「ケレンディア錠10mgの薬価は2026年4月に下がったのに、患者の薬剤費負担はむしろ増えるケースがある。」

ケレンディア錠10mg(一般名:フィネレノン)は、バイエル薬品が製造販売する非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬です。2022年6月の薬価収載時は1錠あたり149.10円でしたが、その後段階的に引き下げられています。
2024年7月1日には、費用対効果評価に基づく価格調整が適用され、10mgは147.90円から143.90円へと改定されました。これは中央社会保険医療協議会が令和6年3月13日に承認した評価結果に基づくもので、引き下げ率は約2.7%です。さらに、令和8年度(2026年度)薬価改定では、2026年4月1日以降の新薬価として142.20円が適用されます。
| 時期 | ケレンディア錠10mg薬価 | ケレンディア錠20mg薬価 |
|------|----------------------|----------------------|
| 2022年6月(収載時) | 149.10円/錠 | 213.10円/錠 |
| 2024年7月1日(費用対効果評価適用) | 143.90円/錠 | 205.80円/錠 |
| 2026年4月1日(令和8年度改定) | 142.20円/錠 | 203.40円/錠 |
価格が下がっているということですね。ただし、この薬には現時点で後発品(ジェネリック)が存在しません。先発品のみという状況は、医療機関や薬局がコスト面でのスイッチング先を持てないことを意味します。患者の薬剤費は「薬価×処方日数×保険割合」で決まりますが、適応が2025年12月に慢性心不全へも拡大されたことで、処方量・処方日数が増加する場面が今後増えると予測されます。3割負担の患者が20mg規格を30日分処方された場合の自己負担は約1,851円(薬剤費のみ)ですが、頻回な採血コストが別途加算される点も患者説明の際に念頭に置く必要があります。
費用対効果評価では、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病患者を対象集団とし、標準治療が比較対照技術として設定されています。有用性系加算部分の価格調整係数(γ)は0.7、営業利益部分(θ)は0.83と算定されており、市場規模が100億円以上に達したことで評価対象(H1区分)となった経緯があります。つまり市場拡大が逆に薬価引き下げのトリガーになったわけです。これは費用対効果評価制度の性質上、広く使われる薬ほど審査対象になりやすいという現実を端的に示しています。
参考:ケレンディアの費用対効果評価結果に基づく価格調整について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001242883.pdf
ケレンディア錠の適応症は、2022年6月の薬価収載当初から「2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(末期腎不全・透析施行中を除く)」でした。そして2025年12月22日、慢性心不全への適応追加が承認されました。これにより、処方対象が大幅に広がっています。
処方開始の判断に際して最初に確認すべき指標は2つあります。血清カリウム値とeGFRです。
| 確認指標 | 条件・処方量 | 注意点 |
|---|---|---|
| 血清カリウム値 | 5.5mEq/L以下:投与可 5.5mEq/L超:投与禁忌 |
投与開始時は必ず測定 |
| eGFR(CKD適応時) | 60以上:20mgで開始 25以上60未満:10mgで開始 |
25未満は慎重投与 |
| 肝機能(Child-Pugh) | A・B:投与可(B は慎重) C(重度障害):禁忌 |
血中濃度上昇リスク |
慢性心不全(HFmrEF・HFpEF)への投与では、2025年12月の最新適正使用ガイドに従い、eGFR 60以上であれば20mgから開始し、4週後を目安に40mgへ増量することが想定されます。これは従来のCKD適応(最大20mg)とは用量上限が異なるため、注意が必要です。
増量・継続の判断は4週ごとのモニタリング結果で行います。以下が主な判断基準です。
投与中止後の再開には10mgから始めるのが原則です。この段階的な用量調節のプロセスは、処方医だけでなく薬剤師・看護師も把握しておくことで、患者への正確な服薬指導が可能になります。
また、慢性心不全への処方においては「慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る」という条件が効能効果に明記されているため、保険請求上の留意が求められます。この条件を満たさない状態で処方・調剤した場合、査定対象になる可能性があります。条件確認は欠かせません。
参考:ケレンディア錠 適正使用ガイド(バイエルファーマナビ、2025年12月版)
https://pharma-navi.bayer.jp/sites/g/files/vrxlpx9646/files/2025-12/KRD_PUG_20251222.pdf
同じMR拮抗薬として臨床で使用されてきたスピロノラクトン(後発品で5.9円〜10.4円/錠)と比較すると、ケレンディア錠10mgの142.20円という薬価は約13〜24倍の水準です。これは単純なコスト比較で驚く数字ですね。
しかし、ケレンディア(フィネレノン)と従来のステロイド型MR拮抗薬とは、薬理学的プロファイルが根本的に異なります。非ステロイド型であるため、スピロノラクトンで問題になる女性化乳房や月経不順などのホルモン様副作用が大幅に軽減されています。また、MR受容体への選択性・親和性が高く、心腎保護効果を証明した大規模試験(FIDELIO-DKDおよびFIGARO-DKD)のエビデンスを持つ薬剤は、現時点でフィネレノンのみです。
