巻き数を2倍にしても、インダクタンスは2倍にならず4倍になってしまいます。

コイルに電流を流すと、その周囲に磁界が発生します。電流の大きさが変化すると磁界も変化し、その変化を打ち消そうとする「誘導起電力」が生まれます。この「電流の変化を妨げようとする性質の大きさ」を数値化したものが、インダクタンス(記号:L)です。
単位は「H(ヘンリー)」で表します。これはアメリカの物理学者ジョセフ・ヘンリーの名前に由来しています。1Hとは、電流が毎秒1A変化したときに1Vの誘導起電力が発生する場合のインダクタンスです。実用的なコイルではmH(ミリヘンリー)やμH(マイクロヘンリー)の単位が頻繁に使われます。
インダクタンスを理解するうえで重要な法則が2つあります。まずファラデーの電磁誘導の法則で、「磁場が時間的に変化すると、回路に起電力が生じる」というものです。次にレンツの法則で、「誘導起電力は、変化の原因を打ち消す方向に発生する」と定義されます。この2つを組み合わせると、コイルは「電流を急激に変化させようとすると強い電圧で抵抗する」性質を持っていると理解できます。
コイルをイメージするなら、「水が流れるパイプ」と考えると分かりやすいです。水の流れを一瞬で無限大にするためには無限大の圧力が必要ですが、現実にはそんな圧力は存在しません。同様に、コイルを流れる電流も「滑らかにしか変化できない」のです。これがインダクタンスの本質です。
自己インダクタンス(L)の基本式は次のとおりです。
| 記号 | 意味 | 単位 |
|---|---|---|
| L | 自己インダクタンス | H(ヘンリー) |
| N | コイルの巻き数 | 回(ターン) |
| Φ(ファイ) | コイルを貫く磁束 | Wb(ウェーバー) |
| I | 電流 | A(アンペア) |
$$L = \frac{N \Phi}{I} \text{ H}$$
つまり「1Aの電流を流したとき、どれだけの磁束鎖交数(NΦ)が発生するか」がインダクタンスの大きさを決めます。
金属加工の現場では、電磁石や誘導加熱装置のコイル、溶接機の電源回路など、インダクタンスを持つ部品が多く使われています。コイルの設計や交換・調整の際に、インダクタンスの計算が必要になる場面は少なくありません。基本式を押さえておくと、トラブル対応や設備改善のスピードが格段に上がります。
参考:コイルのインダクタンス(巻数・磁束・電流の関係)について詳しく解説されている技術解説ページです。
インダクタンスとは?インダクタンスの計算方法や詳細4つをご紹介! – 施工管理サーチ
コイルの形状によって、インダクタンスの計算式は変わります。もっとも基本的な2つが「ソレノイドコイル(直線型)」と「環状コイル(トロイダル)」です。
ソレノイドコイルの自己インダクタンスは次の式で求められます。
$$L = \frac{\mu_0 N^2 S}{l} \text{ H}$$
各記号の意味は下表のとおりです。
| 記号 | 意味 | 単位 |
|---|---|---|
| μ₀ | 真空の透磁率(4π × 10⁻⁷) | H/m |
| N | 巻き数(全体) | 回 |
| S | コイルの断面積 | m² |
| l | コイルの長さ | m |
具体例を挙げます。巻き数2,000回、半径3cm(断面積≒0.0028m²)、長さ1mのソレノイドコイルの場合、インダクタンスは約14mH(0.014H)になります。はがきの横幅(約10cm)が半径よりも大きいイメージで、けっして大きなコイルではありませんが、それでも14mHのインダクタンスが得られます。
環状コイル(トロイダルコイル)の自己インダクタンスは次の式です。
$$L = \frac{\mu S N^2}{l} = \frac{N^2}{R_m} \text{ H}$$
ここで μ はコア材料の透磁率、Rm は磁気抵抗です。鉄心などのコアを使う場合は μ に比透磁率(μr)を掛けた値を使います。
