日医工の出荷調整で後発品を変更しても、薬価差益がゼロになる薬局が続出しています。

後発医薬品(ジェネリック医薬品)への変更は、医師が処方箋に「変更不可」と記載していない限り、薬剤師の判断で行えます。これが原則です。
ただし「変更不可」欄に署名・捺印がある場合は、薬局側での後発品変更は認められません。患者への説明義務を果たした上で変更する手順が求められます。厚生労働省の「処方箋様式の解説」でも、署名の有無が変更可否を分ける最重要ポイントとされています。
日医工は国内ジェネリックメーカー最大手の一角として長らく医療現場を支えてきましたが、2021年2月に富山県から業務停止命令を受けたことが転機となりました。不正製造問題が発覚し、その後複数の品目で自主回収・出荷調整が相次いだのです。
問題の深刻さを示す数字があります。日医工が出荷調整・販売中止を発表した品目数は、2022年から2024年にかけて累計で500品目以上に上りました。これは同社が扱う後発品の3割近くに相当する規模です。医療機関・薬局にとって代替品の確保が急務となったのは、この規模感からも明らかです。
🏭 日医工の業務停止命令の概要については、以下の厚生労働省資料が参考になります。
厚生労働省:医薬品・医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する情報(薬機法関連)
後発品変更は「できる」だけでなく「正しい手順で行う」ことが条件です。
「日医工の品が来ない」という事態は、2021年以降ほぼすべての薬局・病院薬剤部で経験されています。意外なのは、影響が広範囲に及ぶだけでなく、長期化していることです。
2024年時点でも日医工は経営再建の途上にあり、親会社が変わりながら生産体制の立て直しを図っています。具体的には、日本政策投資銀行などの支援のもと、品目絞り込みと製造ラインの整理が進められています。しかし医療現場にとっては、代替品への切り替えが依然として定常業務のひとつとなっています。
出荷調整の影響が特に大きかった薬効群は、降圧薬・抗菌薬・消化器系薬剤などです。これらは処方数が多く、1品目が欠品するだけで1日に数十人規模の患者対応に影響が出ることがあります。
薬局経営への打撃も無視できません。後発品の薬価差益(仕入れ価格と薬価の差額)は、多くの薬局で経営の柱のひとつです。日医工品目を他社品に切り替えた場合、仕入れ先交渉が間に合わず差益がほぼゼロになるケースが報告されています。これは1薬局当たり年間数十万円規模の損失につながることもあります。痛いですね。
📊 後発品の供給不安定問題の全体像は、以下の資料が参考になります。
厚生労働省:後発医薬品の使用促進について(供給問題への対応を含む)
つまり、代替品への切り替えはスピードと差益管理の両立が求められるということです。
日医工品目に限らず、後発品変更を行う際に薬剤師が必ず確認すべき手順があります。この手順を省略すると、調剤過誤や患者クレームに直結するリスクがあります。
まず確認すべきは、処方箋の「変更不可」欄の記載です。記載がなければ後発品変更は薬剤師の権限で可能ですが、患者への説明と同意確認は必須のステップです。ただし変更後は処方医への情報提供(変更した旨の連絡)も義務づけられています。これが条件です。
次に確認すべきは、成分・規格・剤形の同一性です。後発品への変更は「同一成分・同一剤形・同一規格」が原則で、これを外れる場合は医師への疑義照会が必要になります。たとえば、錠剤からOD錠(口腔内崩壊錠)への変更でも、医師の確認を取る薬局が増えています。これは患者の服薬コンプライアンスに直結するためです。
疑義照会の件数は、後発品の供給不安定が続く中で増加傾向にあります。日本薬剤師会の調査では、後発品の変更に伴う疑義照会が月に1件以上発生している薬局が全体の6割を超えるというデータもあります。疑義照会は手間がかかりますが、これはリスク管理の正しい手順です。
疑義照会の記録は薬歴に残す義務があります。「口頭で確認した」だけでは不十分で、記録のない疑義照会は後日のトラブル時に薬局側の責任を問われる原因になります。記録は必須です。
日本薬剤師会:薬剤師の業務・倫理に関するガイドライン(疑義照会の手順を含む)
どういうことでしょうか?一言でまとめると「変更する権限がある」ことと「変更していい」ことは別の話だということです。
日医工品目の代替品選定では、「何でもよいから他社品に切り替えればいい」という考え方では不十分です。患者への影響と現場の安全性を最優先にした選定プロセスが求められます。
代替品を選ぶ際の優先順位は、以下の観点で考えると整理しやすくなります。
添加物の確認は、思わぬトラブルの原因になります。同じ主成分でもメーカーによって乳糖・デンプン・着色料の種類が異なるためです。乳糖不耐症や小麦アレルギーを持つ患者への処方変更では、添加物確認を怠ると体調不良の原因を見落とす可能性があります。
実際に使えるツールとして、日本ジェネリック製薬協会が公開している「添加物確認ツール」があります。品目名・メーカー名で検索すると含有添加物の一覧が表示され、代替品選定の際の参考になります。これは使えそうです。
日本ジェネリック製薬協会:ジェネリック医薬品の情報・添加物データベース
代替品が「同一成分・同一規格」であっても、患者ごとの個別確認が安全な変更の前提です。
日医工問題を契機に、多くの医療機関・薬局が後発品管理の体制を見直しています。これは単なる危機対応ではなく、今後の安定経営にも直結する業務改善です。
まず有効なのは「複数社採用リスト」の整備です。1品目につき代替候補を2社以上リストアップしておくことで、1社が出荷調整に入っても即座に切り替えが可能になります。リスト更新は月1回の棚卸と連動させるとコストが最小限で済みます。これが基本です。
次に重要なのが「医師との事前合意形成」です。後発品変更を頻繁に行う薬局では、処方医との定期的なコミュニケーションが調剤業務の円滑化に直結します。具体的には「この成分群はOD錠への変更も認める」「変更の際は電話不要でFAX報告でよい」など、個別医師との申し合わせを書面で残しておくことが効果的です。
薬局の後発品使用率は、2024年度の診療報酬改定においても指標として維持されています。後発品使用体制加算の要件(使用率80%以上など)を満たすためにも、特定のメーカーへの依存度を下げる分散採用は、加算維持の観点からも意義があります。
| 加算区分 | 後発品使用率の要件(目安) | 算定点数 |
|---|---|---|
| 後発品使用体制加算1 | 90%以上 | 高 |
| 後発品使用体制加算2 | 85%以上 | 中 |
| 後発品使用体制加算3 | 75%以上 | 低 |
※診療報酬の詳細は改定時期により変更されるため、最新の告示・通知を必ず確認してください。
厚生労働省:診療報酬改定に関する資料(後発品使用体制加算の要件を含む)
業務改善のゴールは「1つのメーカーに頼らない体制を仕組みとして作ること」です。これが日医工問題から医療現場が得た最大の教訓といえます。日医工の問題を他人事で終わらせず、自施設のリスク管理に活かす視点が今まさに求められています。