血糖値が正常に近くても、カナグリフロジン服用中の患者はケトアシドーシスで死亡することがあります。

カナグリフロジン(一般名:カナグリフロジン水和物)の国内商品名は カナグル® です。製造販売元は田辺ファーマ(旧・田辺三菱製薬)で、2014年7月に2型糖尿病治療薬として国内製造販売承認を取得しました。実はこの薬、田辺三菱製薬が世界初のSGLT2阻害薬として自社創製した「日本生まれの新薬」です。
剤形は2種類が存在します。
| 販売名 | 剤形 | 薬価(1錠) | YJコード |
|---|---|---|---|
| カナグル錠100mg | 普通錠 | 139.3円 | 3969022F1029 |
| カナグルOD錠100mg | 口腔内崩壊錠 | 139.3円 | 3969022F2025 |
カナグリフロジンのATCコードはA10BK02で、SGLT2阻害薬に分類されます。海外では米国・欧州でジョンソン・エンド・ジョンソン傘下のヤンセンが「Invokana®(インボカナ)」として販売しており、米国では2013年にFDA承認を取得しています。つまり商品名は国によって異なります。国内はカナグル、海外はインボカナが基本です。
薬効分類番号は「3969」で、一般名の正式表記は「カナグリフロジン水和物」です。処方箋医薬品の指定を受けており、医師の処方なしには入手できません。電子カルテやオーダリングシステムで「カナグリ」と検索すると表示されることが多く、処方入力時の候補確認が重要になります。
KEGGデータベース:カナグル添付文書情報(禁忌・用法・副作用の詳細)
カナグリフロジンはSGLT2(ナトリウム-グルコース共輸送体2)を選択的に阻害します。腎臓の近位尿細管でグルコースの再吸収を妨げることで、余分な糖を尿として体外に排出し、血糖値を下げます。これが基本です。
この作用機序はインスリン非依存的で、膵β細胞の機能に関係なく効果を発揮します。インスリンが分泌されない状態でも血糖を下げられるという点で、従来の経口血糖降下薬と大きく異なります。これは使えそうです。
さらに注目すべきは腎保護の仕組みです。SGLT2を阻害すると近位尿細管でのナトリウム再吸収が減り、遠位尿細管の緻密斑にナトリウムが多く届きます。緻密斑はこれを「過剰な糸球体ろ過」と認識して輸入細動脈を収縮させ、糸球体内圧が低下します。これを「管糸球体フィードバック(TGF)」と呼び、CKD進行の抑制に直結します。
血糖降下作用に加えて、以下のような多面的な作用も確認されています。
主としてUGT1A9およびUGT2B4により代謝され、CYP系の代謝をほとんど受けません。そのためCYP相互作用を考慮する必要が少ない点は、多剤併用患者への処方設計で重宝されます。ただし、リファンピシンやフェニトインなどUGT誘導薬との併用で本剤のAUCが最大51%低下するため注意が条件です。
PMDA:カナグル適正使用ガイド(作用機序・安全性情報の詳細)
カナグリフロジンの現在の効能または効果は、①2型糖尿病、②2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(末期腎不全または透析施行中の患者を除く)の2つです。用法・用量は「100mgを1日1回朝食前または朝食後」の経口投与で統一されています。
eGFRに応じた使用区分が重要です。
| eGFR(mL/min/1.73m²) | 2型糖尿病(血糖降下目的) | CKD(腎保護目的) |
|---|---|---|
| 45以上 | ✅ 使用可 | |
| 30〜45未満 | ⚠️ 血糖低下作用不十分の可能性、慎重判断 | ⚠️ 投与継続を慎重に判断 |
| 30未満 | ❌ 投与しないこと(血糖低下作用期待できず) | ❌ 新規投与しないこと |
| 透析・末期腎不全 | ❌ 禁忌相当 | ❌ 適応外 |
腎保護目的でCKDに使用する場合、血糖コントロール目的ではeGFR45未満で中止を検討するのに対し、腎保護目的ではeGFR30まで継続できる可能性があります。これは同じ薬でも「何を目的に使うか」で中止基準が変わるということです。医師・薬剤師ともにここを正確に把握しておくことが、適正使用の鍵になります。
