「JIS規格どおりにやっている」と答えただけで、品質監査で不適合を取られた現場が実際に存在します。

JIS Z 9015-1の抜き取り表は、一見すると数字とアルファベットが並ぶだけの難解な表に見えます。しかし、構造を整理すると3つの要素で成り立っています。「①サンプル文字の一覧表(表1)」「②主抜取表(表2)」「③検査のきつさを切り替えるルール」です。この3つの関係を把握すれば、抜き取り表の本質が見えてきます。
まず「サンプル文字」とは何かを説明します。ロットのサイズ(検査する製品の総数)と検査水準を組み合わせて決まるA〜Rのアルファベット記号のことです。このサンプル文字が、次のステップで使う主抜取表の「行」を指定するキーになります。つまり、サンプル文字を間違えると、その後のサンプルサイズや合格判定数がすべてずれてしまいます。表の出発点となる重要な要素です。
金属加工現場で多いのは、通常検査水準Ⅱを使う場面です。たとえばロットサイズが500個の場合、通常検査水準Ⅱとの組み合わせでサンプル文字は「H」になります。サンプル文字Hのサンプルサイズは50個です。AQLを1.5%に設定した場合、主抜取表(なみ検査・1回抜取方式)からAc(合格判定数)=2、Re(不合格判定数)=3と読み取れます。これはつまり「50個を抜き取り、不良が2個以下なら合格、3個以上なら不合格」という意味です。
ここで見落としがちなのが、表中に登場する「矢印」の扱いです。主抜取表には上向き矢印(↑)と下向き矢印(↓)が記載されている箇所があります。下向き矢印は「矢印の下の最初の抜取方式を採用する。ただし、サンプルサイズがロットサイズ以上になれば全数検査する」という意味です。上向き矢印は「矢印の上の最初の抜取方式を使用する」を指しています。矢印が出る箇所は、該当のサンプル文字とAQLの組み合わせに対応する抜取方式が表内に存在しない場合に発生します。矢印を無視して読み進めると、誤ったサンプル数や判定基準で検査を実施してしまうことがあります。
| ロットサイズ | サンプル文字 | サンプルサイズ |
|---|---|---|
| 26〜50 | D | 8 |
| 51〜90 | E | 13 |
| 91〜150 | F | 20 |
| 151〜280 | G | 32 |
| 281〜500 | H | 50 |
| 501〜1,200 | J | 80 |
| 1,201〜3,200 | K | 125 |
| 3,201〜10,000 | L | 200 |
サンプル文字の決定が第一歩です。主抜取表を参照するのはその後になります。2段階の手順を踏むことが原則です。
参考:JIS Z 9015-1の規格本文(計数値検査に対する抜取検査手順 第1部)の全文参照に役立ちます。
JISZ9015-1:2006 計数値検査に対する抜取検査手順−第1部(kikakurui.com)
AQLとは「Acceptance Quality Limit(合格品質限界)」の略で、継続して連続のロットが抜き取り検査に提出されるとき、許容される工程平均の不良率の上限を示す値です。AQL 1.5%と設定した場合は「不良率1.5%以下のロットであれば95%以上の確率で合格となる」という意味を持ちます。「1.5%の不良を許容している」と誤解している方も多いですが、正確には「この品質レベルのロットを高確率で合格させるための指標」です。
AQLの設定は製品の用途と欠点の重大度によって変わります。金属加工の現場では、主に次の3段階で考えるのが一般的です。
AQLの数値は表の中に0.010〜1000の26段階で用意されています。ただし、不良率(%)として使えるのは0.010〜10.0の16段階に限られています。これは大切な注意点です。AQLが10.0を超える場合は「100単位当たりの欠点数」としての意味しか持ちません。
金属加工現場で受入検査にjisz9015抜き取り表を使う場合、同じ部品でも「寸法検査はAQL 1.0%」「外観検査はAQL 2.5%」というように欠点の種類ごとに別々のAQLを設定することも認められています。むしろ一律に同じAQLを当てはめるよりも、品質リスクに応じて使い分けた方が現場の実態に合った検査設計になります。
