「AED」という略語でカルテに記載しても、もう国際基準では正式な用語ではありません。

医療従事者の多くがカルテや処方箋で「AED」という略語を当たり前のように使ってきました。しかし現在、国際抗てんかん連盟(ILAE)はこの略語の使用を事実上推奨しておらず、代わりに「ASM(antiseizure medication:抗発作薬)」という表現への移行を求めています。
なぜこの変更が求められたのでしょうか。AED(antiepileptic drug)という名称は「てんかんそのものに対抗する薬」というニュアンスを持ちます。しかし実際のところ、これらの薬が担う主な役割は「発作を予防・抑制すること」であり、てんかんという疾患を根治させる効果は原則として期待できません。つまり名称が薬の働きを正確に反映していなかったのです。
この点は臨床上も重要です。患者や家族から「この薬を飲めばてんかんが治るんですよね?」と聞かれた際、ASMという概念を理解しておくと、正確かつ誠実な説明がしやすくなります。つまり「発作を抑える薬であって、病気を完治させる薬ではない」というメッセージが伝わりやすくなります。
なお日本神経学会のてんかん学用語集(第6版、2021年)においても、AEDは旧用語として整理され、ASMおよびantiseizure drugが推奨されています。現場ではまだAEDという表記が混在していますが、論文や学術資料では確実にASMへの移行が進んでいます。略語を正確に理解しておくことは、情報収集の精度にも直結します。
略語の変化は単なる言い換えではありません。薬の役割への理解そのものが問われています。
▶ AEDからASMへの変更とその背景(脳神経内科・てんかん専門note記事)
抗てんかん薬は開発の歴史的な流れから「第1世代」「第2世代」「第3世代」に分類されることがあります。略語もこの世代区分に沿って整理すると、頭の中が整理しやすくなります。
まず第1世代(主に1950年代以前から使用)の代表的な薬と略語は以下のとおりです。
| 一般名 | 略語 | 主な商品名 |
|---|---|---|
| フェノバルビタール | PB | フェノバール、ワコビタール |
| フェニトイン | PHT | アレビアチン、ヒダントール |
| プリミドン | PRM | プリミドン |
| エトスクシミド | ESM | エピレオプチマル、ザロンチン |
| ジアゼパム | DZP | ホリゾン、セルシン、ダイアップ |
| アセタゾラミド | AZM | ダイアモックス |
第2世代は主に1980〜1990年代に登場した薬群です。
| 一般名 | 略語 | 主な商品名 |
|---|---|---|
| カルバマゼピン | CBZ | テグレトール |
| バルプロ酸ナトリウム | VPA | デパケン、デパケンR、セレニカR |
| ゾニサミド | ZNS | エクセグラン |
| クロナゼパム | CZP | リボトリール、ランドセン |
| クロバザム | CLB | マイスタン |
| ガバペンチン | GBP | ガバペン |
| トピラマート | TPM | トピナ |
| ラモトリギン | LTG | ラミクタール |
そして第3世代(2000年代以降に日本で承認が進んだ薬群)が以下です。
| 一般名 | 略語 | 主な商品名 |
|---|---|---|
| レベチラセタム | LEV | イーケプラ |
| ラコサミド | LCM | ビムパット |
| ペランパネル | PER | フィコンパ |
| ビガバトリン | VGB | サブリル |
| スチリペントール | STP | ディアコミット |
| ルフィナミド | RFN | イノベロン |
| エベロリムス | EVL | アフィニトール |
| フェンフルラミン | FFA | フィンテプラ |
| ブリーバラセタム | BRV | ブリビアクト |
世代が上がるにつれ、相互作用が少なくなり、腎排泄型の薬が増える傾向があります。これが基本です。
▶ 抗てんかん薬の一般名・略号・商品名一覧(国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター)
略語を暗記しているだけでは、臨床での活用には限界があります。発作型と略語を紐づけて整理することが、実務上の判断力を高める近道です。
焦点起始発作(旧:部分発作)の第一選択薬として広く用いられるのがCBZ(カルバマゼピン)です。焦点発作に対しては単剤で高い効果が期待でき、数十年にわたる使用実績があります。ただし後述するように、特定の全般発作には使ってはいけない薬でもあります。また近年はLEV(レベチラセタム)やLTG(ラモトリギン)が単剤または付加薬として焦点発作に広く使われるようになっています。
全般てんかんの発作に対しては、VPA(バルプロ酸ナトリウム)が第一選択薬として長く位置づけられてきました。強直間代発作・欠神発作・ミオクロニー発作と幅広い発作型をカバーできる点が特長です。ただし、VPAは催奇形性のリスクが他剤と比較して顕著に高く(他剤と比べ主要先天異常リスク約2.36倍との報告あり)、妊娠可能年齢の女性への使用には慎重な判断が必要です。
