「血糖値が正常でもケトアシドーシスになるケースが、SGLT2阻害薬投与中の患者に複数報告されています。」

ジャディアンス錠10mg(一般名:エンパグリフロジン)は、腎近位尿細管に存在するSGLT2(ナトリウム・グルコース共輸送体2)を選択的に阻害することで、血中のグルコースを尿中へ排出させる薬剤です。この作用機序は、インスリン非依存性という点で従来の糖尿病治療薬とは一線を画しています。
その一方で、まさに「尿中に糖を排出する」という薬理作用が、ジャディアンス特有の副作用プロファイルを生み出している点を医療従事者は正確に理解しておく必要があります。PMDA(医薬品医療機器総合機構)の承認時資料によれば、臨床試験において頻尿・多尿は約3.9%の患者に認められています。さらに尿路感染症については、女性患者における発現率がジャディアンス10mg群で18.4%、プラセボ群で16.6%と報告されており、特に女性への処方時は留意が必要です。
重大な副作用とされているものは、添付文書上では低血糖、ケトアシドーシス、腎盂腎炎・外陰部膣炎・亀頭炎等を含む性器感染症、フルニエ壊疽(外陰部および会陰部の壊死性筋膜炎)が挙げられています。これら重大な副作用は頻度こそ高くないものの、発症した場合に患者の予後を大きく左右します。
一般的な副作用としては以下がよく報告されています。
| 副作用の種類 | 主な症状・所見 | 主な発現率の目安 |
|---|---|---|
| 頻尿・多尿 | 尿量増加、夜間トイレ回数増加 | 約3.9%(臨床試験) |
| 尿路感染症 | 排尿痛、頻尿、尿混濁 | 女性:18.4%(vs プラセボ16.6%) |
| 性器感染症 | 外陰部かゆみ、亀頭炎、カンジダ | 女性に多い(男性も報告あり) |
| 脱水 | 口渇、立ちくらみ、皮膚乾燥 | 高齢者・利尿剤併用で増加 |
| 低血糖 | 冷汗、動悸、ふらつき | インスリン・SU薬との併用時に増加(約1.4%) |
| 体重減少 | 1日あたり200〜300kcal程度のエネルギーロス | 約0.7% |
作用機序から副作用を理解するのが基本です。処方時・患者指導時に「なぜこの副作用が起きるか」を説明できると、患者のアドヒアランス向上にもつながります。
日本糖尿病学会「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」は、医療従事者が副作用管理の根拠として参照すべき重要なガイドラインです。
日本糖尿病学会 SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation(最新改訂版)
医療従事者の多くが「ケトアシドーシスは血糖値が高い時に起きる」と考えています。これが見落としを生む最大の落とし穴です。
ジャディアンスを含むSGLT2阻害薬の投与中は、血糖値が正常域(250mg/dL以下)であっても糖尿病性ケトアシドーシス(euglycemic ketoacidosis:正常血糖ケトアシドーシス)が発症することがあります。PMDAのリスク管理計画書においても、この病態は「重要な潜在的リスク」として明記されています。
なぜ起きるのか。ジャディアンスのSGLT2阻害作用により、インスリンが不足していても血糖値が高くなりにくい状態が作られます。そのため、体は脂肪をエネルギー源として分解し始め、ケトン体が血中に蓄積していきます。血糖値を見ているだけでは、その異変に気づけません。
特にリスクが高い状況は以下の通りです。
日本糖尿病学会のRecommendationでは、炭水化物比率が40〜55%程度であればSGLT2阻害薬を安全に使用できるとされています。逆にいえば、食事指導を怠ると、患者自身が知らぬ間にリスク因子を抱えることになります。これは押さえておくべきポイントです。
正常血糖ケトアシドーシスを疑うべき症状は、全身倦怠感・悪心・嘔吐・腹痛です。一見すると胃腸炎と区別がつきにくい。
日本糖尿病学会Recommendationでは、これらの症状を認めた場合は血糖値が正常に近くても血中ケトン体(即時不可能な場合は尿ケトン体)を確認し、専門医へのコンサルテーションを行うことが推奨されています。通常の糖尿病性ケトアシドーシスと治療方針が異なる点にも注意が必要で、治療初期から十分なブドウ糖補充が必須とされています。
正常血糖ケトアシドーシスの診断基準や鑑別については、アステラス製薬が提供するSGLT2阻害薬情報サイトに具体的な診断基準数値が掲載されています。
