体重30kg超の患者に「1回10mg/kg・2週間間隔」で投与すると、現在の添付文書では過量投与になります。

イミフィンジ点滴静注(一般名:デュルバルマブ〔遺伝子組換え〕)は、アストラゼネカ株式会社が製造販売する抗PD-L1モノクローナル抗体製剤です。PD-L1とその受容体であるPD-1との結合を阻害することで、がん細胞による免疫回避を遮断し、T細胞の抗腫瘍活性を再活性化させる機序を持ちます。剤形は120mgバイアル(2.4mL・薬価67,871円/瓶)と500mgバイアル(10mL・薬価275,693円/瓶)の2規格があります。
現行の添付文書は2026年1月改訂の第10版(効能変更・用法変更)です。この改訂で膀胱癌における術前・術後補助療法が新たに承認され、適応症は以下の9つとなりました。
つまり9つの適応症があります。適応ごとに用法・用量・投与期間がすべて異なる点が、本剤の添付文書を読む際の最大の注意点です。
医療関係者向け公式添付文書(PMDA)
最新の電子化された添付文書(電子添文)はPMDAのウェブサイトで随時参照できます。
PMDA:イミフィンジ点滴静注120mg 医療関係者向け添付文書・患者向医薬品ガイドほか
添付文書の中で最も注意が必要な項目が用法用量です。これが原則です。ほとんどの適応で「1回1,500mgを60分間以上かけて点滴静注」が基本となりますが、進行・再発の子宮体癌の初回投与では1回1,120mgという他適応とは異なる特殊な用量が設定されています。
体重30kg以下の患者への投与量は、固定用量1,500mg(または子宮体癌初回の1,120mg)ではなく、体重1kgあたり20mg/kgに切り替わります。この例外規定を見落とすと、低体重患者への過量投与に直結します。体重30kgの患者に固定用量1,500mgを投与した場合、体重ベースで換算すると50mg/kgとなり、規定の2.5倍の曝露量になります。これは危険です。
投与間隔と期間を適応別に整理すると以下のとおりです。
| 適応 | 初回〜 | 維持・以降 | 投与期間上限 |
|---|---|---|---|
| 切除不能局所進行NSCLC・維持療法 | 1,500mg Q4W | 同左 | 12カ月 |
| 切除不能進行・再発NSCLC | 1,500mg Q3W×4回 | 1,500mg Q4W | 病勢進行まで |
| NSCLC術前・術後補助療法 | 術前 1,500mg Q3W×4回まで | 術後 1,500mg Q4W×12回まで | 術後12回 |
| 進展型SCLC | 1,500mg Q3W×4回 | 1,500mg Q4W | 病勢進行まで |
| 限局型SCLC・維持療法 | 1,500mg Q4W | 同左 | 24カ月 |
| 切除不能肝細胞癌 | 1,500mg Q4W | 同左 | 病勢進行まで |
| 治癒切除不能胆道癌 | 1,500mg Q3W(GC併用期) | 1,500mg Q4W | 病勢進行まで |
| 進行・再発子宮体癌 | 1,120mg Q3W | 維持:1,500mg Q4W | 病勢進行まで |
| 膀胱癌術前・術後補助療法 | 術前 1,500mg Q3W×4回まで | 術後 1,500mg Q4W×8回まで | 術後8回 |
2023年11月に用法変更が行われた切除不能局所進行NSCLC維持療法については、旧用量(1回10mg/kg・Q2W)から新用量(1回1,500mg・Q4W)への切り替えに際し、「1回1,500mgを2週間間隔」などの誤投与が起きないよう特段の注意が喚起されています。切り替え時期は直近の投与から2週間後の投与から新用量で開始することが推奨されています。
適正使用のお願い(肺がん学会掲載版)
用法変更に伴う留意点が詳細に記載されています。
日本肺癌学会:固定用量切り替えに伴う適正使用のお願い(PDF)
本剤の使用上の注意の核心は、免疫介在性副作用(irAE、添付文書では「過度の免疫反応による副作用」と記載)の管理です。PD-L1阻害によるT細胞の過剰活性化は、肺・肝臓・消化管・内分泌器官・腎臓・皮膚・筋肉・心臓など全臓器に影響しうる多彩な副作用を引き起こします。
添付文書(7.1)の休薬・投与中止基準を臓器ごとに整理すると以下の通りです。
| 副作用 | Grade | 処置 |
|---|---|---|
