放射性ヨード治療の副作用と対策を医療従事者向けに解説

放射性ヨード治療の副作用は唾液腺障害・骨髄抑制・二次発がんリスクなど多岐にわたります。医療従事者として知っておくべき発生頻度や対処法、患者説明のポイントとは?

放射性ヨード治療の副作用と医療従事者が押さえるべき対策

唾液腺障害は「投与後すぐにレモン飴を使ってよい」は間違いで、投与後24時間以上経ってからでないと唾液腺へのヨード取り込みが促進されリスクが上がります。


この記事の3ポイント要約
🦷
唾液腺障害は60〜70%と高率に発生

軽微なものを含めると過半数以上の患者に唾液腺炎が起こり、味覚障害・口腔乾燥が長期化するリスクがあります。酸味刺激のタイミングが対策の鍵です。

🩸
骨髄抑制は治療1ヶ月後がピーク

I-131投与後1ヶ月前後に一過性の造血機能低下が出現します。多くは自然回復しますが、末梢血のモニタリングが欠かせません。

⚠️
若年患者の二次発がんリスクに注意

15〜44歳の患者では放射性ヨード治療により血液がんリスクが約1.35倍、特に多発性骨髄腫は約4.22倍になるとの報告があり、長期フォローが必須です。


放射性ヨード治療の副作用の全体像と発生頻度



放射性ヨード(I-131)内用療法は、甲状腺乳頭癌・濾胞癌の術後アブレーションや転移巣治療、バセドウ病に対する甲状腺機能抑制など、幅広い適応を持つ治療法です。経口投与するだけというシンプルさの一方で、副作用の種類と発生頻度を正確に把握していないと、患者への不十分なインフォームドコンセントや観察漏れにつながります。


副作用は大きく「急性期」と「晩期・長期」に分類されます。急性期は投与後数日以内に起こり、唾液腺腫脹・疼痛、悪心・嘔吐、倦怠感などが主体です。晩期・長期の副作用としては、甲状腺機能低下症(バセドウ病治療後)、骨髄抑制、二次発がん、生殖機能への影響などが挙げられます。


つまり副作用のタイムラインは大きく2段階です。


時期 主な副作用 頻度の目安
投与後数日以内(急性期) 唾液腺障害、悪心・嘔吐、味覚障害、倦怠感 唾液腺障害は軽微例含め60〜70%
投与後1ヶ月前後 骨髄抑制(白血球・血小板減少) 一過性で多くは自然回復
数年〜長期 甲状腺機能低下症、二次発がん、生殖機能低下 バセドウ病治療後の機能低下は1年以内に約61.8%


医療従事者はこのタイムラインを頭に入れておくことが基本です。


参考:放射性ヨウ素内用療法に関するガイドライン(日本核医学会 腫瘍・免疫核医学研究会)
日本核医学会「放射性ヨウ素内用療法に関するガイドライン 第6版」 — 適応・投与量・副作用・退出基準など実務に直結する情報が網羅されています


放射性ヨード治療後の唾液腺障害:60〜70%という高い発生率と予防のポイント

唾液腺障害は放射性ヨード治療でもっとも頻度の高い副作用のひとつです。がん診療ガイドラインによると、軽微なものを含めると60〜70%という高率で発生するとされています。これは決して珍しい合併症ではなく、ほぼ標準的に生じるものと理解してください。


I-131は病変に取り込まれるとともに、耳下腺・顎下腺などの唾液腺にも一部が集積します。投与翌日から数日以内に耳下腺や顎下腺の腫脹と疼痛が現れ、唾液分泌の低下(口腔乾燥)や味覚障害を引き起こすことがあります。治療を繰り返すほど、味覚障害や口腔乾燥が慢性化・遷延するリスクが上がるため、特に複数回治療を受ける患者への説明が重要です。


ここで注意が必要なのが「レモン飴・酸味刺激」のタイミングです。唾液分泌を促して唾液腺からのヨード排出を促進するため、酸味刺激を推奨する施設もありますが、投与直後(24時間以内)に行うと、かえって唾液腺へのヨード取り込みが増加してリスクを高める可能性が指摘されています。投与後24〜48時間以降に開始するのが一般的な指導です。タイミングが原則です。


また、治療中から水分摂取を積極的に促すことで唾液腺への集積量を相対的に低下させる効果が期待できます。日本核医学会のガイドラインでも、病室内では水分を多く摂取するよう指導することが明示されています。具体的には、1日2,000mL程度を目安とする施設が多いです。


