グリースを補充したのに、逆に温度が上がって設備が止まった経験はありませんか。

軸受の温度は、運転開始直後から徐々に上がり始め、一定時間が経過すると落ち着きます。これは正常な挙動です。NTNの技術資料によれば、定常状態での温度は室温より10〜40℃程度高い水準が目安で、一般的には100℃以下での使用が望ましいとされています。
定常状態に達するまでの時間は、軸受のサイズや形式、回転速度、潤滑方法によって大きく異なります。小型の玉軸受では20分ほどで落ち着くことが多い一方、大型の自動調心ころ軸受などでは数時間かかるケースもあります。つまり「運転後すぐ熱い」だけでは異常とは言い切れません。
問題なのは、温度が定常状態にならず、じわじわと上がり続ける場合です。JIS B 8301に基づく現場の目安としては、50℃(室温からの温度上昇)で要注意、70℃を超えたら異常と判断するのが基本です。また、転がり軸受は使用温度が100℃を超えると材料組織に変化が起き、寸法変化が生じる恐れがあります。普通のグリースや潤滑油も100℃を超えると酸化劣化が急速に進むため、早急な対処が必要です。
現場ではよく赤外線温度計(放射温度計)が使われますが、測定箇所は軸受外輪外径の中央部表面が基準です。ハウジング外側や軸端部で測ると実際より低い値が出ることがあるため、測定ポイントには注意が必要です。
NTN「機械の運転状態での点検」|異常温度上昇の主要原因と潤滑剤選定の詳細が確認できます
金属加工の現場で最も多い温度上昇の原因が、潤滑に関するトラブルです。ただし「潤滑不良=グリース不足」とだけ考えていると、大きな落とし穴にはまります。
グリースが不足すると、転動体と軌道面の間に必要な油膜が形成されず、金属同士が直接こすれて摩擦熱が発生します。その結果、軸受は急激に温度が上昇し、最悪の場合は焼付きに至ります。焼付きとは、異常発熱により金属が溶着し、軸受が回転不能になる状態です。
しかし逆に、グリースを入れすぎても温度が上がります。グリースの適正充填量はハウジング空間容積の1/3〜1/2が一般的な目安で、1/2を超えると攪拌によって発熱が増大します。NTNのカタログには「充填量が多すぎると攪拌や温度上昇が大きくなり、グリースの軟化や酸化などの変質を招く」と明記されています。たとえば毎回のメンテナンスで「念のため」と少し多めに補充し続けた結果、3回分後にはハウジングが過剰充填状態になっていた、というケースが現場では珍しくありません。
グリースを補充した直後に温度が上がった場合は要注意です。これはグリースが均一に分散される前の「慣らし期間」の発熱であることが多いですが、過充填が重なっていると定常状態になっても温度が下がりません。
また、グリースの種類が使用条件に合っていない場合も問題です。高温環境で使うのに耐熱グリースでなかったり、低温環境で粘度が高すぎるグリースを使うと、必要な油膜が形成されません。潤滑油を使う場合も同様で、粘度グレード(ISOのVG値)の選定が温度条件に合っていないと、油膜破断を引き起こします。
潤滑剤の劣化も見落としがちな原因です。グリースは稼働時間の経過とともに増ちょう剤の構造が崩れ、潤滑性能が落ちます。補給間隔は軸受サイズや回転数によって異なりますが、メーカーの補給間隔線図を参考に管理するのが確実です。
潤滑の次に多い原因が、軸受の取付け不良です。これは「組み付けたときは問題なかったのに」という状況で発生することが多く、原因の特定が遅れやすい落とし穴でもあります。
取付け不良の代表的なものが、ミスアライメント(芯出し不良)です。モーターとポンプを結ぶカップリングで、2本の回転軸の中心線が一致していない状態を指します。許容値を超えた芯ずれがあると、軸受に偏った荷重がかかり続け、摩擦熱が発生して温度が上昇します。さらにベアリングが熱膨張すると、転動体と保持器の隙間がさらに縮まり、潤滑不良に発展するという悪循環が起きます。
芯出しの許容値は一般に0.05mm以内とされており、これはA4用紙の厚みの約半分という非常に微細な精度が求められます。ダイヤルゲージを用いた芯出し作業は熟練を要しますが、近年は初心者でも数時間のトレーニングで習得できるレーザー式軸芯出し測定器が普及しています。
また、軸受を軸やハウジングに組み込む際の「叩き込み」による損傷も問題です。専用の組付け工具を使わずに軸受の内輪・外輪を直接ハンマーで叩くと、転動体や軌道面に圧痕が入り、運転中の振動や発熱の原因になります。この圧痕(ブリネル圧こん)は外観では分かりにくく、気づかないまま組み付けられているケースがあります。
取付け後は必ず手で回して、ゴリゴリ・コリコリといった引っかかり感がないか確認してください。異常な抵抗感があれば、軌道面への損傷が疑われます。
鉄原実業「芯出し不良による6つの影響」|ミスアライメントが温度上昇やベアリング摩耗につながる仕組みを図解で確認できます
潤滑や取付けに問題がないのに温度が下がらない場合、軸受内部すきまの設定や荷重条件、密封装置に原因があることがあります。この3つはセットで理解しておくと便利です。
