ジャヌビア錠100mg出荷停止で知る供給と対応策

ジャヌビア錠100mgの出荷停止はなぜ起きたのか?原因から再開までの経緯、グラクティブへの影響、NTTPニトロソアミン問題、後発品の動向まで医療従事者が押さえるべき情報をまとめました。現場対応は万全ですか?

ジャヌビア錠100mg出荷停止の原因と経緯、現場対応

100錠包装だけ止めたつもりが、140錠・500錠まで芋づる式に止まりました。


この記事の3つのポイント
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出荷停止の直接原因

2023年12月、100錠包装の包装工程で製品不良が発生。その余波で140錠・500錠包装まで在庫消尽次第の供給停止に拡大した。

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NTTP(ニトロソアミン類)問題も重なった

2024年2月の供給再開時に有効期間が3年→2年へ短縮。製法変更(没食子酸プロピル追加)で対応したが、在庫管理に新たな課題が生じた。

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グラクティブも限定出荷へ

同一成分のグラクティブ錠100mgも需要急増により限定出荷に。新規採用・増量対応が不可となり、現場の処方変更対応が必須となった。


ジャヌビア錠100mgの出荷停止が起きた具体的な原因



2023年12月5日、MSD株式会社は「ジャヌビア錠100mg」の出荷を一時停止すると発表しました。直接のトリガーは、100錠包装(PTP)の包装工程で製品不良が発生したことです。同社の調査により、この不良は未出荷の100錠包装にのみ発生した現象と判断されており、すでに市場に流通していた製品には影響がないとされました。


問題はここで止まりませんでした。100錠包装の出荷停止にともない、140錠包装・500錠包装も在庫が消尽次第、供給を一時停止するという連鎖的な措置が取られました。つまり100mgの全包装規格が事実上、入手困難な状態に陥ったことになります。これは現場への打撃が大きかったです。


一方、ジャヌビア錠の12.5mg・25mg・50mgについては供給に支障はないとされ、100mgのみが対象でした。医療機関によっては、在庫の取り置きや調剤方法の変更など、緊急の院内対応が求められました。


なお、この出荷停止の背景にはもう一つの問題が同時並行で動いていました。2022年8月に米国FDA(食品医品局)がシタグリプチン製品中にニトロソアミン類の一種「NTTP」の混入を確認したと報告していたことです。MSDはNTTP量を許容摂取量以下に管理するための製法変更(添加剤として「没食子酸プロピル」を追加)を進めており、この製法変更作業が包装工程の不具合と重なったとも推測されています。


供給停止の期間は約2カ月強に及びました。2024年2月14日付でMSDは100錠包装の供給再開を特約店に通知しています。


MSD株式会社「ジャヌビア®錠100㎎ 100錠包装の供給再開と有効期間の変更について」(日本糖尿病学会掲載PDF・2024年2月)


ジャヌビア錠100mgの出荷停止後に変わった有効期間と在庫管理の注意点

供給再開に際し、医療現場にとってもう一つ見落とせない変更が加わりました。有効期間の短縮です。これは重要な点ですね。


製法変更(没食子酸プロピルの追加配合)を実施した結果、ジャヌビア錠100mg 100錠包装の有効期間がこれまでの「3年」から「2年」へ変更されました。変更品の初回ロット番号は「X026231」、使用期限は「2025年8月」とされました。


| 項目 | 変更前 | 変更後 |
|------|--------|--------|
| 有効期間 | 3年 | 2年 |
| 対象包装 | 100錠(PTP) | 100錠(PTP) |
| 初回ロット | — | X026231 |
| 使用期限 | — | 2025年8月 |


有効期間が1年短縮されたことで、使用期限が「逆転」する現象が一時的に市場で起きました。MSDは「一時的に使用期限が逆転した製品が市場に流通することが予想される」と注意喚起しており、薬局・病院薬剤部での在庫確認が必要になりました。日常業務の中ではつい見落としがちですが、先入れ先出し管理だけでは対応できないケースが発生する点に注意が必要です。


ロット番号の逆転はないとMSDは明言していましたが、使用期限とロット番号の両方を確認するルールへの切り替えが現実的な対策です。薬局・病棟では受領時に必ずラベルの使用期限欄を目視確認する動線を確認しておきましょう。


医薬品医療機器総合機構(PMDA)「ニトロソアミン類(NTTP)が検出されたシタグリプチンリン酸塩水和物(ジャヌビア)への対応について」


ジャヌビア錠100mgの出荷停止でグラクティブ錠100mgも限定出荷になった理由

ジャヌビア錠100mgの出荷停止は、同一成分の「グラクティブ錠100mg」(小野薬品工業)にも即座に波及しました。グラクティブとジャヌビアは、主成分・添加物ともまったく同じシタグリプチンリン酸塩水和物の製品です。錠剤の刻印やシートの外観が異なるだけで、薬理学的には同等と見なされています。


ジャヌビア錠100mgが入手できなくなったことで、代替としてグラクティブ錠100mgへの需要が急増しました。これを受けて小野薬品工業は2023年12月より、グラクティブ錠100mgの全5包装規格について限定出荷を開始しています。