欠神発作に特有の第一選択薬として名前が挙がるのがESM(エトスクシミド)です。欠神発作以外の発作型には効果が限定的であり、適応を誤ると発作を抑えられないどころか悪化させるリスクもあります。
さらに注意が必要なのが「発作型によって絶対に使ってはいけない組み合わせ」です。たとえばCBZ(カルバマゼピン)は焦点発作には有効ですが、ミオクロニー発作や欠神発作には発作を悪化させることが知られています。GBP(ガバペンチン)も同様に、ミオクロニー発作では増悪のリスクがあります。略語を知っているだけでなく、その薬がどの発作型に適しているかを把握することが必須です。
▶ てんかんガイドライン第6章:症候群別治療ガイド(日本神経学会)
略語を知る医療従事者でも、各薬の意外な特性を見落としていることがあります。ここでは特に注意が必要な薬を3つ取り上げます。
CBZ(カルバマゼピン)の音感変化について、まず押さえておきたい事実があります。CBZには頻度不明の副作用として「音程の変化」が報告されており、その多くは半音〜1音低く聞こえるというものです。意外ですね。この副作用は絶対音感を持つ患者に気づかれやすいとされていますが、実は絶対音感の有無にかかわらず「なぜか半音下がる」と訴える患者が多いことも知られています。音楽家や音楽系の学習者にCBZを処方する際は、この点を事前に情報提供しておくことで不必要な不安を防ぐことができます。CBZを減量するとほぼ速やかに改善するため、ただちに中止が必要なわけではありませんが、患者との信頼関係に影響しうる副作用です。
LTG(ラモトリギン)と妊娠中の血中濃度については、多くの医師・薬剤師が見落としやすいポイントがあります。LTGは妊娠中に血中濃度が非妊娠時の約40%程度にまで低下することが報告されています。これは妊娠によってUGT1A4(グルクロン酸転移酵素)の活性が上昇し、LTGの代謝が加速されるためです。血中濃度が低下しているので、発作が増悪する可能性があります。LTGが発作を「よく抑えているから安心」と思っていた患者でも、妊娠を機に突然発作が再燃するケースがあります。妊娠中のLTG服用患者には、定期的な血中濃度測定と状況に応じた増量調整が必要です。これは原則です。
VPA(バルプロ酸ナトリウム)の催奇形性は、てんかん治療薬のなかで最も注意喚起されている副作用のひとつです。単剤療法における比較研究によれば、VPAは他の抗てんかん薬(LEV・LTGなど)と比べて主要先天異常のリスクが約2.36倍に上昇するとのシステマティックレビューが示されています。さらに、高用量(800〜1000mg以上)のVPA子宮内曝露を受けた児では、3歳・6歳時点のIQが他剤曝露群と比較して有意に低下していたという報告もあります。痛いですね。妊娠可能年齢の女性にVPAを処方・継続する際は、その必要性・代替薬の有無・妊娠計画について必ず情報共有することが求められます。
▶ バルプロ酸の先天異常リスク2.36倍に関するシステマティックレビュー(ケアネット)
第3世代の抗てんかん薬は、その作用機序が第1・2世代とは異なり、薬物相互作用が少ないことが大きな特長です。この点を押さえながら、略語・一般名・商品名・作用機序をセットで整理しましょう。
LEV(レベチラセタム:イーケプラ)は、シナプス小胞タンパク質2A(SV2A)に結合することでグルタミン酸の放出を調節します。従来のNaチャネル阻害とは異なる全く新しい機序で登場したため、Naチャネル阻害薬に不応の発作でも有効なケースがあります。相互作用がほぼなく、腎排泄型であるため高齢者や多剤服用患者に用いやすいのが特長です。これは使えそうです。ただし、易刺激性・攻撃性・精神症状などの副作用には注意が必要で、ビタミンB6の補充で改善する例も報告されています。
LCM(ラコサミド:ビムパット)は、電位依存性Naチャネルの「緩徐な不活性化」を選択的に促進するという、他のNaチャネル阻害薬と異なるメカニズムを持ちます。従来のCBZやPHTが「急速な不活性化」を促進するのに対し、LCMは別のドア(緩徐な不活性化)から作用します。この差が「他剤への相互作用が少ない」という使いやすさにつながっています。錠剤・ドライシロップ・注射製剤の剤形があり、経口投与が困難な場合でも使用できる点が臨床上便利です。
PER(ペランパネル:フィコンパ)は、AMPA型グルタミン酸受容体に作用する世界初の「AMPA受容体拮抗薬」として登場しました。他薬にない機序のため、難治性の焦点発作や全般強直間代発作に対する付加療法として期待されています。半減期が64〜105時間と非常に長く、1日1回就寝前の服用で安定した血中濃度が維持できます。一方、CBZやPHTとの併用ではPER自身の血中濃度が低下するため、これらの酵素誘導薬と組み合わせる際には用量の調整が必要です。CBZ・PHT併用時には最大12mgまでの増量が考慮される点も知っておくべき知識です。
作用機序を略語と一緒に覚えておくと、他剤との組み合わせを考える際の判断が格段にスムーズになります。略語が原則です。
▶ 新世代抗てんかん薬の一覧・作用機序・効能効果の比較(ファーマシスタ)