精神既往のない患者でも、イーケプラ投与で攻撃性が出てクレームに発展した事例が報告されています。

イーケプラ錠500mg(一般名:レベチラセタム)は、ユーシービージャパン株式会社が製造販売する抗てんかん剤です。承認された効能・効果は、①てんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)、②他の抗てんかん薬で十分な効果が認められないてんかん患者の強直間代発作に対する抗てんかん薬との併用療法、の2つが柱になっています。
部分発作に対しては単剤療法が可能です。これは医療現場で重要な意味を持ちます。
一方、強直間代発作への使用は「他の抗てんかん薬との併用療法」に限定されており、単剤での適応はありません。国内臨床試験において、部分発作に対するレベチラセタム単剤投与での6か月間の発作消失患者割合は73.8%という数値が確認されています。東京ドームに例えるなら、観客の約4分の3が「発作ゼロ」を達成したイメージです。
強直間代発作への併用療法においては、成人での発作回数減少率(中央値)が77.0%という結果も示されています。てんかん診療ガイドライン2018(日本神経学会)では、新規発症の成人てんかんにおける部分発作の第一選択薬、強直間代発作の第二選択薬として明確に位置づけられています。これは使えそうです。
従来から第一選択だったカルバマゼピン(テグレトール)には、血球減少・肝障害・低ナトリウム血症・SJS(皮膚粘膜眼症候群)などの副作用リスクが伴います。イーケプラはこれらのリスクが相対的に少なく、薬物相互作用もほぼないため、近年では部分発作の主要な第一選択薬として急速に普及しました。
日本神経学会「てんかん診療ガイドライン2018 第3章 成人てんかんの薬物療法」(部分発作・全般発作の選択薬の根拠と推奨度が詳述されています)
イーケプラ錠500mgの最大の特徴は、従来の抗てんかん薬とは全く異なる作用機序にあります。つまり、独自の経路で発作を抑えるということです。
従来の多くの抗てんかん薬は、①電位依存性Naチャネルの抑制(カルバマゼピン、ラモトリギン)、②GABA系の増強(バルプロ酸、フェノバルビタール)、③Caチャネル抑制(ゾニサミド)といった経路で作用します。これに対しイーケプラは、神経終末のシナプス小胞蛋白2A(SV2A; Synaptic Vesicle Protein 2A)に結合することで発作を抑制します。
SV2Aは、神経伝達物質の放出調節に関わる小胞膜貫通型の糖蛋白質です。神経伝達物質の種類を問わず、広く神経系に発現しています。SV2Aノックアウトマウスは生後まもなく重篤なてんかん発作を発症し2〜3週間で死亡するという動物実験データが、この蛋白質のてんかん病態における重要性を裏づけています。
イーケプラはこのSV2Aに結合することで、シナプス小胞からの神経伝達物質の過剰放出を抑制します。さらにN型Ca²⁺チャネルの阻害、細胞内Ca²⁺遊離の抑制、GABA・グリシン作動性電流へのアロステリック阻害の抑制なども発作抑制に寄与していると考えられています。
重要なのは、SV2Aへの結合親和性と動物モデルでの発作抑制作用の間に相関が認められている点です。作用機序が全く異なるため、他の抗てんかん薬が無効だった症例でも奏効する可能性があります。これが、難治てんかんへのアドオン療法としても幅広く活用されている理由です。
UCBCares Japan「イーケプラ Q&A(医療従事者向け)」(作用機序・SV2Aの詳細・用法用量・相互作用などの臨床的疑問に詳しく回答しています)
イーケプラ錠500mgの標準的な用法・用量は、成人に対してレベチラセタムとして1日1000mgを1日2回に分けて経口投与することです。これが基本です。
増量が必要な場合は、2週間以上の間隔をあけて1日1000mg以下ずつ段階的に行います。最大用量は1日3000mgです。500mg錠であれば1回1錠(500mg)を朝夕で使用するところから開始し、最大で1回3錠(1500mg)・1日2回まで増量できます。
ここで医療現場で見落とされやすい重要なポイントがあります。イーケプラは腎排泄型の薬剤であるという点です。
肝代謝型の抗てんかん薬(カルバマゼピン、バルプロ酸など)と異なり、イーケプラは主として腎臓から排泄されます。そのため、腎機能障害のある患者では用量・投与間隔の調節が必須です。添付文書では、クレアチニンクリアランス(CCr)に基づいた投与量の目安が明確に規定されています。たとえば、CCr 50〜79 mL/minでは通常投与量500mg・1日2回〜最高1000mg・1日2回、CCr 30〜49 mL/minでは通常250mg・1日2回〜最高750mg・1日2回、CCr 30未満では通常250mg・1日2回〜最高500mg・1日2回が目安とされています。