  • 💧 投与後は積極的な水分摂取(1日2,000mL程度)を指導する
  • 🍋 レモン飴などの酸味刺激は投与後24〜48時間以降に開始する
  • 🦷 口腔乾燥が長引く場合は人工唾液・保湿ジェルの使用を検討する
  • 📋 繰り返し治療の患者には味覚障害の長期化リスクを事前に説明する


参考:甲状腺癌の放射性ヨード治療(東京都立駒込病院)
東京都立駒込病院「甲状腺癌の放射性ヨード治療」 — 副作用の詳細・入院管理・経過観察の実際が施設の実務ベースで解説されています


放射性ヨード治療後の骨髄抑制:投与1ヶ月後のモニタリングが見落とされやすい

放射性ヨード治療後の骨髄抑制は、経験の浅い担当者が見落としがちな副作用です。「内服するだけの治療なので骨髄への影響は少ない」と思いがちですが、それは間違いです。


I-131投与後、骨髄抑制(一過性の造血機能低下)は投与から1ヶ月前後に出現することがあります。白血球数・血小板数の減少がみられますが、多くの場合は一過性で自然回復します。ただし、骨髄予備能が低下している患者や高線量投与の場合は回復が遷延することもあり、注意が必要です。


日本核医学会のガイドラインでは「I-131治療後1ヶ月前後に骨髄抑制が出現することがあるが、多くは一過性であり、必要に応じて白血球数・血小板数などの末梢血測定を行う」と明記されています。「必要に応じて」という表記ですが、骨髄抑制のピークが投与後1ヶ月前後であることを踏まえると、少なくともこの時期に末梢血を確認するルーチンを設けることが臨床的に賢明です。


これは使えそうです。


また、I-131から放出されるベータ線の組織内飛程は数mm程度と短く、甲状腺や転移巣から離れた骨髄への直接照射量はわずかです。しかし全身を循環する過程で骨髄が被曝することは避けられません。特に累積投与量が多い患者(転移巣への繰り返し治療など)では、骨髄への累積線量が問題になることを意識してください。


  • 📅 投与後1ヶ月前後に末梢血(白血球・血小板)の確認を行う
  • 🔁 繰り返し治療(複数回の高線量投与)では骨髄への累積影響を評価する
  • ⚠️ 骨髄予備能が低い患者(高齢者・既往の化学療法歴あり)は特に注意が必要


参考:甲状腺癌を治すための放射性ヨウ素治療とは?(金沢大学附属病院 核医学診療科)
金沢大学・若林大志先生の講演資料 — 副作用の整理・治療前準備・投与量の目安など、実務的内容が分かりやすくまとめられています


放射性ヨード治療後の二次発がんリスク:若年患者で多発性骨髄腫が約4.22倍という報告

放射性ヨード治療における二次発がんリスクは、長年「非常に低い」と説明されてきました。実際、投与量が少ない場合のリスクは限定的で、治療利益がリスクを大きく上回るとされています。


ただし、この理解だけで止まると情報が不十分です。


2025年に報告された研究(academia.carenet掲載)では、15〜44歳の若年患者群において、放射性ヨウ素治療が血液がんのリスク上昇(相対リスクRR 1.35)と関連し、特に多発性骨髄腫については RR 4.22(95%CI: 1.68〜10.62)という顕著な上昇が示されました。これは年齢層によってリスクが異なることを示す重要な知見です。


  • 👶 15〜44歳の若年患者:血液がんのRR 1.35、多発性骨髄腫のRR 4.22
  • 📊 45歳以上の患者:同様の傾向は確認されなかった(年齢層による差異あり)
  • 🔄 治療を繰り返す(累積高線量)患者:二次発がんリスクが上昇すると考えられている


がん診療ガイドライン(日本臨床腫瘍学会)でも「二次発癌リスクは投与量が増加すると発生すると言われているが、頻度は非常に低い」とされていますが、若年患者への繰り返し投与については特に慎重な判断と長期フォローが求められます。


具体的には、若年患者への放射性ヨード治療後は少なくとも5〜10年単位での定期的な血液検査を計画し、異常時には血液内科への速やかなコンサルテーションを行うことが現実的な対応です。長期フォローが条件です。


