後発品に切り替えれば安心できる、と思っていませんか。

「出荷調整」と聞くと一時的な品薄のように聞こえますが、ジルチアゼム塩酸塩徐放カプセルの場合はそう単純ではありません。後発品メーカーの沢井製薬では2021年6月から限定出荷が継続しており、2026年3月時点で実に約5年にわたって供給が不安定な状態が続いています。
現在の出荷状況を整理すると、次のとおりです。
| メーカー | 製品名 | 状況(2025〜2026年時点) |
|---|---|---|
| 沢井製薬 | ジルチアゼム塩酸塩Rカプセル100mg「サワイ」 | 限定出荷継続(2021年〜) |
| 日医工 | ジルチアゼム塩酸塩徐放カプセル100mg「日医工」 | 限定出荷(他社品影響) |
| 日医工 | ジルチアゼム塩酸塩徐放カプセル200mg「日医工」 | 2025年7月に限定出荷解除 |
| 東和薬品 | ジルチアゼム塩酸塩徐放カプセル100mg/200mg「トーワ」 | 限定出荷(2025年12月継続) |
| 田辺ファーマ(先発) | ヘルベッサーRカプセル100mg | 限定出荷・供給量減少 |
限定出荷とは、全ての受注に対応できない状態のことです。つまり、注文しても希望の数量が届かない、あるいは届かないケースが常態化しています。薬局・病院のどちらも影響を受けており、モニター薬局調査(2025年9月)でも、ヘルベッサーRカプセルが「全くない」と報告される事例が複数確認されています。
注目すべき点は、自社に生産上の問題がないメーカーでも影響を受けているという事実です。日医工の100mgカプセルは「他社品の影響による限定出荷」として分類されており、自社努力だけでは解決できない構造的な問題が背景にあります。つまり、一社の努力で解決できる問題ではないということですね。
参考:医療用医薬品供給状況データベースDSJP(ジルチアゼム塩酸塩徐放カプセル100mg「日医工」の供給情報)
DSJP|ジルチアゼム塩酸塩徐放カプセル100mg 供給状況一覧
この問題を理解するには、複数の要因が連鎖している構造を把握することが不可欠です。単純な「製造ミス」や「原料不足」という説明では全体像が見えてきません。
① 製造工程の問題(沢井製薬)
最大手の沢井製薬では、ジルチアゼム塩酸塩Rカプセルについて、製剤の製造工程に問題が生じたことを公式に認めています。2024年7月には品質基準値を満たすための製造方法の変更申請が行われましたが、承認に至るまでに時間を要し、2025年上半期に見込んでいた供給回復が大幅に遅れました。製造工程の見直しが原点です。
② 原薬入荷遅延と製造委託先の問題(日医工)
日医工では、製造委託先からの原薬(薬の元となる成分)の入荷が遅延し、200mgの徐放カプセルについては在庫が枯渇する事態となりました。国内ジェネリック医薬品業界が抱えるGMP(医薬品製造管理・品質管理基準)遵守の問題が、個々の製品レベルにまで波及した結果です。
③ 先発品の販売中止による需要集中(ドミノ倒し現象)
ここが最も意外な事実かもしれません。田辺三菱製薬の先発品「ヘルベッサー錠」が2025年3月末で販売中止となったことで、その需要が残りのジェネリックメーカーに一斉に流入しました。すでに自社の生産能力が逼迫していた各社に対して、さらなる注文が殺到した形です。東和薬品のように自社に問題がなかったメーカーまでもが「他社品影響」として限定出荷に追い込まれた理由がここにあります。
④ 需要増加による連鎖的な品薄
あるメーカーの品が手に入らなくなると、医療機関や薬局は次の代替メーカーへと発注を集中させます。この連鎖が「玉突き」状態を生み、最終的に全メーカーが品薄に陥るという悪循環が形成されました。まさにドミノ倒しです。
この構造的な問題は、「別のメーカーを探せばよい」という対処法が通用しない理由を説明しています。
参考:沢井製薬公式お知らせ(ジルチアゼム塩酸塩Rカプセル100mg「サワイ」の出荷量に関する一連の経緯)
沢井製薬|ジルチアゼム塩酸塩Rカプセル100mg「サワイ」出荷量減少のお知らせ(PDF)
代替薬への切り替えは、どんな疾患に使っているかによって選択肢が大きく変わります。「ジルチアゼムを別のCa拮抗薬に変えればいい」という単純な発想では、患者への不利益につながる可能性があります。選択の根拠が重要です。
冠攣縮性狭心症が主目的の場合
ジルチアゼムは冠動脈の攣縮を抑制する効果に優れており、この適応での代替として推奨されているのがベニジピンです。冠攣縮の抑制機序がジルチアゼムと近く、病態生理的に理にかなった選択肢とされています。循環器内科医の意見でも、冠攣縮性狭心症にはベニジピンを選ぶ医師が多い傾向が見られます。
降圧目的が主体の場合
高血圧のコントロールを主目的としている患者では、アムロジピンやニフェジピンCRといったジヒドロピリジン系への変更が推奨されます。降圧効果は強力ですが、ジルチアゼムが持つ不整脈抑制効果(心拍数低下作用)は期待できません。この点を医師・薬剤師間で事前に共有しておく必要があります。
同系統薬ベラパミルへの切り替えの注意点
