市中に流通している鋼板の実測値は、呼称値より「薄い方向」にズレているものが9割以上です。

板厚公差とは、製造された金属板の厚みが「どの範囲内に収まっていれば合格とするか」を定めた許容差のことです。図面や発注書に書かれた「t6mm」や「t1.6mm」という数値は、あくまで呼称板厚(公称値)であり、実際の製品はこの値からわずかにズレます。JISではこのズレの上限・下限を明確に規定しており、その範囲に収まっていれば規格適合品です。
圧延加工の工程において、ロールの磨耗や温度分布のばらつき、材料自体の組成ムラなど、さまざまな要因が板厚の揺らぎを生みます。どれほど精密な設備を使っても「誤差ゼロ」は現実的ではないため、JIS規格が許容範囲を設定しているわけです。つまり板厚公差の存在は、品質の妥協ではなく、製造の現実を踏まえた合理的なルールです。
実務上で重要なのは「呼称値と実測値のギャップが設計に影響するかどうか」の判断です。石原商事の技術資料によると、市中の呼称値6mmの厚鋼板は、実測値が5.7mm前後であることが多く、呼称値より厚い板はほとんど流通していないというのが現場の実態です。±0.55mmという公差幅の中で、実態としてはマイナス側に偏っているのです。
| 呼称板厚 | 実測値の傾向 | 設計上の影響例 |
|---|---|---|
| t6mm(SS400) | 5.7mm前後が多い | スペーサー用途では高さ不足になる可能性あり |
| t1.6mm(SPCC) | 1.49〜1.71mmの範囲 | はめ合い設計でのクリアランスに影響 |
| t4.0mm(SUS304) | 3.83mmの実測例あり | 設計強度の確保に余裕が必要 |
「板厚公差内ならOK」が原則です。しかし、なぜ実態がマイナス傾向なのかというと、製鉄メーカーとしては素材を余計に削り取られる(=重量を無駄にする)リスクを避けるために、公差内でもなるべく薄くなる側に圧延を調整することが多いためとされています。コスト面の合理性から生まれる業界慣習です。
参考:石原商事による厚鋼板の板厚公差(JIS G3193)解説資料
http://www.ishiharashouji.jp/pdf/QA-Ver2-C002.pdf
金属加工の現場でよく使われる鋼板には、それぞれ異なるJIS規格が適用されます。「板厚公差はJIS G3193でしょ」と一括りに思っている方は要注意です。材質が変われば参照すべき規格番号も変わり、当然として許容差の数値も変わります。
代表的な材質と適用規格をまとめると以下の通りです。
| 材質 | JIS規格番号 | 規格名称 | 主な板厚範囲 |
|---|---|---|---|
| SS400(熱間圧延) | JIS G3193 | 熱間圧延鋼板及び鋼帯の形状・寸法・質量・許容差 | 1.2〜150mm |
| SPCC(冷間圧延) | JIS G3141 | 冷間圧延鋼板及び鋼帯 | 0.10〜3.2mm |
| SPHC(熱間圧延軟鋼板) | JIS G3193参照 | 熱間圧延軟鋼板及び鋼帯 | 1.2〜14mm |
| SUS304(ステンレス) | JIS G4305 | 冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯 | 0.3〜6mm前後 |
| ばね用SUS(SUS301等) | JIS G4313 | ばね用ステンレス鋼帯 | 0.10〜1.6mm |
| アルミ(A5052等) | JIS H4000 | アルミニウム及びアルミニウム合金の板及び条 | 0.25〜6mm |
特に注目すべきなのはばね用ステンレス(JIS G4313)です。この規格は他の鋼板規格と異なり、板厚公差が「普通公差」「ET公差」「ST公差」という3段階のグレード制になっています。普通公差が最も緩く、ET公差・ST公差の順で厳しくなります。
なぜグレード制になっているのかというと、ばね材の場合、板厚がばね力に直接影響するためです。たとえばt0.5mmのばね用SUSで普通公差を採用すると±0.04mmの幅があるのに対し、ST公差では±0.015mmまで絞れます。発注者がいずれかを指定する仕組みになっており、指定しなければ普通公差が適用されます。
