ワルファリンを飲んでいない患者なら安全と思って処方すると、死亡事故につながることがあります。

イグラチモド(商品名:ケアラム®、コルベット®)を使用するうえで、まず押さえておきたい重大副作用が肝機能障害です。添付文書上の発現頻度は0.5%(肝機能障害)と0.1%(黄疸)と記載されています。
一方で、無症候性のAST・ALT上昇はそれよりはるかに高く、添付文書の副作用表では「10〜20%未満」の頻度でAST増加・ALT増加・Al-P増加・γ-GTP増加が記録されています。つまり「重篤な肝機能障害」は0.5%でも、臨床検査値の異常変動は約10〜20%の患者に起こりうるということです。これは重要です。
肝機能への影響が特に強まるのが「1日50mgから開始した場合」です。添付文書には明確に記載があり、1日25mgから開始した場合と比べてAST・ALT増加の発現率が高いことが確認されています。そのため、投与開始後4週間は必ず1日25mgで経過を見る必要があります。
定期検査のプロトコルとして、以下のスケジュールが添付文書で定められています。
| 時期 | 検査頻度 | 主な確認項目 |
|---|---|---|
| 投与前 | 必須(1回) | 肝機能、血液、腎機能 |
| 投与開始後 最初の2ヶ月 | 2週に1回 | 肝機能(AST/ALT)、血液 |
| 2ヶ月以降 | 1ヶ月に1回 | 肝機能、血液、腎機能 |
特に目安として、AST・ALTが100IU/L以上に増加した場合は投与を中止するよう添付文書に明記されています。「少し上がった程度」で様子を見るのは危険です。
肝障害または既往歴のある患者にも使用は可能ですが、重篤な肝障害がある患者への投与は禁忌であることを必ず確認してください。肝障害リスクの高い患者群として、アルコール多飲者や慢性肝炎のキャリアがいる場合は投与前のスクリーニングが一層重要になります。
参考:イグラチモドの添付文書情報(KEGG)
医療用医薬品 : イグラチモド – KEGG MEDICUSデータベース
イグラチモドには唯一の「併用禁忌薬」が存在します。それがワルファリンです。
2013年5月、PMDAはブルーレター(安全性速報)を発出しました。イグラチモドの販売開始(2012年9月)からわずか8ヶ月の間に、ワルファリンとの相互作用が疑われる出血または血液凝固能検査値の異常変動(PT-INR増加)が9例報告され、そのうち重篤3例、死亡1例が確認されたためです。
死亡症例を具体的に見ると、70代女性でPT-INRが本剤追加からわずか12日後に1.35→2.94に急上昇し、その後50mgに増量した翌日に肺胞出血が発現、最終的にPT-INR 11.91に達して死亡という経過をたどっています。本剤を「25mgで開始した別の症例」でも、投与開始後わずか11日で歯肉出血・皮下出血・重篤な貧血(Hb 8.2g/dL)が生じています。
死亡例を生んだ背景として注目すべきは、A病院でワルファリンを処方され、B病院でイグラチモドが処方されたという「他院処方の見落とし」が複数ありました。相互作用の機序は不明なままですが、イグラチモドがCYP2C9を阻害してワルファリンの代謝を抑制するという仮説があります。
ワルファリン以外にも「併用注意」の薬剤があります。NSAIDs(ナプロキセン、プラノプロフェン、モフェゾラクなど)との併用では消化性潰瘍リスクが高まります。またシメチジンと併用するとイグラチモドの血漿中濃度が上昇するため副作用が増加するおそれがあります。つまり胃酸分泌抑制薬でもシメチジンは要注意です。
参考:PMDAブルーレター(イグラチモドとワルファリンの相互作用)
安全性速報 – イグラチモドとワルファリンとの相互作用が疑われる重篤な出血について(PMDA)
間質性肺炎の発現率は0.3%と数値上は小さく見えますが、これを軽視することはできません。臨床試験では1030例中3例(0.29%)に間質性肺炎が認められています。
関節リウマチ患者はもともと間質性肺炎を合併しやすい疾患背景を持っており、RA単独での年間累積発症率が0.35〜0.41%と報告されています。そのため「薬剤性なのか疾患由来なのか」の鑑別が重要であり、これがイグラチモド使用時の管理を難しくする点の一つです。
発症時の典型的な症状は発熱・乾性咳嗽・呼吸困難の3つです。これらを認めた場合は速やかに以下の評価を行う必要があります。