限定出荷の内容は厳格でした。


- 📦 以前からグラクティブを採用していた医療機関・薬局の患者への供給を優先
- 🚫 新規採用・増量対応は原則不可
- ❌ 新規注文はご辞退という方針を表明


つまり「グラクティブに切り替えれば問題ない」とは言い切れない状況でした。特に新たに100mgへの増量が必要な患者や、新規でシタグリプチン系薬剤を開始する患者への処方が困難になるという実臨床上の問題が生じました。これは見落としがちな点です。


こうした連鎖的な供給不足は、薬局や病院で「代替品があるから大丈夫」と思い込む危険性を示す好例です。DPP-4阻害薬の中でもシタグリプチン系は全国的な処方シェアが非常に高いため、一製品の供給停止が市場全体に波及するリスクを念頭に置いた在庫管理が求められます。


糖尿病リソースガイド「DPP-4阻害薬『ジャヌビア錠』が一時供給停止」(2023年12月)


ジャヌビア錠100mgとNTTP問題:発がんリスクの実態と国立国際医療研究センターの研究結果

出荷停止の背景にあったNTTP混入問題についても、正確な情報を整理しておく必要があります。医療従事者として患者から質問を受けたとき、根拠のある説明ができるかどうかが重要です。


NTTPとは「7-nitroso-3-(trifluoromethyl)-5,6,7,8-tetrahydro1,2,4triazolo-4,3-apyrazine」というニトロソアミン類の一種です。シタグリプチン製品において、原料または製造工程中の分解産物がニトロソ化されることで生成すると考えられています。


2022年8月に米国FDAがNTTP混入を報告し、世界的に注目を集めました。国内では厚生労働省も対応に乗り出し、PMDAが詳細な評価報告書を公表しています。結論は以下の通りです。


| 機関 | 見解 |
|------|------|
| 米国FDA | NTTPの許容摂取量を見直し、安全措置を講じた上で使用継続を推奨 |
| 厚生労働省 | 患者が自己判断で服用中止することは避けるよう呼びかけ |
| PMDA | 1日許容摂取量(37ng/日)以下に管理する製法変更を指示 |


製法変更後の製品はNTTP量が1日許容摂取量以下に管理されており、現時点では安全と判断されています。つまり現行品は問題ありません。


さらに2024年9月には、国立国際医療研究センター(NCGM)が大規模な疫学研究結果を公表しました。全国の保険診療レセプトデータベース(NDB)の9年間のデータを使い、シタグリプチン使用が他のDPP-4阻害薬と比較してがん発生リスク上昇と関連するかを検討したものです。結論として、「シタグリプチン使用に関連したがん発生リスク上昇のエビデンスを認めなかった」と報告されています。ただし、より長期の観察が必要とも付記されています。


国立国際医療研究センター(NCGM)「NTTP混入が確認されたシタグリプチンの使用と関連したがん発生リスクの可能性について」(2024年9月2日)


患者から「このお薬は大丈夫ですか?」と聞かれた際は、「製法変更により現在の製品はNTTPが安全基準以下に管理されている」こと、「大規模な疫学研究でもリスク増加は確認されていない」ことの2点を伝えると、信頼性の高い説明になります。


ジャヌビア錠100mgの出荷停止と包装集約・後発品参入が今後の処方に与える影響

出荷停止問題を経て、MSDはさらなる変更を2024年11月に通知しました。「継続的な安定供給を実現するための包装集約」です。これは現場対応に直結する情報ですね。


2024年10月作成の案内によると、ジャヌビア錠100mgについては以下の包装が販売中止となりました。


- ❌ 140錠包装(PTP):統一商品コード 185807630、最終出荷見込み2025年1月頃
- ❌ 500錠包装(PTP):統一商品コード 185807647、最終出荷見込み2025年1月頃


販売を継続するのは、100錠包装(PTP)のみ(統一商品コード 185807623)となります。


つまり、ジャヌビア錠100mgについては100錠パック1種類に集約されたということです。病院や施設で大きなパック(140錠・500錠)を使用していた場合、注文単位の変更と在庫回転率の見直しが必要になります。発注ミスや過剰在庫に注意が必要です。


一方、後発品(ジェネリック)の動向も見逃せません。2023年8月にメディサ新薬(サワイグループ)がシタグリプチンリン酸塩(無水物)の後発品として「シタグリプチン錠『サワイ』」の承認を取得しました。ただしMSDから特許侵害訴訟が提起されており、2026年2月時点で沢井側がMSDの請求を受け入れる形で訴訟が終結したと報告されています。


後発品の薬価収載は2026年内にも複数社が目標としているとされており、後発品が市場に出てきた場合は処方継続患者への説明・切り替え確認が現場で求められます。「先発品が中止になったわけではない」「成分・用法は同一」「見た目(錠剤の色・刻印)が変わる」点を患者に事前説明するための準備をしておくと、問い合わせ対応が格段にスムーズになります。






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