ヒュミラ皮下注を「先発品のまま処方し続けても患者負担はほとんど変わらない」と思っていると、年間で17万円以上の損失を見逃すことになります。

まず、現在の薬価を数字で整理しておきましょう。2026年4月1日適用の薬価改定(令和8年度)後における、ヒュミラ皮下注の先発品と主なバイオシミラー(アダリムマブBS)の薬価は以下のとおりです。
| 製品名 | 区分 | 規格 | 薬価(円) |
|---|---|---|---|
| ヒュミラ皮下注20mgシリンジ0.2mL | 先発品 | 20mg0.2mL 1筒 | 24,392 |
| ヒュミラ皮下注40mgシリンジ0.4mL | 先発品 | 40mg0.4mL 1筒 | 49,726 |
| ヒュミラ皮下注80mgシリンジ0.8mL | 先発品 | 80mg0.8mL 1筒 | 96,604 |
| ヒュミラ皮下注40mgペン0.4mL | 先発品 | 40mg0.4mL 1キット | 46,864 |
| ヒュミラ皮下注80mgペン0.8mL | 先発品 | 80mg0.8mL 1キット | 91,161 |
| アダリムマブBS皮下注40mgシリンジ「MA」 | 後発品 | 40mg0.4mL 1筒 | 20,630 |
| アダリムマブBS皮下注40mgペン「MA」 | 後発品 | 40mg0.4mL 1キット | 18,636 |
| アダリムマブBS皮下注80mgシリンジ「MA」 | 後発品 | 80mg0.8mL 1筒 | 38,124 |
先発品のヒュミラ40mgペンと、バイオシミラーの40mgペンを比較すると、1キットあたり28,228円の差があります。これが基本です。
関節リウマチの標準的な用法は「40mgを2週に1回皮下注射」ですから、1か月に換算すると2キット分、つまり先発品の場合は月額93,728円(薬価ベース)になります。バイオシミラーなら月額37,272円(薬価ベース)です。薬価差は月に約56,456円、年間では約677,472円という大きな数字になります。3割負担の患者であれば、先発品では月の薬剤負担が約28,000円、バイオシミラーでは約11,000円と、その差は月1万7,000円にもなります。
「薬価差を知っていても、患者さんが先発品を希望する場合は変えられない」という感覚はよくわかります。ただ、情報提供の質が患者の選択を左右します。正確な薬価知識を持つことが出発点です。
参考リンク(KEGG Medicus:アダリムマブの先発品・後発品薬価一覧)。
KEGG Drug:アダリムマブ(ヒュミラ)先発品・バイオシミラー薬価一覧
ヒュミラ40mgペンの薬価推移を見ると、2021年には53,516円、2023年には51,022円、2025年には46,864円と、3回の改定で合計約6,652円(約12.4%)が引き下げられています。
これには明確な制度的背景があります。日本では2021年度以降、毎年薬価改定が実施されるようになりました。市場実勢価格(医療機関が実際に購入する価格)が薬価を一定以上下回っている場合、その乖離分が翌年度の薬価引き下げに反映されます。ヒュミラのようにバイオシミラーが複数品目参入した成分では、市場競争による価格低下が先発品の薬価改定にも連動して影響します。
結論は明快です。ヒュミラ先発品の薬価は今後も引き下げ圧力がかかり続けます。さらに2026年度改定では、「G1」と呼ばれる後発品置き換えルールが「後発品発売後10年」から「後発品発売後5年」へ前倒しされる見直しが行われました。アダリムマブBSは2021年に発売開始されているため、この観点でも先発品の薬価引き下げ機運は高まっています。
一方で見落としやすい点があります。薬価が下がっても「薬価ベースの医療費」と「医療機関が実際に購入する価格(仕入値)」の差(いわゆる薬価差益)は、バイオシミラーの方が先発品よりも相対的に生じやすい傾向があります。医療機関の経営面でも、バイオシミラー活用の是非は無視できない視点です。
| 年度 | ヒュミラ40mgペン薬価 | 変化額 |
|---|---|---|
| 2021年 | 53,516円 | — |
| 2023年 | 51,022円 | ▲2,494円 |
| 2025年 | 46,864円 | ▲4,158円 |
この数字が示す流れは明確です。先発品は引き続き薬価が低下していきます。
参考リンク(令和8年度薬価改定の概要と制度変更点、厚生労働省)。
ミクスOnline:26年度薬価改定を告示 G1適用前倒し59成分追加
ヒュミラ(アダリムマブ)は現在、日本で12を超える適応症を持つ多適応の生物学的製剤です。2025年2月には新たに「X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎(nr-axSpA)」の適応が追加されました。この適応追加により、より早期の段階でバイオ製剤が選択される機会が広がっています。
主な適応疾患は次のとおりです。関節リウマチ、若年性特発性関節炎(多関節型)、尋常性乾癬、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、体軸性脊椎関節炎、クローン病(小児を含む)、潰瘍性大腸炎、腸管型ベーチェット病、化膿性汗腺炎、壊疽性膿皮症などが主な対象です。
ここで重要なのは、適応疾患によって用法用量が異なり、使用する規格・本数が変わることです。
この違いが、薬価の見積もりに直結します。例えば関節リウマチなら40mgペンを月2本使用しますが、潰瘍性大腸炎の導入期は最初の1か月だけで160mg(40mgシリンジなら4本分)が必要です。薬価ベースで計算すると、导入月の薬剤費は先発品40mgシリンジ換算で49,726円×4本=約199,000円にもなります。薬価はひとつの規格さえ押さえておけばよい、というわけではありません。これは少し意外なポイントです。
