カルケンスカプセル販売中止で錠剤への切り替えと注意点

カルケンスカプセル100mgが2026年3月末に販売中止となりました。後継のカルケンス錠100mgへの切り替えにあたり、PPI併用可否・適応範囲・経過措置期間など、医療従事者が知っておくべき重要な違いとは?

カルケンスカプセル販売中止と錠剤への切り替え・注意点

カルケンスカプセルが販売中止になっても、アカラブルチニブの投与は今まで通り続けられると思っていると、PPI併用患者への治療継続で思わぬ処方ミスを招くことがあります。


この記事の3つのポイント
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販売中止・経過措置のスケジュール

カルケンスカプセル100mgは2026年3月末をもって販売中止。経過措置期間満了は2027年3月末。移行期間中も処方・調剤に注意が必要です。

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カプセルと錠剤の決定的な違い

カルケンス錠はpH依存性が解消され、PPI・H2ブロッカー・制酸薬との併用制限がありません。血液がん患者の20〜40%が胃酸分泌抑制薬を使用しており、この差は臨床上きわめて重要です。

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マントル細胞リンパ腫への適応はカプセルにない

カルケンス錠は2025年8月にマントル細胞リンパ腫(MCL)の適応を追加取得しましたが、カルケンスカプセルにはMCLの効能・効果はありません。適応外処方のリスクに要注意です。


カルケンスカプセル販売中止の背景と経緯



カルケンスカプセル100mg(一般名:アカラブルチニブ)は、2021年1月にわが国で製造販売承認を取得した選択的BTK(ブルトン型チロシンキナーゼ)阻害剤です。慢性リンパ性白血病(CLL)を中心とするB細胞性腫瘍の治療に用いられ、その高い選択性と安全性から広く使われてきました。


しかし、製造販売元のアストラゼネカ株式会社は2025年12月付の文書で、カルケンスカプセルを在庫消尽次第、販売中止とする旨を正式に通知しました。販売中止の予定時期は2026年3月末、経過措置期間満了予定日は2027年3月末です。


販売中止の直接的な理由は、2025年5月に発売されたカルケンス錠100mg(一般名:アカラブルチニブマレイン酸塩水和物)との「医療現場での混乱防止」です。カプセルと錠剤では、胃内pHを変化させる物との併用に関する注意喚起に差異が生じており、2種類の「カルケンス」が同時に流通することで取り間違いリスクが生じるとアストラゼネカ社は判断しました。


経過措置期間とは何でしょうか? 販売中止後も保険診療での処方・調剤を一定期間認める制度です。つまり、2027年3月末までは保険請求上の経過措置が継続されますが、在庫がなくなれば実質的に入手できなくなります。2026年3月末の販売中止時点でカプセルの在庫が枯渇する可能性もあるため、早期の切り替え準備が必要です。


また、2025年11月12日受注分からカルケンスカプセルはすでに「限定出荷(自社の事情)・出荷量減少」の状態に入っています。これは、カルケンス錠発売後もカプセルへの注文が当初の需要予測を大きく上回ったためです。早期の切り替えがより重要になっているということですね。


参考:アストラゼネカ社 カルケンスカプセル100mg「販売中止のお知らせ」(2025年12月)
アストラゼネカ公式 カルケンスカプセル販売中止のお知らせ(PDF)


カルケンスカプセルとカルケンス錠の違い・薬剤費と用量

カプセルと錠剤は同一成分のアカラブルチニブを含む製剤ですが、有効成分の塩形が異なります。カルケンスカプセルの有効成分はアカラブルチニブ(フリー体)であるのに対し、カルケンス錠の有効成分はアカラブルチニブマレイン酸塩水和物です。


用法・用量はどちらも「成人に1回100mgを1日2回経口投与」で共通しています。薬価もカプセル・錠剤ともに1カプセル/錠あたり12,921.9円と同一であり、患者の薬剤費負担に変化はありません。これは問題ありません。


最も重要な違いはpH依存性の有無です。カルケンスカプセルは、pH4を超える条件下で溶解性が著しく低下するという特性がありました。そのためカプセル剤の添付文書では、プロトンポンプ阻害薬(PPI)、H2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)、制酸薬との併用注意が明記されていました。


