指趾への投与でも「壊死」が起きることは、エピレナミン製剤を使い慣れた医療従事者ほど見落としやすい重大な落とし穴です。

キシロカイン注射液「1%」エピレナミン(1:100,000)含有は、アミド型局所麻酔薬であるリドカイン塩酸塩(1%)にアドレナリン(エピレナミン)を1mLあたり0.01mg(すなわち1:100,000の割合)配合した製剤です。製造販売はサンドファーマ株式会社で、YJコードは1214400A2029、薬価は11.9円/mLとなっています。劇薬・処方箋医薬品に区分されており、医師等の処方箋により使用する薬剤です。
効能・効果は「硬膜外麻酔、伝達麻酔、浸潤麻酔、表面麻酔」の4つに限られます。これは同じエピレナミン含有製剤でも0.5%製剤が「表面麻酔」を含まないのとは異なる点です。
アドレナリン(エピレナミン)が配合されている理由は主に2つです。第一に、局所での血管収縮作用によって麻酔薬の吸収を遅らせ、麻酔効果の持続時間を延長することです。第二に、手術野での出血量を減らす止血効果を期待できる点です。しかし同時に、このアドレナリン成分こそが禁忌・注意事項の多くに関わっているという事実は意識しておかなければなりません。
エピレナミン(アドレナリン)はα受容体・β受容体の双方に作用します。その作用は投与量・投与方法・患者の状態に強く影響を受けます。つまり、同じ量を使っても患者によって全く異なる反応が生じる可能性があるということです。これが基本です。
KEGG MEDICUS:キシロカイン注射液エピレナミン含有 添付文書(2023年9月改訂)
禁忌の把握は、この製剤を使う医療従事者にとって最も重要な知識の一つです。2020年の添付文書改訂により、禁忌の記載が一部変更されたため、旧情報のまま記憶しているスタッフが患者をリスクにさらす可能性があります。これは見逃せません。
現行添付文書の禁忌(抜粋)は以下の通りです。
- 本剤の成分またはアミド型局所麻酔薬に対し過敏症の既往歴のある患者
- 高血圧、動脈硬化、心不全、甲状腺機能亢進、糖尿病のある患者および血管攣縮の既往のある患者(アドレナリンによる病状悪化のおそれ)
- 狭隅角や前房が浅いなど眼圧上昇の素因のある患者(眼科領域麻酔時)
- ブチロフェノン系・フェノチアジン系等の抗精神病薬、α遮断薬を投与中の患者(過度の血圧低下を起こすことがある)
- イソプロテレノール等のカテコールアミン製剤・アドレナリン作動薬を投与中の患者(不整脈、心停止のおそれ)
- 硬膜外麻酔の場合:大量出血・ショック状態の患者、注射部位に炎症のある患者、敗血症の患者
- 伝達麻酔・浸潤麻酔の場合:陰茎の麻酔を目的とする患者(壊死状態になるおそれがある)
注目すべきは「陰茎」の扱いです。旧添付文書では「耳、指趾または陰茎の麻酔」がすべて禁忌でしたが、2020年12月の改訂により、「耳・指趾」については禁忌から外され、代わりに「慎重投与(投与の可否を慎重に検討すること。壊死状態になるおそれがある)」に変更されました。「陰茎」のみが引き続き絶対禁忌として残っています。
この改訂を知らずに「指も耳も全部ダメ」と記憶していると、必要な場面で患者に適切な麻酔が提供できないというデメリットが生じます。逆に改訂を誤解して「指趾は完全にOKになった」と思い込むと、血行障害のある患者や複数指に同時投与した場合に壊死を招きかねません。改訂後も「慎重投与」であることに変わりはなく、全身性または末梢性の血行障害のある患者への投与可否は特に慎重に検討する必要があります。
厳しいところですね。改訂情報は添付文書の定期確認で押さえておくことが原則です。
GemMed:局所麻酔に用いるキシロカインやボスミン、耳・指趾への投与も認めるが条件あり(2020年12月改訂情報)
1%製剤のエピレナミン含有製剤における各麻酔方法の基準最高用量は以下の通りです。
| 麻酔方法 | 使用量(1%液) | リドカイン量 | アドレナリン量 |
|---|---|---|---|
