重症喘息の治療において、テゼペルマブ(抗TSLP抗体)は「Type 2炎症のある患者にしか効かない」と思っていませんか? 実は好酸球数やFeNO値が低い「non-Type 2」患者でも一定の有効性が報告されています。

TSLP(胸腺間質性リンホポエチン)は、気道上皮細胞から放出されるサイトカインであり、アレルゲンや環境汚染物質などの外的刺激に応答して産生されます。このTSLPが「炎症カスケードの上流」に位置しているという点が、テゼペルマブの最大の特徴であり、従来の生物学的製剤との根本的な違いです。
IL-5やIL-4/IL-13を標的とした既存の生物学的製剤は、炎症反応の「中流・下流」を遮断するアプローチです。一方、テゼペルマブはTSLP自体を直接中和することで、Th2細胞、ILC2(2型自然リンパ球)、マスト細胞、樹状細胞など複数のエフェクター細胞の活性化を同時に抑制します。つまり、炎症のスイッチそのものをオフにするイメージです。
このアップストリームへの介入が意味するのは、好酸球性・好中球性・混合型など、炎症の表現型を問わず作用できる可能性があるということです。これは重要な点ですね。実際に、NAVIGATOR試験(The New England Journal of Medicine, 2021)においては、末梢血好酸球数300cells/μL未満という「non-Type 2」に相当するサブグループにおいても、年間喘息増悪率の有意な低下(約41%減)が示されています。
テゼペルマブの分子構造はIgG2型の完全ヒト型モノクローナル抗体であり、皮下注射で210mgを4週ごとに投与します。消化管での分解を受けないため、生物学的製剤に共通する特性として皮下投与が選択されています。半減期は約26日と比較的長く、定常状態到達までに約12週を要するとされています。
NAVIGATOR試験は、重症喘息患者1,061名を対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照第Ⅲ相試験です。主要評価項目である年間喘息増悪率は、テゼペルマブ群で0.93、プラセボ群で2.10であり、56%の有意な減少が確認されました(rate ratio 0.44、95%CI 0.37–0.53)。数字で見ると、年間に約2回起きていた増悪が約1回以下になるイメージです。
副次評価項目においても注目すべき結果が出ています。FEV1(1秒量)の改善はテゼペルマブ群でプラセボ群と比べ+0.13Lの有意な改善を示しました。ACQ-6スコア(喘息コントロール質問票)および喘息に関連したQOLスコア(AQLQ)でも有意な改善が認められています。これは使えそうです。
サブグループ解析では、好酸球数・FeNO・アレルギー感作の有無にかかわらず、一貫して増悪抑制効果が認められた点が特に重要です。既存のIL-5抗体(メポリズマブ、ベンラリズマブ)は好酸球数≧150〜300cells/μLを目安とするのに対し、テゼペルマブは好酸球数が低値(<300cells/μL)の患者でも有効性が示されている点は、臨床上の大きな差別化点となります。
安全性プロファイルについては、注射部位反応が最も頻度の高い有害事象(テゼペルマブ群13%、プラセボ群7%)であり、重篤な有害事象の発現率は両群間で差がなかったとされています。アナフィラキシーの報告も試験期間中に限られた症例に留まっており、現時点では忍容性は良好と評価されています。安全性の確認は必須です。
日本では2023年にテゼペルマブ(製品名:テズスパイア®)が重症喘息に対して承認されました。国内の添付文書における適応は「既存治療(吸入ステロイド薬など)で効果不十分な重症又は難治性喘息」とされており、好酸球数やFeNOなどのバイオマーカー値による制限は設けられていません。この点が他の生物学的製剤と大きく異なります。
実臨床における患者選択のポイントとして、以下の点が参考になります。
なお、患者選択においては、バイオマーカーだけでなく増悪歴・OCS(経口ステロイド)依存度・QOL障害の程度などを複合的に評価することが求められます。特に「年間2回以上の増悪歴」または「OCS維持療法中」の患者は、生物学的製剤の導入を積極的に検討する対象と考えられています(GINA 2024ガイドライン)。