血液がん患者の20〜40%が、何らかの胃酸分泌抑制薬を同時に服用していると推定されています。つまり、カルケンスカプセルを処方されていた患者の中には、PPIとの併用によりアカラブルチニブの血漿中濃度が低下していたケースが相当数いた可能性があります。薬剤費が1日あたり25,843円(2錠分)であることを踏まえると、吸収低下による治療効果の減弱は患者にとって非常に大きな損失です。


一方、カルケンス錠はアカラブルチニブをマレイン酸塩水和物化することで溶解性を改善し、消化管のpH条件にかかわらず安定して溶出する設計になっています。PPIや制酸薬との併用制限がなくなったことで、多剤併用が多い血液がん患者の服薬管理が大幅に簡素化されます。これは使えそうです。


また、外見上のサイズも変わります。カルケンスカプセルの全長が約19.4mm(直径約6.9mm)であったのに対し、カルケンス錠は長径約13.2mm・短径約7.7mmと、全長で約6.2mm小さくなります。患者への説明時は、「薬の大きさが小さくなりますが、効き目と費用は変わりません」と一言添えるとスムーズです。


参考:ケアネット「フィルムコーティング錠の登場で胃酸分泌抑制薬との併用が可能に」
カルケンス錠承認の経緯とPPI併用解禁の意義(CareNet)


カルケンスカプセル販売中止に伴う適応の変化とマントル細胞リンパ腫への影響

医療従事者にとって特に重要な情報のひとつが、適応疾患の違いです。カルケンスカプセルとカルケンス錠では、現時点で効能・効果の範囲が異なります。


カルケンスカプセルの承認適応は「慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)」のみです。一方のカルケンス錠は、2024年12月27日の製造販売承認時点でCLL/SLLを対象とし、さらに2025年8月25日にはマントル細胞リンパ腫(MCL)への効能・効果の追加承認を取得しました。


つまり、MCL患者に対してはカルケンス錠のみが使用可能であり、カルケンスカプセルには適応がありません。これが原則です。MCLは全リンパ腫の約3%を占める希少な血液がんで、国内の患者数は約1,600人と推定されています。カルケンスカプセルをMCL患者に処方することは適応外使用に該当するため、厳重な注意が必要です。


カルケンス錠のMCL承認は、国際共同第III相試験ECHO試験の成績に基づくものです。ECHO試験では、アカラブルチニブ+ベンダムスチン+リツキシマブ(ABR療法)の有効性と安全性が評価されました。一次治療でのBTK阻害剤使用は、特に自家造血幹細胞移植に耐えられない高齢患者(目安65歳以上)において、初回寛解期間の最大化という点で重要な意義があります。


MCL患者を担当する医師・薬剤師は、カルケンスカプセルの残存在庫を誤ってMCL患者に処方・調剤しないよう、院内の薬剤マスタや処方システムの整備が求められます。意外ですね。販売中止に伴う切り替えが、そのまま適応外使用防止の観点からも必然だったと言えます。


参考:アストラゼネカ「カルケンス錠 マントル細胞リンパ腫の治療薬として承認取得」(2025年8月25日)
カルケンス錠のMCL適応承認プレスリリース(アストラゼネカ公式)


カルケンスカプセル販売中止後の切り替え手順と処方上の注意点

カルケンスカプセルからカルケンス錠への切り替えは、原則として同一成分・同一用量・同一用法での変更であり、用法・用量の変更は不要です。これは切り替えにあたって大きなメリットといえます。


しかし、切り替えにあたって必ず確認すべきポイントがあります。まず、患者がPPIやH2ブロッカー、制酸薬を服用している場合です。カプセル服用中にこれらを「併用注意」として回避または調整していた患者については、錠剤への切り替え後はその制限が解除されます。逆に言えば、カプセル時代にPPIを中断していた患者がいれば、錠剤への切り替え後にPPIを再開できる可能性があるため、主治医・薬剤師間での情報共有が重要です。


次に確認すべきは、処方箋・電子カルテの記載です。「カルケンス」という名称が共通しているため、記載上の取り間違いリスクがあります。アストラゼネカ社も、この取り間違いのリスクを販売中止の理由のひとつに挙げています。院内の処方システムにおいて、カルケンスカプセルの薬剤コードを削除または使用不可にする対応を、薬剤部門と連携して早めに行うことが推奨されます。処方ミスを防ぐことが最優先です。


