基準長さをそのまま評価長さだと思って測ると、測定値が大きくズレてNGになります。
金属加工の現場で表面粗さを測るとき、必ず登場するのが「基準長さ」と「評価長さ」という2つの概念です。言葉は似ていますが、役割はまったく異なります。まずここを整理しておくと、その後の測定手順や条件設定が格段にスムーズになります。
基準長さ(lr) とは、粗さパラメータを算出するために輪郭曲線から抜き取るX軸方向の長さのことです。JIS B 0601:2013では「輪郭曲線の特性を求めるために用いる輪郭曲線のX軸方向の長さ」と定義されています。別名「カットオフ値λc」と同じ長さになります。つまり基準長さは、粗さとうねりを分けるフィルタの境界線の長さでもあります。
評価長さ(ln) は、粗さパラメータを求めるために輪郭曲線から取り出す全体の長さです。評価長さは「1つ以上の基準長さを含むこと」が条件で、標準的には基準長さの5倍になります。つまり、基準長さを「1区間」とすると、評価長さはその5区間分をまとめたものと考えるとわかりやすいです。
ここが基本です。
なぜ5区間も必要なのかというと、表面の凹凸は場所によってバラつきがあるためです。1区間だけ見ると、たまたまキズがあった箇所を拾ってしまったり、逆に特別に滑らかな部分だけを見てしまったりします。5区間分を測定し、その平均や最大値から判断することで、表面全体の粗さを統計的に正しく評価できます。
5倍が基本です。
実際の数値で見ると、たとえばRa 0.1〜2μm相当の面(最もよく使う中程度の粗さの面)は基準長さ0.8mm、評価長さ4mmです。これは切断の方向で例えると、名刺の短辺(54mm)ほどのうち、鉛筆1本分(4mm)の長さをなぞるイメージです。その中の0.8mm×5区間を同時に評価します。
| Ra(μm)の範囲 | 基準長さ lr(mm) | 評価長さ ln(mm) |
|---|---|---|
| 0.006 < Ra ≦ 0.02 | 0.08 | 0.4 |
| 0.02 < Ra ≦ 0.1 | 0.25 | 1.25 |
| 0.1 < Ra ≦ 2 | 0.8 | 4 |
| 2 < Ra ≦ 10 | 2.5 | 12.5 |
| 10 < Ra ≦ 80 | 8 | 40 |
出典:JIS B 0633:2001(ISO 4288:1996)表1
以下の参考リンクでは、ミツトヨによる粗さパラメータの基準長さ対応表と、輪郭曲線の種類など測定の基礎を一覧できます。現場での条件選定に役立てられます。
触針式表面粗さ測定機の特性・粗さパラメータの基準長さ一覧(ミツトヨ)
加工現場でよく起きるのが「同じワークを測っているのに数値が違う」という現象です。これは測定器の精度の問題ではなく、カットオフ値(=基準長さ)の設定が違うことが最大の原因であることが多いです。
意外ですね。
カットオフ値は、粗さ成分とうねり成分を分けるフィルタの役割を担います。この値を大きく設定しすぎると、本来は「うねり」として除外すべき緩やかな波形まで粗さとして計算されてしまいます。結果として、Ra値が実際より異常に高く出てしまいます。逆にカットオフ値が小さすぎると、本来の粗さ成分の一部が除外されてしまい、値が低く出ます。これは使えそうです。
具体的なリスクとして、Ra 0.1〜2μmの範囲の面に対してカットオフ値0.8mmではなく2.5mmを誤って設定した場合、うねり成分まで粗さに含まれるため、測定値が数倍に膨らむことがあります。その結果、実際には合格品であるにもかかわらず「不合格」と判定してしまうリスクがあります。
逆のパターンも起きます。本来Ra 2〜10μmの荒めの面を測るべき場面で基準長さ0.8mm(本来は0.1〜2μm対応)を設定したままにすると、粗さが低く算出され、粗い面を「合格」と誤判定する危険があります。
評価長さが基準長さの5倍に確保できない場合も注意が必要です。ワークが小さく測定面の長さが足りないケースがこれに該当します。JIS B 0633では「評価長さが基準長さの5倍にならない場合、標準偏差を基準長さの5倍に等しい評価長さを用いて求めた値に換算し、明記する」と規定されています。つまり、ただ短く測って終わりにするのはダメということです。
測定する実際の移動距離は、評価長さに「呼び駆動(基準長さ×2)」を加えた長さになります。これは測定開始・終了時の不安定区間を除外するためです。Ra 0.1〜2μmの面なら4mm+0.8mm×2=5.6mmの走行距離が必要です。ワークの測定可能エリアが5.6mm以上あるかを事前に確認するのが基本です。
以下の参考リンクでは、埼玉県産業技術総合センターが公開している表面粗さ測定の手順書を確認できます。測定条件の選定から呼び駆動の考え方まで実務的に整理されています。