この2つの式に共通する重要なポイントがあります。巻き数Nに注目すると、どちらの式でもNは「2乗」で入っていることがわかります。つまり、巻き数を2倍にするとインダクタンスは4倍になるということです。これは多くの方が見落としがちな計算の急所です。巻き数を1回増やすだけでインダクタンスが大幅に変化するため、低インダクタンスのコイルを設計する際は特に注意が必要です。
実際に、巻き数5回で4.7μHになるコイルでは、巻き数を1回増やして6回にすると6.8μH、7回にすると9.2μHと、整数1回の変更でインダクタンス値が飛び跳ねてしまいます(相模エレク社の技術資料より)。巻き数は整数でしか設定できないため、目標値に合わせた設計には形状やコアの選定も重要になります。
巻き数の2乗が条件です。この原則を理解しているかどうかで、設計の精度が大きく変わります。
参考:ソレノイドコイルのインダクタンス公式と導出方法を詳しく説明したページです。
【ソレノイドコイルの自己インダクタンス】『公式』と『導出方法』 – detail-infomation.com
「鉄心を入れればインダクタンスが鉄の透磁率の分だけ増える」と思っている方は多いです。しかし実際には、計算通りには増えません。これが現場で混乱を生む落とし穴の一つです。
その理由は、コイルから発生した磁力線がすべて鉄心(コア)の中を通るわけではないからです。一部の磁力線は空気中を通り、コアを外れてしまいます。この影響を考慮した概念が「実効透磁率(μe)」です。実効透磁率は材料単体の透磁率より常に低くなります。
さらに、フェライトコアなどの磁性材料に「エアギャップ(隙間)」を設けると、実効透磁率は大きく低下します。磁路の一部に空気の隙間があると、そこで磁気抵抗が急増するためです。ギャップが0.1mmでも実効透磁率は大幅に下がることがあります。
ではなぜ意図的にギャップを設けるのでしょうか? 実はギャップを入れることで「直流重畳特性(大きな直流電流を重ねて流したときのインダクタンスの安定性)」が改善されるからです。ギャップが大きいほどインダクタンスは下がりますが、直流重畳特性は向上します。この2つのバランスを取ることが、実用的なコイル設計の核心です。
以下のポイントを整理しておきます。
金属加工の現場では、電磁クランプや搬送用リフターマグネットなどでコイルを使う設備があります。コア材の種類や取付精度(ギャップの有無)によって、実際の吸着力が設計値から20〜30%もずれてしまうケースがあります。「コアを入れたら透磁率の分だけ強くなる」という前提で設備を組むと、予期せぬ力不足を招くことになります。計算どおりにならないと感じたら、実効透磁率を疑うのが基本です。
参考:コイルの実効透磁率とギャップの関係について、実務的な観点から解説されているページです。
第3回 | コイルのインダクタンス | コイルを使う人のための話(相模エレク株式会社)
2つのコイルが隣り合って置かれているとき、一方のコイルの電流変化がもう一方のコイルにも影響を与えます。この相互作用の大きさを表すのが「相互インダクタンス(M)」です。変圧器(トランス)や誘導加熱装置は、この相互インダクタンスを活用した機器です。
相互インダクタンスの計算式は次のとおりです。
$$M = k\sqrt{L_1 L_2} \text{ H}$$
結合係数 k は「一方のコイルの磁束がどれだけ相手のコイルを貫いているか」を表す値です。k = 1 は磁束が100%相手に届く理想状態(完全結合)、k = 0 はまったく影響し合わない状態です。現実の機器では k = 0.9〜0.99 程度になるよう設計されます。
例えば、L₁ = 10mH、L₂ = 40mH、k = 0.9 の場合、相互インダクタンスは次のように求まります。
$$M = 0.9 \times \sqrt{0.01 \times 0.04} = 0.9 \times 0.02 = 0.018 \text{ H} = 18 \text{ mH}$$
k の値がわずかに変わるだけで M が大きく変わることがわかります。意外ですね。これは2つのコイルの位置・角度・距離のわずかな変化が伝達効率に直結することを意味しています。