参考リンク(アッヴィ社の適正使用ガイド、用法用量の詳細が確認できる)。
今日の臨床サポート:ヒュミラの適応・用法用量詳細
バイオシミラーへの切り替えは「薬剤費の節約」だけの話ではありません。診療報酬上の加算を正しく活用すれば、医療機関としても明確なメリットを得られます。これが見落とされがちな点です。
2024年度の診療報酬改定で「バイオ後続品使用体制加算」(入院初日100点)が新設されました。さらに2026年度改定では「バイオ後続品調剤体制加算」も薬局側で新設されています。バイオ後続品使用体制加算を病院が算定するには、アダリムマブ(ヒュミラ)を含む対象成分の置き換え割合が一定基準を超えていることが施設基準として求められます。
アダリムマブの置き換え目標割合は50%以上(②グループ)に設定されています。直近1年間にバイオ後続品のある先発バイオ医薬品とバイオ後続品の合計使用回数が100回を超えることも必要です。これは「取り組んでいる病院だけが算定できる加算」です。
これらの加算を取りこぼさないためには、まず薬剤部が成分ごとの置き換え割合を把握・管理する体制が必要です。バイオシミラーの採用・切り替え方針を医師・薬剤師・病院事務が共有しておくことが、施設基準の維持に直結します。定期的なモニタリングが条件です。
参考リンク(バイオ後続品使用体制加算の算定要件と施設基準の詳細)。
ヤクヨミ:バイオ後続品使用体制加算とは?点数・算定要件・計算方法
ヒュミラ皮下注を処方する際に薬価だけを把握していても、患者が実際にいくら支払うかは別の話です。高額療養費制度の理解が、患者へのインフォームドコンセントの質を大きく左右します。
月に40mgペンを2本使用するケースで考えてみましょう。先発品の場合、薬価ベースの月額は93,728円です。3割負担だと約28,100円の自己負担になります。しかし、「高額療養費制度」が適用されると、所得区分によっては月の自己負担の上限が8,000円〜87,430円の範囲に収まります。一般的な所得区分(年収約370〜770万円)では上限が約80,100円のため、薬剤費だけなら3割負担の28,100円がそのまま自己負担となりますが、診察費・検査費等も合算すると上限に近づく場合があります。
バイオシミラーに切り替えた場合、月額薬剤費は約37,272円(3割負担で約11,200円)まで下がります。高額療養費制度の上限に届かないケースでは、その差がそのまま患者の実質的な節約額になります。月額で約17,000円、年間では約204,000円の差です。
75歳以上の後期高齢者の場合、自己負担割合が1〜2割になるケースが多く、薬価の差はさらに患者負担に直結します。1割負担では先発品が月約9,373円、バイオシミラーが月約3,727円と、約5,600円の差が生じます。年間では67,000円を超える差になります。
医療従事者が知っておくべきことは「薬価自体」だけでなく、「その薬価が患者の月次負担にどう変換されるか」という計算の視点です。所得区分によって説明すべき情報が変わります。患者ごとに確認が必要です。
また、公費負担医療(指定難病の医療費助成など)が適用される患者では、自己負担の上限額がさらに低く設定されます。例えばクローン病や潰瘍性大腸炎は指定難病の対象であり、所得に応じて月額上限が1,000〜30,000円程度まで軽減されます。この場合、先発品とバイオシミラーの薬価差による患者負担への影響はほぼ消えることがあります。どの制度が適用されるかで、薬剤の選択判断の優先順位も変わってきます。
参考リンク(リウマチ治療薬・バイオ製剤の薬剤費と自己負担額の一覧。2025年度薬価対応版)。
関節リウマチサポートセンター:薬剤費(バイオ製剤)と自己負担額の一覧(2025年版PDF)
ここでは、検索上位の記事にはあまり取り上げられていない実務的な視点を共有します。それは「バイオシミラーの適応症が先発品と完全に一致しない可能性がある」という点です。
アダリムマブBSが発売された当初、承認されている適応症は先発品のヒュミラと完全に同一ではありませんでした。バイオ後続品は先行品の特許満了後に薬事承認されますが、審査時点で先行品の一部適応症が再審査期間中や特許保護期間中にある場合、その適応症はバイオ後続品に引き継がれないことがあります。
2025年2月に承認を追加取得した「X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎(nr-axSpA)」については、バイオシミラーの各品目が同じタイミングでこの適応を有しているかどうかを個別に確認する必要があります。先発品に切り替える患者が増えたとしても、バイオシミラーで処方できる適応かどうかを先に確認しなければ、処方ミスのリスクが生じます。
また、自己注射指導の観点でも見落としがあります。ヒュミラのペン型デバイスとアダリムマブBSのペン型デバイスは製造元が異なるため、デバイスの操作感や注射手順が微妙に異なることがあります。特に患者が在宅自己注射を行っている場合、切り替え時には必ずデバイスの再指導が必要です。これを省略した場合、注射手技のエラーにつながり、有効性低下や副反応リスクの増大を招く可能性があります。
さらに、切り替え時の保管温度・保管方法の確認も重要です。ヒュミラおよびアダリムマブBSはいずれも2〜8℃冷蔵保管が必要ですが、注射前に室温に戻す時間の目安などは各製品の添付文書で確認が必要です。薬価の差を活かしながらも、こうした実務面の細かい確認がなければ、切り替えは安全に完結しません。
実務の手順として確認すべき点は次のとおりです。
参考リンク(PMDA:バイオ後続品の承認品目一覧。各品目の効能・効果の確認に活用)。
PMDA:承認品目一覧(バイオ後続品)2025年12月時点版PDF