SPCCとSS400の違いも実務で混乱しやすいポイントです。板厚3.2mm以下の薄板は一般的にSPCC(JIS G3141)が流通しており、SPCCの板厚公差はt1.6mmで±0.11mm(幅915mm)程度とかなり小さな値になります。一方でSS400はt1.6mmに対応する薄板は市中にほとんどなく、実質的にSPCCを使うケースがほとんどです。板厚3.2mm超ではSS400(JIS G3193)の世界に入ります。これが原則です。
参考:若井製作所による主要板材の板厚公差一覧表
https://wakaiss.com/top/cp/technical/page-5263
厚鋼板の板厚公差を規定しているJIS G3193(熱間圧延鋼板及び鋼帯の形状・寸法・質量及びその許容差)は、現場でも最も参照機会が多い規格のひとつです。この規格の特徴は、許容差が板厚と母材の幅の2要素によって決まるという点にあります。
「t25mmの鋼板を買ったら公差はいくら?」という問いに対して、「±0.65mmか±0.75mmか±0.95mm以上か」の答えが変わってくるのです。同じ25mmでも幅によって大きく異なります。これを知らずに「一律±0.7mmくらい」と思い込んでいると、設計上の見積もりが外れる危険があります。
以下は一般的なSS材・SM材等の厚鋼板(JIS G3193 表5)の代表値です。
| 呼称板厚(mm) | 幅1,600mm未満 | 幅1,600〜2,000mm | 幅2,000〜2,500mm |
|---|---|---|---|
| 4.0〜5.0未満 | ±0.45 | ±0.55 | ±0.55 |
| 5.0〜6.3未満 | ±0.50 | ±0.60 | ±0.60 |
| 6.3〜10未満 | ±0.55 | ±0.65 | ±0.65 |
| 10〜16未満 | ±0.55 | ±0.65 | ±0.65 |
| 16〜25未満 | ±0.65 | ±0.75 | ±0.75 |
| 25〜40未満 | ±0.70 | ±0.80 | ±0.80 |
| 40〜63未満 | ±0.80 | ±0.95 | ±0.95 |
| 63〜100未満 | ±0.90 | ±1.10 | ±1.10 |
数字を見てどう感じるでしょうか。t10mmの鋼板を幅1,600mm以上で購入すると、±0.65mmの許容差があります。つまり実際の板厚は9.35mmから10.65mmまでの幅があることになります。1枚の鋼板の中でも場所によって0.1〜0.2mm程度のばらつきがあることも珍しくありません。
重要な点をひとつ追加します。この表は「一般に適用されるスペック」ですが、JIS G3193には表6としてクラスA・B・Cという協定仕様も存在します。クラスCは下限マイナス0(マイナスゼロ)を指定できる仕様で、「呼称値より薄くなる」ことを許容しない特注指定が可能です。ただしメーカーへの重量加算やエキストラコストが発生するため、実務上は「どうしても必要な用途」に絞って使うのが現実的です。
また、JIS G3193では厚さの測定箇所も規定されています。カットエッジの鋼板では「縁から15mm以上内側の任意の点」で測定することとされており、板の端部では測定しません。これは板の端部では圧延の影響で厚みが不均一になりやすいためです。端部で自分で測った値が許容差をわずかに外れていても、規格上の測定点とは異なる可能性があります。
参考:中部鋼鈑による形状・寸法の許容差(JIS G3193)詳細表
https://www.chubukohan.co.jp/product/jis/tolerance/
JIS G3193はひとつの規格でも、用途によって異なる公差ルールが適用されることを多くの加工現場の方が見落としています。意外ですね。汎用鋼板と同じ感覚で設計・発注してしまうと、後から大きな問題が発生するリスクがあります。
まず建築構造用圧延鋼板(SN材)に対する公差は、通常の±公差ではなく「プラス側は大きく取り、マイナス側は0.3mmに固定する」という片側偏り公差が適用されます。例えばt10〜16mm未満の範囲では幅1,600mm未満で「+0.80 / -0.30」という指定になります。つまりSN材では「呼称値より0.3mm以上薄くなることが許されない」のです。
これはなぜかというと、建築構造材は安全側に設計されるため、薄くなることで設計強度を下回るリスクを排除する必要があるためです。マイナス側を大きく許容してしまうと、構造計算上の余裕がなくなります。プラス側(厚くなる方向)は強度上は問題ないため、大きめに許容されています。