| 間質性肺疾患 | Grade2 | Grade1以下に回復するまで休薬 |
| 間質性肺疾患 | Grade3〜4 | 投与中止 |
| 大腸炎・下痢 | Grade2 | Grade1以下に回復するまで休薬 |
| 大腸炎・下痢 | Grade3(単剤) | Grade1以下に回復するまで休薬 |
| 大腸炎(トレメリムマブ併用) | Grade3 | 投与中止 |
| 大腸炎・下痢 | Grade4 | 投与中止 |
| 心筋炎 | Grade2〜4 | 投与中止 |
| 重症筋無力症・脳炎 | Grade2〜4 | 投与中止 |
| Infusion reaction | Grade1〜2 | 投与中断または投与速度50%減速 |
| Infusion reaction | Grade3〜4 | 投与中止 |
| 赤芽球癆 | 全Grade | 投与中止 |
| 消化管穿孔 | 全Grade | 投与中止 |
重要なのは「休薬」と「中止」の違いです。休薬は回復後の再開を前提とした一時停止であり、中止は永続的な終了を意味します。心筋炎・脳炎・重症筋無力症はGrade2から即座に「投与中止」となる点は特に覚えておく必要があります。これらはGrade3・4まで待たなくてよいということです。
PACIFIC試験(切除不能局所進行NSCLCを対象)の国内データによると、本剤投与群では間質性肺疾患関連事象が73.6%と高頻度で認められています(プラセボ群は60.0%)。放射線療法後の投与という背景から、放射線性肺臓炎との鑑別も含め早期発見が不可欠です。初期症状として息切れ・呼吸困難・咳嗽・発熱が現れた場合は直ちに胸部X線を実施し、必要に応じてCTや血清マーカーで精査します。
副作用はあらゆるタイミングで発現します。これが原則です。添付文書の8.1には「本剤投与終了後に重篤な副作用があらわれることがあるので、本剤投与終了後も観察を十分に行うこと」と明記されています。投与が完了したからといってirAEの監視を中断してはなりません。
アストラゼネカ公式安全性情報ページ
imAEチェックシートや適正使用のお願いが随時更新されています。
アストラゼネカ MediChannel:イミフィンジ安全性情報
添付文書第1項の警告(ブラックボックス相当)は2点から構成されています。
1つ目は施設・医師要件です。本剤は「緊急時に十分対応できる医療施設において、がん化学療法に十分な知識・経験を持つ医師のもとで、本剤の使用が適切と判断される症例についてのみ投与する」とされています。これは一般の外来診療所での投与が前提とされていないことを意味します。
適正使用のお願いにおける医師の具体的な要件は、医師免許取得後2年の初期研修を修了した後に5年以上のがん治療の臨床研修を行っていること、うち2年以上はがん薬物療法を主とした臨床腫瘍学の研修を行っていることとされています。子宮体癌適応では婦人科腫瘍のがん薬物療法を含むがん治療の臨床研修を3年以上とした独自の要件も追加されています。
2つ目の警告は間質性肺疾患です。死亡に至った症例も報告されているため、初期症状の確認と胸部X線検査の実施が義務付けられています。
禁忌は「本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者」のみです。シンプルですね。他の免疫チェックポイント阻害薬とは異なり、自己免疫疾患が禁忌条件として明示されていませんが、活動性の自己免疫疾患を有する患者への投与については効能に関連する注意や重要な基本的注意の項で慎重な対応が求められています。
また、添付文書の5.1〜5.13(効能または効果に関連する注意)には適応ごとに重要な対象患者選択の基準が記載されています。切除不能局所進行NSCLC維持療法では「根治的化学放射線療法後に疾患進行が認められていない患者」を対象とすることが明確に規定されています。EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子の有無が有効性に影響する適応については、これらの遺伝子検査を実施したうえで適応患者を選択することが求められています。
RMP(医薬品リスク管理計画)掲載ページ(PMDA)
安全性検討事項と薬物警戒活動の詳細を確認できます。
PMDA:イミフィンジ点滴静注 リスク管理計画書(PDF・2025年12月改訂版)