たとえばロットサイズ10,000個(特殊ネジ)で通常検査水準Ⅱ、なみ検査、AQL 1.5%の場合をシミュレーションすると、サンプル文字は「L」、サンプルサイズは200個、Ac=7、Re=8となります。200個は全体の2%にあたりますが、このサンプルで統計的にロット全体の品質を保証する設計になっています。これが抜き取り検査の効率性です。
参考:AQLの考え方と金属加工・製造業向けの検査水準設定について詳しく解説されています。
抜き取り検査の基準とは?JIS規格(Z 9015)からAQLまで(東京電子工業)
jisz9015の抜き取り表には、「なみ検査」「きつい検査」「ゆるい検査」の3種類の主抜取表が用意されています。それぞれに対応した別々の表があり、どれを使うかによってサンプルサイズや合格判定個数が大きく変わります。検査のきつさを切り替えるルールを知らないままでは、抜き取り表を正しく運用しているとは言えません。
最初の検査は原則として「なみ検査」から始めます。それが基本です。その後、品質実績に応じてきつい検査またはゆるい検査に移行します。この切り替えには明確な条件があります。
きつい検査の特徴は「サンプルサイズを増やさず、合格判定個数(Ac)を厳しくする」設計になっている点です。品質が悪いサプライヤーに対して検査工数をむやみに増やすのは非効率であるため、合格ラインを引き上げることで対応します。一方、ゆるい検査はサンプルサイズそのものを小さくします。継続して良い品質を提供しているサプライヤーへのインセンティブとして、検査工数が削減されます。
なみ検査で同じサンプル文字・AQL・サンプルサイズを使い続けている現場では、切替ルールを適用できていない可能性があります。厳しいところですね。きつい検査が適用されるべき状況で検査がゆるいままだと、品質監査で指摘を受けることがあります。逆に、ゆるい検査に移行できる状況でも気づかずになみ検査を継続していると、不必要な検査コストが発生します。
切替ルールの運用には記録管理が不可欠です。「何ロット連続で合格/不合格か」を追跡するための検査記録台帳を整備することが、jisz9015の調整型抜取検査を正しく運用する上での前提条件になります。
参考:抜き取り検査のきつさ切替の考え方と主抜取表の構造について解説されています。
主抜取表の実際の読み方について、具体的な手順で解説します。なみ検査の1回抜取方式を例に取り上げます。左端の列でサンプル文字(例:G)を探します。その行に記載されているサンプルサイズが32個であることを確認します。次に、その行を右に目を移してAQL列(例:AQL 1.0%)との交差点を探します。そこに記載された数値がAc(合格判定個数)とRe(不合格判定個数)です。
Ac=1、Re=2であれば「32個を検査して不良が1個以下なら合格、2個以上なら不合格」という意味になります。2回抜取方式の場合は少し異なります。ReはAc+1とは限らず、判定保留のゾーンが設けられているため、表の見方がやや複雑になります。1回抜取方式に慣れてから2回抜取に移行するのが現場では扱いやすいです。
表を読む上でよく起きる間違いをまとめます。
特に最後の「サンプルサイズがロットサイズ以上になれば全数検査する」というルールは盲点になりやすいです。小ロット品を扱う金属加工現場では、ロットサイズが20個や30個といった場面も珍しくありません。この場合、矢印の指す抜取方式のサンプルサイズが32個になると、ロットサイズ20個を超えてしまいます。こうなった場合はルール上「全数検査」に切り替える必要があります。抜き取り検査として設計したつもりが、実態として全数検査と同じ運用が求められるケースです。
Ac・Reの数値だけを記録して「この製品の合否基準はAc=1、Re=2」と社内標準に記載している現場も多いですが、それだけでは不十分です。ロットサイズ・検査水準・AQL・抜取方式・検査のきつさの5点がセットで記録されていて初めて再現性のある検査設計と言えます。
jisz9015の抜き取り表の解説記事では、表の読み方やAQLの設定方法が中心に語られることがほとんどです。しかし実際の金属加工現場では「ロットをどう定義するか」という設計が、検査コストと品質保証の実効性を決める最大の変数になります。