高齢者では腎機能が生理的に低下しています。CCrを確認してから投与量を設定することが原則です。「見た目が元気だから問題ない」は危険な判断です。血中透析を受けている患者では投与間隔や補充用量の設定も別途必要になります。
また、イーケプラは食事の影響を受けにくい薬剤です。食後投与ではCmaxが約30%低下しますが、AUCは同等であるため、食前・食後どちらでも服用でき、患者のアドヒアランス維持に有利です。
服薬開始から3日後には定常状態に達します。半減期は約7〜9時間と短めのため、1日2回の均等分割投与が安定した血中濃度の維持に不可欠です。
イーケプラ錠500mgで最もよく確認される副作用は傾眠(眠気)です。単剤療法では臨床試験で約55%に何らかの副作用が認められており、併用療法ではその割合が約90%に上ります。
眠気・めまい・頭痛・浮動性めまいが代表的な副作用です。これらは比較的予測しやすく対応しやすい一方で、医療従事者が注意すべきなのが精神神経系の副作用です。
イライラ・攻撃性の亢進・易刺激性・気分変動といった症状が、精神既往のない患者でも現れることがあります。場合によっては抑うつ状態や自殺企図に至ることもあります。添付文書では「攻撃性、自殺企図」が重大な副作用として明記されています。
日本神経学会のてんかん診療ガイドラインでは、うつ病性障害・不安障害・精神病性障害を合併するてんかん患者に対しては、レベチラセタムの使用を「避けるべき薬剤」として分類しています。双極性障害を合併する患者に対しては「使用を考慮してよい薬剤」とは明記されていません。精神症状リスクを有する患者への処方は、ガイドラインを参照した慎重な判断が条件です。
その他の重大な副作用として、中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(SJS)、薬剤性過敏症症候群、重篤な血液障害、肝不全・肝炎、膵炎、横紋筋融解症、急性腎障害、悪性症候群なども頻度は低いながら報告されています。発疹・発熱・眼症状などが現れた場合は速やかに投与を中止し、適切な対処を行うことが求められます。
授乳中の患者については、レベチラセタムの成分が乳汁に移行することが確認されています。授乳の継続か中止かを個別に判断する必要があります。
イーケプラ錠500mgの処方上の大きなメリットの一つが、他剤との薬物相互作用がほとんどないという点です。これは医療の現場で見過ごしがちながら、実は非常に重要な特性です。
従来の抗てんかん薬、たとえばカルバマゼピンやフェニトインは肝チトクロームP450(CYP)系の強力な誘導薬であり、他の多くの薬剤の血中濃度を低下させます。バルプロ酸はCYPの阻害薬であり、逆に他剤の濃度を上昇させます。このため、多剤併用時の血中濃度管理が複雑になります。
一方、イーケプラはCYP系に対して誘導も阻害も行いません。カルバマゼピン・フェニトイン・バルプロ酸ナトリウム・ゾニサミドといった代表的な抗てんかん薬の血漿中濃度に影響を与えないことが薬物動態試験で確認されています。また、経口避妊薬・ジゴキシン・ワルファリン・プロベネシドといった他科領域の薬剤に対しても同様に、相互作用が認められていません。
添付文書上、イーケプラには「併用禁忌」も「併用注意」に該当する医薬品も存在しません。
これは多剤併用が多い高齢者や、内科・婦人科疾患を合併するてんかん患者への処方で非常に実用的です。また、経口避妊薬の効果を落とさないため、妊娠可能年齢の女性てんかん患者への投与もしやすい薬剤です。さらに、胎児への催奇形性リスクが他の抗てんかん薬(特にバルプロ酸)と比較して相対的に低いというエビデンスもあり、妊娠可能年齢女性の部分発作には積極的な選択肢となります。
TDM(治療薬物血中濃度モニタリング)の定期的な実施が必ずしも必要ではないことも、外来での管理負荷を下げるメリットです。薬物動態の個体差が小さく、用量と血中濃度が概ね比例(線形性)する性質があるため、増量効果の予測がしやすい薬剤でもあります。
緑花会「てんかんミニ知識 第17回 レベチラセタム(イーケプラ)を知ろう」(薬物動態・相互作用・妊娠への適用など臨床医の視点で簡潔にまとめられています)