先発品エンペシド腟錠が薬価削除された今、処方を続けていると算定できない費用が発生します。

クロトリマゾール腟錠の先発品について、「エンペシド腟錠100mgはまだ処方できる」と思い込んでいる医療従事者が一定数いますが、実態は異なります。
バイエル薬品株式会社が製造販売していた先発品「エンペシド腟錠100mg」は、2024年3月末をもって経過措置期間が終了し、薬価基準から削除されました。つまり、現在クロトリマゾール腟錠として保険収載されているのは、富士製薬工業株式会社の後発品「クロトリマゾール腟錠100mg「F」」のみです。これが原則です。
エンペシドのブランドとして現在も存続しているのは、皮膚外用製剤の「エンペシドクリーム1%」(先発品、薬価11.3円/g)のみです。腟錠剤形においては事実上、先発品という選択肢は消滅しています。処方時に「エンペシド腟錠」の商品名を記載しても、もはや保険請求できません。
なお、クロトリマゾール腟錠100mg「F」の薬価は1錠あたり24.2円です。100錠包装(PTP 10錠×10シート)と500錠包装(PTP 10錠×50シート)で供給されています。有効期間は室温保存で3年間と確認されています。
以前は「エルシド腟錠100mg」という名称でも流通していましたが、医療事故防止の観点から2008年に販売名変更が行われ、さらに2018年に現在の「クロトリマゾール腟錠100mg「F」」に変更されています。こうした販売名の経緯を知らないと、電子カルテの旧薬品名での検索でヒットせず、混乱を招くことがある点も覚えておきましょう。
過去にはエンペシド腟錠について、海外製造工場の生産遅延を理由とする一時的な供給停止事例もありました(2018年頃)。後発品「F」は現在、富士製薬工業が単独で供給しているメーカーですが、医薬品の安定供給動向は定期的に確認しておくことが大切です。
参考:クロトリマゾール腟錠100mg「F」のインタビューフォーム(富士製薬工業)
クロトリマゾール腟錠100mg「F」インタビューフォーム(医薬情報QLifePro)
クロトリマゾールはイミダゾール系抗真菌薬に分類されます。作用機序の理解は、他の抗真菌薬との使い分けを適切に行ううえで不可欠です。
クロトリマゾールは真菌細胞の細胞膜・核膜などの膜系構造を構成するリン脂質分子に特異的な親和性を持って結合し、その透過性を変化させることで抗真菌作用を発揮します。加えて低濃度域では、真菌細胞膜の構造・機能維持に重要なエルゴステロールの合成を阻害する作用も示します。この2つの作用が組み合わさって、カンジダ属に対して優れた抗真菌活性を発揮するのです。
分子式はC22H17ClN2、分子量は344.84です。1973年、ドイツのバイエル社(現バイエル薬品)が、広い抗菌スペクトルを有する化合物として見い出したのが開発の起点です。日本では1976年に上市されており、半世紀近い使用実績を持つ安定した薬剤です。これは長い歴史です。
クロトリマゾール腟錠の保険適用の効能・効果は「カンジダに起因する腟炎および外陰腟炎」に限定されています。細菌性腟症やトリコモナス腟炎への適応はありません。症状が類似することがあるため、診断の確定が前提となります。
臨床成績としては、2重盲検比較試験を含む総計852例の試験データが示されています。腟炎では533例中472例(88.6%)、外陰腟炎では239例中211例(88.3%)という有効率です。およそ9割の患者に効果が得られる計算となり、局所治療薬として高い信頼性を持つと言えます。
フルコナゾール(経口)との使い分けについても確認しておきましょう。クロトリマゾール腟錠は局所療法の第一選択として位置づけられており、初回治療や軽〜中等症の外陰腟カンジダ症に適しています。腟錠の挿入が困難な症例や、治療抵抗性・再発を繰り返す例に対しては、フルコナゾール経口投与(2015年4月より保険適用)が選択肢となります。ただし、フルコナゾールは妊婦に対して禁忌であるため、妊娠の可能性がある場合は局所療法のクロトリマゾールが優先されます。
参考:性感染症診断・治療ガイドライン2016(日本性感染症学会)
性感染症診断・治療ガイドライン2016(日本性感染症学会・PDF)
用法・用量の正確な把握は、医師・薬剤師のどちらにとっても欠かせない基本です。