| 硬膜外麻酔 | 10〜30mL(最高50mL) | 100〜300mg(最高500mg) | 0.1〜0.3mg(最高0.5mg) |
| 伝達麻酔 | 3〜20mL(最高50mL) | 30〜200mg(最高500mg) | 0.03〜0.2mg(最高0.5mg) |
| 肋間神経遮断(伝達麻酔) | 5mLまで | 50mgまで | 0.05mg |
| 浸潤麻酔 | 2〜40mL(最高50mL) | 20〜400mg(最高500mg) | 0.02〜0.4mg(最高0.5mg) |
| 表面麻酔 | 適量を塗布または噴霧 | — | — |
「基準最高用量内なら安全」と思い込むのは危険です。添付文書にも記載されている通り、血管の多い部位(頭部・顔面・扁桃など)では吸収が著しく速く、同じ用量でも血中濃度が急上昇して中毒に至ることがあります。また、年齢・麻酔領域・体質によって必ず適宜増減する必要があります。
加えて、臨床現場でしばしば見落とされやすい注意事項として「金属器具との長時間接触」があります。本剤は金属を侵す性質があるため、カニューレや注射針などの金属器具に長時間接触させないことが添付文書に明記されています。これは0.5%製剤や2%製剤を含むエピレナミン製剤全体に共通する注意事項です。準備済みのシリンジに吸い上げたまま長時間放置することは、この観点からも望ましくありません。
用法・用量に関するもう一点の重要事項は投与速度です。注射速度はできるだけ遅くすることが必須条件とされています。速く一気に注入すると、血管内に誤って投与してしまう可能性が高まるうえ、神経損傷リスクも上昇します。少量(3〜5mL)ずつ分割し、投与のたびに数十秒〜数分間隔を置いて患者状態を観察することがこの製剤を使う際の基本です。
KEGG MEDICUS:用法及び用量に関連する注意(キシロカイン注射液エピレナミン含有)
局所麻酔薬中毒は、麻酔薬の血中濃度が中毒域を超えた場合に発生します。日本麻酔科学会の「局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド」(2017年)によれば、発生頻度は概算で10,000症例あたり1.2〜11症例(硬膜外ブロック)、または10,000人あたり2.5症例(末梢神経ブロック)と報告されています。
発症時間については「半数の症例は投与後50秒以内」、「4分の3の症例は5分以内」に症状が発現するとされています。ただし、即時型(頸部・椎骨動脈などへの誤投与)だけでなく、組織からの緩徐な吸収による遅延型もあり、単回投与後15分以上経過してから発症することもあります。大量使用後は少なくとも30分間の観察が必要です。
中枢神経系症状の先駆症状は以下のような段階で現れます。
- 🟡 初期症状:口周囲・舌のしびれ、金属様の味覚、多弁、呂律困難、めまい、耳鳴、視覚障害、振戦、興奮・不安
- 🔴 進行期症状:意識消失、全身痙攣、低酸素血症
- ⛔ 重篤:呼吸停止
心血管系症状については初期に頻脈・高血圧・心室性期外収縮が現れ、その後に徐脈・伝導障害・低血圧・循環虚脱・心静止へと進行します。心電図上ではPR延長とQRS幅の増大が特徴的なサインです。
ここで重要なのは、先駆症状なしに突然痙攣や心停止で発症するケースが約41%存在するという事実です。意外ですね。「初期症状があってから重症化する」という思い込みは非典型症例の発見を遅らせます。
特に全身麻酔中・深鎮静中に区域麻酔を行っている患者では、患者が症状を訴えられないため発見が著しく遅れるリスクがあります。これは注意が必要です。
また、エピレナミン(アドレナリン)が含まれているため、アドレナリンへの過量反応として頻脈・高血圧・頭痛・不安感が先行することがあり、局所麻酔薬中毒と鑑別が必要になる場合があります。
日本麻酔科学会:局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド(PDF・2017年制定)