同様にボイラ及び圧力容器用炭素鋼板(SB材・SPV材等)にも独自の公差が設けられており、こちらもマイナス側は0.25mmに固定する片側公差が採用されています。
さらに道路橋(橋梁用)鋼板にも注意が必要です。道路橋示方書(平成24年3月)には、「鋼板の厚さはJIS G3193の表5を適用し、かつ(-)側の許容差が公称板厚の5%以内になければならない」という追加条件があります。
これがどういうことかというと、例えばt16mmの鋼板であれば、公称板厚の5%は0.8mmです。通常の±0.55mm公差よりも厳しい制約が課せられているケースがあるため、橋梁向けの製作では入念なチェックが必要になります。
| 用途 | 公差タイプ | マイナス側の特徴 | 関連規格・仕様書 |
|---|---|---|---|
| 一般鋼材(SS材等) | ±対称公差 | ±○mmの範囲内 | JIS G3193 表5 |
| 建築構造用(SN材) | 片側偏り公差 | マイナス側は最大0.3mmに固定 | JIS G3193 別規定 |
| 圧力容器用(SB材等) | 片側偏り公差 | マイナス側は最大0.25mmに固定 | JIS G3193 別規定 |
| 橋梁用鋼板 | ±公差+追加条件 | 公称板厚の5%以内という追加制限 | 道路橋示方書 |
「一般のSS400鋼板と同じ感覚で発注していた」というケースが橋梁や圧力容器の分野では致命的なミスにつながります。特に薄い板厚(16mm以下)では公称板厚の5%が通常公差の範囲と重なってくるため、注意が必要です。もし橋梁向けや圧力容器向けの案件を扱う機会があれば、発注の段階から「JIS G3193の協定仕様クラス指定」や「板厚マイナス0指定鋼」の選択肢を検討することが現実的な対策になります。
板厚公差の知識を「知っている」だけでは不十分です。それを設計・発注の判断に落とし込めて初めて実務上の価値になります。ここでは現場で直接役立つ視点を整理します。
まず設計段階での基本的な考え方です。黒皮の熱間圧延鋼板(SS400・SPHC等)を精密な「ゲージ」や「基準高さ」として使うのは危険です。呼称t9mmの鋼板2枚を重ねて「18mmのスペーサー」として組み込んだとき、実測ではロットによって17.6〜18.8mm程度のばらつきが出る可能性があります。これは名刺の厚みが約0.3mmであることを考えると、名刺1〜2枚分のズレが生じるイメージです。精密な高さ管理が必要な箇所では、面削りしたブロックや旋盤加工した部品を使うことが基本です。
次に発注判断のポイントです。公差をタイトにしたい場合、下記のような選択肢を検討します。
設計者と調達担当者が連携して「この部品には±何mm以内が必要か」を明確にすることが重要です。公差を「なんとなく標準仕様で」と流してしまうと、後工程での手直しや追加研磨工程でコストが膨らみます。
また、板厚測定の実施タイミングも考慮すべき点です。JIS規格では測定箇所が「縁から10〜25mm以上内側」と規定されています。受入検査で端部近くを測ると、規格通りの測定を行ったことにはならない点に注意が必要です。マイクロメーターを使った測定では、この規定測定位置を意識して行うことが正確な合否判定につながります。
板厚公差の管理を厳しくすることには、品質安定以外にもメリットがあります。TOKKINの事例によると、板厚公差をシビアに管理することでプレス後の研磨工程を省略でき、トータルコストダウンを実現した事例も報告されています。板厚のばらつきが少なければ、後工程での調整作業が減るという発想です。調達コストのみで比較すると高精度材料は割高でも、工程全体で見るとコスト削減になる逆転現象が起きることがあります。
参考:TOKKINによる板厚公差の基礎知識と比較解説
https://www.tokkin.co.jp/media/technicalcolumn/2306130
参考:JIS G3193「熱間圧延鋼板及び鋼帯の形状・寸法・質量及びその許容差」の設計活用解説
https://ja-product.com/sanoyas/column/20260127/

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