添付文書に記載されてはいるものの、日常業務の中で見落とされやすい独自の視点から3つのポイントを取り上げます。
① 子宮体癌は「同じ薬を2段階の用量で投与する」唯一の適応
進行・再発の子宮体癌では、化学療法期(カルボプラチン+タキサン系との併用)における初回用量が1回1,120mg(Q3W)であり、化学療法終了後の維持療法に移行すると1回1,500mg(Q4W)に変更されます。つまり同じイミフィンジの投与量が途中で切り替わります。これは他のすべての適応と異なる特殊な用量設計です。維持療法に移行した際に用量の切り替えを失念すると、意図せずに減量状態が継続するリスクがあります。
② 限局型SCLCの投与期間上限は12カ月ではなく24カ月
切除不能局所進行NSCLC維持療法の投与期間上限が「12カ月」であることは広く認知されています。一方で、限局型SCLC根治的化学放射線療法後の維持療法では投与期間上限が「24カ月」に設定されています。疾患の混同や電子カルテへの入力ミスにより、NSCLCの12カ月上限をSCLCの患者に誤適用するケースは現場でも起こりうるリスクです。
③ Infusion reactionは「50%減速」が添付文書の指示
Grade1〜2のInfusion reactionが発現した際の添付文書上の対応は「投与中断または投与速度を50%減速する」です。単なる速度低下ではなく、半分に落とすことが明示されています。前投薬の指示については添付文書に明記されておらず、施設ごとのプロトコルに委ねられています。初回投与前に施設プロトコルを確認することが必要です。
内分泌障害(甲状腺機能亢進症・副腎機能不全・下垂体機能低下症)については、Grade2〜4の場合に「症状が安定するまで本剤を休薬する」という比較的マイルドな対応が添付文書に示されています。これは一見休薬だけでよいように読めますが、副腎機能不全では急性副腎不全に至ると生命の危険があります。症状が安定している間もホルモン補充療法の実施とACTH・コルチゾールの定期測定を継続することが重要です。
適正使用ガイドにはirAEの初期症状チェックシートが掲載されており、患者が次回受診までに自身の体調変化を記録するツールとしても活用できます。初回投与時にこのツールの存在を患者に案内しておくことで、次回診察時に漏れのない症状聴取が可能になります。
PMDA:イミフィンジ・イジュド 適正使用ガイド(PDF)irAEチェックシート収録
添付文書の14〜15項(適用上の注意・その他)には、調製・投与に関する実務的な指示が記載されています。
本剤の希釈方法は0.9%塩化ナトリウム注射液(生理食塩液)または5%ブドウ糖注射液を用いた静脈内投与用の希釈で、最終濃度が1〜15mg/mLの範囲になるよう調整します。この濃度範囲は製剤の安定性に関わるため、過剰希釈にも注意が必要です。つまり最低1mg/mLが条件です。
500mgバイアルを1回1,500mgに使用する際は3本(3バイアル)が必要です。120mgバイアルのみで1,500mgを投与しようとすると13本(13バイアル)近くが必要になり、現実的ではありません。500mgバイアルと120mgバイアルを組み合わせて端数を調整するケースもあります。残薬が生じた場合の取り扱いも施設ルールに従って廃棄します。
投与前に目視検査を行い、溶液に微粒子や変色が認められた場合は使用してはなりません。本剤はフィルターを使用して投与することが添付文書上で定められています(0.2または0.22μmのインラインフィルター)。フィルターなしでの投与は添付文書の指示からの逸脱となります。これは有料で問われる知識です。
保管については未開封のバイアルを2〜8℃(冷蔵)で保管します。凍結させてはいけません。室温放置の時間が長くなるほど品質リスクが高まるため、払い出しから調製・投与までの時間管理を院内プロトコルで定めておく必要があります。また、光に対して直接の遮光が必要とされています。
調製は無菌的に行う必要があり、施設内でのクリーンベンチまたは安全キャビネットを使用した抗がん剤調製環境が前提となります。調製者がばく露を受けないよう適切な防護具(グローブ・マスク等)の使用も忘れてはなりません。
KEGG MEDICUS(JAPIC):イミフィンジ添付文書全文(2026年1月改訂・第10版)