合格したロットにも、最大10%の不良品が含まれたまま出荷されることがあります。

抜取検査には大きく分けて「計量抜取検査」と「計数抜取検査」の2種類があります。名前は似ていますが、判定のしくみも、必要なサンプル数も、適した検査対象も、まったく異なります。
計数抜取検査とは、ロットから無作為に抜き取ったサンプルを「良品か不良品か」に振り分け、不良品の個数が合格判定数以下であればロット全体を合格とする方法です(JIS Z 9015シリーズに規定)。判定はシンプルで、計算も不要です。金属部品の外観検査や、ネジの欠品チェックのような「OK/NGで答えが出る検査」に向いています。
一方、計量抜取検査とは、サンプルの寸法・重量・硬度などの特性値を実際に測定し、得られた数値の平均値と標準偏差を計算することでロットの合否を判定する方法です(JIS Z 9003・JIS Z 9004に規定)。つまり、数値から「このロット全体の分布はどこにあるか」を推定して判定します。
つまり2種類の本質的な差は、1個のサンプルから取り出せる情報量の違いです。計数型が1個のサンプルから得るのは「0か1か」のデジタル情報だけです。計量型が得るのは「28.3mm」「47.1N」のような連続した数値データであり、母集団の分布を推定するのに必要な情報がはるかに密です。
この情報量の差が、必要なサンプル数に直結します。同程度の判別力(OC曲線の形)を得るために、計量抜取検査は計数抜取検査の約1/5〜1/10のサンプル数で済むことが多いです。たとえば計数型でn=125個必要な検査が、計量型ではn=15〜25個程度で同等の性能を発揮できる場合があります。これは破壊検査が必要な硬度試験や引張強度試験をおこなう金属加工現場では、非常に大きなメリットです。
サンプルを減らせるのは大きなメリットです。ただし、計量抜取検査には「品質特性が正規分布に従う」という前提条件が必要です。この仮定が崩れると判定の信頼性が損なわれるため、導入前にヒストグラムや正規確率紙でデータ分布の確認が必須です。
以下の表で2つの方式を整理します。
| 比較項目 | 計数抜取検査 | 計量抜取検査 |
|---|---|---|
| 判定の基準 | 不良品の個数(OK/NG) | 測定値の平均・標準偏差 |
| サンプル数 | 多い(例:n=50〜200) | 少ない(例:n=5〜30) |
| 分布の仮定 | 不要 | 正規分布が必要 |
| 計算の手間 | 不要(数えるだけ) | 平均・標準偏差・判定統計量の算出が必要 |
| 得られる情報 | 合否のみ | 平均・バラつき・工程能力も把握可 |
| 破壊検査への適性 | コストが高くなりやすい | サンプルが少なく有利 |
| JIS規格 | JIS Z 9015シリーズ | JIS Z 9003・JIS Z 9004 |
参考:計量抜取検査と計数抜取検査の定義について日本科学技術連盟の解説PDFが詳しいです。
計量抜取検査の設計で最初につまずくのが「サンプル数nをどう決めるか」です。答えはJIS Z 9003(σ既知)またはJIS Z 9004(σ未知)の付表に載っています。
まず「σ既知」と「σ未知」の使い分けを理解しましょう。製造ラインの長期データが蓄積されており、母集団の標準偏差を信頼できる実績値として扱える場合は「σ既知」です。バックデータが少ない受入検査や新ロット検査などは「σ未知」として扱います。σ既知の方がサンプル数をより少なくできる反面、実務ではσ未知(s法)が使われる場面がほとんどです。
不適合品率を保証する検査の設計手順は以下の通りです。
例えばσ既知・p₀=0.5%・p₁=4.0%の条件では、JIS Z 9003の付表からn=13・k=2.11が読み取れます。計数型で同等の判別力を持つ検査設計と比べると、サンプル数が数分の一で済む場合が多く、硬度試験や引張試験のような破壊検査コストを大幅に下げられます。
p₀とp₁の差を小さく設定するとサンプル数は増えます。逆に差を大きくすればサンプルは減りますが、良いロットと悪いロットの区別が甘くなります。この「判定精度とサンプルコストのバランス調整」が設計の核心です。
参考:計量規準型抜取検査の手順・JIS付表の読み方を詳しく解説しているサイトはこちらです。
計量規準型抜取検査とは?検査の種類と設計の考え方を解説(QCとらのまき)
計数抜取検査を運用するうえで、AQLとOC曲線は切っても切り離せない概念です。この2つを正しく理解していないと、検査基準を設定しても「どれくらいの確率で不良品が通り抜けるか」がまったく見えない状態になります。
AQL(Acceptable Quality Level:合格品質水準)とは、「このくらいの不良率のロットであれば合格とみなしてよい」と生産者と購入者が合意した品質レベルの上限です。JIS Z 9015では、生産者リスク(良品ロットを誤って不合格にする確率)を5%、消費者リスク(不良ロットを誤って合格にする確率)を10%として設計されています。
