「ジョサマイシンシロップは製造中止でも、まだ一部の薬局では在庫が流通しており、代替薬なしで処方すると薬局から疑義照会が来て患者対応が2倍になります。」

ジョサマイシンシロップ(商品名:ジョサマイシンシロップ15%「サワイ」など)は、沢井製薬をはじめとする複数のジェネリックメーカーが製造・販売していたマクロライド系抗菌薬のシロップ製剤です。2022年以降、製造販売会社各社から相次いで販売中止の通知が出され、医療現場に大きな影響を与えました。
販売中止の主要因として挙げられるのは、収益性の低下と製造コストの上昇です。後発医薬品(ジェネリック)の薬価は定期的な薬価改定のたびに引き下げられており、ジョサマイシンシロップのような小児用製剤は使用量が限られるため、製造・品質管理コストに見合わないと判断されたと考えられます。
実際、厚生労働省が公開しているデータによれば、後発医薬品の薬価は先発品比較で平均40〜50%以下の水準まで引き下げられているケースが多く、採算割れによる供給停止は製薬業界全体で問題となっています。つまり、ジョサマイシンシロップの販売中止はこの業界全体の構造的問題の一端です。
もう一つの背景として、近年の小児科領域における抗菌薬適正使用の推進があります。AMS(Antimicrobial Stewardship)の観点から、マクロライド系抗菌薬全般の処方数が緩やかに減少傾向にあり、市場規模の縮小が製造継続の意欲を削ぐ要因となっています。これは決してジョサマイシンの薬効上の問題ではありません。
ジョサマイシンはその作用機序として、細菌のリボソーム50Sサブユニットに結合してタンパク質合成を阻害します。他のマクロライド系(エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン)と比較して、マクロライド耐性菌の一部に対しても交差耐性が少ないとされており、選択肢として重宝されていただけに、現場への影響は小さくありませんでした。
厚生労働省 医薬品・医療機器情報|医薬品の供給状況に関する情報ページ
代替薬が必要です。ジョサマイシンシロップの販売中止を受け、現場では主にマクロライド系抗菌薬のドライシロップ・シロップ製剤への切り替えが進んでいます。以下に代表的な代替薬を整理します。
| 一般名 | 商品名(例) | 剤形 | 特記事項 |
|---|---|---|---|
| クラリスロマイシン | クラリス DS | ドライシロップ | 1日2回投与、苦味あり |
| アジスロマイシン | ジスロマック DS | ドライシロップ | 1日1回3日間投与 |
| エリスロマイシン | エリスロシン DS | ドライシロップ | 胃腸障害に注意 |
| ロキシスロマイシン | ルリッド DS(一部) | ドライシロップ | 小児への適応確認が必要 |
代替薬選択の際にまず確認すべきは「対象菌種と適応症」です。たとえばマイコプラズマ肺炎を疑う場合、アジスロマイシンやクラリスロマイシンが第一選択として挙げられます。一方、百日咳の予防・治療ではエリスロマイシンが依然として推奨されているガイドラインもありますが、胃腸障害の副作用頻度が高い点に注意が必要です。
アジスロマイシンドライシロップは1日1回・3日間投与という服薬コンプライアンスの高さが特徴です。特に保護者が服薬管理をする小児患者においては、この投与スケジュールの単純さは大きなメリットとなります。これは使えそうです。
ただし、アジスロマイシンはQT延長リスクが他のマクロライド系と比べて比較的議論されており、心疾患のある患者や他のQT延長薬との併用時には慎重な判断が求められます。クラリスロマイシンは薬物相互作用(CYP3A4阻害)が広く知られており、併用薬の確認が必須です。
クラリスロマイシンが条件です(マイコプラズマ肺炎の第一選択として)が、苦味への対応として「オレンジジュース等と服用するが、ミルクとは混ぜない」など服薬指導の工夫も同時に行うことが推奨されます。
日本小児感染症学会|小児感染症ガイドラインおよびマクロライド適正使用に関する情報
処方切り替えには落とし穴があります。単純に「ジョサマイシン→クラリスロマイシン」と置き換えるだけでは不十分で、用量換算・投与回数・剤形特性の違いを正確に理解する必要があります。
まず用量について整理します。ジョサマイシンシロップ15%は一般的に1日30〜50mg/kgを3〜4回に分けて投与する製剤です。一方、クラリスロマイシンドライシロップ10%は1日15mg/kgを2回に分けて投与します。単純な「mg数だけ」を比較すると処方ミスにつながるため、パーセンテージと服用量を同時に確認する習慣が重要です。
アジスロマイシンドライシロップ2%は1日10mg/kg(最大500mg)を3日間投与が小児の標準的な用法です。5日間投与レジメンもありますが、適応疾患によって使い分けが必要です。投与期間が短い分、治療完了の確認もセットで行うとよいでしょう。
