フェライトコアを付けるより、何も付けない方が音がいいことがあります。

「ナノクリスタルコア」という名前を聞いて、何か特殊な素材を想像した方も多いでしょう。実際にはドーナツ状の小さなコア部品で、ケーブルにスッと通すだけで使えるシンプルな製品です。つまり工具不要で取り付けられます。
このコアの中身は、特殊鉄系合金アモルファスをもとに、ナノサイズ(1ナノメートルは1メートルの10億分の1)の結晶構造を作り出した軟磁性材料です。フェライトコアが「黒い酸化鉄を固めた塊」であるのに対して、ナノクリスタルコアは結晶の大きさがフェライトの約500分の1という、まったく異なる世界の話になります。金属加工でいえば、粗削りと鏡面仕上げくらいの差があるイメージです。
このナノサイズの構造が、オーディオ用途で革命的な性能を生む理由になっています。結晶粒が細かくなると「磁区」と呼ばれる磁化の単位構造がスムーズに動き、余計なエネルギーロス(ヒステリシス損失・渦電流損失)が大幅に減少します。結果として、ノイズを吸収しながら音楽信号には極力手を加えないという、理想的なフィルタリングが実現します。
日本国内では、東静工業株式会社が開発したナノクリスタルコアをベースに、完実電気のPERFECTIONブランドが「AMORCRYSTAL(アモルクリスタル)」シリーズとしてオーディオアクセサリー製品を展開しています。この製品は2026年のオーディオアクセサリー銘機賞グランプリ、VGP2026ピュアオーディオ部門金賞・企画賞を受賞しており、業界内での評価も高い状況です。つまり技術力の裏付けがある製品です。
ナノクリスタルコアに関する技術的な背景については、以下の完実電気PERFECTIONの解説記事が詳しいです。
フェライトと何が違う?アモルクリスタルが持つノイズ除去性能の秘密(PERFECTION公式note)
金属加工現場で働く方の中には、「フェライトコアを使ったことがある」という方が一定数います。ケーブルに黒いリング状の部品を挟む、あの製品です。見た目も使い方もナノクリスタルコアと似ていますが、性能面ではまったくの別物と考えてください。これが基本です。
フェライトコアとアモルファスコアは主に「数MHz以上」の高周波帯域でノイズを除去します。一方、ナノクリスタルコアが最も力を発揮するのは「100kHz〜数MHz」という帯域です。この違いが重要で、音質に悪影響を与えるノイズのほとんどが集中するのがちょうどこの100kHz帯だからです。フェライトコアでは届かない帯域をピンポイントで対処できる点がナノクリスタルコアの強みです。
さらに見逃せない問題として、フェライトコア自体が音を「変質」させることがある点が挙げられます。オーディオマニアの間では長年指摘されてきた現象で、フェライトコアを付けると音が変に硬くなったり、余計なキャラクターが乗ったりという経験談が多く報告されています。音を改善しようとして、かえって劣化させてしまうわけです。そこが痛いところですね。ナノクリスタルコアはこの問題を大幅に回避し、信号そのものに干渉せずノイズ成分だけを選択的に吸収するよう設計されています。
具体的な数値を見ると、PERFECTIONのAmorcrystal Splitを用いたFFT解析では、以下の減衰量が測定されています。
平均減衰量は−7.5dBで、これはノイズエネルギーがおよそ「6分の1」に低減されたことを意味します。実際の音としては、背景のざわつきが静かになり、音像の輪郭がはっきりする変化として知覚されます。
コア材の詳細な比較測定については、EMCエンジニアによる以下の検証記事が非常に参考になります。
ノイズフィルタのコア材の影響:フェライト・ナノクリスタル・アモルファス比較(iNarte EMCエンジニアへの道)
金属加工の現場には、インバータ制御のモーターや溶接機、CNCマシン、LED照明といった機器が密集しています。これらの機器はそれぞれが高周波ノイズの発生源です。インバータ特有の「スイッチングノイズ」は特に厄介で、数十kHz〜数百kHzという帯域に強力なノイズを吐き出し続けます。これがオーディオに直撃します。
「でも、その周波数は人間の耳で聴こえないのでは?」という疑問は当然です。人間の可聴範囲は20Hz〜20kHzとされており、100kHz以上のノイズは確かに耳には届きません。ところがこのノイズが問題を起こすのは「耳に届く前の段階」、つまり電子回路の内部です。
現場のインターカムやBluetoothスピーカー、パソコンに接続したスピーカーシステムの内部には、トランジスタ・コンデンサ・オペアンプといったアナログ電子部品が入っています。これらの部品に100kHz以上の高周波ノイズが流れ込むと、部品の動作特性が微妙に乱れ、可聴域の音として「音痩せ」「こもり」「定位の崩れ」「S/Nの悪化」という形で出力されてしまうのです。つまり耳に聴こえない周波数のノイズが、聴こえる帯域の音質を間接的に劣化させます。これは意外ですね。