まず「内部すきま」についてです。軸受の内部すきまとは、内輪・外輪・転動体の間の隙間のことで、この値が使用条件に合っていないと問題が生じます。すきまが小さすぎると転動体が軌道面を強く押し付けながら回転するため、摩擦モーメントが増大し、温度が急上昇します。反対にすきまが大きすぎると振動が増えて摩耗が進み、やがて温度上昇につながります。軸受内部すきまは「C2・CN・C3・C4・C5」の記号で分類されており、標準品(CN)は常温・普通荷重での使用向けです。高温環境や軽荷重・高速回転では一段上のすきまを選ぶ必要があります。
次に、荷重の過大についてです。定格荷重を超えた状態で軸受を使い続けると、転動体と軌道面の接触応力が限界を超え、表面がはがれる「フレーキング(剥離)」が起こります。フレーキングが始まると急激に振動と発熱が増加します。加工設備の条件変更(切削量の増大や送り速度の変更)をした後に温度が上がった場合は、軸受の動定格荷重を再確認する必要があります。
密封装置(シール・シールド)の摩擦過大も、見落とされやすい原因です。密封形軸受(シール付き)を使用する場合、リップシールが軸に強く当たりすぎていると、そのリップ部分が摩擦熱を発生させます。特に高速回転域では密封装置による発熱が無視できないレベルになることがあります。シールド(非接触タイプ)への変更や、潤滑状態の確認が有効な対策です。
つまり、温度・荷重・すきまの3要素を同時に見直すことが原則です。
現場の経験豊富な方でも、意外と盲点になるのがこの2つです。症状が似ているため、潤滑不良と誤診されることも少なくありません。
「クリープ」とは、軸受内輪と軸(またはハウジングと外輪)のはめあいが緩く、運転中に輪がゆっくりと滑り回転する現象です。クリープが起きると、はめあい面で金属同士が微妙にこすれ、摩擦熱と微細な摩耗粉が発生します。内輪面が鏡面状になっていたり、金属粉が付着している場合は、クリープのサインです。
クリープが発生する主な原因は「しめしろが不足している」ことで、重荷重・衝撃荷重がかかる機械では特に注意が必要です。はめあいの修正(軸寸法の見直し)や、軸受固定方法の変更で対処します。放置するとハウジング・軸ともに損傷が拡大し、軸受だけでなく周辺部品の交換も必要になることがあります。
電食(EDM放電損傷)は、インバータ駆動のモーターが増えた近年、急増している原因です。インバータは高周波スイッチング電流を発生させ、これが軸を経由して軸受に漏電します。漏れた電流が転動体と軌道面の油膜をブレークダウンして放電し、軌道面を数μm単位で溶かします。この「電食」によって軌道面がまだら模様(洗板目状)になると、振動と発熱が急増します。
金属加工現場でインバータ制御の工作機械を使っているなら、電食は他人事ではありません。対策としては、絶縁形の軸受(セラミック転動体タイプや絶縁コーティング品)の採用、モーターのアース設置の徹底、または電流バイパス用の導電グリースの使用などが有効です。
NSK「異常・損傷と対策」|クリープや電食を含む損傷モードの種類と原因・対策を体系的に確認できます
「異常に気づいてから対応する」では、すでに手遅れになっているケースが多いです。軸受の焼付きが起きると、軸やハウジングまで損傷が及び、修理費用が軸受単体交換の数倍から数十倍になることもあります。設備停止が生産ラインに直結する金属加工の現場では、計画外のダウンタイムは特に痛手です。
温度の「変化のトレンド」を見ることが重要です。絶対値だけを見て「まだ80℃だから大丈夫」と判断するのではなく、「先週より10℃上がっている」という変化に注目することが予防保全の基本になります。定期的な温度記録(1日1回・同一箇所・同一条件での測定)があると、異常の兆候を早期に捉えられます。
振動測定との組み合わせも有効です。軸受の損傷は温度より先に振動として現れることが多く、富士電機の技術資料によれば「振動センサの方が温度センサより早く故障予知できる」とも述べられています。振動と温度の両方を監視する体制が、より信頼性の高い予防保全につながります。
具体的な点検サイクルとして、以下のような取り組みが現場では実践されています。
グリース補給間隔はNTNやNSKなどのメーカーカタログに補給間隔線図が掲載されています。軸受内径と回転数を基に補給周期を読み取ることができます。これを参照し、温度・荷重・環境条件で補正するのが正確な管理方法です。
また、グリースの種類を統一することも現場では重要な点です。異なる増ちょう剤(リチウム系とウレア系など)のグリースを混ぜると、化学反応によってグリースが急激に軟化し、漏れや潤滑不良を引き起こすことがあります。「在庫が余っているから」と別種のグリースを混用することは避けてください。
JTEKT(KOYO)「潤滑の目的と方法」|グリース充填量の目安やはめあい・管理方法の基礎が体系的にまとめられています
結論は、定期記録と適切な補給間隔の管理です。温度異常を「感覚」ではなく「数字と記録」で管理することが、設備長寿命と生産安定の両立につながります。