SGLT2阻害薬による特に注意すべき副作用:ケトアシドーシス(アステラス製薬)
尿路感染・性器感染は、ジャディアンスの最も頻度の高い副作用カテゴリの一つです。投与開始からわずか2〜3日以内に発症することもあれば、2ヵ月ほど経過してから初めて症状が出る患者もいます。発症タイミングが一定でない点を認識しておく必要があります。
特に女性では外陰部膣カンジダ症が多く報告されており、男性では亀頭包皮炎(割礼を受けていない男性でのリスク上昇が顕著)が問題になります。これらは大半が軽症ですが、適切なフォローなしに放置すると重篤化するリスクがあります。
最も警戒すべきは、性器感染症から進行する可能性がある「フルニエ壊疽」です。フルニエ壊疽(外陰部および会陰部の壊死性筋膜炎)は、2019年5月に厚生労働省がSGLT2阻害薬9製品の添付文書に重大な副作用として追記するよう改訂指示を出した、非常に重篤な疾患です。エンパグリフロジン(ジャディアンス)でも国内に1例の副作用症例が報告されています。
これらの症状を認めた場合、進行は非常に速く、診断の遅れが死亡リスクに直結します。外科的処置が可能な皮膚科医に可及的速やかにコンサルテーションすることが、Recommendationで明記されています。
フルニエ壊疽が重大な副作用だということですね。
尿路感染・性器感染の管理として実践すべきことは次の通りです。問診票を活用した定期的なスクリーニングが有効であり、患者指導の際に「性器まわりのかゆみや異常な分泌物が出た場合は早めに受診する」よう事前に説明しておくことが大切です。感染が確認された場合は、泌尿器科・婦人科へのコンサルテーションを速やかに行うことが推奨されています。
SGLT2阻害薬とフルニエ壊疽についての添付文書改訂経緯は、大阪大学医学部附属病院の糖尿病センターが詳しくまとめています。
SGLT2阻害薬の添付文書が一部改訂されました(フルニエ壊疽のリスク)|大阪大学医学部附属病院糖尿病センター
医療従事者が意外と見落としやすいのが、シックデイと周術期の休薬管理です。
日本糖尿病学会のRecommendationは明確に定めています。「発熱・下痢・嘔吐などがあるとき、または食思不振で食事が十分摂れない場合(シックデイ)には必ず休薬する」。さらに「手術が予定されている場合には、術前3日前から休薬し、食事が十分摂取できるようになってから再開する」と規定されています。
この3日前という数字が重要です。
休薬が必要な理由は、ケトアシドーシスの誘因管理にあります。シックデイや手術前後の絶食状態は、エネルギー源としての糖質が著しく不足し、体が脂肪分解を優先し始めるため、ケトン体が急速に蓄積します。ジャディアンスの血糖降下作用が継続していると、血糖値が正常範囲でもケトアシドーシスが進行するという事態が生じます。
周術期の休薬管理をまとめると以下の通りです。
| 状況 | 対応 | 根拠 |
|---|---|---|
| 予定手術 | 術前3日前から休薬。食事摂取が十分できるようになってから再開 | 日本糖尿病学会Recommendation |
| 緊急手術 | 術前休薬は必須ではないが、術後の再開は予定手術と同様。再開後はケトアシドーシス症状に留意 | 日本糖尿病学会Recommendation |
| シックデイ | 発熱・嘔吐・下痢・食欲不振時は必ず休薬。回復後の再開は医師に相談 | 日本糖尿病学会Recommendation |
実際の臨床現場では、「術前2日前」と運用している施設もありますが、Recommendationの原則は3日前です。施設ごとのプロトコルを確認しておくことが必要です。
また、メトホルミンなどのビグアナイド薬と併用している患者では、脱水が乳酸アシドーシスの重大なリスク因子にもなります。脱水→ビグアナイド薬による乳酸アシドーシスという二次的なリスクにも目を向けておく必要があります。
シックデイ時の対応指針については、日本内科学会の関連情報も参考になります。
PMDA ジャディアンス錠10mg リスク管理計画書(RMP)
教科書的な禁忌・慎重投与の話だけでは、実臨床の落とし穴は防ぎきれません。ここでは現場目線で見落とされやすい特定の患者群に焦点を当てます。