金属加工現場ではさらに「コモンモードノイズ」という種類のノイズが猛威を振るいます。これは信号ラインとグランド(GND)の間に生じるノイズで、プラスとマイナスの両方の導線に同じ方向で乗ってくるため、通常のノイズ対策では取り除きにくい性質を持ちます。コモンモードノイズが音質にとって特に有害とされているのはこのためです。
現場に高周波ノイズ源が多い場合、対策としては電源ケーブルとオーディオケーブルの配線を完全に分離し交差させること、スマホや無線機器を機器から最低2〜3メートル離すこと、そのうえでナノクリスタルコアを電源ケーブルに装着することが、順を追って効果的なアプローチです。
使い方自体は非常にシンプルです。ドーナツ状のコアの穴にケーブルを通す、それだけです。工具も作業時間もほとんど必要ありません。
ただし選ぶ際にはサイズ選定が最重要です。コアの穴の内径がケーブルの外径より小さいと通せないだけでなく、ケーブルの端子(コネクタ)部分が通過できるかどうかも確認が必要です。PERFECTIONのAMORCRYSTALシリーズで展開されている製品ラインは以下の通りです。
| 型番 | 内径(mm) | 外径(mm) | 価格(税込) | 主な用途目安 |
|---|---|---|---|---|
| AMC055C | 5.5 | 9.5 | ¥5,500(2個セット) | イヤホン・細いUSBケーブル |
| AMC050 | 5.0 | 11.7 | ¥3,850(2個セット) | 細めのオーディオケーブル |
| AMC064 | 6.4 | 14.4 | ¥4,400(2個セット) | 標準的なオーディオ・デジタルケーブル |
| AMC104 | 10.4 | 22.7 | ¥5,500(1個) | 電源ケーブル・太めのケーブル |
| AMC166 | 16.6 | 29.0 | ¥9,680(1個) | 太い電源ケーブル |
| AMC243 | 24.3 | 48.9 | ¥19,800(1個) | 極太ケーブル・業務用電源ライン |
どのケーブルに装着するかも重要な判断ポイントです。最も効果が高いとされているのは、デジタル機器(ネットワークプレーヤー・DACなど)に接続された電源ケーブルへの装着です。電源ラインから侵入するコモンモードノイズを源流でカットする戦略で、デジタル回路特有の高周波ノイズを狙い打ちできます。
コアを複数回巻いて効果を上乗せする方法もあります。ケーブルを穴に1回通す(シングル)よりも、2回・3回と巻くことでノイズ低減効果が増します。ただしやりすぎると別の副作用が出ることもあるため、耳で聴きながら最適なターン数を探すのが基本です。
なお、分割式の「Amorcrystal Split(PFT-AS140DI)」という製品も登場しており(税込38,500円)、既設のケーブルをコネクタを外さずにそのまま後付けできます。配線の取り回しが多い金属加工現場の設備には、この分割式の利便性が活きてくる場面があります。
金属加工の業務に長く携わっている方には、磁性材料や電磁気に関する基礎知識がある程度備わっているはずです。実はこの知識が、ナノクリスタルコアの仕組みを直感的に理解するうえで大きなアドバンテージになります。
コア材の透磁率という概念は、金属加工の電磁鋼板・珪素鋼板の選定にも関わる話です。ナノクリスタルコアはフェライトと比べて透磁率が極めて高く、インダクタンスも大きくなります。TDKラムダ社の検証データによると、ナノクリスタルコアのコモンモードチョークコイルのインダクタンスはフェライトコアの2〜5倍にのぼり、その差が10kHz帯で約22dBもの減衰量の差として現れています。これは使えそうです。
ただし、注意が必要な点もあります。ナノクリスタルコアは透磁率が高い分、大きなコモンモード電流が流れたときに「磁気飽和」しやすいという特性があります。測定データでは、300kHz帯において電流増加にともなって最大15dBの減衰量低下が確認されています。インバータ搭載機器のように定常的に大きなコモンモード電流が発生する環境では、アモルファスコアのほうが磁気飽和への耐性が高く、安定した性能を発揮するケースもあります。磁気飽和に注意すれば問題ありません。
現場での実用的な使い方として、以下の優先順位が推奨されます。
金属加工の品質管理において「測定なき改善はない」という考え方がありますが、オーディオノイズ対策でも同様です。PERFECTIONのAMORCRYSTALシリーズはFFT解析による周波数スペクトルの変化を数値で公開しており、「効いた感じがする」という感覚論ではなく測定値で効果を確認できる設計になっています。現場のエンジニアが好む、根拠のある対策といえます。
現場の音響環境改善を検討する際は、まず電源ライン周りのノイズ状況を把握することから始めるのが確実な一歩です。ノイズが多い環境かどうかは、インターカムやモニタースピーカーでザーという背景ノイズが気になるかどうかを目安にするとよいでしょう。
分割式ナノ結晶コアの技術背景とオーディオアクセサリー銘機賞グランプリ受賞の詳細については、リケンNPR株式会社の公式発表が参考になります。
世界初の分割式ナノ結晶コアのオーディオアクセサリーへの採用のお知らせ(リケンNPR株式会社)