ジヒドロコデインリン酸塩散1%「ホエイ」は、コデインと同じ量を処方しても鎮咳効果が足りません。

ジヒドロコデインリン酸塩散1%「ホエイ」は、ヴィアトリス・ヘルスケア合同会社が製造販売する劇薬指定の散剤です。100g中にジヒドロコデインリン酸塩1gを含有し、添加剤として乳糖水和物が用いられています。薬価は11.3円/gで、YJコードは2242002B2313です。
販売開始は1968年9月と歴史が長く、長年「リン酸ジヒドロコデイン散1%「ホエイ」」として流通していましたが、2024年6月に日本薬局方の別名削除に伴い、現在の販売名に変更されました。製造販売元はヴィアトリス・ヘルスケア合同会社、販売元はヴィアトリス製薬合同会社(東京都港区麻布台)です。
規制区分は劇薬であり、非麻薬に分類されます。これは重要な点です。ジヒドロコデインリン酸塩は、麻薬及び向精神薬取締法において「千分中十分以下(1%以下)の濃度で含有するもの」は『家庭麻薬』として定義され、法律上の麻薬ではありません。したがって、本剤の処方箋には麻薬施用者の免許証番号や患者住所を記載する必要はなく、通常の処方箋記載で対応できます。
包装は500g袋で提供されており、内袋はポリエチレン、外箱は紙素材です。有効成分の化学名は(5R,6S)-4,5-Epoxy-3-methoxy-17-methylmorphinan-6-ol monophosphateで、分子量は399.38です。1.0gを水10mLに溶かした液のpHは3.0〜5.0の酸性域となります。光によって変化するため、保管には遮光が求められます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 販売名 | ジヒドロコデインリン酸塩散1%「ホエイ」 |
| 規制区分 | 劇薬・非麻薬 |
| 薬価 | 11.3円/g |
| 有効成分含量 | 100g中 ジヒドロコデインリン酸塩 1g |
| 添加剤 | 乳糖水和物 |
| 包装 | 500g(袋) |
| 製造販売元 | ヴィアトリス・ヘルスケア合同会社 |
本剤の効能または効果は、①各種呼吸器疾患における鎮咳・鎮静、②疼痛時における鎮痛、③激しい下痢症状の改善、の3つです。鎮咳薬として処方されることが最も多いですが、鎮痛・止瀉の目的でも使用されます。
用法及び用量は、通常成人1回1g・1日3gの経口投与であり、年齢や症状により適宜増減します。この1日3gという用量は、コデインリン酸塩散1%との比較においてしばしば混乱を招きます。コデインリン酸塩散1%の成人標準用量は1回2g・1日6gです。つまり1日量がちょうど2倍異なります。
これは薬理作用の力価差に由来しています。ジヒドロコデインリン酸塩の鎮咳作用はコデインリン酸塩水和物の約1.4倍強力です(医薬品インタビューフォームより)。鎮痛作用はモルヒネの約1/3・コデインの約2倍、精神機能抑制作用や呼吸抑制作用はモルヒネの約1/4でコデインと同等とされています。つまり1.4倍の差というわけです。
力価が違うという点は必ず覚えておけばOKです。
作用機序は、モルヒネと同様に延髄の咳中枢に作用して咳反射を抑制するというものです。オピオイド受容体(主にμ受容体)に結合することで中枢性鎮咳・鎮痛・止瀉作用を発揮します。末梢では腸管蠕動運動を抑制することで止瀉効果を示します。
代謝は主として肝代謝酵素UGT2B7、UGT2B4、および一部CYP3A4・CYP2D6が関与します。この代謝経路は後述する相互作用や特殊集団への注意と深く関連しています。
参考:KEGG医薬品情報データベース(ジヒドロコデインリン酸塩散1%「ホエイ」添付文書)
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00071447
禁忌は全部で10項目あり、以下の患者には投与してはなりません。
とりわけ、12歳未満への禁忌は2019年より適用された重要な改訂です。それ以前は「12歳未満の小児には慎重に投与すること」とされていましたが、海外での死亡を含む重篤な呼吸抑制報告を受け、禁忌へと強化されました。なお、国内では本剤による呼吸抑制死亡例の報告はなく、欧米と比較して遺伝学的に呼吸抑制リスクは低いと推定されていますが、それでも安全上の観点から全面禁忌とされています。
また、18歳未満であっても肥満・閉塞性睡眠時無呼吸症候群・重篤な肺疾患を有する患者には投与禁止(9.1.2項)という規定もあります。小児への投与検討時にはこの2つの禁忌区分を混同しないよう注意が必要です。厳しいところですね。
高齢者への投与は、生理機能の低下や呼吸抑制感受性の上昇を考慮し、低用量から開始して慎重に投与することが原則です。
参考:コデイン類の12歳未満使用制限に関するPMDA資料
https://www.pmda.go.jp/files/000230395.pdf
本剤の併用注意薬は以下の通りです。
| 併用注意薬 | 起こりうる症状 | 機序 |
|---|---|---|