クロトリマゾール腟錠100mg「F」の用法は「1日1回1錠を腟深部に挿入する」であり、一般的な投与期間は6日間継続です。必要に応じて使用期間を延長することが可能とされています。これが原則です。
6日間継続しても症状の改善が見られない場合は、診察を受けるよう患者に説明することが重要です。また、症状が2〜3日で消失したように感じても、腟内にカンジダ菌が残存している可能性があるため、6日間の使用を必ず完遂するよう指導する必要があります。途中中断が再発につながる典型的なパターンです。
製剤の特性として、白色の発泡性腟用錠剤(長径12.4mm、短径7.4mm、厚さ3.6mm、質量300mg)であり、腟内の水分によって崩壊・発泡する設計になっています。ハガキの短辺が10cmであることを考えると、長径12.4mmという大きさは指先の第1関節程度のイメージです。挿入が難しいと感じる患者もいるため、挿入補助具の使用や、就寝前の使用を勧める工夫が服薬指導として有用です。
副作用として報告されているのは、局所の熱感・刺激感・そう痒・発赤・紅斑・疼痛などです。こうした症状は軽度であることが多いものの、発現した際に患者が薬の副作用と気づかずに使用を中断してしまうケースがあります。事前に「使用直後に若干の刺激感を覚えることがある」と説明しておくと、患者の不安軽減になります。これは使えそうです。
適用上の注意として「腟にのみ使用し、経口投与しないこと」が明記されています。薬局での交付時に、必ず腟挿入用であることと誤飲の危険性を伝えることが医療安全上も重要です。
再発性外陰腟カンジダ症(RVVC)は、年間4回以上の再発を繰り返す病態と定義されます。こうした患者に対しては、専門家コンセンサスとしてクロトリマゾールなどの局所療法を用いた導入治療後に、週1〜3回の局所維持療法を行うアプローチも提案されています。単回の処方で終わりにせず、再発リスクの高い患者にフォローアップの方針を持っておくことが質の高い診療につながります。
2024年10月から始まった長期収載品の選定療養制度は、医療従事者にとって大きな制度変更でした。意外ですね。
長期収載品の選定療養とは、後発品のある先発品を患者が希望して使用する場合に、先発品と後発品の薬価差の一部(4分の1相当額)を患者の自己負担として徴収する制度です。ただし、クロトリマゾール腟錠については、先発品「エンペシド腟錠100mg」が2024年3月末に薬価削除されているため、そもそも選定療養の対象品目から外れています。
選定療養の対象品目リストには「エンペシドクリーム1%」(クロトリマゾール、薬価12.3円/g)は掲載されていますが、腟錠剤形は先発品が薬価削除済みであることから、対象外となっています。処方時に選定療養の手続きが必要かどうか迷う必要はありません。腟錠については後発品「F」を処方すれば済みます。つまり手続き不要です。
一方で、現在も先発品が薬価収載されているエンペシドクリーム1%については、後発品(クロトリマゾールクリーム1%「イワキ」など)への変更推進や、先発品を処方する際の選定療養対応が求められます。外用クリームと腟錠で対応が異なるという点は、現場での混乱を招きやすいポイントです。
また、変更調剤の観点からも整理しておきましょう。後発品処方(変更不可でない場合)において、供給不安等の事情があれば先発品を調剤できる特例が2024年3月15日の事務連絡で示されています。ただしクロトリマゾール腟錠については、先発品が薬価削除済みのため、先発品への変更自体が不可能です。この点は混同しないよう注意が必要です。
参考:後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について(厚生労働省)
外陰腟カンジダ症は日常診療で頻繁に遭遇する疾患ですが、患者背景によって対応が変わる点があります。一つ一つ確認していきます。
妊婦への使用については、「妊婦(3か月以内)または妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用すること」と添付文書に明記されています。妊娠中の使用に関する安全性は確立されていないとされているため、リスクとベネフィットの慎重な評価が必要です。これは必須の確認事項です。