ロットサイズが変わると、サンプル文字が変わり、サンプルサイズが変わります。これは当然のことですが、ロットをどの単位で切るかによって、一日に実施する抜き取り検査の回数と1回あたりのサンプル数が大きく変化します。たとえば1日分の生産品3,000個を1ロットにすると、通常検査水準ⅡではサンプルサイズKが対応し、125個を検査することになります。一方、午前/午後でロットを分割して1,500個ずつにすると、サンプル文字Kは変わらず125個のままです。しかし日勤/夜勤の2シフトで区切ってそれぞれ1ロットにすると、工程変動を早期に捉えやすくなるというメリットがあります。
大きなロットにまとめるほど1回のサンプル数は検査比率として小さくなりますが、品質問題が起きたときに影響を受けるロットアウト対象数も増えます。逆に小さなロットに細かく区切ると検査回数が増えますが、問題の早期発見と被害の局所化が実現します。これはどちらが正解とは言いきれない設計の問題です。
金属加工では機械切替(段取り替え)のタイミングでロットを区切ることが品質管理上の常識と感じている方も多いのではないでしょうか。これは工程のばらつき要因が変わるタイミングに合わせるという点で合理的です。一方で、同一工程で長時間安定稼働している場合にわざわざ短いロットに区切るのは、検査コストの増加を招くだけになることもあります。工程の安定性と検査コストのバランスを見ながら、ロットの上限・下限を社内で明文化しておくことが重要です。
jisz9015の規格書自体には「ロットは同じ条件で生産された製品でまとめるのがよい」と書かれていますが、その「同じ条件」の定義は各現場に委ねられています。つまり抜き取り表の外側にある「ロット設計」こそが、検査の実効性を左右する見えないパラメータです。表の読み方を覚えるより先に、ロットの定義を正しく固めることが現場での第一歩と言えます。
参考:金属加工・製造業でのAQL指標型抜取検査の実践的な手順が解説されています。
抜き取り表を正しく読めても、運用が適切でなければ品質保証としての機能を果たせません。jisz9015の調整型抜取検査が求めているのは「表を参照する行為」ではなく「継続的な品質管理の仕組み」です。
最も重要な運用ポイントの一つが「ランダムサンプリングの徹底」です。箱の上部や手前の製品だけを取り出す「便宜的サンプリング」は、統計的な意味での抜き取り検査にはなりません。コンテナの上層・中層・下層からバランスよく抜き取る、乱数表を用いて位置を決めるなど、ランダム性を確保する工夫が必要です。金属加工のプレス部品や機械部品では、加工順序や冷却の状態によって品質が変化することがあります。製造順の早い製品と遅い製品が混在するロットでは特に注意が必要です。
不合格となったロットの処置も、事前にルール化しておく必要があります。全数選別・廃棄・手直し・格下げといった選択肢の中から、製品の価値や手直しコスト、納期への影響を考慮して判断します。金属部品の場合、表面処理後の外観不良であれば全数選別が現実的です。一方、強度不良の疑いがある熱処理部品であれば、全数廃棄または破壊試験による確認が求められることもあります。処置方法が場当たり的では、次回の品質監査で説明責任を果たせなくなります。
検査記録の内容についても整理しておきます。最低限必要な記録項目は次のとおりです。
「JIS規格どおりにやった」という回答だけでは品質監査で不適合を指摘される場合があります。これは冒頭でも触れた重要な事実です。「なぜこのAQLを設定したのか」「なぜこの検査水準を選んだのか」という問いに対して、製品の用途・欠点の重大度・工程の安定性を根拠として答えられることが求められます。記録はその根拠を示すエビデンスになります。
また、一度設定した基準を見直す仕組みも必要です。工程改善によって不良率が大幅に改善された場合、AQLをそのまま維持することは不必要に厳しい検査を続けていることになります。逆に、顧客からより高い品質要求が出された場合や、新しい加工工程を導入した初期段階では、AQLや検査のきつさを見直す判断が求められます。つまり、抜き取り検査の基準は「一度決めたら終わり」ではありません。
参考:抜き取り検査の運用上の注意点とOC曲線を使った品質保証の考え方について詳しく解説されています。
なみ検査、ゆるい検査、きつい検査の主抜取表の作り方(QCplanets)