沢瀉湯(コタロー)は病院のエキス製剤に収載されていないため、処方箋では出せません。
めまいに対して「漢方薬を一つ選べば良い」と思っている医療従事者は少なくありません。しかし実際には、めまいのタイプ・体質・随伴症状によって、最適な処方が大きく異なります。コタロー(小太郎漢方製薬)が展開するめまい関連の主な処方を整理すると、以下の通りです。
| 処方名 | 主な適応めまいタイプ | 主な随伴症状 |
|---|---|---|
| 沢瀉湯(たくしゃとう) | 回転性・激しいめまい、頭重 | みぞおちのつかえ、頭に物をかぶった感 |
| 苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう) | 立ちくらみ・ふらつき | 動悸、のぼせ、耳鳴り、起立時のふらり |
| 五苓散(ごれいさん) | 口渇・尿量減少を伴うめまい | 吐き気、浮腫、低気圧時の症状増悪 |
| 半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう) | 胃腸虚弱者の慢性めまい・頭痛 | 食欲不振、吐き気、冷えを伴う持続性めまい |
| 真武湯(しんぶとう) | 歩行時の浮動性めまい | 体の冷え、全身倦怠感、高齢者向き |
| 釣藤散(ちょうとうさん) | 高血圧傾向のめまい・頭痛 | のぼせ、肩こり、慢性頭痛 |
これは覚えておけばOKです。
各処方は「水毒(すいどく)」—— 体内の水分代謝が乱れた病態 —— を共通の根底に持ちつつ、気逆・血虚・脾虚などの病態の違いに応じて使い分けます。特にコタロー製品は、OTC(一般用医薬品)と医療用の双方をラインアップしており、病院の外来から在宅医療まで幅広いシーンで活用できます。
小太郎漢方製薬 公式:沢瀉湯(たくしゃとう)処方解説 ー 処方コンセプト・生薬構成・類方鑑別の詳細が掲載されています。
沢瀉湯の最大の特徴は、構成生薬がわずか2味(沢瀉・白朮)であるという点です。一般に、漢方では「構成生薬が少ないほど切れ味が鋭く急性期に向く」という原則があります。急激に起こる激しい回転性めまいや、横になって目を閉じていてもぐるぐると回り続けるような強い症状こそ、沢瀉湯の出番です。
沢瀉(タクシャ)は寒性の利水薬、白朮(ビャクジュツ)は温性の利水薬です。この相反する性質の2味が拮抗することで、陰陽どちらへも極端に偏らない安定した利水効果を発揮します。つまり、体質の寒熱を問わず使いやすいということです。
注目すべき点として、コタロー沢瀉湯(沢瀉湯エキス細粒G「コタロー」)はOTC医薬品(第2類医薬品)としてのみ販売されており、医療用エキス製剤には収載されていません。東京医科大学漢方医学センターのコラムにも「病院のエキス製剤にはないが薬局で購入できる」と明記されています。これは、めまいの頻度が高い患者への「頓服的な使用」として紹介されているほどです。
🔴 処方箋で沢瀉湯を出そうとしても保険請求できないため、処方設計の段階で苓桂朮甘湯などの医療用製剤との役割分担を明確にしておくことが重要です。
コタロー公式では「普通のめまいから横になって安静にしていても治まらない激しいめまい(回転性)にも」適応するとしており、他の処方が効きにくい激烈な症状にも対応できることが強みです。意外ですね。
東京医科大学病院 漢方医学センター:めまいについてのコラム(PDF)ー 各処方の特徴と使い分けの考え方が医療者向けにまとめられています。
苓桂朮甘湯エキス錠N「コタロー」は、めまい治療の現場でもっとも頻用される処方の一つです。立ちくらみのファーストチョイスという位置づけで、特に急に立ち上がったり振り向いたりしたときに「ふらり」とする症状に有効です。
漢方医学的には、苓桂朮甘湯は「気逆(きぎゃく)」と「水滞(すいたい)」の両方に対応する処方です。気逆とは、本来下に向かうべき「気」が上に逆流する病態であり、のぼせ・動悸・不安・立ちくらみなどとして現れます。苓桂朮甘湯の「桂皮(ケイヒ)」がこの気の上昇を抑え、「茯苓(ブクリョウ)・白朮(ビャクジュツ)」が余分な水を取り除きます。甘草(カンゾウ)が全体を調和させます。4生薬のシンプルな構成が鋭い効果をもたらします。
証の見極めポイントを整理すると、以下の通りです。
- ✅ 苓桂朮甘湯が向く: 体力中等度以下で、のぼせやすく動悸がある、起立性の立ちくらみが主症状、神経質でストレスが多い