「図面にRaの値は書いてあるが基準長さは省略されている」という状況は、加工現場では日常的に起きます。JIS B 0633の規定では、基準長さの指示がない場合でも測定者が適切な条件を選んで測るよう求めています。その手順を理解しておくことは、クレームや再測定を防ぐ上で非常に重要です。
基準長さが決まっている場合は、前述の表を参照してRaまたはRzの値の範囲に対応する行を選ぶだけです。基準長さが決まっていない場合は、まず適当な条件(中間の0.8mmが多い)で1回測定します。その測定値をもとに表の対応行を確認し、正しい基準長さとカットオフ値を設定しなおします。その後、改めて測定した値が本当の評価値になります。
つまり2度測りが原則です。
なぜこの手順が重要かというと、初回測定値と基準長さが合っていない可能性があるためです。たとえばRa 3μm(本来2.5mm対応)の面を0.8mmで測ると、うねりが十分に拾えず実際より低い値が出ることがあります。その値を「Ra 3μmは0.8mm対応範囲内だから問題ない」と誤解したまま記録すると、正確な評価ができません。
周期的な面(旋削加工後のような定期的な溝パターンがある面)の場合は、表3(RSmベースの表)を使います。この場合は「粗さの大きさ」ではなく「粗さの間隔(RSm)」をもとに基準長さを選びます。これは非周期的な面とは選定ロジックが異なる点に注意が必要です。
以下の参考リンクでは、広島市工業技術センターが公開している「工業製品における表面粗さ測定について」という技術情報で、基準長さの決定手順と実務的な注意点がまとめられています。
工業製品における表面粗さ測定について(広島市工業技術センター)
また、粗さパラメータの種類ごとに基準長さが変わることも覚えておく必要があります。Raを測るときとRzを測るときで、同じ値でも対応する基準長さが同じになることが多いですが、RSmは別の表を参照するため混乱しやすい箇所です。パラメータが変わったら対応表を確認する習慣をつけるのが大切です。
表面粗さの合否判定には、JIS B 0633に基づく2種類のルールがあります。「16%ルール」と「最大値ルール」です。どちらを適用するかは図面や仕様書の指示によって決まります。この判定ルールを知らずに測定結果を見ていると、合格・不合格の判断がまったく変わることがあります。
16%ルール は、評価長さから切り取った全部の基準長さ(標準では5区間)を用いて算出したパラメータ測定値のうち、指示された要求値より大きい数が全体の16%以下であれば合格とするルールです。5区間のうち1区間が要求値オーバーでも、残り4区間がOKであれば合格扱いになります。これが原則です。
最大値ルールは、評価長さ内のすべての基準長さで求めた測定値が要求値以下でなければ合格とならないルールです。1区間でも超えたらNGです。図面に「max」と記載されている場合はこのルールが適用されます。
この2つのルールは、同じ測定値でも合否が変わる場合があります。たとえば5区間のうち1区間だけ要求値を超えた面は、16%ルールなら合格(1/5=20%超えになるため、実は5区間の場合は0/5が合格ラインという厳密な解釈もありますが)、最大値ルールなら確実にNGになります。厳しいところですね。
これは痛いですね。
実務上では、図面に判定ルールが明記されていない場合は16%ルールが適用されると解釈するのが一般的です。ただし、精密摺動部品やシール面など機能上の重要度が高い面では、最大値ルールを適用する設計意図が込められていることがあります。図面を読む際には、「max」や「U」「L」の記号と合わせて確認するクセをつけることが大切です。
以下の参考リンクでは、ミツトヨが公開する16%ルール・最大値ルールの解説PDFが参照できます。判定ルールの具体的な定義と適用方法が簡潔にまとめられています。
16%ルール・最大値ルールとはなんですか?(ミツトヨ FAQ)
金属加工の現場では、何年も前に作られた図面がそのまま使われることがよくあります。古い型や治具の改造図、補給部品の図面などがその代表例です。そういった場面で問題になるのが、旧JIS規格と現行JIS規格の間で表面粗さの測定条件が変わっていることです。
JISの表面粗さ規格は1982年版・1994年版・2001年版(現行)と改定されています。なかでも大きな変更点のひとつが、フィルタの種類と基準長さの扱いです。旧1982年版・1994年版では「2RCフィルタ(アナログフィルタ)」が用いられており、振幅伝達率が75%で遮断される特性がありました。現行のJIS B 0601:2013では「位相補償形ガウシアンフィルタ」が標準で、振幅伝達率50%での遮断となります。この違いにより、同じカットオフ値でも測定値が変わることがあります。
