好酸球数が正常範囲内でも、ベンラリズマブが著効する症例が約30%存在します。

ベンラリズマブは、インターロイキン-5受容体のαサブユニット(IL-5Rα)に対するヒト化モノクローナル抗体です。2018年に日本で承認され、重症好酸球性喘息の治療薬として広く使われるようになりました。作用機序を正確に理解することが、臨床での適切な患者選択につながります。
IL-5はインターロイキンファミリーに属するサイトカインであり、好酸球の分化・増殖・生存・活性化を制御する中心的な役割を担っています。気道炎症において好酸球が過剰に活性化すると、主要塩基性タンパク(MBP)や好酸球カチオン性タンパク(ECP)などの細胞毒性物質が放出され、気道上皮に障害を与えます。つまり、IL-5シグナルを遮断することが好酸球性炎症の制御に直結します。
ベンラリズマブの特徴は、IL-5そのものではなくその受容体αサブユニットに結合する点です。受容体に結合したベンラリズマブは、NK細胞や単球上のFcγRIIIaを介した抗体依存性細胞傷害(ADCC)を誘導します。これにより、IL-5シグナルの遮断にとどまらず、好酸球・好塩基球を細胞レベルで排除する「二重の作用」を発揮します。
この点が、IL-5に直接結合するメポリズマブとの最大の違いです。臨床試験SIROCCO試験・CALIMA試験では、ベンラリズマブ投与後に末梢血好酸球数がほぼゼロ(中央値0/μL)まで低下することが報告されています。これは使えそうです。一方、メポリズマブではおおむね80〜90%の低下にとどまります。
また、IL-5Rαは好酸球・好塩基球にほぼ限定的に発現しているため、標的外への影響が少ない点も安全性プロファイルに寄与しています。好酸球の組織への動員そのものを遮断することで、気道リモデリングの抑制効果も期待されています。
日本における適応は「既存治療で効果不十分な重症または難治性の好酸球性喘息」です。具体的には、中用量以上の吸入ステロイド(ICS)と長時間作用性β2刺激薬(LABA)を含む3剤以上の標準治療を行っても症状がコントロールできない患者が対象となります。
承認時の目安として、末梢血好酸球数300/μL以上が推奨されるバイオマーカーとして用いられることが多いです。ただし、これが絶対条件ではありません。実際、300/μL未満の患者でも臨床的に有効性が認められた報告があります。好酸球数だけが条件です、とは言えない状況です。
患者選択の際に確認すべき主なポイントは以下の通りです。
| 確認項目 | 推奨値・目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 末梢血好酸球数 | 300/μL以上が望ましい | 150/μL以上でも効果報告あり |
| 年間増悪回数 | 2回以上 | 経口ステロイド使用歴を確認 |
| ICS用量 | 中〜高用量 | フルチカゾン換算500μg/日以上 |
| 喘息コントロール | ACT/ACQで評価 | ACT≦19または ACQ≧1.5が目安 |
| アトピー合併 | IgE値確認 | IgE高値ではオマリズマブ併用検討 |
好酸球数が低値であっても、喀痰好酸球数(≧3%)や呼気一酸化窒素(FeNO≧25ppb)で好酸球性炎症が確認できる場合は、投与を検討する価値があります。バイオマーカーの組み合わせで判断することが原則です。
なお、副鼻腔炎・鼻ポリープ(慢性副鼻腔炎with鼻茸)を合併している重症喘息患者では、好酸球性炎症が全身性に広がっていることが多く、治療反応性が高い傾向にあります。こうした患者ではFeNOが高値(50ppb超)を示すことも多く、使用前のFeNO測定は重要な参考指標となります。
ベンラリズマブの標準的な投与レジメンは、最初の3回(0・4・8週)を4週ごとに皮下投与し、以降は8週間隔で維持投与を続けます。維持期には年間約6回の投与で済むため、患者の通院負担が大幅に軽減されます。これは大きなメリットです。
1回あたりの投与量は30mg(1mL)で、腹部・大腿部・上腕部のいずれかに皮下注射を行います。医療機関での投与が基本ですが、十分な訓練を受けた患者には自己投与(在宅)も認められており、専用の自己注射用オートインジェクター(ファセンラ® プレフィルドシリンジ)が利用可能です。
実臨床で注意すべき管理ポイントをまとめます。
- 🗓️ 投与間隔の管理:4週期から8週期へ切り替えるタイミングは「3回目投与の4週後(つまり12週後)」。このカウントを誤ると治療効果に影響します。
- 🌡️ 保管条件:2〜8℃で冷蔵保管。投与前に室温(25℃以下)に30分程度置いてから使用することで、注射時の疼痛が軽減されます。
- ⏱️ 効果判定のタイミング:末梢血好酸球数は初回投与後2〜4週以内にほぼゼロまで低下します。一方、臨床症状(喘息コントロール・増悪頻度)の改善は6〜12ヶ月で評価します。
- 🔄 他の生物学的製剤からの切り替え:メポリズマブからベンラリズマブへの切り替えは可能です。前剤の最終投与から4週間以上空けることが推奨されています。
- 📋 経口ステロイドの減量:ベンラリズマブ投与安定後(通常6〜12ヶ月)に経口ステロイドの漸減を検討します。急な中断は副腎不全リスクがあるため注意が必要です。
