「抵抗」は抵抗値だけ見ればいいと思っていると、加工不良の原因になります。

巻線抵抗器は、セラミック製のボビンにニクロム線やマンガン線をコイル状に巻きつけた構造をしています。この「コイル状に巻く」という構造そのものが、インダクタンスを生み出す根本的な原因です。電気的に見れば、巻線抵抗は「抵抗 R」と「インダクタンス L」が直列に接続された素子として振る舞います。
これを「寄生インダクタンス」と呼びます。回路設計の図面には存在しない成分ですが、実物の部品には確実に存在する厄介な隠れ成分です。
インダクタンスの大きさは、巻数の2乗に比例して増加します。たとえば巻数が2倍になると、インダクタンスは4倍になります。金属加工現場でよく使われる電力用の巻線抵抗(数W〜数十W級)では、この寄生インダクタンスが数μH〜数十μHに達することも珍しくありません。
つまり巻線抵抗が基本です。
インダクタンスの物理的なイメージとして、「電流変化に抵抗するブレーキ」があります。電流が急に増えようとしても、インダクタンスがその変化を妨げる方向に逆起電圧を発生させます。この性質が、高速なスイッチング制御の場面で問題を引き起こします。
KOA株式会社「抵抗器の留意点」|巻線抵抗器の寄生インダクタンスについての公式解説
インダクタンスLを持つ素子のインピーダンスZは、次の式で表されます。
$$Z = 2\pi f L$$
この式で大切なのは、周波数fが増えるほどZが比例して大きくなるという点です。たとえば寄生インダクタンスが5μHの巻線抵抗があるとします。直流(DC)では純粋に抵抗値Rのみが有効ですが、周波数が上がると事情が変わります。
- 10kHzのとき:$$Z_L = 2\pi \times 10{,}000 \times 5 \times 10^{-6} \approx 0.31\,\Omega$$
- 100kHzのとき:$$Z_L = 2\pi \times 100{,}000 \times 5 \times 10^{-6} \approx 3.14\,\Omega$$
- 1MHzのとき:$$Z_L = 2\pi \times 1{,}000{,}000 \times 5 \times 10^{-6} \approx 31.4\,\Omega$$
これは大きな問題です。
たとえば0.1Ωの電流検出用抵抗として巻線抵抗を使っていても、PWM制御のスイッチング周波数が100kHzに達すると、インダクタンス由来のインピーダンスがその30倍以上に膨らむことになります。こうなると、抵抗両端の電圧は「電流の大きさ」ではなく「電流の変化速度」を反映したものになってしまい、正確な電流検出ができなくなります。
金属加工機械に組み込まれたインバータやサーボドライバは、まさにこの高周波スイッチング環境で動いています。検出した電流値が歪んでいれば、モーターの回転数制御がズレ、最終的には加工精度の低下や不良品発生につながります。意外ですね。
KOA株式会社「インダクタの基礎」|インピーダンスと周波数の関係式を含む詳細解説
実際の現場でどんな問題が起きるのか、具体的に見ていきましょう。モーターの回転数を電流で制御しているシステムで、電流検出用として巻線抵抗を使った場合、寄生インダクタンスの影響によって電圧波形にリンギング(波紋のような振動)が生じます。
リンギングとは、電流が急変したときにインダクタンスと浮遊容量が共振し、波形がベル型に振動する現象です。アンテナのような働きをするため、周辺の制御回路に誤動作を引き起こすことも知られています。
金属加工機械でよく使われるPWMインバータのスイッチング周波数は、一般的に数kHz〜数十kHz、高性能なものでは100kHz以上に達します。この帯域で巻線抵抗が「純粋な抵抗」として機能しなくなると、電流検出値が乱れ、以下のような実害が発生します。
- 🔴 モーターの速度制御がハンチング(振動)し、加工面にムラが出る
- 🔴 電流保護回路が誤動作し、実際には過電流でないのにトリップする
- 🔴 EMC(電磁適合性)の問題を引き起こし、近隣機器が誤動作する
これが現場のリスクです。
Analog Devices社のアプリケーションノート(AN-280)によれば、「無誘導性」と称された巻線抵抗でも、最大20μHの残留インダクタンスが残る場合があると報告されています。「無誘導巻き」というラベルを信じるだけでは不十分であり、実測値の確認が必要です。
赤羽電具製作所「抵抗器の寄生インダクタンスを減らして電流検出の精度をアップ」|電流検出波形の歪みとその解決事例
では、インダクタンスの問題を解決するにはどうすればよいのでしょうか?