| 中枢神経抑制剤(フェノチアジン系・バルビツール酸系等)、吸入麻酔剤、MAO阻害剤、三環系抗うつ剤、β遮断剤、アルコール | 呼吸抑制、低血圧、顕著な鎮静または昏睡 | 相加的に中枢神経抑制作用が増強される |
| クマリン系抗凝血剤(ワルファリン) | ワルファリンの作用が増強されることがある | 機序不明 |
| 抗コリン作動性薬剤 | 麻痺性イレウスに至る重篤な便秘または尿貯留 | 相加的に抗コリン作用が増強される |
| ナルメフェン塩酸塩水和物 | 本剤の効果が減弱するおそれ | μオピオイド受容体拮抗作用による競合的阻害 |
ワルファリンとの組み合わせは、機序が不明であるにもかかわらず抗凝血作用が増強される点が重要です。抗凝固療法中の患者に本剤を追加する場合は、INRの変動に注意しながらモニタリングを強化することが求められます。
重大な副作用については5つのカテゴリが設定されており、いずれも頻度不明です。
依存性については、近年の市販薬乱用問題との関連で特に注目されています。ジヒドロコデインリン酸塩は精神依存・身体依存・耐性がいずれも形成されることが知られており、国立精神・神経医療研究センターの調査では市販の鎮咳薬に含まれる同成分の乱用が若年層を中心に深刻化していると報告されています。つまり処方時の観察が条件です。
医療従事者が見落としやすいリスクの一つが、CYP2D6の遺伝子多型(Ultra-rapid Metabolizer:URM)に関する問題です。本剤はCYP2D6によって一部代謝され、活性代謝産物であるジヒドロモルヒネを生成します。URM患者では通常の投与量であってもジヒドロモルヒネの血中濃度が著しく上昇し、過剰な鎮静・呼吸抑制が現れるおそれがあります(添付文書15.1項)。
さらに重要なのが授乳婦への影響です。授乳婦がURM体質を持つ場合、ジヒドロモルヒネが通常よりも高濃度で母乳中に移行します。類似化合物コデインでは、この経路によって乳児がモルヒネ中毒(傾眠・哺乳困難・呼吸困難等)を発症したとの報告があります(Koren G, et al., Lancet. 2006;368:704 / Madadi P, et al., Clin Pharmacol Ther. 2009;85:31-35)。これを受け、添付文書では授乳婦には投与中の授乳を禁止しています。
これは意外ですね。
多くの医療従事者が「少量だから母乳への影響は軽微だろう」と考えがちです。しかし1%散という低濃度であっても、遺伝子多型次第では乳児にとって危険なレベルのオピオイド曝露が起こりうるのです。授乳中の患者に処方を検討する場合、まず授乳の一時中止を指導することが原則です。CYP2D6遺伝子型の事前確認が現実的でないケースでは、リスクを前提とした対応が安全側に働きます。
腎機能障害患者では排泄が遅延し副作用リスクが上昇します。肝機能障害患者(重篤でない場合)でも代謝が遅延するため、慎重な投与設計が必要です。
妊婦への投与については、類似化合物コデインの動物実験(マウス)で催奇形作用が報告されており、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与します。分娩時に投与した場合には新生児の呼吸抑制が起こりうるため、出産直前の処方は特に慎重に判断してください。
参考:厚生労働省「コデインリン酸塩等の小児等への使用制限について」
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000168848.pdf
散1%同士のジヒドロコデインリン酸塩とコデインリン酸塩は、規格が同じ「1%」であるため力価も同等と誤解されやすい薬剤です。しかし実際の等価換算は以下の通りとなります。
つまり、鎮咳力価として等価なのは「ジヒドロコデインリン酸塩散1% 3g = コデインリン酸塩散1% 6g」です。これは薬剤師によるヒヤリハット事例として報告されており(東京大学・澤田康文教授の事例集117番)、在庫の都合でコデインに変更する際に量をそのまま引き継いでしまう取り違えが実際に発生しています。等価換算が条件です。
この事例では「ジヒドロコデインリン酸塩散1% 3g」から「コデインリン酸塩散1% 3g」に変更してしまい、鎮咳効果が半減するところを調剤鑑査時に発覚・是正した、というケースです。医師も変更に同意してしまった点から、医師・薬剤師双方のダブルチェックの重要性が浮き彫りになっています。
過量投与時の症状は呼吸抑制・意識不明・痙攣・錯乱・血圧低下・嗜眠・縮瞳・皮膚冷感などで、対処は気道確保・補助呼吸・麻薬拮抗剤(ナロキソン等)の投与となります。拮抗剤の作用持続時間はジヒドロコデインのそれより短いため、患者のモニタリングを継続しながら必要に応じて持続静注を行う点が重要です。
参考:ジヒドロコデインリン酸塩とコデインリン酸塩の力価差に関するヒヤリハット事例
https://rikunabi-yakuzaishi.jp/contents/hiyari/117/