非ジヒドロピリジン系として同じグループに属するベラパミルも選択肢に挙がりますが、心臓への抑制作用がジルチアゼムよりも強く、β遮断薬との併用は原則禁忌となります。患者がβ遮断薬を併用している場合は特に慎重な判断が必要です。これは見落としやすい点ですね。
剤形・用法の変更という方法
200mg徐放カプセルが入手できない場合、30mg通常錠を1日3回投与に変更する方法もあります。ただし、徐放製剤と通常錠では薬物動態が異なるため、同等の効果が得られるとは限りません。日医工は200mgカプセルの代替として100mgカプセルを2錠服用するよう案内した事例もありますが、保険審査上の確認も含めて慎重に対応することが基本です。
参考:m3.comファーマシスト|循環器内科医によるジルチアゼム代替薬の使い分け解説
「Ca拮抗薬 ジルチアゼムの代替薬の使い分け」循環器内科医が回答(m3.com)
出荷調整の長期化は、医療機関・薬局の診療報酬上の加算にも直接的な影響をもたらします。知らないと損する情報です。
後発医薬品使用体制加算・外来後発医薬品使用体制加算・後発医薬品調剤体制加算を算定するには、施設基準として後発医薬品の使用割合(調剤割合)が一定水準を超えていることが求められます。しかし、出荷調整で後発品が入手できない状況では、先発品を調剤せざるを得ないケースが発生します。その結果、後発品の使用割合が下がり、加算が算定できなくなるリスクがあります。
この問題に対して厚生労働省は、臨時的な取扱いを設けて対応しています。
- 令和7年(2025年)4月〜9月診療分:ジルチアゼム塩酸塩100mg徐放カプセルを含む供給停止品目と同一成分・同一剤形の医薬品を、後発品使用割合の算出対象から除外しても差し支えない
- 令和7年(2025年)10月〜令和8年(2026年)3月診療分:同様の除外措置を延長(令和7年9月25日付事務連絡)
- 令和8年(2026年)4月〜9月診療分:さらに延長(令和8年3月5日付事務連絡)
この措置を活用するためには、対象品目のリストに掲載されているすべての品目を除外する必要があります(一部の成分のみ除外することは認められません)。加算区分に変更が生じる場合は、地方厚生局への変更届出も必要になるため、事務担当者との連携が不可欠です。
重要な点として、この措置はカットオフ値の算出には適用されない点に注意が必要です。また、令和8年6月1日以降は「地域支援・医薬品供給対応体制加算」へと名称・体系が変更される見込みであることも把握しておきましょう。
参考:厚生労働省保険局医療課事務連絡(令和8年3月5日付)後発医薬品の出荷停止等を踏まえた診療報酬上の臨時的な取扱いについて
厚生労働省|後発医薬品の出荷停止等を踏まえた診療報酬上の臨時的な取扱いについて(令和8年3月5日)(PDF)
医薬品の出荷調整は「薬がない」という事実だけが問題なのではありません。情報収集の遅れ・切り替え漏れ・患者説明の不備といった二次的なリスクが重なることで、医療安全上の問題に発展するケースがあります。これが見落とされがちな視点です。
⚠️ 現場で起きやすい3つのリスク
- リスク①:メーカー変更時の製剤特性の違いを見落とす
ジルチアゼム塩酸塩の徐放カプセルは、メーカーによって放出プロファイルや添加剤が異なります。「同じジルチアゼム100mgだから大丈夫」と判断して切り替えた結果、服薬後の血中濃度パターンが変わり、患者が予期しない副作用を訴えるケースが報告されています。
- リスク②:代替メーカーも限定出荷であることに気づかない
メーカーAが入手困難になったのでメーカーBへ切り替えたが、そのメーカーBも同様に限定出荷中だったというケースが現場で多発しています。発注前にDSJP(医療用医薬品供給状況データベース)で複数メーカーの供給状況を確認することが欠かせません。
- リスク③:患者への説明なしに製品が切り替わる
外観(カプセルの色・サイズ)や製品名が変わることで、患者が「違う薬を渡された」と不信感を抱き、服薬を中断するリスクがあります。高血圧・狭心症患者での急な服薬中断は、血圧急上昇や狭心症発作を引き起こす危険があり、説明を徹底することが必要です。
✅ 現場での危機管理プロセス(標準化の提案)
まず、週1回以上の頻度でDSJPや各メーカーの公式サイトを確認し、在庫枯渇予測時期を把握します。次に、代替品候補を事前に医師・薬剤師間でリスト化しておき、緊急時にすぐ動ける体制を整えます。患者に切り替えを実施する際は、外観変更の理由と同じ薬であることを文書または口頭で説明し、必要に応じて「お薬が変わりました」シールを活用します。
一部の病院では、岐阜大学病院の事例のように代替薬リストを地域の医療機関と共有し、連携して対応する取り組みも行われています。こうした地域連携は非常に有効です。
参考:厚生労働省 第4回医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議資料(ジルチアゼム塩酸塩徐放カプセルの記載を含む医薬品安定供給問題の背景)
厚生労働省|医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議 資料(PDF)