局所麻酔薬中毒が疑われた場合の初動対応手順を、日本麻酔科学会のプラクティカルガイドをもとに整理します。これが対応の基本です。
中毒疑い時の即時対応(ステップ)
1. 局所麻酔薬の投与を直ちに中止する
2. 応援を要請する(区域麻酔は複数スタッフがいる環境で行うことが前提)
3. モニタリング装着:血圧・心電図・パルスオキシメータ
4. 静脈ラインを確保する(事前確保が望ましい)
5. 気道確保と100%酸素投与、必要に応じて気管挿管・人工呼吸
6. 痙攣への対処:ベンゾジアゼピンが第一選択(ミダゾラム、ジアゼパム)。血圧・心拍が不安定な場合はプロポフォールは不可
7. (余裕があれば)血中濃度測定のための採血
重度の低血圧や不整脈が伴う場合は、20%脂肪乳剤(イントラリポス®) の投与が推奨されます。体重70kgの場合の目安は以下の通りです。
- ボーラス投与:1.5mL/kg(約100mL)を約1分で投与
- 持続投与開始:0.25mL/kg/分(約1,000mL/h)
- 5分後に改善なければ再度ボーラス100mLを投与し、持続投与量を2倍(2,000mL/h)に増量
- 最大ボーラスは3回まで、最大総投与量の目安は12mL/kg
ここで絶対に覚えておくべき点があります。頻脈・不整脈の治療目的でリドカインを用いてはいけません。局所麻酔薬中毒に対して同じリドカインを追加投与することは、悪化を招くリスクがあるため禁止されています。
脂肪乳剤は使用頻度が高い部署(手術室・分娩室など)に常温で常備しておくことが推奨されています。中毒発生時には時間との戦いになるため、普段から場所を把握し投与手順を確認しておくことが実際の命綱になります。
日本麻酔科学会:局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド(脂肪乳剤投与法の詳細)
エピレナミン含有製剤ならではの相互作用と、特定患者への投与判断は、他の局所麻酔薬と区別して理解しておく必要があります。
📌 併用禁忌(絶対に使わない組み合わせ)
| 薬剤 | 理由 |
|---|---|
| ブチロフェノン系・フェノチアジン系抗精神病薬(セレネース、ウインタミン等)、α遮断薬 | α受容体遮断によりアドレナリンのβ刺激が優位になり、過度の血圧低下を生じる(アドレナリン反転) |
| イソプロテレノール等カテコールアミン製剤、β刺激薬(ベネトリン等)、エフェドリン | β刺激の相乗により不整脈・心停止のおそれ |
「アドレナリン反転」は特に見落とされやすい現象です。α遮断薬を内服している患者にエピレナミン含有製剤を投与すると、血圧上昇ではなく逆に血圧が著しく低下します。患者が服用中の抗精神病薬の種類をあらかじめ確認しておかなければ、投与直後に予測外の急激な血圧低下を招きます。
📌 慎重投与が必要な患者群(主なもの)
- 高齢者:アドレナリン作用への感受性が高く、麻酔範囲が広がりやすい。減量を検討する
- 重篤な腎機能障害・肝機能障害のある患者:リドカインの代謝・排泄が遅延し中毒症状が発現しやすくなる
- 心刺激伝導障害・心疾患のある患者:アドレナリンのβ刺激により悪化するおそれ
- 肺気腫のある患者:アドレナリンにより肺循環障害が増悪し、右心不全に至るおそれ
- 妊婦(特に妊娠後期):仰臥位性低血圧を起こしやすく麻酔範囲が広がりやすい。アドレナリンにより胎児の酸素欠乏・分娩遅延が起こるおそれ
- ハロゲン含有吸入麻酔薬(ハロタン等)投与中の患者:頻脈・不整脈のおそれ(添付文書上は「慎重投与」だが、過去に「禁忌」に準じる扱いとされた経緯もある。注意が必要です)
心不全患者ではリドカインの肝血流量依存的な代謝が低下するため、通常量でも血中濃度が上昇しやすいことは覚えておきたい点です。これは使えそうな知識ですね。
厚生労働省:局所麻酔薬の使用上の注意改訂に関する資料(指趾・陰茎への投与禁忌変更経緯を含む)

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