保険適用においては、重症喘息に対する生物学的製剤として所定の要件を満たす必要があります。実際の運用では、呼吸器内科専門医や一定の施設基準を有する医療機関での処方が想定されており、投与開始前に患者・家族への十分なインフォームドコンセントが必要です。
日本呼吸器学会:喘息診療ガイドライン(最新版)
※日本呼吸器学会による喘息の診断・治療に関する公式ガイドライン。生物学的製剤の選択基準や段階的治療の詳細が記載されています。
現在、日本で承認されている喘息向け生物学的製剤は複数あり、それぞれ作用標的と適応バイオマーカーが異なります。整理が重要です。
| 製剤名 | 標的 | 主なバイオマーカー目安 | 投与経路 |
|---|---|---|---|
| テゼペルマブ(テズスパイア®) | TSLP | 制限なし(non-T2にも有効性あり) | 皮下注・4週ごと |
| メポリズマブ(ヌーカラ®) | IL-5 | 好酸球≧150cells/μL | 皮下注・4週ごと |
| ベンラリズマブ(ファセンラ®) | IL-5受容体α | 好酸球≧300cells/μL | 皮下注・初期3回は4週ごと、以降8週ごと |
| デュピルマブ(デュピクセント®) | IL-4受容体α | 好酸球≧150またはFeNO≧25 | 皮下注・2週ごと |
| オマリズマブ(ゾレア®) | IgE | 総IgE・体重による計算式 | 皮下注・2〜4週ごと |
テゼペルマブの最大の優位点は「バイオマーカーによる制限がない」という点です。これはnon-Type 2の患者や、好酸球数とFeNOがいずれも基準値を下回るためにIL-5抗体やデュピルマブを使いにくかった症例に対して、新たな選択肢を提供します。
一方で、Type 2バイオマーカーが明確に高い患者(例:好酸球≧500cells/μL)においては、IL-5抗体との直接比較試験はまだ十分ではなく、どちらが優れているかのエビデンスは現時点では確立されていません。この点は率直に伝えることが大切です。
また、コストの観点では、テゼペルマブの薬価は1バイアル(210mg)あたり約18万円台とされており、他の生物学的製剤同様に高額療養費制度の活用が前提となります。患者への経済的負担を事前に説明しておくことが、治療継続率を高める上で非常に重要です。
医薬品医療機器総合機構(PMDA):テズスパイア皮下注用210mg 審査報告書
※テゼペルマブの国内承認審査における有効性・安全性・薬理データの詳細が記載されています。
テゼペルマブを導入した後の患者管理において、モニタリングの視点を持つことが臨床成果に直結します。まず基本が大切ですね。
投与開始後3〜6ヶ月の評価が特に重要です。NAVIGATOR試験では、増悪率の差が12週以降から明確になっています。そのため、導入後3ヶ月時点でのACQスコア・増悪の有無・肺機能検査を組み合わせて評価し、6ヶ月時点で治療継続の妥当性を再評価するフローが推奨されています。
モニタリングで確認すべき主な指標は以下の通りです。
副作用のモニタリングとして特に重要なのは、注射部位反応とアレルギー反応の観察です。初回投与後30分程度は患者を観察できる環境を整えることが望ましいとされています。アナフィラキシーの頻度は低いものの、対応準備は必須です。
また、他の生物学的製剤からのスイッチ後の観察期間についても注意が必要です。前剤のウォッシュアウト期間については現時点で明確なコンセンサスはなく、患者状態に応じた個別判断が求められます。投与間隔・投与量の変更は自己判断では行わないよう、患者への教育も欠かせません。
重症喘息患者の治療継続率を高めるためには、副作用への早期対応だけでなく「治療の意義と期待される効果」を丁寧に説明することが重要です。患者が治療の意味を理解していると、長期投与への意欲が維持されやすく、結果的にQOLの改善につながることが多くの報告で示されています。
アレルギー(日本アレルギー学会誌):喘息生物学的製剤に関する最新論文
※テゼペルマブを含む喘息生物学的製剤の最新知見・臨床報告が掲載されています。実臨床への応用に役立つ情報が豊富です。