、ニトロダームTTS・バソレーターテープ・ミニトロテープはいずれも皮膚への粘着性が高く、目立ちにくいサイズ(10〜14cm²)であることがあります。特にニトロダームTTSは「皮膚によく付着する」と添付文書に明記されているほどです。
日常業務での確認ポイントは以下の3点に絞られます。
また、貼付部位について誤解があるケースも散見されます。「心臓の上に貼れば効きやすい」と患者が考えて胸部に固定し続けるケースがありますが、添付文書上は胸部・腰部・上腕部のどこに貼っても吸収に差はなく、毎回部位を変えることが皮膚刺激防止の観点から推奨されています。この点の患者指導は継続的に行う必要があります。
副作用の中では頭痛が5%以上の頻度で報告されており(日経メディカル情報)、特にニトロダームTTSの再審査時の集計では4,870例中98例(約2.0%)に頭痛が認められています。頭痛が強い場合には非ステロイド性抗炎症剤軟膏やステロイド軟膏の使用も視野に入りますが、まずは貼付部位の変更や1枚への減量を検討することが先決です。
患者指導不足による貼付剤過剰使用の医療事故事例(日本医師会)