金属加工の現場における誘導加熱設備では、加熱コイルとワークの距離(ギャップ)が数mm変わるだけで加熱効率が数十%変化することがあります。これはまさに k の変動によるものです。コイルをワークに近づけすぎると短絡や過熱のリスクが生じ、遠すぎると加熱不足になります。相互インダクタンスの式を念頭に置いておくことで、現場での調整作業に根拠を持って取り組めます。
参考:相互インダクタンスの公式と計算方法を、図を使いながら解説したページです。
コイルに関係するインダクタンス。計算方法について知っておこう – セコカンNEXT
インダクタンスの計算が正確にできても、それだけで安心してはいけません。実際の回路では「周波数」と「Q値(品質係数)」が大きく関わってくるからです。これが、多くの現場担当者が意識しにくいもう一つの重要な観点です。
コイルのインピーダンス(交流に対する抵抗)は次の式で求まります。
$$Z_L = 2\pi f L \text{ Ω}$$
周波数 f が高くなるほど、コイルのインピーダンスは大きくなります。直流(f = 0)であればインピーダンスはほぼゼロになります。この性質から、コイルは「高周波を通しにくく、低周波や直流を通しやすい」フィルター素子として機能します。
次に Q 値について説明します。Q 値(品質係数)はコイルの「良さ」を表す指標で、次の式で求められます。
$$Q = \frac{2\pi f L}{R}$$
ここで R はコイルの巻線抵抗(直流抵抗成分)です。Q 値が高いほど損失が少なく、効率的なコイルといえます。しかし、Q 値は一定ではありません。
これは使えそうな情報です。たとえば、工場内の高周波誘導加熱設備では、コイルの動作周波数が数十kHz〜数百kHzになることがあります。この帯域では巻線の表皮効果が無視できなくなるため、「銅の断面積を大きくすれば損失が減る」という単純な話にはなりません。リッツ線(細い導線を多数撚り合わせた線材)を使うことで表皮効果を抑える設計が一般的です。
また、インダクタンス値が大きすぎると、回路の電流応答が遅くなる問題も生じます。パワーエレクトロニクス機器では「インダクタンスが大きすぎると、負荷変動への応答が遅くなり、出力電圧の安定化が難しくなる」という設計上のトレードオフがあります。インダクタンスは大きければよいというものではない、ということです。
インダクタンス計算は「静的な公式を当てはめるだけ」で終わりではなく、動作周波数・Q値・コア材の特性を合わせて考えることが、実務では欠かせない視点です。
参考:インダクタのQ値(損失係数)とその意味について、TDK社がわかりやすく解説したFAQページです。
インダクタ(コイル)のQ値とは何ですか?| FAQ – TDK Product Center
参考:コイルのインピーダンス周波数特性と共振周波数の求め方について詳しく説明されたページです。
インダクタのインピーダンスの周波数特性と共振周波数の求め方とは? – ROHM TechWeb
公式を理解したうえで、実際の設計・確認作業では計算ツールを活用するのが効率的です。主要なオンライン計算ツールを紹介します。
ただし、これらのツールはあくまでも概算値を出すものです。実際のコイルでは以下の要因によって計算値と実測値にずれが生じることがあります。
金属加工の現場でコイルを自作・改修する機会がある場合は、計算値を参考にしつつ、LCRメーターで実測することを強くおすすめします。HIIOKIやAgilent(現Keysight)のLCRメーターを使えば、使用周波数に合わせたインダクタンスの実測が可能です。LCRメーターの価格は数万円〜数十万円の幅がありますが、高精度なものでなくても数mH〜数百μHの範囲であれば数万円台の機器で十分な精度が得られます。
インダクタンスの実測が条件です。計算はあくまでも出発点であり、最終確認は必ず実測で行う習慣をつけることで、設備トラブルのリスクを大幅に下げることができます。
参考:HIIOKIのインダクタ(コイル)測定方法と、LCRメーターの活用方法について解説されたページです。
インダクタ(コイル)のインダクタンス測定方法 – Hioki(日置電機)

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