ここが重要な落とし穴です。AQL=1.5%で検査を設計した場合、不良率1.5%のロットが合格する確率は約95%です。しかし「合格ロット=不良品ゼロ」ではありません。OC曲線(検査特性曲線)を見ると、消費者リスク(β)の設定により、一定程度の不良品が含まれるロットでも統計的に合格になりえます。JIS基準上では消費者リスクが最大10%に設定されているため、合格と判定されたロットにも不良品が混在している可能性を完全にゼロにはできません。
OC曲線が急峻であるほど「良いロットは通し、悪いロットは止める」という判別力が高くなります。OC曲線を緩やかにするとサンプル数は減りますが、不良ロットを合格にしてしまうリスクが上がります。サンプル数を増やせば曲線は急峻になり、判別力が高まります。
金属加工部品のように自動車や機械の安全部品に使われる製品では、AQLを0.01〜0.4%という非常に厳しい水準に設定することが求められる場合もあります。一方、外観や軽微な傷の判定が対象であれば、AQL=2.5〜4.0%程度の設定が一般的です。
OC曲線が原則です。AQL値だけを見て検査設計をすると、実際のリスクを見誤ります。
参考:AQLの決め方・抜取表の読み方について実践的に解説しているページはこちらです。
計数抜取検査とは?品質管理の基本からAQLの決め方(東京電子工業)
金属加工現場では「どちらを使うべきか」の判断で迷うケースが多いです。以下の判断フローを参考にしてください。
3条件すべてを満たした場合に、はじめて計量抜取検査を検討するのが安全です。実務では、JIS Z 9015(計数型)が圧倒的に多く採用されています。その最大の理由は「分布の仮定が不要で、誰でも同じ結果が出せる汎用性の高さ」にあります。
金属加工現場で多い検査項目別の推奨方式を整理すると次の通りです。
| 検査項目 | 推奨方式 | 理由 |
|---|---|---|
| 外観・傷・バリ | 計数抜取検査 | 数値化しにくい。OK/NGで判定できる |
| 寸法(精密加工品) | 計量抜取検査 | 正規分布に従いやすい。サンプル削減可 |
| 硬度試験(破壊あり) | 計量抜取検査 | 破壊検査のためサンプル数を最小化したい |
| 引張・圧縮強度 | 計量抜取検査 | 同上。正規分布への適合も確認しやすい |
| ネジ・穴の欠品確認 | 計数抜取検査 | あり/なしの2択で判定。計算不要 |
| 複数特性を同時チェック | 計数抜取検査 | 1回の抜取で複数特性を総合判定できる |
複数の品質特性を同時に検査する場合は、計数型が圧倒的に有利です。計量型は特性ごとに独立した検査設計が必要になるため、管理の手間が増えます。たとえば、寸法・外径・硬度・外観の4特性を検査する場合、計量型では4つの検査計画を別々に設計・管理しなければなりません。これは現場の負担が大きいです。
参考:2つの方式の情報量の差とサンプル数の違いについて丁寧に解説されているページはこちらです。
なぜサンプル数が5倍も違う?2つの検査方式の本質的な違いと選び方
抜取検査を正しく設計しても、運用の方法次第で品質保証の信頼性が一気に崩れることがあります。これが「計量抜取検査・計数抜取検査のどちらを使うか」よりも、実は現場で大きな影響を与える問題です。
最もよくある失敗が「ロット形成のルールが曖昧なまま運用している」ケースです。抜取検査の統計的な前提は「ロット内の品質が均質である」ことです。異なる生産ライン、異なるシフト、異なる材料ロットを一つのロットにまとめてしまうと、サンプルが均質な集団を代表していないことになります。サンプルに偏りがあれば、結果が示す品質は実態と乖離します。これは要注意です。
2つ目の落とし穴が「ランダムサンプリングの徹底不足」です。箱の上の方だけを抜き取る、取りやすい場所から選ぶ、という抜き取り方は「ランダム」ではありません。乱数表を使う、あるいは全品に番号を振ってランダムに指定する方法で、すべての製品が等しい確率で選ばれる体制を作ることが重要です。
3つ目が「判定基準のバラつき(ヒューマンエラー)」です。特に目視外観検査では、「この傷は許容範囲か?」という判断が検査員によって異なると、計数抜取検査の合格判定個数という数字に意味がなくなります。限度見本の整備、作業標準書の作成、定期的な研修によって、誰が担当しても同じ結果が出る体制の構築が不可欠です。
これらの課題への対策として、画像処理装置や光学測定器による自動検査の導入が近年急速に広まっています。人による目視検査の属人性を排除し、検査データを自動記録することでトレーサビリティも確保できます。金属加工品の精密寸法検査では、接触式・非接触式の寸法測定機器を導入することで、計量抜取検査の測定誤差も大幅に低減できます。
これだけは覚えておけばOKです。「正しい検査方式の選択」と「正しい運用」の両方が揃ってはじめて品質保証が機能します。どちらか一方だけでは不十分です。
参考:抜取検査での不良流出リスクと、自動化を含めた現場改善について詳しく解説しているページはこちらです。
抜取検査とは?検査方法やメリット・デメリットを解説(東京貿易テクノシステム)