- ✅ 五苓散に切り替えるサイン: 口渇・尿量減少・吐き気・むくみを伴う場合(水毒全般の症状が強い)
- ✅ 半夏白朮天麻湯に切り替えるサイン: 胃腸虚弱が前景に出る場合、持続性のめまいで食欲不振がある
コタローの苓桂朮甘湯エキス錠Nは135錠(15日分)で税込4,400円(希望小売価格)と比較的入手しやすい価格帯です。これは使えそうです。
なお、甘草を含む処方であるため、長期使用時には偽アルドステロン症(低カリウム血症・浮腫・高血圧)やミオパチーのリスクに注意が必要です。特に高血圧・心臓病・腎臓病の患者には服用前の医師相談が必須条件です。
小太郎漢方製薬 公式:苓桂朮甘湯エキス錠N「コタロー」製品情報 ー 効能効果・成分・使用上の注意が掲載されています。
漢方でめまいに関わる最重要概念が「水毒(すいどく)」です。水毒とは体内の水分(漢方では「水〈すい〉」)が正常に代謝されず、偏って溜まった状態を指します。内耳のリンパ液過剰(メニエール病における内リンパ水腫)との親和性が高く、「水分代謝の異常がめまいを引き起こす」という考え方は現代医学の理解とも重なります。
ポイントは「どこに・どの程度・どんな性質の水が溜まっているか」です。
- 💧 みぞおちの水滞が主体 → 沢瀉湯:「心下に支飲あり」の状態。みぞおちが重く、激しく回転するめまい。
- 💧 頭部への水の上衝+気逆 → 苓桂朮甘湯:頭がふわふわし、立ちくらみや動悸を伴う。
- 💧 全身性の水分バランス異常 → 五苓散:口渇・尿量変化・浮腫を伴う広域な水毒。
- 💧 脾虚(消化機能低下)による水の停滞 → 半夏白朮天麻湯:胃腸虚弱が根底にあり、慢性的なめまいと頭重感が持続する。
水毒の病態を見抜くことが鍵です。
特に見落とされやすいのが「胃腸虚弱型」です。半夏白朮天麻湯はこのタイプに最も適しており、胃薬の六君子湯に近い生薬構成を持ちます。食欲不振・吐き気・胃もたれなどの消化器症状がめまいに先行する、あるいは同時に出現する患者では、胃腸を整えることでめまいそのものが改善することがあります。厳しいところですね。
これらの病態は必ずしも単独で存在するわけではありません。水毒+血虚が重なるケースでは苓桂朮甘湯と四物湯を合わせた「連珠飲(れんじゅいん)」が用いられるなど、複合的な対応が求められる場面もあります。
日本の漢方臨床では、めまいの処方選択を端的に表した格言が実際に使われています。
> 「立てば苓桂(朮甘湯)、回れば沢瀉(湯)、歩くめまいは真武湯」
これは日経メディカル(2025年5月)などでも紹介されている実践的な処方指針です。わずか1行で3種の処方の使い分けを示しており、外来での迅速な判断に有用です。この「めまいの格言」に加えて、コタロー公式の類方鑑別表では釣藤散・当帰芍薬散も含む4処方を症状別に整理しています。
この格言が示す「起きたときに何が起きているか」という視点は、問診設計にも応用できます。
- 🚶 「急に立ったときに起きる」→ 苓桂朮甘湯(気逆・水滞)
- 🌀 「静止しているのに目が回る」→ 沢瀉湯(心下の支飲)
- 🚶 「歩いているとふわふわする」→ 真武湯(陽虚・冷え)
- 🤕 「朝起きたときや頭を動かしたとき」→ 良性発作性頭位めまい症(BPPV)を念頭に置きつつ苓桂朮甘湯
- 🧠 「不安やパニックが強い」→ 半夏厚朴湯も視野に
問診でめまいの「起きる場面」を細かく聞くことが、処方の精度を上げる最短ルートです。これが基本です。
また、コタローのOTCラインと医療用製剤を並べると、沢瀉湯は唯一OTCのみに存在するという点が目立ちます。このことは、患者が「病院で処方してほしい」と求めても処方箋では対応できないことを意味します。そのため、外来で沢瀉湯を活用したい場面では、患者へドラッグストアや薬局での自己購入を案内するというアプローチが実際的です。患者への説明をスムーズにするため、製品名「沢瀉湯エキス細粒G『コタロー』」と第2類医薬品であることをあらかじめメモして渡せると丁寧な対応につながります。
日経メディカル:立った時?歩いた時?めまいの起こり方で異なる漢方処方 ー 「めまいの格言」と処方の根拠を医師向けに解説した記事です。
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