間質性肺炎が疑われた時点で即座に投与を中止することが原則です。確認してから中止では手遅れになるケースがあります。副腎皮質ホルモン剤の投与など適切な処置を速やかに行います。
独自の視点として押さえておきたい点があります。イグラチモドの添付文書には「非臨床試験(毒性試験)において、イグラチモドと間質性肺炎との関連を示唆する薬理学的な知見は得られていない」と記載されています。つまり、なぜ間質性肺炎が起きるのかメカニズムが十分に解明されていない状態です。一方、イグラチモドのCOX-2阻害作用がプロスタグランジン産生を抑制し、肺局所の免疫応答に影響する可能性を指摘する意見もあります。この点は今後の研究を要する課題です。
事前に既存の間質性肺炎合併が確認されている患者では、投与前と定期的に胸部CTおよびKL-6の追跡測定を行い、ベースラインの変化量で判断する管理が実践的です。
参考:ケアラムの間質性肺炎副作用と対処法(エーザイFAQ)
【ケアラム】間質性肺炎の副作用症状と対処法 – エーザイ医療関係者向けFAQ
血液系の重大副作用として、汎血球減少症(0.1%)・無顆粒球症(頻度不明)・白血球減少(0.1%)が挙げられています。頻度不明の「無顆粒球症」は2017年1月に添付文書に追記された項目であり、市販後調査で新たに確認されたリスクです。
この血液毒性に関して特に重要なのが「低体重患者(40kg未満)」への注意です。添付文書には明確に「低体重(40kg未満)の患者で副作用の発現率が高かった」と記載されています。体重40kgというのは、一般的な成人女性の中でも小柄な体格に相当します。高齢の女性リウマチ患者には該当する方も少なくありません。
| 患者背景 | リスクレベル | 対応 |
|---|---|---|
| 低体重(40kg未満) | 🔴 高リスク | 副作用発現率が高い。十分な観察が必要 |
| 高齢者+MTX併用 | 🔴 高リスク | 非高齢者より副作用発現率が高い |
| 貧血・白血球減少・血小板減少を伴う患者 | 🟠 中〜高リスク | 血液障害をさらに悪化させるおそれあり |
| 腎障害のある患者 | 🟠 中リスク | 副作用の発現が増加するおそれあり |
また、イグラチモドを「ハイリスク薬」として位置づけている点も見落としてはなりません。ハイリスク薬とは医療従事者が特に注意して安全管理を行う必要がある医薬品のことで、調剤・処方・服薬指導のすべての場面で通常以上の確認が求められます。
海外の臨床試験では1日125mgを投与した症例で致命的な転帰に至った汎血球減少症が認められています。これが警告に記載されている理由です。1日の最大投与量50mgを超えないことは鉄則であり、「効果が出ないから増やす」という対応は絶対に避けなければなりません。
白血球・血小板・赤血球のいずれかが著しく低下した場合は速やかに投与を中止し、適切な処置を行います。血球減少は自覚症状が出にくいため、定期的な血液検査なしには早期発見が難しいということです。
重大副作用の中でも日常診療でもっとも遭遇しやすいのが消化性潰瘍(発現率0.7%)です。イグラチモドはもともと鎮痛薬の開発研究から生まれた経緯があり、COX(シクロオキシゲナーゼ)阻害作用を有しています。NSAIDsと同様の機序でプロスタグランジンの産生を抑制するため、胃粘膜保護作用も同時に抑えてしまいます。
消化性潰瘍は0.7%という数値で重大副作用の中ではもっとも頻度が高い副作用です。下血などの消化器症状が出た場合は直ちに投与を中止し、適切な処置を行います。NSAIDsを併用している患者では消化性潰瘍リスクがさらに上昇するため、可能であれば制酸薬(PPIなど)の予防的投与を検討することが実践的です。
また、消化性潰瘍の「既往歴のある患者」への使用も慎重に行う必要があります。禁忌ではなく「慎重投与」ですが、再発リスクを十分に説明したうえで、定期的な上部消化管の評価を行うことが望ましいです。
その他の副作用についても、医療従事者として患者に事前に伝えておくべき項目があります。
なお、投与開始後16週までに効果が発現するとされており、16週を経過しても効果が見られない場合は漫然と継続せず、投与継続の意義を再評価することが原則です。つまり効果判定の期限を持った投与管理が基本です。
参考:くすりのしおり(イグラチモド錠 患者向け情報)
イグラチモド錠25mg「サワイ」 – くすりのしおり(RAD-AR)
参考:日本リウマチ学会 緊急注意喚起(イグラチモド使用に関して)
≪緊急のお知らせ≫イグラチモドの使用に関する注意喚起 – 日本リウマチ学会