なお、I-131の半減期は約8日であり、体内から自然に減衰しますが、累積照射量が多い場合の晩期影響については、十分なデータが蓄積されていない部分も残されています。意外ですね。患者への説明の際には「現時点での知見に基づいて話している」という誠実さが大切です。


参考:ICRP Publication 140「放射性医品治療における放射線防護」日本語版
ICRP P140「放射性医薬品治療における放射線防護」(日本語版) — 二次発がんリスクを含む長期的な放射線防護の考え方が国際的な基準のもとで解説されています


放射性ヨード治療の生殖機能への影響と妊娠制限:医療従事者が見落としやすい説明義務

生殖機能への影響は、患者側からの質問が多い一方で、担当医師が十分に説明できていないケースが少なくありません。特に若年の女性患者にとっては治療選択に直結する重大な情報です。


まず明確にしておきたいのは、「放射性ヨード治療が直接の原因で不妊が生じることはない」という点です。これは九州大学病院の患者向け情報にも明記されています。ただし、放射性ヨードから放出される放射線が胎児に影響を与えることから、以下の制限が推奨されています。


  • 🚫 治療後6ヶ月間は妊娠・授乳を避ける(日本核医学会ガイドライン)
  • 🚫 男性においても治療後6ヶ月間の避妊を推奨
  • 🤱 授乳中の女性は治療前に断乳が必要
  • 🤰 妊婦・妊娠の可能性がある女性は原則として適応外


女性では、I-131が一時的に卵巣に被曝するため、無月経が生じることがあります。これは多くの場合一時的で回復しますが、患者に事前に伝えておかなければ不安を招きます。


男性では一過性の精巣機能低下(造精機能障害)が報告されており、これも多くは可逆的です。ただし、繰り返し高線量の放射性ヨード治療を受けた場合には影響が長期化するリスクがあります。


妊娠可能年齢の患者に対しては、治療前に妊娠の希望時期を確認し、「治療後1年以内の妊娠は推奨しない(駒込病院の基準)」という指針を共有することが大切です。患者が「いつ妊娠できるか」を把握できていないまま退院してしまうケースは、後々のトラブルにつながります。説明記録の残し方も含めた管理が原則です。


参考:妊娠可能年齢のバセドウ病患者における放射性ヨード治療後の影響(慈恵医科大学)
慈恵医科大学「妊娠可能年齢のバセドウ病患者における放射性ヨード治療後の影響」 — 若年女性への治療後フォローに関する実臨床データが掲載されています


放射性ヨード治療後の甲状腺眼症増悪:バセドウ病患者への見落とされがちな説明義務

これは多くの医療従事者が「あまり意識していない」副作用のひとつです。


バセドウ病の患者に放射性ヨード治療を行うと、甲状腺眼症(バセドウ眼症)が新たに発症するか、既存の眼症が悪化することがあります。これは、放射性ヨード投与によって甲状腺組織が破壊される際にサイログロブリンなどの甲状腺抗原が放出され、自己免疫反応が増悪するためと考えられています。


日本核医学会の日経メディカル掲載ガイドラインの引用にも「放射性ヨードによる治療の短所は、甲状腺眼症が発症または増悪する例があること」と明記されています。厳しいところですね。


眼症がある患者や、喫煙者(喫煙は眼症の独立した危険因子)では、放射性ヨード治療前後のステロイドカバーが検討されることがあります。欧米のガイドライン(ATA、ETA)では、眼症合併例への予防的ステロイド投与の推奨が記載されており、日本でも意識すべき情報です。


  • 👁️ 治療前に眼症の有無と活動性を評価する
  • 🚬 喫煙者:眼症発症・悪化リスクが特に高い。治療前に禁煙指導を行う
  • 💊 眼症合併例・喫煙者:予防的ステロイド投与の適応を主治医と検討する
  • 🔍 治療後も眼症の変化を定期的に観察し、眼科との連携を確保する


甲状腺眼症が急激に悪化した症例報告(J-GLOBAL、2009年)も国内から報告されており、「バセドウ病に放射性ヨード治療をしたら眼が悪くなった」というケースを未然に防ぐための術前評価と患者説明が医療従事者には求められます。眼症フォローが条件です。


参考:甲状腺機能異常症ガイドライン外来診療2009(日経メディカル)
日経メディカル「甲状腺機能異常症ガイドライン外来診療2009」 — バセドウ病への放射性ヨード治療の長所・短所・眼症リスクが明確に整理されています






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