半減期27時間のこの薬を、就寝前1回投与するだけで翌朝も運転能力が低下したままになります。

ニトラゼパム錠5mg「トーワ」は、東和薬品株式会社が製造販売するベンゾジアゼピン系の後発医薬品(ジェネリック)です。先発品であるベンザリン錠5mg(共和薬品工業)およびネルボン錠5mg(アルフレッサファーマ)と同一有効成分を持ち、生物学的同等性試験において先発品との有意差が認められていないことが確認されています。薬価は1錠5.7円であり、先発品の7.10〜7.80円(2025年改訂後)と比較してコスト面で優位性があります。
作用機序は、脳内のベンゾジアゼピン受容体を介してGABA受容体機能を亢進させ、神経抑制性に働くことにあります。外来刺激が視床下部や脳幹網様体を中心とする賦活系に流入し、さらに脳全体に広がっていくのを抑制することで催眠効果を発揮します。つまり、GABAの働きを強めることで睡眠状態に導く仕組みです。
本剤の規制区分は「向精神薬(第三種)・習慣性医薬品・処方箋医薬品」の3つが同時に適用されます。この3重の規制を意識することが適正使用の出発点となります。なお、YJコードは1124003F2249です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 一般名 | ニトラゼパム(Nitrazepam) |
| 薬効分類 | 睡眠誘導剤・抗痙攣剤(1124・1139) |
| 薬価 | 5.7円/錠(後発品) |
| 先発品 | ベンザリン錠5mg・ネルボン錠5mg |
| 規制区分 | 向精神薬(第三種)・習慣性医薬品・処方箋医薬品 |
| 処方上限 | 1回90日分を限度 |
製造販売後調査の安全性評価対象3,294例のデータでは、主な副作用発現率としてふらふら感5.10%、眠気4.19%、倦怠感3.64%、頭痛1.58%が報告されています。これらの数値は投与前の説明や観察計画を立てる際の基準として把握しておくべき情報です。
参考情報(東和薬品医療関係者向けサイト・ニトラゼパム錠5mg「トーワ」製品情報)。
東和薬品 医療関係者向けサイト|ニトラゼパム錠5mg「トーワ」製品情報(添付文書・IF・使用上の注意改訂等)
本剤の効能・効果は4つあります。①不眠症、②麻酔前投薬、③異型小発作群、④焦点性発作(焦点性痙攣発作・精神運動発作・自律神経発作等)です。睡眠薬として認識されがちですが、抗てんかん薬としての適応も持つことが大きな特徴です。これは重要ですね。
用法・用量は効能によって大きく異なります。
不眠症においては「就寝の直前に服用させること」という追加規定があります。また、服用後に就寝した後、睡眠途中において一時的に起床して業務等を行う可能性がある場合は服用させてはならないことが添付文書に明記されています。この一点は患者指導において見落とされやすい規定です。
てんかん治療における1日最高用量は15mgであり、不眠症の上限10mgと異なる点も注意が必要です。小児への使用に関しては、不眠症・麻酔前投薬では臨床試験が実施されていないため原則として対象外となりますが、てんかん発作では成人・小児共通の用法が設けられています。なお、乳幼児・小児のてんかん使用では気道分泌過多・嚥下障害(0.1%未満)の発現に特に注意が必要とされています。
参考(KEGG医薬品情報・ニトラゼパム添付文書全文)。
KEGG MEDICUSデータベース|ニトラゼパム錠5mg「トーワ」添付文書情報(用法用量・禁忌・相互作用等)
健康成人に5mgを空腹時単回経口投与した場合の薬物動態パラメータは、Cmax 75.8±28.9 ng/mL、Tmax 1.6±1.2時間、T₁/₂ 27.1±6.1時間です。この半減期が27時間超という数値が、臨床上の大きな課題につながります。
半減期27時間とはどういう意味か、具体的に考えてみましょう。たとえば夜23時に服用した場合、翌日の翌朝6時(就寝から7時間後)の時点でも、血中にはピーク時の約80%の薬物濃度が残存している計算になります。さらに翌々日の朝にも約50%が残存します。これが「持ち越し効果」の本質です。
持ち越し効果が問題になるのは、添付文書の重要な基本的注意にも記載の通り、「眠気・注意力・集中力・反射運動能力等の低下」が生じ、自動車運転等の危険を伴う機械の操作に影響するためです。これは要注意です。連日投与を続けると体内に蓄積し、4〜5日で定常状態(steady state)に達します。定常状態では就寝前だけでなく日中も一定の血中濃度が維持されるため、抗不安効果が日中に持続するというメリットがある一方、日中の眠気・ふらつきリスクも増大します。
血中濃度の変動は2段階の特徴を持ちます。服用後は急速に吸収・上昇し、最初の8時間ほどで血中濃度は約半分まで低下します。その後はゆっくりと排泄されていきます。主代謝経路はニトロ基の還元(7-アミノ体)とそれに続くアセチル化(7-アセトアミド体)であり、代謝部位の大部分は肝臓ですが一部は腸管壁でも行われます。このため肝機能障害患者では薬物の体内蓄積が起きやすくなります。腎機能障害患者においても同様に排泄遅延が生じるため注意が必要です。
参考(薬剤師向けニトラゼパム作用時間解説)。