同系統の他の選択薬としてエサキセレノン(ミネブロ)がありますが、慢性腎臓病への保険適用はケレンディアのみです。つまり、2型DM合併CKDに対してMR拮抗薬を使用する場合、ケレンディア一択という状況になります。
💰 薬価コスト面での実践的な把握ポイントをまとめると以下のとおりです。
ただし、慢性腎臓病に対してスピロノラクトンを使用しても、現時点では心腎複合アウトカム抑制のエビデンスがありません。薬価の差は、エビデンスの質と適応の差でもあります。コストと効果を天秤にかける議論を患者・医療機関双方で行う際、この背景情報は重要な根拠となります。
参考:慢性腎臓病治療薬ケレンディア(フィネレノン)についての解説(巣鴨千石皮膚科内科)
https://sugamo-sengoku-hifu.jp/internal-medicines/kerendia.html
ケレンディア錠の処方で最も注意を要するのが高カリウム血症のリスクです。臨床試験(FIDELIO-DKD)では、ケレンディア群で高カリウム血症が2827例中333例(11.8%)に認められています。約9人に1人の割合と考えると、決して低頻度ではありません。
高カリウム血症は軽度のうちはほぼ無症状であることがほとんどです。倦怠感・筋力低下・しびれ・悪心が出現した時点では、すでに中等度以上に進行しているケースもあります。重症化すると致死性不整脈につながるため、採血モニタリングによる早期検知が唯一の対策です。
禁忌に該当する薬剤との併用も現場での落とし穴になりやすい点です。以下に主な禁忌・注意薬剤をまとめます。
| 区分 | 薬剤・食品 | リスク内容 |
|---|---|---|
| 💥 併用禁忌 | イトラコナゾール・ポサコナゾール・ボリコナゾール(抗真菌薬) | CYP3A強阻害によりケレンディア血中濃度が著しく上昇 |
| 💥 併用禁忌 | クラリスロマイシン(抗生物質) | 同上。日常処方で混入しやすく注意が必要 |
| 💥 併用禁忌 | エンシトレルビル(ゾコーバ:COVID-19治療薬) | 同上。コロナ感染時の対応に影響 |
| ⚠️ 併用注意 | スピロノラクトン・エプレレノン・カリウム製剤 | 高カリウム血症リスクが相乗的に上昇 |
| ⚠️ 併用注意 | グレープフルーツ含有食品 | CYP3A弱阻害によりケレンディア血中濃度が上昇 |
| ⚠️ 併用注意 | NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬) | 腎機能障害患者での高カリウム血症リスク増大 |
特に見落としやすいのがクラリスロマイシンとの併用禁忌です。呼吸器感染や非結核性抗酸菌症の治療でクラリスが処方されているケースは少なくなく、ケレンディアとの重複処方が発生するリスクがあります。電子カルテの相互作用チェック機能を活用するとともに、院外処方の場合は薬局でのチェックラインを共有することが重要です。
また、COVID-19感染時に処方されうるエンシトレルビル(ゾコーバ)との併用も禁忌とされています。ケレンディア服用中の患者がCOVid-19に罹患した際の対応フローを、事前に患者および医療チームで共有しておくことが現実的なリスク管理につながります。これは使えそうな情報ですね。
参考:ケレンディア錠の処方ポイントと服薬指導解説(薬剤師向けサイト)
https://www.38-8931.com/pharma-labo/skill/kerendia_tablets.php
2025年12月の慢性心不全適応追加により、ケレンディアの潜在的な処方対象患者は急増すると見込まれています。日本では心不全患者が約120万人とも推計されており、そのなかでもLVEF40%以上(HFmrEFおよびHFpEF)という今回の試験対象区分は、心不全全体の半数以上を占めるとされます。
一方で、薬価はこれまで引き下げ方向でのみ推移してきました。費用対効果評価制度の仕組み上、市場規模が100億円を超えた段階で評価対象となり、価格調整係数によって引き下げが行われる構造です。適応拡大で処方量がさらに増加すれば、次回以降の評価でも追加の引き下げ圧力がかかる可能性があります。医療機関・薬局の立場からは、薬価の推移を継続的に追うことが算定上の正確性につながります。
では医療従事者として「薬価の高さをどう患者に伝えるか」という場面で何が有効でしょうか。単に「1錠142円の薬です」と伝えるだけでは、患者には高いという印象だけが残ります。重要なのは、この薬がどのような転帰改善に寄与するかの具体的な数字です。
FIDELIO-DKD試験では、ケレンディアの投与により腎複合エンドポイント(末期腎不全・eGFR持続的40%低下・腎臓死)の発生リスクが18%低下(ハザード比0.82、95%CI: 0.73-0.93)しました。また心血管複合エンドポイント(心血管死・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中・心不全による入院)も14%低下(HR 0.86、95%CI: 0.75-0.99)しています。
透析導入には多大な医療コストが伴います。週3回の血液透析を続けると、年間で約500〜600万円の医療費がかかるとも言われています(保険診療全体として)。これに比べれば、ケレンディア錠20mgを1日1回・年間服用した場合の薬価は約75,000円(203.40円×365日)です。腎不全進展を防ぐ効果が得られれば、長期的には医療費の抑制につながる可能性があります。この「予防への投資」という視点を処方説明に組み込むことが、患者のアドヒアランス向上にも役立ちます。
また、2026年4月からの新薬価142.20円が適用されるタイミングと処方箋の交付日・調剤日の関係にも注意が必要です。薬価基準改定の適用日(4月1日)をまたぐ処方箋がある場合、調剤日の薬価が適用されることを薬局側で正確に把握しておかなければ算定誤りにつながります。これは確認が必須な点です。
参考:令和8年度薬価改定についての解説資料(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001596965.pdf