投与後のフォローアップでは、ACT(喘息コントロールテスト)やスパイロメトリー(FEV₁)の定期測定に加え、患者の自覚症状と増悪回数の記録を継続することが重要です。6ヶ月時点での評価が一般的な基準となります。
なお、妊娠・授乳中の使用については安全性データが限られており、治療の必要性と母体・胎児へのリスクを慎重に評価した上で判断する必要があります。
重症喘息に対する生物学的製剤の選択は、バイオマーカープロファイルと患者背景に基づいて行います。現在日本で使用可能な主要製剤を比較すると、それぞれの特性が浮かび上がります。
| 製剤名 | 標的 | 主なバイオマーカー | 投与間隔(維持期) |
|---|---|---|---|
| ベンラリズマブ(ファセンラ®) | IL-5Rα | 好酸球≧300/μL | 8週ごと |
| メポリズマブ(ヌーカラ®) | IL-5 | 好酸球≧150/μL | 4週ごと |
| デュピルマブ(デュピクセント®) | IL-4Rα(IL-4/IL-13共通) | 好酸球・FeNO・IgE | 2週ごと |
| オマリズマブ(ゾレア®) | IgE | IgE 30〜1500 IU/mL | 2〜4週ごと |
| テゼペルマブ(テゼスパイア®) | TSLP | eosinophilic/非eosinophilic両方 | 4週ごと |
好酸球数が高値で、特に末梢血好酸球が500/μL以上の場合はベンラリズマブが第一選択として考慮されることが多いです。ADCCによる好酸球の完全枯渇効果が最大限に発揮されるためです。
一方、アレルギー性喘息の合併(IgE高値・皮膚テスト陽性)が顕著な場合はオマリズマブが適切です。また、アトピー性皮膚炎や慢性副鼻腔炎(with鼻茸)を合併する2型炎症の「多臓器型」ではデュピルマブの適応が広がっています。デュピルマブはこれらの合併症すべてに保険適応を持つ唯一の製剤であるため、複数疾患を抱える患者への一剤化という観点で有利です。
テゼペルマブはTSLP(胸腺間質性リンパ球新生因子)を標的とし、2型・非2型炎症の両方に効果を発揮するため、好酸球数が低くても好酸球性炎症の関与が疑われる難治例に用いられる場面が増えています。これは意外ですね。
複数のバイオマーカーが陽性の場合の優先順位については、2024年のGINA(Global Initiative for Asthma)ガイドライン改訂版でも明確な推奨アルゴリズムが提示されており、参考にすることが推奨されます。
GINAガイドライン2024年改訂の概要はこちらで確認できます(英語)。
GINA Report – Global Initiative for Asthma
ベンラリズマブは現在、重症好酸球性喘息への適応しか持っていません。しかし、臨床試験の場では適応拡大への研究が着実に進んでいます。医療従事者として知っておくべき「次の一手」の情報です。
好酸球性食道炎(EoE:Eosinophilic Esophagitis)は、食道粘膜に好酸球が浸潤する慢性アレルギー性疾患で、嚥下障害・胸痛・食物嵌頓を繰り返す難治性疾患です。日本でも患者数が増加傾向にあり、2020年代に入って認知度が高まっています。EoEの病態においてもIL-5が好酸球動員に関与していることが明らかになっており、抗IL-5R抗体の有用性が注目されています。
AstraZenecaが実施したPhase2試験(ESOS試験)では、EoEに対するベンラリズマブが食道好酸球数を対プラセボ比で有意に低下させたことが報告されています。結果は有望です。ただし2025年8月時点では日本国内での適応取得には至っておらず、今後の第3相試験の結果が待たれます。
また、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA:旧称チャーグ・ストラウス症候群)においても、ベンラリズマブの有効性を検討するBEFIT-EGPA試験が行われています。EGPAはANCA関連血管炎の一つで、重症好酸球性喘息と末梢血好酸球増多を特徴とし、既存の免疫抑制療法でコントロール困難な例が少なくありません。
さらに、慢性好酸球性肺炎や好酸球増多症候群(HES)への応用も検討されており、IL-5Rαシグナルを標的とする生物学的療法のプラットフォームとしての可能性が広がっています。
臨床の現場では、こうした適応外使用(off-label)に関する情報を患者に伝える際には慎重な対応が必要です。適応外使用は医師の判断と患者同意のもとで行われるべきであり、保険適応外となる費用負担についても事前に十分な説明が求められます。
将来的な適応拡大に備えて、各製薬企業が公開している臨床試験情報(ClinicalTrials.gov)を定期的に確認しておくことが、最新の治療戦略を患者に提供するための基盤となります。
ClinicalTrials.gov – ベンラリズマブ関連試験一覧(英語)
日本呼吸器学会による重症喘息の診療指針も、患者管理の基準として参照価値があります。
日本呼吸器学会 – 診療ガイドライン一覧