なお、妊娠4か月以降に限っては比較的使用しやすいとされる場合がありますが、これは添付文書の記載を超えた情報であり、臨床判断のうえで適切に対応してください。妊娠中はフルコナゾール経口が禁忌(催奇形性リスク)であるため、局所療法としてのクロトリマゾールが実質唯一の選択肢となる状況があります。
外陰腟カンジダ症の有病率はなかなか見えにくい数字ですが、疫学的には女性の生涯で75%が少なくとも1回は罹患すると言われます。4人に3人という計算です。そのうち40〜50%が再発を経験し、約10%が再発性外陰腟カンジダ症(RVVC)となるとされています。これだけ高頻度な疾患だからこそ、適切な薬剤選択と用法指導が患者の長期的な健康管理に直結します。
糖尿病患者や免疫抑制状態の患者では、通常の6日間治療で改善しない場合があります。こうした背景疾患を持つ患者への処方では、治療期間の延長や、フルコナゾールを含めた内服薬との併用、場合によっては感染症専門医へのコンサルトを検討する姿勢が重要です。厳しいところですね。
クロトリマゾールの禁忌は「本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者」のみです。相互作用については特に記載がなく、他剤との配合変化も該当しないとされていますが、局所使用であることから全身的な薬物相互作用のリスクは低いと考えられます。ただし、コンドームやダイアフラムなどのラテックス製品を腟錠の成分(添加剤)が劣化させる可能性がある点は海外製品のデータに見られる注意点であり、添付文書や患者への説明時に確認を怠らないことが望ましいです。
参考:PMDA 医療用医薬品情報検索(クロトリマゾール腟錠100mg「F」添付文書・IF)
クロトリマゾール腟錠100mg「F」添付文書情報(PMDA)
クロトリマゾール腟錠100mg「F」を正しく使いこなすには、同効薬との比較整理が欠かせません。これだけ覚えておけばOKです。
現在、外陰腟カンジダ症の治療に使用できる腟用抗真菌薬は複数存在します。代表的な薬剤を整理すると、以下のような位置づけになります。
| 薬剤名 | 一般名 | 投与期間 | 薬価(目安) | 特記事項 |
|---|---|---|---|---|
| クロトリマゾール腟錠100mg「F」 | クロトリマゾール | 6日間(延長可) | 24.2円/錠 | 現在唯一の保険収載腟錠。後発品のみ |
| オキナゾール腟錠300mg(先発) | 硝酸オキシコナゾール | 単回または3日間 | 参照要 | 1回投与で完結する製品もあり |
| フルコナゾール経口(ジフルカン等) | フルコナゾール | 単回 | 参照要 | 内服薬。妊婦禁忌。2015年保険適用 |
クロトリマゾール腟錠100mg「F」の大きな特徴の一つは「6日間継続投与」という点です。投与日数が短い単回投与型の腟錠と比べると、コンプライアンスの問題が生じやすいとも言えますが、一方で局所に抗真菌薬を連続投与することで確実な効果を狙える利点があります。
臨床データを再確認すると、852例の試験で腟炎88.6%・外陰腟炎88.3%という有効率は、局所療法として決して低い数字ではありません。日本のガイドラインでも第一選択として位置づけられています。
現在、クロトリマゾール腟錠100mg「F」の供給はDSJP(Drug Shortage Japan)等のデータベースでも定期的に確認できます。富士製薬工業単独メーカーである点から、供給不安があった際には迅速な代替策の検討が必要になります。今後も定期的に供給状況の把握を行うことを習慣にするとよいでしょう。
市販薬との関係も押さえておきましょう。クロトリマゾールを成分とする「エンペシドL(佐藤製薬)」は第1類医薬品として一般薬局でも販売されており、腟カンジダ症の再発時に患者が自己判断で購入するケースもあります。処方薬と市販薬の使い分けについて、患者から質問を受けた際に適切に回答できる準備をしておくことが、より質の高い医療従事者としての対応につながります。
参考:KEGG Medicus 医療用医薬品情報 クロトリマゾール

ビオスリーHi錠 270錠【指定医薬部外品】 整腸剤 酪酸菌 乳酸菌 糖化菌 おなかの不調 便秘 軟便 腸内フローラ改善 腸活