最も実績のある方法が「無誘導巻き(ノンインダクティブ巻き)」の採用です。これはバイファイラ巻きとも呼ばれ、2本の抵抗線を折り返して逆向きに巻く構造をしています。電流の方向が互いに逆になることで、それぞれの巻線が発生させる磁界が打ち消し合い、インダクタンスを大幅に低減できます。
原理をわかりやすく言えば、「右手が持ち上げようとする力を左手が押さえ込む」状態です。理想的な無誘導巻きでは磁界がゼロに近づき、インダクタンスもほぼゼロに抑えられます。
実際に無誘導巻きに切り替えたことで、モーター制御の電流検出波形のリンギングが消え、基板設計を変更せずに問題が解決した事例も報告されています。これは使えそうです。
巻線抵抗の選定では、以下の点を確認することが原則です。
| 確認項目 | 通常巻き | 無誘導巻き(バイファイラ) |
|---|---|---|
| 寄生インダクタンス | 数μH〜数十μH | 数nH程度(大幅低減) |
| 高周波適性 | 低い(数kHz以上で影響大) | 高い |
| 電流検出用途 | 原則不向き(低周波のみ可) | ◎ |
| コスト | 低め | やや高め |
| 代表的用途 | 負荷抵抗・電力消費 | 電流検出・精密回路 |
製品を探す際は、仕様書に「Non-Inductive(無誘導)」「Bifilar Winding(バイファイラ巻き)」と記載があるものを選ぶと、選定を絞り込みやすくなります。
DigiKey TechForum「誘導性抵抗器と無誘導抵抗器」|無誘導巻き構造の仕組みと特性比較
「うちの設備はどれくらいインダクタンスがあるのか」を把握したい場合、LCRメータを使って実測するのが確実な方法です。
LCRメータは、L(インダクタンス)・C(キャパシタンス)・R(抵抗)を交流信号で測定できる計測器で、日置電機(HIOKI)やIWATSUなどの国内メーカーが産業向け製品を多数出しています。測定手順はシンプルで、巻線抵抗の両端にLCRメータのプローブを当て、測定モードをL(インダクタンス)に設定して、実際の使用周波数に近い測定周波数を指定して測ります。
注意が必要なのは、測定周波数の設定です。1kHzで測ったインダクタンスと、100kHzで測ったインダクタンスは異なる値を示すことがあります。回路の実動作周波数に近い条件で測ることが条件です。
具体的な手順は次のとおりです。
1. LCRメータを用意し、クリップ型プローブを使う
2. 測定周波数を回路のスイッチング周波数に合わせる(例:PWM 20kHzなら20kHzで測定)
3. 測定モードを「Ls(直列インダクタンス)」に設定する
4. 巻線抵抗のリードにプローブをしっかり接触させる
5. 得られたL値をメモし、設計時の想定インピーダンスと比較する
ここで注意が必要です。
リード線を長くしたまま測ると、リード線自体のインダクタンスが加算されて正確な測定ができません。測定リードはできる限り短くし、プローブを直接部品に当てて測ることが重要です。測定値がmΩオーダーの電流検出用抵抗に対して、μHオーダーのインダクタンスが検出された場合は、使用環境を見直すサインです。
日置電機(HIOKI)「トランスのインダクタンス測定」|LCRメータによる実測手順と計算方法の解説