次に剤形の違いです。シロップは調製済みの液体であるのに対し、ドライシロップは粉末を水で溶かして使用します。保護者への服薬指導では「水に溶かして冷蔵保存、14日以内に使い切る」といった具体的な説明が必要です。この指導漏れが服薬ミスや残薬問題につながるため、薬剤師との連携が欠かせません。
また、ジョサマイシンはCYP代謝への関与が比較的小さいとされており、相互作用が少ない点を評価して処方していた医師もいます。代替薬のクラリスロマイシンはCYP3A4の強力な阻害薬であり、タクロリムス・ワルファリン・一部のスタチンなどとの相互作用に注意が必要です。切り替えと同時に、患者の併用薬リストを必ず見直しましょう。
実務への影響は見過ごせません。ジョサマイシンシロップは、特定の患者で「他のマクロライドより消化器系副作用が少ない」「マクロライド耐性パターンが異なる」として選択されていた背景があります。その消失は単なる「在庫切れ」以上の問題です。
消化器系副作用という点では、エリスロマイシンが最も副作用頻度が高く(悪心・嘔吐・腹痛が15〜30%程度の報告例あり)、クラリスロマイシンはそれよりやや少なく、アジスロマイシンがさらに少ないとされています。ジョサマイシンはこの中でも比較的消化器副作用が穏やかなマクロライドとして位置づけられており、胃腸の弱い小児患者には重宝されていました。
耐性菌の観点でも影響があります。クラリスロマイシン耐性マイコプラズマ肺炎は日本では2010年代以降に急増しており、2015〜2019年の調査では小児のマイコプラズマ肺炎患者からの分離株の70〜80%以上がマクロライド耐性であるというデータも報告されています。つまり、代替薬が必ずしも有効とは限らないということです。
この状況下でジョサマイシンが選択肢から消えると、耐性株への対応として第二選択薬(テトラサイクリン系のミノサイクリン、8歳以上適応)やニューキノロン系(適応外使用の問題あり)への移行を余儀なくされるケースが増える可能性があります。厳しいところですね。
現実的な対応策として、感染症専門医や小児科専門医へのコンサルテーション体制を整えること、地域の感染症サーベイランス情報(院内・地域の耐性菌状況)を定期的に確認することが重要です。国立感染症研究所(NIID)のAMR対策アクションプランや感染症発生動向調査のデータも参考にすると、処方判断の根拠として活用できます。
国立感染症研究所 AMR(薬剤耐性)対策|マクロライド耐性菌サーベイランスデータ参照
販売中止はAMS見直しの好機でもあります。ジョサマイシンシロップの消失を「困った問題」で終わらせず、抗菌薬適正使用の再教育・体制整備の機会と捉える視点が、医療機関全体のレベルアップにつながります。
AMS(Antimicrobial Stewardship)とは、適切な抗菌薬を、適切な患者に、適切な用量・期間で使用することを推進する組織的な取り組みです。2017年に改正された「抗菌薬使用のガイドライン」や、厚生労働省のAMR対策アクションプランでも、医療機関単位でのAMSチーム設置が推奨されています。AMS推進が原則です。
具体的な取り組みとして、「咽頭炎・気管支炎の大部分はウイルス性であり、抗菌薬適応なし」という認識を処方医と患者・保護者が共有することが挙げられます。マクロライド系抗菌薬の処方頻度が高い診療科では、処方前の迅速診断(A群溶連菌迅速検査、マイコプラズマ抗原検査など)の活用率を高めることで、不要な処方を減らすことができます。
薬剤師の介入も有効です。処方箋を受け取った薬局薬剤師が、ジョサマイシンシロップからの切り替えを確認した際に「なぜこの薬剤を選んだか」を疑義照会するのではなく、「切り替えの選択肢と注意点を添付して処方医にフィードバックする」仕組みを院内・地域薬局間で構築できると、処方の質が向上します。これは使えそうです。
また、電子カルテやオーダリングシステムにジョサマイシンシロップが「販売中止」として表示されるよう設定を更新することは、処方エラー防止の観点から非常に重要です。システム対応が完了していない医療機関では、手作業での確認が必要な場面が残ります。更新が必須です。
最終的に、ジョサマイシンシロップの販売中止は一つの製剤の消失にとどまらず、日本の後発医薬品供給体制の脆弱性・マクロライド耐性問題・小児感染症診療の変革という三つの大きなテーマを内包しています。この機会に、自施設の抗菌薬処方プロトコルを見直し、最新のガイドラインに基づいた診療体制を整えることが、患者アウトカムの改善につながります。
AMR臨床リファレンスセンター|抗菌薬適正使用支援・AMSプログラムの実践情報

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