また、旧JISではRzが「十点平均粗さ」を意味していましたが、現行JISではRzは「最大高さ粗さ(最高山高さ+最深谷深さ)」を意味します。同じ「Rz」という記号でも、旧JIS図面か新JIS図面かで意味がまったく違います。これに気づかずに新JISの測定機で旧JIS図面のRzを測ると、評価しているパラメータ自体が変わってしまいます。
厳しいところですね。
旧JIS対応の記号として「RzJIS」という表記があり、旧来の十点平均粗さを指します。古い図面で「Rz」という指示を見たときには、まずその図面の制定年や社内標準・客先標準を確認するのが大原則です。客先が旧JISベースで評価していた場合、測定結果の解釈がそもそもズレてしまいます。
旧JIS▽記号との対応も整理しておきます。
| 旧表記(▽記号) | Raの目安 | よくある加工例 |
|---|---|---|
| ▽(1個) | Ra 12.5μm前後 | 鋳肌・荒削り |
| ▽▽(2個) | Ra 3.2〜6.3μm | 一般的な切削仕上げ |
| ▽▽▽(3個) | Ra 0.8〜1.6μm | 仕上げ切削・精削り |
| ▽▽▽▽(4個) | Ra 0.4μm以下 | 研削・ラッピング |
これはあくまで目安です。▽記号を見た場合、図面の注記欄に社内換算値が書かれていないか必ず確認してください。換算表は社内・客先によって微妙に異なることがあります。
以下の参考リンクでは、ミスミが公開する表面粗さの旧JIS・新JIS対応表を確認できます。記号の新旧対照と、評価長さ・基準長さの位置づけが一覧で整理されています。
表面粗さ(JIS B 0601:1994, JIS B 0031:1994)より抜粋(ミスミ)
ここまで基準長さと評価長さの定義・設定方法・判定ルール・旧JIS対応を解説してきました。ここでは、現場で実際に役立てるための「測定前チェック」の考え方を独自視点でまとめます。単なる知識として持つだけでなく、測定のたびに確認できるルーティンを作ることが重要です。
まず確認すべきは「測定面の長さが評価長さ+呼び駆動を確保できるか」です。具体的には、Ra 0.1〜2μmの面なら5.6mm以上、Ra 2〜10μmなら14.5mm以上の走行距離が必要です。これが確保できない小さな面や狭い溝の内面では、測定条件を変更するか、評価長さを短縮した上で図面または検査成績書に明記する必要があります。条件を変えたなら記録が必須です。
次に「カットオフ値(基準長さ)が図面指示と一致しているか」の確認です。図面にカットオフ値の指示がある場合はそれに従います。指示がない場合は、前述のRa・Rzの値の範囲を確認してから対応する基準長さを選びます。測定機の電源を入れてすぐに測り始めるのはダメです。
これが条件です。
また「測定前のゼロ校正(基準片測定)」も大切な確認項目です。始業時に校正済みの粗さ標準片を測定し、既知のRa値と一致するかを確認します。触針の摩耗が進むとRz値が実際よりも小さく出ます。Raには出にくいため気づきにくいのですが、RzやRtなどの最大値系パラメータで評価する面では、定期的な触針の状態確認が不可欠です。
測定方向の確認も重要です。旋削加工面やフライス加工面では、加工目(ツールマーク)の方向に対して直角に測ることで最大粗さ値が得られます。加工目に平行に測ると値が大幅に小さく出ます。同じ面でも測定方向次第で結果が変わります。複数人が測る場合には、「どの方向で測るか」を作業標準書に明記しておくことが、再現性のある測定を維持する上で欠かせません。
以下のチェックリストを参考に、測定前の確認を習慣化してください。
これらのチェックを毎回実施するのは面倒に感じるかもしれません。しかし、カットオフ値1つ設定を誤るだけで、測定値が2〜3倍変わることがあります。合格品を不合格と判定して再加工コストが発生したり、逆に不合格品を出荷してクレームになったりするリスクと比べれば、事前確認にかかる数十秒のコストは小さなものです。測定の再現性と信頼性は、こうした地道な確認の積み重ねから生まれます。
測定機メーカーのサポートとして、ミツトヨの表面粗さ測定機やキーエンスの非接触測定システムには、基準長さ・評価長さをRa推定値から自動選定する機能を持つモデルがあります。初回測定でRaを推定し、自動で条件を切り替えて本測定を行う機能です。現場の作業標準として「自動選定機能を使う対象面と、手動設定を必要とする対象面」を分けて運用ルールを決めておくと、ミス防止と効率化を両立できます。
以下の参考リンクでは、キーエンスによる触針式表面粗さ測定機の測定手順が解説されており、カットオフ値と評価長さの設定手順が実機に即した形でまとめられています。
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