まず、eGFR 45mL/min/1.73m²未満の腎機能低下患者への処方についてです。この群では、ジャディアンスの血糖降下効果は著しく減弱するため、原則として処方は推奨されません。さらに脱水による急性腎障害のリスクも高まります。利尿薬・ACE阻害薬・ARB・NSAIDsを同時処方している患者では特に注意が必要です。これが条件です。
次に、75歳以上の高齢者、または65〜74歳で老年症候群(サルコペニア・認知機能低下・ADL低下)を合併している患者です。高齢者は口渇感の感覚が鈍くなっており、脱水に気づきにくい傾向があります。意識的な水分摂取指導だけでなく、家族や介護者を含めた多職種連携での管理が効果的です。投与初期は特に体液量の変化を丁寧に観察することが求められます。
意外ですね、というのが1型糖尿病患者への処方です。ジャディアンスは2型糖尿病が主な適応ですが、2018年12月以降、1型糖尿病患者へのインスリン製剤との併用療法としても国内で承認が取得されています。ただし、日本糖尿病学会Recommendationでは「十分に臨床経験を積んだ専門医の指導のもと、インスリン治療に積極的に取り組んでもなお血糖コントロールが不十分な場合にのみ使用を検討すべき」とされており、使用ハードルは高めに設定されています。1型糖尿病患者ではインスリンの過度な自己減量によるケトアシドーシスリスクが特に高く、インスリンポンプ使用者ではポンプトラブルがそのまま命に関わります。
インスリン・SU薬との併用による低血糖リスクも、重要な視点です。SGLT2阻害薬の「糖毒性改善」によって、インスリンの効きが急に良くなる例があります。つまりジャディアンスを追加した直後、従来のインスリン量が相対的に「多すぎる」状態になり、重症低血糖を引き起こすリスクが生じます。日本糖尿病学会Recommendationでは、HbA1c7.5%未満のコントロール良好例では追加時に基礎・追加インスリンを10〜20%程度あらかじめ減量することを検討するよう明記されています。
痛いところですね、しかし見逃しやすいリスクです。
グリメピリド2mg/日超・グリベンクラミド1.25mg/日超・グリクラジド40mg/日超の患者では、ジャディアンス追加前に各SU薬を規定量以下へ減量することが求められます。
最後に、BMI25未満のやせ型・非肥満の患者についても注意が必要です。臨床試験のサブ解析では、やせ型の患者でケトアシドーシス発症率が上昇するというデータがあります。エネルギー貯蔵が少ない分、脂肪分解が早く進むためと考えられます。体格の小さい患者への処方・指導では、体重・栄養状態・食事習慣の事前評価を怠らないことが原則です。
ベーリンガーインゲルハイムの公式FAQページは、処方時の具体的な疑問に対応しており、医療従事者向けの情報として参考になります。
ジャディアンスのFAQ(よくある質問)|ベーリンガーインゲルハイム公式
処方した後のモニタリングと患者教育が、副作用管理の要です。
定期的な検査として押さえるべき項目を整理します。腎機能(血清クレアチニン・eGFR)は投与開始前・開始後1〜3ヵ月・その後3〜6ヵ月ごとの確認が推奨されています。尿検査(尿蛋白・尿中アルブミン)も定期的に組み込むことが理想的です。感染症については問診票を活用した聴取が有効で、患者が「恥ずかしくて言いにくい」性器感染症の症状も、書面で確認すれば見逃しを減らせます。
患者への説明・指導で押さえるべきポイントを以下にまとめます。
これらの情報提供を初回処方時に口頭だけで行うのは限界があります。患者用の指導小冊子やパンフレットを活用することが現実的です。ベーリンガーインゲルハイムは「ジャディアンスを服用される患者さんへ」という患者指導資材を提供しており、服薬指導の補助ツールとして活用できます。
医療従事者向けの専門情報はPMDAの公式添付文書で最新版を確認することが不可欠です。
また、患者用指導資材はベーリンガーインゲルハイムの医療従事者向けサイトから入手が可能です。
ジャディアンスを服用される患者さんへ(患者向け小冊子)|ベーリンガーインゲルハイム
副作用発現時の報告義務も忘れてはなりません。重篤な副作用(フルニエ壊疽・ケトアシドーシス・腎盂腎炎など)が発生した場合は、PMDAへの副作用報告を必ず行うことが添付文書に明記されています。これは医療従事者としての法的義務でもあります。副作用報告の積み重ねが、より精度の高い安全性情報の構築につながる点でも、医療全体への貢献という意義を持ちます。副作用報告は必須です。

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