腎保護目的の場合のエビデンスはCREDENCE試験から得られています。アルブミン尿300mg/gCre以上の糖尿病性腎症患者4,401人を対象とした本試験では、プラセボ群と比較してカナグリフロジン群で腎複合エンドポイント(透析・腎移植・腎死など)のリスクが約30%低下したことが示されました。この数字が適応追加承認の根拠となっています。
大阪大学附属病院糖尿病センター:カナグル CKD適応追加の留意事項まとめ
カナグリフロジンを含むSGLT2阻害薬の副作用で特に意識すべきなのが、正常血糖ケトアシドーシス(euglycemic DKA、以下euDKA)です。これは知らないと致死的な見逃しにつながります。
通常のDKAは血糖値が250mg/dL以上になるため高血糖から発見しやすいですが、SGLT2阻害薬服用中は尿糖として糖が排泄されるため血糖値が200mg/dL以下でもケトアシドーシスが発症します。患者も医療者も「血糖値は正常だから大丈夫」と思いがちです。厳しいところですね。
euDKAを見逃さないための着目ポイントは以下の通りです。
カナグリフロジン服用中の患者でこれらの症状が出たら、血糖値が正常でも血中または尿中ケトン体の測定を行うことが原則です。添付文書でも「著しい血糖の上昇を伴わない場合がある」と明記されています。
重大な副作用は、低血糖(4.8%)・脱水(0.1%)・ケトアシドーシス(0.1%)・腎盂腎炎(0.1%)・フルニエ壊疽(頻度不明)の5つが主なものです。このうちフルニエ壊疽(外陰部・会陰部の壊死性筋膜炎)は稀ですが発見が遅れると重篤化します。
また、海外試験データに基づき添付文書に記載されている下肢切断リスクにも注意が必要です。GLP-1受容体作動薬と比較したコホート研究では、65歳以上の心血管疾患合併患者でカナグリフロジン群の下肢切断リスクが1.73倍に増大したと報告されています。末梢血管疾患や糖尿病性足部潰瘍の既往がある患者への投与は、リスク・ベネフィットを慎重に評価することが条件です。
神戸きしだクリニック:SGLT2阻害薬のケトアシドーシスの症状と対処法(わかりやすい解説)
カナグリフロジンには「カナグル」だけでなく、DPP-4阻害薬テネリグリプチンとの配合剤「カナリア配合錠」も存在します。つまり商品名は2種類あるということです。
PMDAには両剤の名称類似による取り違え事例が複数報告されています。実際に起きた取り違えの一例として、「DPP-4阻害薬による類天疱瘡の既往がある患者に、DPP-4阻害薬含有のカナリアを誤投与し、水疱が再発して皮膚科治療が必要になった」ケースが報告されています。これは痛いですね。
カナグリフロジン系商品名をSGLT2阻害薬の他の薬剤と合わせて整理します。
| 一般名 | 商品名(国内) | 特記事項 |
|---|---|---|
| カナグリフロジン | カナグル® | 単剤。田辺ファーマ創製 |
| テネリグリプチン+カナグリフロジン | カナリア®配合錠・OD錠 | DPP-4阻害薬配合。カナグルと名称類似に注意 |
| ダパグリフロジン | フォシーガ® | CKD・心不全に単独適応あり |
| エンパグリフロジン | ジャディアンス® | 心不全(HFrEF・HFpEF)にも適応 |
| イプラグリフロジン | スーグラ® | 国内初承認SGLT2阻害薬 |
| ルセオグリフロジン | ルセフィ® | 田辺三菱製薬 |
| トホグリフロジン | デベルザ® | — |
取り違えを防ぐために、現場で実践できる対策を以下にまとめます。
2025年9月にはカナリア配合OD錠が新たに発売され、製品ラインがさらに増えました。これにより、今後も混同リスクが継続することが予想されます。医師・薬剤師・看護師を含めたチーム全体で「カナグル=単剤、カナリア=配合剤」という認識を共有することが、安全な使用の第一歩です。
PMDA:製薬企業からの医薬品安全使用(カナリア・カナグル取り違えの注意喚起文書)
m3.com薬剤師コラム:カナリアとカナグルの取り違え事例の詳細解説