薬剤師moz|「長く効く」特徴を理解し安全な眠りを支える思考の型(ニトラゼパムの半減期・持ち越し効果の実臨床での影響)
禁忌は3つです。①本剤成分に対する過敏症の既往歴、②急性閉塞隅角緑内障(抗コリン作用で眼圧が上昇するため)、③重症筋無力症(症状を悪化させるおそれがあるため)。この3点は投与前のスクリーニングで必ず確認すべき項目です。
重大な副作用として添付文書に記載されているものを整理します。
相互作用では特に3つに注意します。アルコールおよびフェノチアジン誘導体・バルビツール酸誘導体等の中枢神経抑制剤との併用は、中枢抑制作用が増強されるため、やむを得ない場合を除き避けること。MAO阻害剤も同様に本剤の代謝を抑制し作用を増強します。シメチジンも代謝抑制によって本剤の作用を増強するおそれがあります。
過量投与時の処置として、フルマゼニル(ベンゾジアゼピン受容体拮抗剤)の投与が選択肢となりますが、使用前に必ずフルマゼニルの使用上の注意を確認することが要件として記されています。また、フルマゼニルが既に投与されている患者へ本剤を新たに投与する場合は、本剤の鎮静・抗痙攣作用が変化・遅延するおそれがある点も見落とせません。
高齢者への投与については、添付文書の9.8項に「少量から投与を開始するなど慎重に投与すること。運動失調等の副作用が発現しやすい」と記載されています。しかし実臨床でしばしば見落とされるのが、この「発現しやすい」の背景にある薬物動態的な理由です。
高齢者では生理機能の低下によって分布容積が増加し、代謝・排泄能力も低下しています。つまり、同じ5mgを投与しても若年成人より血中濃度が高く・長く維持される状態になります。半減期27時間という数字は、若年健康成人のデータです。高齢者ではさらに長くなる可能性があることを念頭に置くべきです。
実際に懸念される転帰として、転倒・骨折との関連が複数の研究データで示唆されています。厚生労働科学研究の資料でも「ベンゾジアゼピン系薬剤は高齢者で感受性が亢進し、過鎮静・ふらつき・転倒・一過性健忘・認知障害・呼吸抑制・奇異反応・常用量依存などのリスクがある」と明示されています。日本老年医学会の「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」でも、ベンゾジアゼピン系薬剤は高齢者への慎重投与リストに含まれています。
痛いですね。ではなぜ、高齢者に成人量(5〜10mg)がそのまま処方されているケースがあるのでしょうか?
医療従事者が意識したい実践的なポイントは以下の通りです。高齢者へ処方・調剤する際は、①2.5mgからの低用量開始を検討すること、②ふらつき・転倒リスクの評価を入院・外来問わず定期的に行うこと、③入院中は夜間転倒インシデントの多い時間帯(服薬後2〜4時間、翌朝の起床時)に看護観察を強化することが求められます。さらに長期投与ではせん妄の誘発・悪化リスクも加わるため、可能であればオレキシン受容体拮抗薬(スボレキサントなど)への切り替えを主治医と検討することも選択肢として共有することが、チーム医療の視点から有用です。
参考(高齢者の安全な薬物療法ガイドライン・抗不安薬の副作用に関する研究)。
厚生労働科学研究|高齢者に対する抗不安薬・睡眠薬の副作用発現リスクと転倒・せん妄・認知障害との関連(PDF)
ニトラゼパム錠5mg「トーワ」は向精神薬(第三種)に分類されます。第三種向精神薬の処方上限は「1回90日分を限度」です(厚生労働省告示第97号・平成20年3月19日付)。これが抗てんかん薬としての適応が認められている本剤の大きなメリットのひとつとなっています。
多くのベンゾジアゼピン系睡眠薬(例:トリアゾラムなど第二種向精神薬)は30日制限が課せられます。一方でニトラゼパムは、同じベンゾジアゼピン系でも第三種向精神薬のため90日まで処方可能です。これは使えそうです。長期の不眠症や慢性のてんかん患者において受診頻度が高くなりにくいという点で、患者・医師双方にとって利点があります。ただし、90日処方が可能だからといって漫然と継続投与してよいわけではなく、治療上の必要性を随時検討することが義務付けられています。
向精神薬として調剤・管理する薬剤師には以下の実務上の注意があります。
また、抗てんかん薬として用いる場合に限り「漫然とした長期使用を避けること」という制限が一部緩和されていますが、それ以外の効能(不眠症・麻酔前投薬)では依然として長期漫然投与は避けるべき原則は変わりません。つまり90日処方が可能であることと、長期漫然投与してよいことは別の話です。これが原則です。
添付文書の「その他の注意」には、複数の抗てんかん薬に関する199のプラセボ対照臨床試験の検討において、自殺念慮・自殺企図の発現リスクが抗てんかん薬服用群でプラセボ群と比較して約2倍高く(服用群0.43%、プラセボ群0.24%)、1000人あたり約1.9人多いと計算された(95%信頼区間:0.6〜3.9)という重要な情報が記載されています。てんかん患者サブグループでは1000人あたり2.4人多い計算です。投与中は精神症状の変化にも注意を払う必要があります。
参考(処方日数制限に関する最新情報)。
ナナファーマシスト|処方日数制限のある医薬品一覧(令和6年度最新版)・向精神薬の30日/90日制限を確認