以下に切り替え時の確認項目を整理します。


確認項目 カルケンスカプセル カルケンス錠
有効成分 アカラブルチニブ アカラブルチニブマレイン酸塩水和物
用法・用量 1回100mg 1日2回 1回100mg 1日2回(同一)
薬価 12,921.9円/カプセル 12,921.9円/錠(同一)
PPI・H2ブロッカー等との併用 ⚠️ 併用注意 ✅ 制限なし
慢性リンパ性白血病(CLL/SLL) ✅ 承認適応あり
マントル細胞リンパ腫(MCL) ❌ 適応なし ✅ 2025年8月承認
販売状況 2026年3月末 販売中止予定 ✅ 2025年5月発売・安定供給


アストラゼネカ社は「カルケンス錠については十分な供給体制を確保しており、他のBTK阻害剤への切り替えを検討いただく必要はない」と明示しています。BTK阻害剤の切り替えは原則不要ということですね。ただし患者個々の状態や合併症・既往歴によっては主治医の総合的な判断が求められます。


参考:アストラゼネカ社「カルケンス錠への切り替えのご依頼」(2025年9月)
アストラゼネカ 切り替えのご依頼文書(PDF)


カルケンスカプセル販売中止を機に再確認すべきBTK阻害剤の選択肢と薬局・病院薬剤部の対応

今回のカルケンスカプセル販売中止は、血液腫瘍領域においてBTK阻害剤の選択肢が多様化している時期と重なっています。2025年3月19日には、新たなBTK阻害薬であるザヌブルチニブ(商品名:ブルキンザカプセル80mg)が薬価収載と同時に発売されました。同薬は慢性リンパ性白血病と原発性マクログロブリン血症への適応を持ち、BTK阻害剤の選択肢がさらに広がっています。


ただし、既にカルケンスカプセルで治療中の患者を別のBTK阻害剤(イブルチニブ・ザヌブルチニブ等)に切り替えることは、一般的に推奨されていません。アストラゼネカ社も「他のBTK阻害剤への切り替えを検討いただく必要はない」と明言しています。同一有効成分のカルケンス錠への切り替えが基本です。


薬局・病院薬剤部における実務上の対応として、以下の点が特に重要です。


  • 📋 薬剤マスタの整理:カルケンスカプセルの在庫が枯渇する前後で、薬剤マスタ・処方オーダリングシステムからカプセルの登録を削除または「発注停止」フラグを立てる。「カルケンス」で検索した際にカプセルが誤って選択されないよう処置することが、患者安全の面から不可欠です。
  • 📋 患者説明材料の準備:長年カプセルで治療してきた患者は、「お薬が変わった」と不安を感じる場合があります。「有効成分・効き目・薬代は変わらない」「錠剤の方が小さくなる」「胃薬と一緒に飲める」という3点を、わかりやすく説明することが服薬継続率の維持につながります。
  • 📋 PPI併用患者の情報収集:従来、カプセルとPPIを組み合わせていた患者では、アカラブルチニブの吸収が低下していた可能性があります。錠剤への切り替えにより吸収が改善し、副作用モニタリングの強化が必要になるケースも考えられます。主治医への情報提供が求められます。
  • 📋 経過措置期間の管理:経過措置期間満了(2027年3月末)以降は、保険診療上のカプセルの請求も認められなくなります。在庫管理と処方切り替えの状況を定期的に確認しておくことが重要です。


カルケンスカプセルが2025年11月の限定出荷開始後、需要予測を大きく上回る注文が続いたことは、医療現場での切り替え対応がまだ十分に進んでいないことを示しています。厳しいところですね。薬剤部・薬局からの積極的な情報提供と主治医への切り替え提案が、スムーズな移行を実現するうえで重要な役割を担っています。


BTK阻害剤を含む血液腫瘍治療薬の最新情報は、PMDAの医薬品情報検索や各学会のガイドラインでも随時確認することを推奨します。


参考:oncolo.jp「カルケンス錠、慢性リンパ性白血病を対象に承認を取得」
カルケンス錠の承認情報と背景(oncolo.jp)


参考:日経メディカル「慢性リンパ性白血病に錠剤、胃内pH制限が不要」
カルケンス錠承認の詳細解説(日経メディカル・要会員登録)






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